自分を捨てた親に会いたい?→主人公が放つ「親ガチャへの本音」が胸に刺さった〈風、薫る第52回〉

『風、薫る』第52回より 写真提供:NHK

今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラに関する著書を2冊出版し、毎日レビューを続けて12年めの著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は第52回(2026年6月9日放送)「風、薫る」レビューです。(ライター 木俣 冬)

丸山礼も出ている

『風、薫る』は無駄に登場人物が多い。無駄にはちょっと言い過ぎだが、登場人物が多いせいで、ひとりひとりの描写が薄いので、もったいないと思ってしまうのだ。

 例えば、りん(見上愛)の妹・安(早坂美海)が初回から出ている割に出番が少なく、最近になってやっと結婚の話が持ち上がってきたところだ。また、りんの家の隣人・中山マツも、NHKのドラマ『ワタシってサバサバしてるから』の主演もやっている丸山礼をキャスティングしているにしては存在が薄いように感じる。

 だが丸山は番組に貢献している。先日、彼女の出身地である北海道・北見市で『風、薫る』に関するトークショーに登壇したのだ。そのときのコメントを紹介しよう。

「たくさんのお客様に集まっていただけて、地元ということで懐かしいお顔も見ることができましたし、その人たちのおかげで今の自分があるのだと思いました。

“朝ドラ”は、言葉づかい、所作、姿勢全部見られていて、その時代の専門家の先生に一挙一動ご指導いただきました。

 自分なりの演技というより、その時代の人になりきった演技をしなければならないので、俳優の仕事の中でとても奥深い経験だと思いました。

『風、薫る』で私が演じる中山マツは、主人公・一ノ瀬りんの家の隣人の役ですが、すてきなご近所付き合いの 場面も楽しんでいただけたらと思います。今後の展開もお楽しみに!」

「自分なりの演技というより、その時代の人になりきった演技をしなければならない」。だからこそ、ドラマの世界観にずっぽりハマって、丸山礼だと感じさせないのかも。とはいえ、やっぱりちょっともったいない気がするので、安のようにこれからマツのエピソードもあることに期待したい。

シマケンの記事の影響力

 存在感の薄い登場人物のひとりに瑞穂屋の店員・松原(小倉史也)がいる。もうひとりの店員・文(内田慈)と比べると、やや出番が少なめ。でもうっすら人の好さそうな人物に見え、気になる彼がフィーチャーされるときがついに来た!

 シマケン(佐野晶哉)が書いた夕顔(夕凪・村上穂乃佳)の記事を読んで、すっかり夕顔ファンになってしまった松原は病院に見舞いの品を持ってくる。それはアフリカの猿の人形(縁起もの)という斬新な物だった。

 シマケンが盛って書いた記事は好評で、松原もすっかり記事に書かれた夕顔に感情移入していた。

 記事は事実とはだいぶ違う。事実は、客の男が夕凪に無理心中を迫っただけなのだが、シマケン版は貧しい村に生まれ育ち遊女に身を落とした夕顔と幼馴染の男性との悲恋ものに仕上がっていた。

 シマケンが言ったように、文字や記事には世相を動かす力があった。それをシマケンは自分の書いたもので実証したのだ。

 新聞記事を読んだ患者やその家族たちが続々と花やら品物やらを贈ってくる。これって朝ドラ絶対王者『おしん』(83年)のようだ。おしんがとても貧しく苦労している物語で、放送当時、視聴者からNHKへ米などの食料が送られてきたらしい。

 セツ(夕凪の本名)の部屋はいつの間にか物置から病室に移っていた。

 遊郭の主人・権田(梅垣義昭)は、世間が新聞を読んで興味をもったせいで悪者にされて仕事がやりづらくなっていた。彼が再び夕凪を無理やり連れ戻そうとするのを、見習い6人が共謀して助けるところは痛快だ。こういう痛快エピソードがもっとほしい。

 内科医・坂田(金井勇人)は夕顔に高価な氷を使う許可を出す。これも新聞記事の影響だった。

 牛の膀胱でできた氷嚢という、当時はまだ珍しいものを興味津々で見る見習い生たち。

 ただ、こうしてセツが助かっても、また遊郭に連れ戻されたら助けることにはならないと直美が悩む。

「それでも私たちにできるのはセツさんを回復させることだけじゃないのかな」とりん。

 以前はりんが社会的に訴えかけ、直美が地道に看病していたが、今回は、直美が悩んで、りんが体調の回復を第一に考えている。番宣で見上愛が、りんと直美がどちらかが月と太陽ではなく、月と太陽が入れ替わっていくというようなことを言っていた。まさにそんな感じだ。

