ロボタクシー、自動運転技術、電動化…日本の自動車メーカーは世界から見て本当に遅れているのか、見落としている本質

アメリカや中国の大都市圏では、ドライバーレス、つまり運転手のいない自動運転車両の部分的な実用化が進む。ここでの実用化とは事業者が移動サービスを提供し、利用者は料金を支払う仕組みのことで、使用する車両はロボタクシー、または無人タクシーと呼ばれている。

【写真を見る】テスラやBYDをはじめ、ホンダや日産の自動運転やロボタクシーの現状(写真:12枚)

【写真】テスラやBYDをはじめ、ホンダや日産の自動運転やロボタクシーの現状(写真:12枚)

アメリカや中国での現実

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2024年に発表されたテスラのロボタクシー「サイバーキャブ」(写真:テスラ)

アメリカではWaymo、中国ではBaiduやPony.aiなどが進めるロボタクシー化。スマートフォンのアプリで車両を呼び出し、料金決済はキャッシュレス、安全・安心を目指した自動化レベル4相当での運用がその全容だ。いずれの事業者が提供する移動サービスは利便性が高く、利用者からは高い評価が得られている。

アメリカではテスラもロボタクシーの実用化に向けて前のめりだ。すでにテキサス州のダラスとヒューストンでは部分的なサービスを開始している。テスラによると「これまでの実証実験での走行距離を含め290万kmぶんの走行実績がある」という。さらにテスラではロボタクシーのほか、運輸や建設、食品サービスの各業界で貨客混載が可能なロボバンの運用も検討中だ。

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サイバーキャブのインテリア。ステアリングやアクセル・ブレーキペダルなどはない(写真:テスラ)

一方、こうしたロボタクシー界での課題は、交通事故などトラブル発生時の対応である。ロボタクシーが安全運転を行っていたとしても、混合交通となる公道では自車に非がなくとも追突されるなど、事故に巻き込まれることがある。

さらに保険適用範囲に対し、各国での完全なる法規対応はこれから議論されるため、現時点では事故による被害者/加害者双方に不安が残る。

日本におけるロボタクシーの今

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2021年にデビューしたホンダ「レジェンド」(写真:本田技研工業)

では、日本市場におけるロボタクシーの現状はどうか。「日本は自動運転技術の普及で後れをとった」という論調がある。BEV(電気自動車)の普及と同じく、ロボタクシーの開発でも日本は周回遅れではないか、そんな声が多く聞かれる。

2021年3月、ホンダが世界初の自動化レベル3技術を搭載した「レジェンド」をリース販売し、国内メーカーだけでなくメルセデス・ベンツやBMW、アウディ、そしてテスラの首脳陣を驚かせた。

しかし、その後は自動運転技術で目立った動きがないように思える。電動化技術ではBYDを筆頭にした中国メーカーが主なニュースの発信源だ。

一方で、安心・安全な普及という観点まで枠組みを拡げ、社会実装の仕方にどんな違いがあるのだろうかと俯瞰すると、決して日本は遅れていないという事実がわかってきた。ここからは新しい技術の実用化と社会実装を“料理”と“器”の関係に例え考えてみたい。

自動運転技術や電動化において世界から注目されている企業の多くは、器を作るところから事を始める。なぜなら形として見せやすく、賛同を得やすいからだ。よってその器が完成した時点で、「すごい器(自動運転技術や電動化車両)ができたぞ!」と声高にして視線を集める。

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レジェンドは、自動運行装置のトラフィックジャムパイロットをはじめ、5つの機能を含んだHonda SENSING Elite(ホンダ センシング エリート)を搭載し、世界初の自動運転レベル3に対応(写真:本田技研工業)

しかし、その器を彩る料理は何かと問うと、企業の担当者は「これから考えます」と答える。材料が決まっていなければメニューもこれから、料理人や、その料理を出すお店も決まっていないからだ。

