河合優実「豪ちゃんがいないから、私が言わないと…」 朝ドラ「あんぱん」でしっかり者の次女・蘭子を好演中

朝田蘭子(河合優実)(C)NHK
NHK連続テレビ小説「あんぱん」(総合ほか)で、ヒロインの妹、朝田蘭子を演じる女優の河合優実が取材に応じ、思い人の原豪(細田佳央太)の戦死が知らされる第38回の放送を前に、自身の役柄やドラマへの思い、現場での共演者たちの様子などを語った。
「あんぱん」そして蘭子とは?
第112作目の朝ドラで、人気アニメ「アンパンマン」の原作者として知られるやなせたかしさんと妻・暢さんの夫婦をモデルに、生きる意味も失っていた苦悩の日々と、それでも夢を忘れなかったヒロイン朝田のぶ(今田美桜)とその夫となる、柳井嵩(北村匠海)の人生を描く。脚本は中園ミホさん。主題歌「賜物」をRADWIMPSが歌い、「語り」を同局の林田理沙アナウンサーが務める。蘭子はのぶの妹で、真面目で器用なしっかり者の次女。誰が何を考えているかを察し、的確な行動をする。学校卒業後は郵便局で働き、家計を助けている。朝田家に住み込んで修行中の若い石工、豪に密かに思いを寄せており、彼が出征する直前にプロポーズを受け、のぶに応援されて自身も告白。初めて一夜をともに過ごし、無事帰還を祈りながら戦地へと送り出した。しかし第38回(5月21日放送)で豪の戦死公報が届き、彼の死を誇りに思うべきというのぶに反発して感情を爆発させた。

朝田蘭子(河合優実)、のぶ(今田美桜)。第24回から、蘭子が意中の人がいることをのぶに打ち明ける場面(C)NHK
「誰かの記憶になれば」
河合にとって今回が初出演となる朝ドラ。過去の作品でオーディションを受けたこともあり、特別な枠だと捉えているという。家族と一緒に「あまちゃん」を見ていたと振り返ったうえで、ヒットした作品はふだんドラマを見る習慣がない家庭にも入ってくるという印象があり、今作がそんなふうに「誰かの記憶になれば」と期待を寄せる。

朝田のぶ(今田美桜)、蘭子(河合優実)、メイコ(原菜乃華)、原豪(細田佳央太)。第28回、豪に思いを寄せる蘭子を応援するのぶたち(C)NHK
「履歴書のようにすべて作っていくより…」
これまでの出演作では孤高の役を演じてきた印象が強いが、蘭子は家族との絆を大事にする役柄。演じ方に違いがあるかとの問いに、考え方はあまり変わらないがと前置きしたうえで、食事や何か仕事をしている場面で、言葉によらない表現が重なっていくところは他の作品にはない特色で、「少しずつ重ねて(撮影期間の)1年間を通しての表現ができれば」。また、朝ドラは役を演じるスパンが長いため、主役以外にも多くのキャストにスポットが当たるなかで、蘭子の気持ちがドラマ全体を通してつながるように、丁寧に表現することを心がけている。役との向き合い方については、「具体的にこの人は何歳から何歳までこういう時間を過ごして…と履歴書のようにすべて作っていくというよりは、台本を読んだ時に画として浮かんでくる佇まい、イメージからヒントを得ていて、抽象的なところから膨らませていく」アプローチをとっている。
蘭子ではなく「のぶみたいだった」
実生活では3姉妹の長女である河合は、自身の性格を蘭子ではなく「のぶみたいな姉だったかも」と自己分析。妹たちのことをあまり考えずに自身の進路を決めるなど、「のぶが自分勝手というわけではないですけど、私はすごく自分勝手にやってきた」と振り返った。しかし大人になってからは、一歩引いたところから家族を見られるようになり、今は「蘭子のような立ち位置な気がします」。10代のころは猪突猛進に進み、リーダーをやる機会もとても多く、家の中ではずっと喋っているような活発さがあったが、高校を卒業し仕事を始めてからは「落ち着いているね」と1日に何回も言われるようになった。

