少子化なのに増え続ける大学の怪…私大4割減打ち出した財務省×一律削減はNOの文部科学省 「適正」とは
「2040年までに少なくとも私立大学250校を減らす必要がある」
18歳人口減少への対応策として、財務省が初めて示した数値目標だ。これに対し、文部科学省は地域を支える人材確保の観点から、機械的に判断すべきではないとの見解を出した。既に募集停止や統合を余儀なくされる私立大が相次ぐ中、高等教育の今後のあり方を考えた。(山田雄之、佐藤裕介)
◆大学で四則演算やbe動詞を教えてる!? 質の確保は重要
2040年までの私立大250校削減案が明らかになったのは4月23日、財務相の諮問機関である財政制度等審議会の分科会だ。「人口減少社会の中での総合的な国力の強化」に関わるテーマの一つとして取り上げた「高等教育の質の向上と規模の適正化」で、財務省が作成した資料で示された。

2040年までに、少なくとも私立大学250校を減らすべきだと提言した財政制度等審議会分科会の資料
国は私学助成金を支出し、私立大の運営を支えており、2026年度も約3000億円が予算措置されている。
資料によると、大学数は平成初期まで18歳人口に連動して増加。1989年は198万人に対し、499校だった。ただ18歳人口が減少に転じた後も増え続け、2024年には109万人に対し813校に上った。うち624校が私立大だった。
学生10万人当たりの高等教育機関数は31校。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、韓国の平均値22校を上回り、半数以上の私立大が学生から選ばれずに定員割れとなっており、日本私立学校振興・共済事業団によると2025年度は316校(53.2%)に上った。

財務省は資料で、定員割れする私立大の一部で、数学で足し算、引き算、掛け算、割り算の四則演算を教えたり、英語教育の基本であるbe動詞の機能を整理したりする授業が行われていると例示。小中学校や高校段階で学ぶ内容だとして「学位取得者の一定の質を確保するためにも、大学の規模の適正化を進めるべきではないか」と指摘し、削減の理由の一つとした。
◆数値示し「危機感を持って議論を」
具体的には18歳人口が2040年に3割減の74万人となるのに合わせ、少なくとも現在の私立大の4割にあたる250校を減らし、(国公立大を含め)560校程度にする必要があると提言。学部定員も14万人の縮減をうたった。前出の他の主要先進国と同程度にするならば、400校減を目指すべきだとした。
なお国公立大は各地方の高等教育機関の拠点を担っていることから校数は減らさないと仮定したが、学部定員は2040年までに2万7000人の削減を求める。

※財務省の資料を基に作成
財務省の担当者は、今回初めて数値目標を示したことについて「危機意識をより具体的に感じてもらいたかった。政策を進めていく中でも検討の目安になり、議論がしやすくなる」と狙いを説明する。
◆衝撃!「御三家」の一角が統合を検討
少子化時代の到来で、多くの私立大が岐路に立たされている。学生の確保が難しくなりつつあり、募集停止に踏み切る私立大も相次いでいる。
2023年春には恵泉女学園大(東京都多摩市)と神戸海星女子学院大(神戸市)、2024年3月にはルーテル学院大(東京都三鷹市)がそれぞれ学生の募集停止を公表した。
名門校も含めた私立大同士の統合も相次ぐ。
関西国際大(兵庫県三木市)と神戸山手大(神戸市)は2020年に統合。大阪医科大と大阪薬科大(ともに大阪府高槻市)は2021年に統合した。
先月には、学校法人・名古屋学院大学と学校法人・金城学院が将来的に金城学院大(名古屋市)を名古屋学院大(同)に統合する方向で検討していることも判明。金城学院大は椙山女学園大、愛知淑徳大と並び愛知の女子大「御三家」と呼ばれた伝統校として知られ、地元には大きな衝撃が走った。学生数4000人を超える中規模私立大同士の統合が実現すれば国内初とみられる。
◆定員割れのみで判断せず、地域や専門分野の考慮が必要
「私立大250校削減」案を唱えた財務省に対し、文部科学省は4月24日、定員割れの私立大を一律に削減するのではなく「地域の医療、福祉、産業、インフラ等を支える人材と高等教育へのアクセスの確保」が重要だとする見解を示した。
わが国の高等教育機関のなかには「世界的な研究・教育」の拠点になるような大学だけではなく、「地域社会を支える職業人養成を目的」とする大学もあるとした。
四則演算やbe動詞といった初歩的な義務教育の内容を教える大学もあるとの財務省の指摘に対しては「卒業時に大学教育の目的に照らした教育の質が担保されているか」こそが重要だとの立場だ。

