BMW 320iとアウディ A5 TFSI 150kW乗り比べ。2L直4ターボの「ベーシックモデルに福がある」のか
およそ10年ぶりにフルモデルチェンジが実施されたアウディのA4改めA5。時に等しくBMWの3シリーズも2度目のマイナーチェンジ(LCI)が行われた。そんな両雄の最新にして最主力といえるガソリングレードを乗り比べてみた。(Motor Magazine 2025年6月号より/文:渡辺敏史、写真:永元秀和)

どちらもちょうどいい刺激と良識を持ち合わせている。
世間一般的な感覚として、日常のアシに対して500〜700万円を投じるというのは普通なことではない。個人差はあれど、それは持ち主の趣味性に託することも含めて、移動の時間をより豊かにしてくれるという期待値への対価が含まれるものなのだと思う。
ドイツのプレミアム御三家がその期待値に応え続けてきたのは、何より販売実績が示している。3シリーズ、Cクラス、A4と、これらDセグメント系のモデルは輸入車市場においては不動の定番的な位置づけだ。時流もあってか台数的には各々自前のSUVにまくられている感は否めないが、ブランドの顔という意味合いでは、ぽっと出とは一線を画する。

アウディ A5 TFSI クワトロ 150kW Sライン(右)とBMW 320i Mスポーツ。
と、そんなプレミアムDセグメントも安泰とはいかないのが昨今の自動車業界を取り巻く諸事情だ。B9系からかれこれ10年ぶりの完全刷新となるA4は、その名がA5へと変わった。「ICEは奇数でBEVは偶数」と、車名再編している最中、そのルールに則って初めて登場したICEがA5であり、実質的にこれまでのA4の後継と位置づけられている。
だが直近の25年2月、アウディはその方針を撤回、A6についてはICEとBEVが両立とされ、BEV側の識別子として従来どおりe-tronが用いられる。これについてアウディ側は、顧客や販売側の反応がポジティブではなかったことを認めているが、それではA5がまたA4として改められることになるのかは不明だ。この点、インポーター側も本社の方針に振り回されているのだろう。
ただし、新しいA5を見るとその名を名乗るに違和感がないところもある。そのひとつが車体形状だ。A5はセダンとアバント、2つのバリエーションがあるが、セダンの側はハッチゲートを持つ5ドアとなっている。前世代を振り返れば自ずとA5スポーツバックとその成り立ちは重なるわけだ。
ただし4枚のドアはサッシュレス構造ではない。そのあたりがスポーツバックではなくセダンたる所以だろうか。荷室容量自体は445Lと前型のセダンよりも小さいが、それを補えるのが大開口による積み下ろしの容易さや、後席を倒せるワゴン的な使い勝手の良さということになる。
A5という名に相応しいワゴン的にも使える実用性
もうひとつはサイズだ。数値的に見るとA5はDセグメントというよりEセグメントの側にほど近い。直近で先代となってしまったA6と比べると、全長は80mm、全幅は25mm違う程度だ。日本においての扱いやすさという点でいえば、これまでのA4とは一線を画することにはなるだろう。
数字が大きい方がより大きくて高級という単純式に倣うのもなんだが、A5は居住性もまた、これまでとは異なる。前席の幅側の余裕もさることながら、即座に体感できるのは後席の広々感だ。前型より70mmも伸びたホイールベースの効果は明らかで、とくに足元のスペースは完全にDセグメント離れしている。
昔日のアウディといえば内外装の質感が際立っていたが、A5も圧倒的とはいわずとも、あの頃の輝きを少しずつ取り戻しつつあるように感じられた。大きな造作物の建て付けやチリ合わせのような基本的なところから、トリムやオーナメントといった加飾ものの作り込みといった細かなところまで、およそ隙のない仕上がりだ。

フルデジタル化されたインパネまわりが目を惹く。デジタルステージと呼ばれるこのレイアウトは、アウディの新時代を象徴する。
今回の取材車はA5 TFSIクワトロだった。バリエーションはガソリンFFモデルやディーゼルクワトロ、さらにはV6ターボのS5なども用意されているが、恐らくもっとも多くのカスタマーが検討する仕様となるだろう。
走り始めて、進化として真っ先に気づくのは静粛性の高さだ。エンジンやトランスミッション、駆動系そして足まわりや風切りに至るまで、あらゆる入力音が等しく低減されている印象で、なにかが際立って耳につくことがない。車両重量は明らかに増えており物量的な施しも効いているかもしれない、とはいえ、この点においてもA6いらずの感さえある。
静かさの恩恵をひしひしと感じる日常域では、それに呼応するように乗り心地の洗練ぶりにも感心させられる。サスペンションの動きは滑らかで小さな凹凸から穏やかに受け止め、大きいタイヤサイズながら丸く上屋を支えてくれる。総じての快適性は、A5を選ぶうえでの最大点となるだろう。