第38回の場面から。朝田蘭子(河合優実)、のぶ(今田美桜)(C)NHK
「蘭子の声をもう一度はっきり伝えるべきだと…」
出征が決まった豪と思いを通じ合わせた第29回(8日放送)と、豪の戦死を知る第38回(21日放送)は、「戦争により、人を愛することと失うことを知る、ドラマにとっても蘭子にとっても大切な軸だと思って」演じた。軍国主義の世相に同調するのぶとぶつかり、その後もあの時代の中で反戦の立場を貫く役柄を演じることに意義を感じ、「蘭子を演じることができてよかった。大切に向き合わなきゃ」「豪ちゃんがいないから、私が言わないと…蘭子の声をもう一度はっきり伝えるべきだと思う」ときっぱり。ちょうど戦後80年の年に放送されている今作。戦争を知らない世代の自分たちには、いま世界で起こっている戦争についても実感がないかもしれないが、当時の人たちも状況を俯瞰することはできず、よくわからないものに巻き込まれていったのではと想像をめぐらせ、「まずは、いま(ドラマを)見ている人たちが豪と蘭子のことを考えてくれるだけで十分。そこからみんなでもう1回考えるきっかけにつながったら」と視聴者へ希望を託す。
細田佳央太との芝居、視線だけで「交感するものがあった」
第29回、蘭子の最初の山場となった、出征する豪と互いに告白し合う場面。セリフは少なかったが、共演3回目の細田とは信頼関係ができており、テストの段階から2人でどのように気持ちを伝えあうか探っていったので、安心感があると同時に「背筋が延びる時間」だった。壮行会で「よさこい節」を歌っているときにも目線を合わせ、歌う蘭子と耳を傾ける豪との間で「交感するものがありました」。微笑みかけたらニッコリ笑顔を返してくれたことが印象に残っている。
「豪ちゃんは“同じ側”にいる人」
蘭子の中に豪への恋心が芽生えた経緯については、ずっと同じ家で暮らしている人として大好きだったのがだんだん恋愛感情に変わっていったのではないかと捉えている。「豪ちゃんは“同じ側”にいる人で、私とは自然とわかり合えるんじゃないかなと、感じていたのでは」。
やなせさんの言葉には「嘘がない」
中園さんの脚本の魅力は、嵩にやなせさんの人生をなぞらえるだけでなく、やなせ作品に出てくる「ハッとする」とような言葉の引用が、ドラマ全体に散りばめられているところ。また人の生き死にが、戦争パートに限らずたびたび真っ直ぐ描かれており、「その切実さがすごく強い」とも感じている。また、ドラマの基盤ともなっているやなせ作品は、今回の出演を通して「哲学がある」と感じている。「現代の私は『逆転しない正義とは飢えた人にパンをあげることだ』という言葉を、こんなに実感を持って言えないと思うんです」。戦争や幼少期の体験があったからこそ「アンパンマン」が生まれたし、「そこには嘘がない」。また、蘭子を演じたことで、(役のモチーフとなっている)ロールパンナがとても好きになった。「子供向けのアニメなのに、正義と悪の心を併せ持っているのが面白いし、孤高の存在でかっこいい」。
「いまみんなに見てもらうべきものは何か」
今作に限らず「出演したい」と心が動かされる作品には、「いまみんなに見てもらうべきものは何か」考えさせるところがある。それは必ずしもメッセージ性の有無ということではなく、「そのドラマを見た後だけ楽しかったと思えればそれも意味があるし、子供の時に見たものがずっと心に残っていて、大人になっても影響を与えるようなものなどいろいろ種類があると思うし、自分の心と体を使って、いまの人に見てほしいと思うものをこれからも届けていきたい」という。
和装で生活感を出す表現に苦戦
日常生活を着物で演じる役は初めての経験。専門家の所作指導は受けて撮影に臨んでいるが、「所作だけを練習するのではなくて、その服を着ていたら自然とそうならざるを得ない姿勢や、裾・袖の扱いなど、和装独特の動作がすごく勉強になりました。ご飯食べて、立って、座って、歩いてっていうところは、いまはかなり体に染み込んできましたが、着物を着ている人の生活感を出すのが最初は難しかった」。
“ふてほどパパ”阿部サダヲとの場面は…
「あんぱん」に風来坊のパン職人、屋村草吉役で出演中で、連続ドラマ「不適切にもほどがある!」(2024年、TBS系)では河合と親子役を演じ、注目を集めた阿部サダヲとの共演について質問が及ぶと、同席した制作統括の倉崎憲さんが、河合の出演が決まったのは「不適切~」の放送が始まる以前であり、名コンビの話題性を狙った配役ではなかったと補足。第38回までに、朝田家の場面で同じ画面に映ることはあっても、1対1で会話する場面はなかったが、「みなさんそれを求めてると思うんですが」と取材陣を笑わせつつ、「この先あるかどうかはわからない」と明言を避けた。
現場での阿部の姿に「ふてほど」で演じた役のイメージがよぎったことはあるかとの問いに、河合は「ないです」と即答しつつ、阿部はそれ以前に共演した舞台作品でも世話になった大先輩であり、「今回もみんなを安心させてくれる力を現場で感じています。本当に楽しいです、阿部さんがいらっしゃると」。さらに、「あんぱん」の撮影期間中に主演映画「あんのこと」(2024年)で第48回日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞を受賞した折、阿部からシャンパンを贈られたことを明かし、「すごく粋でした。普段ずっとふざけてるのに、そういう時にすごく優しい」とうれしそうに話した。
また、今田の座長ぶりは「すばらしい」。蘭子を演じてる自分からは想像つかないくらい身体的に厳しいと思うが、疲れをまったく見せず、楽しそうに現場に来るその雰囲気が現場のキャストスタッフに伝わることでポジティブな影響を与えてくれているとたたえた。
いつかヒロインを?
そんな今田に続いて、いつかヒロインを務めてみたいかと尋ねられると、「怖くなりました(笑)。こんなふうに1年間走り続けられるかなと」と謙遜しながら、「でも、大きな作品で座長を務める希望くれました」と語った。
最後に今後の蘭子の見どころを聞かれ、「第6・8週で描かれたように、蘭子は内に秘めた思いを曲げない、強い気持ちがある人。気持ちを言葉で常に出している人ではありませんが、それでも意外なほど人とぶつかり合うし、強い信念がある人だということを感じていただけたら」と締めくくった。