文部科学省(資料写真)
松本洋平文科相は、同日の記者会見で4割削減の是非について問われ「定員割れの事実のみで機械的に判断するのではなく、分野や地域のリバランスを図りながら学生を伸ばすことのできる質の高い大学教育を実現していくことが重要だ」と強調した。
◆そもそも、国が私立大を減らせるのか?
私立大の数の「適正化」に向けて、文科省は2026年度から「大学の量的規模適正化総合施策」と名付けた対策に乗り出す。
具体的には、経営上の困難を抱えている経営指導の対象とする私立大を従来の40校程度から100校程度まで拡大。資産運用や寄付金の拡充といった財源の多様化を後押しして各私立大の経営力強化を支援するほか、必要があれば他大学との合併や連携に向けた支援も行う。
元文科官僚で京都芸術大客員教授の寺脇研氏は、「当然だが、国は私立大を減らすことはできない」と前置きした上で、財務省の提言は「人口減少と少子高齢化の進行で諸課題が表面化する『2040年問題』の一つ。『削減したい』のではなく、『減らざるを得ない』との危機意識を大学関係者や国民に訴えるものだ」と受け止める。
人口減で定員割れが拡大すれば、経営が難しい私立大が出てくる。寺脇氏は「突然に破綻すれば、社会に混乱が生じる。文科相の直後の会見を含め、国は『ソフトランディング(軟着陸)させたい』との思いが強い」と推察する。

※文部科学省の資料を基に作成
大学はどのように向き合えばいいのか。寺脇氏は「経営統合も進むが、18歳人口ばかりでなくリスキリング(学び直し)を希望する社会人や高齢者を獲得したり、時代に合わせた魅力ある教育を施す学部を創設したりと多様な工夫を凝らし、生き残りに努める必要がある」と提言する。
◆設置基準の厳格化とともに、経営難からの出口戦略も
大学ジャーナリストの石渡嶺司氏は「看護や福祉など専門的な内容を教える小規模な私立大(収容定員4000人未満)などでは厳しい定員割れの状況が続いている。国が何もしなくても今後10年以内に30〜150校程度が募集停止になるのではないか」とみる。
仮に、国が充足率の低い一部の私立大への助成金の支出を縮小するなどして強引に大学の数を減らそうとしても「逆に国のコントロールが効かなくなり定員以上の学生を募集する大学や、わざと定員を減らして充足率を高めようとする大学が出てくる可能性もある」と指摘。
私立大での教育の質の確保や数の適正化に向けては「十分な学力がなくても進級ができてしまう高校の留年制度の見直しや大学設置基準の厳格化も必要で、経営難に陥った私立大が撤退しやすい仕組みづくりなどとも併せて丁寧に検討していく必要がある」と話してている。
◆デスクメモ
愛知県の実家の近くに私立大学が増え、少子化の時代なのになぜ? と思った経験がある。財務省が示した私立大学250校削減案はあくまで目安だ。少子化対策は喫緊の課題だが、学生の確保に苦戦する地方大学のみが一気に減るといった事態を招かぬよう、慎重に議論してほしい。(ぶ)

大学の教室(イメージ写真)
【関連記事】"揺らぐ大学自治「教職員は従業員、学生は顧客…」の風潮強まり 国主導の「改革」が生んだきしみの数々とは
【関連記事】"共学化や募集停止が加速する「女子大」は今後どうなる? 少子化、志願者減…でも色褪せない魅力がある
【関連記事】"子どもの非行「独りで思い悩まないで」 親や子どもに寄り添い、語り合う場30年周年 いま信じること