つまり、どんな領域で自動運転技術を社会実装するのかは後まわし。これが電動化であれば大容量バッテリーや、1300kW以上の超急速充電システム(例/BYD「フル液冷メガワット級フラッシュ充電ターミナルシステム」)などで乗りきろうとする(全世界で8万箇所におよぶテスラの「スーパーチャージャー」は250kW)。

よって、社会実装の段階になって初めて各所に無理が生じていることが露呈し足並みが揃わず、最悪の場合、普及せずに終わることもある。

世界と日本における考え方の違い

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各種センサーを用いたレジェンドの走行イメージ(写真:本田技研工業)

対して日本企業はバックキャスティングで信を問う。「こんな料理を作って、この器で出したら、こういった人たちに喜んでもらえるだろう」という視点からアプローチする。だから、必要な素材は何か、どんな調理方法がいいか、器の形や素材はどれがいい? どこで売り出すなど、作る料理を決めた時点ですべてが揃っているのだ。

つまり、おいしい料理を作って人々を笑顔にするという最終目的から逆算で各要素が決められるので、どのタイミングで、どんな技術や法律が必要なのか、作る側と利用する側の双方での理解が促進される。そして結果的に人/金/モノに無駄が生じず、社会受容性の高まりも早くなる。

「いや、それだから日本は遅いんだ」との声もある。ある自動運転技術の開発者は「60%完成した時点で世に送り出し、ソフトウェアアップデートで対応すれば欧米や中国並みのスピード感が保てる」という。しかし、「さまざまな小さなトラブルへの対応には時間がかかる。また、厳格な法規対応への変更にしても手続きにやはり時間がかかり、結果的に非効率になる」とも語る。

その点、前述した逆算方式では、時代の変遷に合わせた変化にも柔軟に対応できる。試行錯誤が続く生成AIやE2E(End-to-End/ユーザー視点で最初から最後まで一連の動作を想定した検証等)の自動運転技術の開発プロセスが高度に確立されれば、ルールベースの領域を減らし、すぐさまそれを手法として採り入れ、器に例えた車両に実装する。

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BYD「シール」では、バッテリーパックを介さず、直接シャシーに並べて搭載する「セル・トゥ・ボディ」という方法を用いて、車体の軽量化や設計の効率化などをアピールする(写真:BYD)

また電動化車両の効率を左右する2次バッテリーにしても、全固体電池の目処が立てば、ハードとソフトの足並みが揃っているMBD(Model Based Development/モデルベース開発)開発手法の利点をフルに活かし、要のポイントまで立ち返り対応させれば、AER(All Electric Range/満充電で走行可能な距離)は2~3倍に伸び、車体デザインに自由度が生まれ、懸案の軽量化も促進される。

ものすごく大雑把にいえば、世界中のメーカーが認識している課題を一気に解決し、常に新しい仕組みに変更することが可能になる。いわば逆算方式はオセロ(リバーシ)ゲームのごとく形勢逆転が狙えるのだ。

世界と日本、どちらの考え方にもメリットはある

そう考えてみれば、アメリカ、中国、欧州におけるエッジのたったスピード感のある自動運転技術や電動化のアナウンスはアドバルーン的な要素がある。いろいろな新技術をどんどん世に問い、同時に取捨選択する「出してから絞っていく手法」だとの推論が成り立つ。たしかに早いが無駄も多い。

これを認めたうえで、日本の「最終目的から逆算する手法」とはアプローチが真逆であると考えれば腹落ちもしやすいのではないか。山の頂きを目指すルートは複数あるということだ。

では、その日本企業は冒頭のロボタクシーについてどのようなアプローチをしているか?