今回試乗したのはベーシックな2L直4ターボとクワトロを組み合わせた中間グレード。よりカジュアルな前輪駆動モデルのほか、2L直4ディーゼルとクワトロを組み合わせたTDIやV6ツインターボを積んだS5も用意されるなどパワートレーンが豊富なのも特徴。
A5 TFSIは第3世代EA888系の2L4気筒ターボを搭載、204psを発揮する。環境規制が厳しくなる中、パワー的には十分といったところ、トップエンドの伸び感も中庸な印象だが、むしろ大きな体躯を苦もなく低回転でも押し出してくれる340Nmのトルクの柔軟性が印象的だ。
加えてコースティングを活用する変速マネジメントや低負荷巡航時は後輪側の駆動を切り離す駆動マネジメントの変更も効いているのだろう、燃費の向上しろも著しく、高速巡航では17km/Lくらいの高効率ぶりをみせてくれた。欧州勢はBEV化に傾倒したぶん、内燃機の開発ブランクが足枷になると囁かれるが、実効的には接近していることを日本のメーカーも認識しておいた方がよさそうだ。
3シリーズは2度目のマイナーチェンジを実施
プレミアムDセグメントの中軸ともいえるBMWの3シリーズは、2024年G20系としては2度目のマイナーチェンジを受けている。が、それは大掛かりなものではなく、外観は2022年時のLCIで施された意匠を受け継ぐものだ。
内装はハンドルがフラットボトム化され、空調の吹出口が風向をトグル操作するタイプに変更されるなど、最新世代のBMWに共通した変更も窺えるが、2枚の液晶を繋げたカーブドディスプレイに収まるインフォテインメントシステムのOSは最新世代の9ではなく従来の8を進化させた8・5への進化にとどまるほか、iDriveの物理コントローラーも残されるなど、前世代からの名残りを感じるポイントも少なからずある。

2019年にデビューした現行3シリーズは、2度目のLCI(ライフサイクルインパルス)が行われたばかり。最小限の変更にとどまるが、エクステリアでは新意匠のホイールが設定されたほか、インテリアは主にインパネまわりのデザインが新しくされるなど、いまなお進化は続けられる。
多様なバリエーションを持つ3シリーズだが、取材車はA5と合わせる意味合いもあって320iと、これまたポピュラーな選択肢となった。ちなみにもっとも売れているのは320d、つまりディーゼルモデルである。
その3シリーズ、当然ながらA5に対すればひと回りは狭く、とくに後席の居住性についてはセグメントを違える感もあるが、そのぶん日常的な場面での取り回しは明らかにコンパクトでストレスフリーだ。単に寸法的な問題だけではなく、車両と着座位置の関係や後輪駆動ならではの挙動感もそう思わせる一因なのだと思う。

2022年のLCIより採用されたカーブドディスプレイだが、新型ではさらに進化を果たした。具体的にはiDriveに小変更が加えられ、新しいホーム画面、より直感的なインターフェース、改善されたメニュー構造、カスタマイズ可能なウィジェット バー、シンプルになったエアコン制御などが採用された。
320iが搭載するB48系の2L直4ターボはすでに熟成極まる域に達するが、184ps/300NmのアウトプットはA5と同様、車格に対してのバランスが見事に整っている。ひたすら回して吠えさせるような扇動感は控えめだが、トップエンドまでシュッと吹け上がる感覚はブランドスローガンの片鱗がみてとれた。
これほど心地よい世界が待っているのかと思わせる
車格や駆動方式の違いはあれど、A5に比べれば200kgは軽い体躯も3シリーズの走りを明らかにファンな方向へと導いている。上を見ればきりがないのも3シリーズの困ったところだが、いっそ速さのヒエラルキーに一線を引けば、そして6気筒の呪縛から逃れられれば、これほど心地よい世界が待っているのかと多くの人は思われることだろう。

アウディ A5 TFSI クワトロ 150kW Sライン(右)とBMW 320i Mスポーツ。どちらもちょうどいい刺激と良識を持ち合わせている。
欧州車選びで迷ったら、安い方に福があるとは昔から言われてきたことだ。が、今回改めてその語り草を再認識した。淡々とした日常と時折り訪れる非日常を延々と繰り返して齢を重ねていく。そんな人生のタクトを共にする対象として、つまるところドイツ御三家のベーシックなクルマたちというのはちょうどいい刺激と良識を持ち合わせているのではないだろうか。あとはともあれ、ベーシックとはいえない価格がもう少し落ち着くことを願うばかりである。
BMW 320i Mスポーツ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4720×1825×1440mm
●ホイールベース:2850mm
●車両重量:1550kg
●エンジン:直4 DOHCターボ
●総排気量:1998cc
●最高出力:135kW(184ps)/5000rpm
●最大トルク:300Nm/1350-4000rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・59L
●WLTCモード燃費:13.0km/L
●タイヤサイズ:225/45R18
アウディ A5 TFSI クワトロ 150kW Sライン 主要諸元
●全長×全幅×全高:4835×1860×1455mm
●ホイールベース:2895mm
●車両重量:1800kg
●エンジン:直4 DOHCターボ
●総排気量:1984cc
●最高出力:150kW(204ps)/4300-6000rpm
●最大トルク:340Nm/2000-4000rpm
●トランスミッション:7速DCT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・60L
●WLTCモード燃費:13.2km/L
●タイヤサイズ:225/55R17