ウォークマンを知らない世代にXperiaは刺さるか

「AIでAV機能を強化」ソニーならではのスマートフォン, カメラの表現力で勝負する海外スマホメーカー, ラインナップ拡充か、唯一無二の存在になるか, ウォークマンを知らない若者たち

ソニーの新型スマホ「Xperia 1 VII」(筆者撮影)

ソニーから1年ぶりのスマートフォンの新製品となるXperia 1 VIIが発表された。ソニーのフラッグシップスマートフォンらしく、同社が培ってきたこれまでの技術を惜しげもなく搭載したモデルだ。だがソニーは日本のみならず海外のスマートフォン市場で苦戦を強いられているのも事実である。果たしてXperia 1 VIIは海外市場で存在感を示すことができるだろうか?

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「AIでAV機能を強化」ソニーならではのスマートフォン

Xperia 1 VIIはスマートフォンの心臓部であるチップセットに各メーカーのフラッグシップモデルが搭載するクアルコムのSnapdragon 8 Eliteを採用した高性能な製品だ。AI機能も多数搭載されており、スマートフォンとしてのパフォーマンスは非常に高い。またカメラは広角カメラに加え超広角カメラも4800万画素と高画質になり、日常の写真撮影時のパフォーマンスも高められた。

しかしハードウェアの進化だけがXperia 1 VIIの特徴ではない。今やどのメーカーもスマートフォンのイチオシ機能としてAIを掲げているが、ソニーもXperia 1 VIから「Xperia Intelligence」と総称するAI機能を搭載した。高性能なカメラやオーディオ機能がAIによって一段と進化している。ソニーが長年培ってきたカメラ、テレビ、音楽分野の技術が、AIの力で新たな次元へと引き上げられた形だ。

カメラに関しては被写体自動追従の「AIカメラワーク」、全景と被写体の拡大を同時録画できる「オートフレーミング」を新たに搭載。いずれも自社αシリーズのカメラ技術とスマートフォンのAI機能を融合させたものだ。スマートフォンの画面に集中しなくとも、家族の動画を手軽に美しく、思い出に残るムービーとして残すことができる。

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被写体を追いかけるAIカメラワーク(筆者撮影)

音楽機能は音楽プレイヤーのウォークマンが採用している部品を一部採用したことにより、伝送ロスなどの低減化が可能になった。またここでもAIを使い高音質化する技術を搭載、Xperiaシリーズで最高の音質で音楽再生ができるという。またBluetoothの送信電力も2倍に強化し、ワイヤレスヘッドフォンでより安定した音楽再生が可能になった。

そしてBRAVIAシリーズのTV譲りのAI画質自動調整や、新たに搭載した背面の照度センサーがどんな時でも快適な画面表示を可能にする。周囲環境の明るさなどに応じ、画面の輝度や色味を自動調節するのだ。スマートフォンとして最高の視聴体験も提供できるのである。

このようにスマートフォンとして隙のないモデルに見えるXperia 1 VIIだが、並みいる強敵の多い海外市場で目立つことはできるのだろうか?

カメラの表現力で勝負する海外スマホメーカー

日本ではiPhoneを中心にスマートフォン市場が動いているが、海外市場ではサムスン電子の力も強い。またシャオミなど中国勢も国によっては高いシェアを有している。特にカメラを強化した最上位モデルのスマートフォンでは、中国メーカーの製品の性能がアップルやサムスンを大きく上回っている。

グローバル市場でのスマートフォンカメラのトレンドはカメラメーカーとの協業だ。シャオミはライカと、OPPOはハッセルブラッドと提携し、フィルムカメラ時代の絵作りをスマートフォンのデジタルイメージングに反映させている。他にはファーウェイから分離したオナー(HONOR)がフランス・パリの伝説的なポートレート写真スタジオ「Studio Harcourt Paris(スタジオ・アルクール・パリ)」と提携。スマートフォンのカメラは高画質化の次のステップとして、表現力の追求を進めている。

ドイツのレンズメーカー、ツァイスと提携しているvivoは、同社の歴代の名レンズのボケをデジタルでシミュレーションしたポートレート撮影をアピールするなど、こちらもアナログの技術をデジタルで再現した。実はソニーもツァイスと提携を行っているが、レンズの反射コーティング「T*コーティング」が目立っている程度。絵作りの面でも協業は行われているだろうが、vivoのようにツァイスの技術をそのままスマートフォンで再現はしていない。ツァイスのブランドを背負うことでグローバルに進出しようと考えているvivoと、すでに名前の知られているソニーでは光学機器メーカーとの連携に対して温度差があるということだろう。

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Xperiaとツァイスの提携は限定的だ(筆者撮影)

一方、サムスン電子の「Nightography(ナイトグラフィー)」のように、夜間の写真や動画撮影性能を高め、ノイズが少なく明るい“映える夜景”の絵作りも各メーカーが強化している。前述したvivoは「ステージモード」を搭載し、暗いコンサート会場のステージ上で演奏したりダンスをする演者がまるで目の前にいるような臨場感あふれるデジタルズーム動画を撮影できる。各社のカメラ性能の競争は日中ではなく夜間や暗いシーンでの絵作りにフォーカスしているのだ。

