美しい負け方に徹するほかなかったソニーXperia

「本物の感動体験」の提供を目指した1台, 「ブラビア」と「ウォークマン」の遺伝子, 高価格と狭まる市場ポジション, 製品ラインナップの縮小と戦略転換, 「美しい負け方」の哲学

ソニーは5月13日、最新フラッグシップスマートフォン「Xperia 1 VII」を発表した(筆者撮影)

ソニーの新作スマートフォン「Xperia 1 VII(エクスペリア ワン マークセブン)」は、デジタル一眼カメラ「α」、ポータブルオーディオプレーヤー「ウォークマン」、テレビ「ブラビア」の技術を結集したフラッグシップ機だ。

【写真で見る】4Kの全体動画と被写体を追尾するクローズアップ動画を同時に撮影するXperiaの新機能「AIカメラワーク」

一見すると単なるスマートフォンだが、その中身はソニーという巨大エンターテインメント企業の全叡智が詰まった「総合芸術」と言っても過言ではない。

「本物の感動体験」の提供を目指した1台

Xperia 1 VIIのカメラは現在のハイエンド市場で求められる水準を満たしつつ、その真の特徴はソフトウェア面にある。デジタル一眼カメラ「α」シリーズから移植された「AIカメラワーク」機能が新たな撮影体験を提供する。

「AIカメラワークを起動すると、被写体位置ロックがオンになり、手がふらついても動いている被写体を常に中央に配置できます」とソニーの担当者は説明する。同時に「オートフレーミング」機能は広角で全体を捉えながら被写体のクローズアップも同時に記録する。例えば、子どもやペットを撮る時でも、カメラワークはスマホにお任せして、自分は子どもやペットを肉眼で見ていられる。

「本物の感動体験」の提供を目指した1台, 「ブラビア」と「ウォークマン」の遺伝子, 高価格と狭まる市場ポジション, 製品ラインナップの縮小と戦略転換, 「美しい負け方」の哲学

AIカメラワーク機能では、4Kの全体動画と、被写体を追尾するクローズアップ動画を同時に撮影する(筆者撮影)

「本物の感動体験」の提供を目指した1台, 「ブラビア」と「ウォークマン」の遺伝子, 高価格と狭まる市場ポジション, 製品ラインナップの縮小と戦略転換, 「美しい負け方」の哲学

カメラワークはスマホに任せつつ、被写体を追った動画もばっちり撮影できる(筆者撮影)

カメラハードウェアも堅実に進化している。超広角レンズには前機種比約2.1倍大型化された1/1.56型のイメージセンサーを搭載し、暗所でもフルサイズカメラ並みの低ノイズ性能と広いダイナミックレンジを実現する。広角レンズには引き続きソニー製の「Exmor T for mobile」センサーを採用。85-170mmの光学望遠ズームレンズは、約4cmまで被写体に近づけるテレマクロ撮影にも対応し、肉眼では見えない微細な質感まで捉えることができる。αシリーズ譲りのリアルタイム瞳AFやトラッキング機能も搭載された。

「本物の感動体験」の提供を目指した1台, 「ブラビア」と「ウォークマン」の遺伝子, 高価格と狭まる市場ポジション, 製品ラインナップの縮小と戦略転換, 「美しい負け方」の哲学

超広角レンズは一眼レフカメラ並みに暗所撮影に強く、高倍率な光学望遠ズームレンズも搭載する(筆者撮影)

「ブラビア」と「ウォークマン」の遺伝子

ディスプレイはブラビアのDNAを受け継ぎ、「ブラビアの美しさをAIリマスタリング技術で再現」した。新たに背面照度センサーも搭載し、環境に応じたディスプレイ自動調整を実現している。

「本物の感動体験」の提供を目指した1台, 「ブラビア」と「ウォークマン」の遺伝子, 高価格と狭まる市場ポジション, 製品ラインナップの縮小と戦略転換, 「美しい負け方」の哲学

カメラα、テレビのブラビア、そしてWalkmanの遺伝子を継ぐ(筆者撮影)

音響では、業界の潮流に逆らい3.5mmオーディオジャックを搭載。「ウォークマンで実績のある高品質部品を使用し、オーディオジャックのはんだ付け部に金を添加」するなど、見えない部分にまでこだわりが及ぶ。ソニーミュージックと共同開発した「DSEE Ultimate」技術は、膨大な音源ライブラリをAIが学習し、圧縮音源をハイレゾ相当に引き上げる。

「本物の感動体験」の提供を目指した1台, 「ブラビア」と「ウォークマン」の遺伝子, 高価格と狭まる市場ポジション, 製品ラインナップの縮小と戦略転換, 「美しい負け方」の哲学

オーディオ端子には金メッキのはんだを用いて音質を改善した(筆者撮影)

処理能力も最新のSnapdragon 8 Elite Mobile Platformを搭載し、大容量5000mAhバッテリーで「1度の充電で2日間使用可能」「連続動画再生時間は36時間」という持久力も備える。