 ヨシ(明星真由美)は患者がくれたという季節外れのみかんをもってくる。口は悪いが、ほんとはみかんもヨシのお気持ちなのかもしれない。

直美を捨てた母への思い

 シマケンは自分の書いた事実に創作を織り交ぜた半分創作記事で世間が動き出したことに怯え始めていた。

「あれくらいの誇張は問題ない。名前も変え、嘘はついていない。社会に、遊郭の歪さを訴えることが肝要だ」と綿貫(小松和重)は言う。小説家だけにドラマティックにするのがうまいと評価していた。

「自分の書いた文字で、人が、社会が動き出したら怖くなった」

「こんな記事1つ書けずに書けんのかい、小説が。お前って人間さらけ出すんだろう?」と綿貫に発破をかけられて、シマケンは複雑な気持ちでいる。

 綿貫が言うことにも一理あるが、シマケンはこれからどうするのだろう。

 直美は思いきって、セツ(夕凪)に、直美の母の源氏名も「夕凪」だったと切り出す。

「会ってみたいか?」と聞くセツに、「どうでしょう。分別がなかったとしか思えないんで…。人は産んでおしまいってわけじゃない。いっぺん生まれちゃったら、生まれる前に勝手に決まってた掟の中で生きていかなきゃならない」と答える直美。

 質問には「どうでしょう」とぼかし、自分語りをはじめる。脚本家・吉澤智子はリアルな人間社会をよく見ている。他人同士、基本、こんな感じで、ドラマのようにいい感じにキャッチボールになることはない。

 ただ、だからこそ、リアルな現実を描写されると、日常の苛立ちが思い出されて、いい思いがしないのだと思う。ドラマくらいはコミュニケーションが円滑に進んでほしい。そんな視聴者もいるが、今回はあえてのやや噛み合わないぎこちない会話のリアルが追及されていく。

 ともあれ、現代における親ガチャに対する直美の忸怩(じくじ)たる心境がわかった。どうせ生むなら、理不尽な世のルールで苦労させないでくれという気持ち。この世界で生き残ることにほとほと疲れているのだろう。

 直美やセツを苦しめてきた勝手に決まった掟とは――

 みなしごは白い目で見られる。

 女がまともに働ける仕事はない。

 女の髪は長くなきゃおかしい

 米作ってる者は米が食えない。

 鯛取ってる漁師は鯛を食えない。

 貧乏人がもらえる仕事は安い。

 貧乏で売られるのは娘。

 現代ではだいぶ改革されたこともあるが、現代でも変わってないような気もしないでない。

「どんな親でも、産んでくれたんだから、ありがたいと思えるなんてきれいごと。子を産めば全て帳消しになるなんて、とても私には」と言う直美に、セツは言う。

「でもね、大家さん。たいていの女郎は子どもは産まないし、産めないもんだよ」

 セツの台詞の真意について考えるのは、第53回を見てからにしよう。

フォトギャラリー

主なシーンより

第11週(6月8日〜12日)

「凪にそよぐ」あらすじ

女郎の夕凪(村上穂乃佳)を親身になって看病する直美(上坂樹里)。一方のりん(見上愛)は、廃娼運動の記事を掲載していた新聞社を訪れ、相談することに。そんなある日、女郎の心中話の記事が新聞に掲載される。反響は大きく、病院でも問題になって……。

連続テレビ小説『風、薫る』

作品情報

連続テレビ小説「風、薫る」。主人公はそれぞれに生きづらさを抱えた2人の女性。当時まだ知られていなかった看護の世界に飛び込み、傷ついた人々を守るために奔走し、時に強き者と戦う——明治という激動の社会を舞台に、幸せを求め生きるちょっと型破りな2人のナースの冒険物語です。

【脚本】吉澤智子

【原案】田中ひかる「明治のナイチンゲール 大関和物語」

【音楽】野見祐ニ

【主題歌】Mrs. GREEN APPLE 「風と町」

【語り】研ナオコ

【出演】見上愛 上坂樹里 佐野晶哉 生田絵梨花 古川雄大 菊池亜希子 藤原季節 平埜生成 中井友望 坂口涼太郎 猫背椿 飯尾和樹 筒井道隆 多部未華子 原田泰造 水野美紀 片岡鶴太郎 坂東彌十郎 仲間由紀恵 ほか

【放送】2026年3月30日(月)開始(全26週130回)