このようにある意味“尖ったカメラ”をウリにするスマートフォンが各社から出ているのがグローバル市場の現状だ。Xperia 1 VIIのAIトラッキングなど新しいカメラ機能は確かに差別化できる特徴だ。しかし大手メーカーとは異なる方向での機能アップは「トレンドに乗っていない」というイメージを受けてしまう。ソニーが前世代のモデルから搭載している人物や動物の瞳を追いかけピントを合わせる「瞳AF」も、大手メーカーがそれを売りにしない状況では機能そのものを認知させにくい。

優れたカメラ性能をアピールするのであれば、まずはトレンドに乗らなくては勝負に加われないだろう。そのうえでXperiaならではの機能を前面に出していくことが必要だろう。

ラインナップ拡充か、唯一無二の存在になるか

Xperiaシリーズはヨーロッパやアジアの一部の国で販売されている。実際に海外の家電量販店に行けばXperiaコーナーを設置して売り込みを図る国もあるにはある。ここ数年のXperiaシリーズの展開はハイエンドの「Xperia 1シリーズ」、ミドルレンジの「Xperia 5シリーズ」、コスパ重視の「Xperia 10シリーズ」と3つのラインナップに絞られていた。ところが2024年は「Xperia 5」のラインは製品がなく、「Xperia 1 VI」と「Xperia 10 VI」の2モデルだけだった。しかもモデルチェンジは1年に1回だけだ。

アップルは毎年9月に新製品を出しており、それを見るとソニーも似たような製品展開を行っていると感じられるだろう。また日本市場におけるサムスン電子の動きも少数製品で広い層をカバーしている。これは日本がキャリア主導の端末販売市場であり、販売するスマートフォンの機種はキャリアが決定しているからだ。しかし日本市場のスマートフォンの展開は海外市場とは全く異なっている。

ヨーロッパ、アジア(韓国を除く)、中東、インド、アフリカなど多くの国ではスマートフォンはキャリアではなく端末メーカーが独自に販売し、消費者はそれを自由に購入している。そのため家電量販店に限らずキャリアの店舗に行っても、ハイエンドからエントリーモデルまで、各社が複数の製品を出している。サムスン電子やシャオミが1社で10機種以上を販売していることは当たり前だ。しかも中国メーカーは年に2回や3回のモデルチェンジも当たり前なのだ。

このような市場でわずか2〜3機種しかないXperiaが目立つためには、ラインナップを増やして認知度を高める必要があるだろう。しかし現在のソニーの力ではそれは難しい。そうであれば他社が追いつけないような唯一無二の存在である「超ハイエンド」「超プレミアム」といった尖った製品で勝負をかけることも有用だろう。

実際にソニーは過去に尖った製品を出している。2021年に発売した「Xperia PRO-I」は大型センサーや可変絞りを搭載し、高画質動画撮影にも対応したクリエイターやプロ向けのカメラ特化スマートフォンだった。Xperia 1シリーズはハイエンド・フラッグシップクラスの製品だが、Xperia PROシリーズはそれの上を行く製品だったのだ。残念ながらPROシリーズは2モデルが出た後、後継機種は出ていない。

「AIでAV機能を強化」ソニーならではのスマートフォン, カメラの表現力で勝負する海外スマホメーカー, ラインナップ拡充か、唯一無二の存在になるか, ウォークマンを知らない若者たち

尖った存在だったXperia PRO-I(筆者撮影)

ウォークマンを知らない若者たち

Xperia 1 VIIはウォークマンシリーズや高性能ヘッドホンを手がけてきたソニーならではの卓越した音楽再生性能を誇る。いわゆる「AV」、すなわちAudio=オーディオとV=ヴィジュアル分野において、ソニーが常に市場をリードしてきたことに異論を唱える人は少ないだろう。Xperia 1 VIIには「Powerd by WALKMAN」の表記が公式に採用されている。

ウォークマンの名前は日本だけではなく世界中でも広く知られている。しかも最近の若い世代、Z世代の間でもその名前は聞き慣れたものになっているという。だからといって「WALKMAN」のブランドがXperia 1 VIIの販売に好影響を与えるものになるほど、事は甘くない。

実はZ世代の間でウォークマンが知られているのは、2000年以前に一世を風靡したデジタル製品へのレトロブームの1つにすぎないからだ。彼ら・彼女らの間では古いデジカメを使い、あえて画質の悪い写真を撮ることが“エモい”とされ、SNSで共有することがトレンドになっている。ウォークマンの名前を聞いても、Z世代と“昭和世代”の間では受ける印象は大きく異なるのだ。

「AIでAV機能を強化」ソニーならではのスマートフォン, カメラの表現力で勝負する海外スマホメーカー, ラインナップ拡充か、唯一無二の存在になるか, ウォークマンを知らない若者たち

ウォークマンに対する認識は世代で異なる(筆者撮影)

とはいえブランドを認知されているのは大きな強みだ。ウォークマンのブランドをいきなり性能に結び付けるのではなく“気軽に使える音楽スマートフォン”のように、まずは体験してもらい、そこから性能の高さを認知してもらえればXperiaへの関心も高まるだろう。またソニーの製品はZ世代の親の世代が使っていたこともあり、実は幼少のころからソニーブランドに慣れ親しんでいる若者も多い。

スマートフォンとして優れた性能を持つXperia 1 VIIが日本以外の国であまり知られず、ひっそりとした存在のままでいることは勿体ない。カメラ、音楽、ディスプレイにソニーの技術をつぎ込んだ製品だけに、ぜひその魅力が海外でも広く伝わり、多くの人に手に取ってもらえるようになってもらいたいものだ。