日産自動車(以下、日産)やいすゞ自動車(以下、いすゞ)をはじめとした複数の企業では、MaaS(Mobility as a Service/サービスとしての移動体)として、ドライバーレス運行の実現を目指し実証実験を重ねている。日本ではロボタクシーに、より多くの乗客が一度に移動できるロボバスを加えて「モビリティサービス車両」(以下、MS車両)と呼んでいる。

チーム日本では業界を跨いだタッグも強力だ。

ソフトバンクが37.3%、トヨタ自動車が37.0%、日野自動車とホンダ技研工業がそれぞれ10.0%、いすゞ/スズキ/SUBARU/ダイハツ工業/マツダが各1.1%出資する法人「MONET Technologies」では、ロボタクシーを使って2025年3月まで東京臨海副都心の公道(一般道路)で自動運転技術を用いた移動サービスの実証実験を一般の利用者向けに行っていた。

日本がMS車両の実用化を目指す意味

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2026年3月に日産は、WayveとUber Technologiesの3社でロボタクシー開発の協業を発表(写真:日産自動車)

ドライバーを必要としない自動運転技術によるMS車両の実用化を急ぐ真の理由は、少子化や人手不足、さらには高度な技能をもった人材不足に伴って懸念される公共交通機関の機能低下抑制にある。

日本において人手/人材不足の影響はすでに各所に出始めている。一例が路線バスの減便や運休だ。これは郊外だけでなく都市部でも発生するほど深刻で、東京都交通局が運行する都営バスでは「バス乗務員不足によりバス路線の変更等を実施します」と、連日ホームページ等で周知するほどである。

筆者は大型二種免許を保有しバスのドライバー経験もあるが、人を送り届ける業務は身体的だけでなく、精神的な負担も大きい。よって人材が通年で不足している。

大型バスはボディが大きく車両感覚をつかむまでには慣れが必要だが、ブレーキ操作の難易度も高い。車両重量10t程度(乗用車の7~8倍)の大型バスだがブレーキは強力で、じつはスポーツカーの約80%程度に相当する約0.8Gの強い減速度が出せる。しかし、それを立ち席のある路線バスで行えば転倒者が続出し、甚大な車内事故につながる。

よって緊急時であっても急ブレーキに頼らない危険回避術の習得が不可欠で、大前提として危険な状態に近づかない「認知・予測・判断・操作」が高度に求められる。

日産のMS車両開発

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2025年に横浜市における自動運転モビリティサービスの実証実験を発表した日産(写真:日産自動車)

日産では、自動化レベル4を担保するMS車両の実用化に対し次の①~③の要素が重要だと明言する。

「①“安全に走る性能”は基本中の基本ですが、②“故障時の安全を維持する性能”と、③“無人をサポートする周辺システムの実用化”も同時に成り立たせる必要があります」と解説するのは、日産 総合研究所 モビリティ&AI研究所 エキスパートリーダー 木村 健氏(当時)だ。

日産が2025年3月10日に披露したドライバーレスで走行可能な自動運転技術では、現在の日本法規に則った「遠隔型自動運転」を導入し神奈川県警からの道路使用許可を取得。

そのうえで、車内には法規上は求められていない「保安要員」(人)を安全面強化のため助手席に同乗させて、さらに法規で求められている「遠隔監視操作者」(人)を車外の離れた場所に置いている。

車両が自動運転中であっても、保安要員や遠隔監視操作者が「非常停止ボタン」を押下することでいつでも停車可能。その場合、直ちに停止する/緩やかに停止する、この2つの作動方法を状況に応じて選択する。

日本の法規と自動運転

現法規上は、遠隔監視操作者が一般的なドライバーと同じ責務を負うことから、万が一、実証実験車両が道路交通法違反を犯すと遠隔監視操作者が交通反則告知書を受領する(青キップなどを受けとる)ことになる。

日産では、2027年度には関係各所と協議したうえで、遠隔監視設備を伴う「自動化レベル4でのモビリティサービス」を提供し、2029年度以降には「自動運転サービス」として定着させ、関係するすべての人々が収入を得られるような構造を構築し、社会受容性のさらなる向上を目指すとした。

ここまでは、ロボタクシーの国内外事情と実用化までの異なるアプローチを紹介した。

続く後編では、乗用車/MS車両/大型商用車の3つの領域で異なる自動運転技術について、それぞれの課題と解決策について検証する。また、既存のタクシー業界にも訪れているロボタクシー化では、どのような差別化を図り生き残りをかけていくのか、具体例を挙げて紹介したい。