これらの技術を統合するブランドとして打ち出されたのが「Xperia Intelligence」というAI技術だ。「ソニーが保有する豊富なコンテンツ資産から学習したAI技術をXperia向けに最適化」し、オーディオビジュアル体験と画像生成を向上させる。

しかし、これほどの技術結集にもかかわらず、厳しい市場の現実が待ち受けている。

高価格と狭まる市場ポジション

最新のXperia 1 VIIのSIMフリーモデルは20万円台前半、キャリアモデルでは最大24万円を超える価格設定だ。これはGoogleのフラッグシップ「Pixel 9 Pro」(16.9万円〜)と比較しても3万〜7万円高い。

IDC Japanのアナリスト井辺将史氏はこの高価格戦略に疑問を呈する。

「価格設定が非常に高い。同価格帯ではサムスンのGalaxy Sシリーズの上位モデルも選択肢になります。あえてソニーを選ぶ消費者がどれだけいるでしょうか」(井辺氏)

市場での競争環境も厳しさを増している。井辺氏によれば「2023年頃からGoogleが日本市場への攻勢を強め、結果的にGoogleが奪ったシェアの多くはソニーからのものでした」。

世界的に見ても「スマートフォン市場は寡占化の傾向にあり、サムスン、アップル、ファーウェイ、Xiaomiなどの大手がシェアを伸ばす一方で、『その他』カテゴリーのシェアは減少しています」(井辺氏)。ソニーはこの「その他」に分類される企業だ。

「本物の感動体験」の提供を目指した1台, 「ブラビア」と「ウォークマン」の遺伝子, 高価格と狭まる市場ポジション, 製品ラインナップの縮小と戦略転換, 「美しい負け方」の哲学

世界的にみてスマホ市場は超大手メーカーに集約されつつある。IDCの調査では日本企業はいずれも「その他」に分類されている(IDC Japan提供)

日本市場でのシェアも低下しつつある。IDCの市場調査によれば、2024年の日本国内スマートフォン市場でソニーは8位に低下した。2021年から2023年まで6位からさらに後退した格好だ。日本国内の400ドル(約6万円)以上の高価格帯スマホ市場におけるシェアも5%以下にとどまっている。

製品ラインナップの縮小と戦略転換

ソニーは近年、製品ラインナップを大幅に縮小している。「ミッドレンジモデルの10シリーズやエントリーモデルのAceシリーズ、コンパクトハイエンドの5シリーズなどの以前は幅広い価格帯をカバーしていましたが、現在はハイエンドの1シリーズに集中する戦略に移行しています」と井辺氏は分析する。

この動きは「数量ではなく利益率を重視した戦略」と見られるが、スマホ事業全体が縮小傾向にあるのは間違いないだろう。ソニーは決算会議でスマートフォン部門の収支を個別に開示しなくなった。これについて井辺氏は「業績が思わしくないことを示唆している可能性があります」と指摘する。

今後のXperia事業には、大きく2つの方向性が考えられる。1つは「超ニッチ化」だ。イギリスのスタートアップNothingや、ライカブランドのLeitz Phoneのように、年間数十万台程度の販売でも、高単価商品として事業存続を図る道だ。井辺氏も「ソニーには一定のファン層がいます。その数は減少しても、買い替えるコアユーザーは存在するでしょう」と指摘する。

しかし、より戦略的に重要なのは、もう一方の道、つまりXperiaを「次世代技術のインキュベーター(孵化器)」として位置づける道だろう。スマートフォンは最先端のAI、センサー、通信技術が集約されたデバイスであり、ここで培われた技術は、ソニーの将来事業に大きな影響を与える。

実際、ソニーはペットロボット「aibo」や電気自動車「Vision-S」など次世代エレクトロニクス事業に意欲を見せている。こうした次世代の機器でもモバイル通信は欠かせない要素と言える。

「美しい負け方」の哲学

ソニーのXperia事業は、市場シェアで見れば苦境にある。2025年のグローバルシェアは1%に満たない。しかし、その製品に込められた技術と哲学は、大量生産・大量販売とは異なる価値観を提示している。

「本物の感動体験」の提供を目指した1台, 「ブラビア」と「ウォークマン」の遺伝子, 高価格と狭まる市場ポジション, 製品ラインナップの縮小と戦略転換, 「美しい負け方」の哲学

クラフトマンシップに基づくスマホとして生き残ることになるか(筆者撮影)

量的成功より質的卓越を追求する。それは日本のものづくりの伝統とも重なる選択だ。世界市場でのニッチポジションという現実を受け入れつつも、技術の粋を集めた製品を生み出し続ける。そしてその過程で蓄積される技術は、ソニーグループの未来を形作る重要な資産となるだろう。

Xperiaが体現するのは、そんなソニーならではの「美しい負け方」の哲学なのかもしれない。