信越化学工業【4063】高値から下落続くも決算で株価反発 株主還元の積極化で底打ちなるか

信越化学工業【4063】高値から下落続くも決算で株価反発 株主還元の積極化で底打ちなるか
自社株買い5000億円で株価急反発
信越化学工業は株価が下落しています。2024年3月の上場来高値6926円までは強い上昇トレンドでした。しかし、以降は値を下げる展開となり、2025年4月のトランプ関税ショックでは3425円の安値をつけます。
一方で、足元は反発の兆しもみられます。増収増益だった2025年3月期の本決算が公表されると、翌営業日の株価は一時8.9%高となる4405円まで上昇しました。同時に公表された最大5000億円の自社株買い(自己株式除く発行済み株式数の最大10.2%)も好感された模様です。
その後もおおむね買いが優勢で、現在は4500円台で取引されています。5年騰落率はプラス87.9%と、日経平均株価(同プラス81.5%)とほぼ同水準です。
【信越化学工業の株価チャート(過去5年間)】
・株価:4567円(2025年5月21日終値)

出所:Tradingview
信越化学工業は「JPXプライム150指数」に採用されています。算出当初は資本収益性の高さで選出されていましたが、現在はPBR(株価純資産倍率)基準から選ばれています。純資産に対し株価が高い、つまり投資家の評価が高いことが選定理由です。
なぜ信越化学工業には投資家の支持が集まるのでしょうか。同社の事業内容と業績を解説します。
世界4位の化学メーカー、塩ビと半導体シリコンが柱 群を抜く利益率
信越化学工業は大手の化学メーカーです。1926年に肥料メーカーとして新潟県に誕生しました。世界有数の大企業であり、時価総額は化学メーカーで世界4位です(2024年10月末)。
収益の2大柱は塩化ビニルと半導体シリコン(シリコンウエハー)です。塩化ビニルはプラスチックの1つで、住宅の建材や水道パイプなど広範な製品に用いられます。半導体シリコンは高純度のケイ素のことで、メモリやロジック(CPUなど)といった半導体デバイスの基盤となります。信越化学工業のシェアは、いずれも世界1位です。
【信越化学工業のセグメント情報(2025年3月期)】

出所:信越化学工業 決算短信
信越化学工業の特徴の1つが利益率の高さです。近年の営業利益率は20%~30%台を維持しており、プライム上場企業の平均を大幅に上回っています。
【営業利益率の比較(2023年度)】
・東証プライム(製造業):7.6%
・東証プライム(化学):6.9%
・信越化学工業:29.0%
※信越化学工業は2024年3月期
出所:日本取引所グループ 決算短信集計結果、信越化学工業 決算短信
高い利益率のカギを握るのが塩化ビニルです。米国に塩化ビニル子会社シンテック社を持っており、その生産能力は世界最大です。
汎用品である塩化ビニルは、一般に採算が低い傾向にあります。しかし、シンテック社は大規模な生産基盤を持つほか、原料を近隣から調達できることから、利益率は高水準です。2024年3月期は経常利益率が44.7%に達しました(シンテック社単体は12月期決算)。
信越化学工業の事業はいずれも好採算です。2025年3月期は全セグメントで営業利益率が20%を超えています。同社は汎用品も含め収益性を追求し、全体でも高い利益率を実現しています。
生活基盤材が好調で23年3月期に最高益 今期1Qは増収減益の予想
次に業績を押さえましょう。信越化学工業の利益はおおむね拡大傾向です。コロナ以降に利益が顕著に拡大し、2023年3月期まで2期連続で過去最高益を更新しました。

出所:信越化学工業 決算短信より著者作成
増益をけん引したのは、塩化ビニルを含む生活環境基盤材料です。塩化ビニルは米国の堅調な住宅市場を背景に需要が拡大したほか、値上げも収益を押し上げました。生活環境基盤材料は2024年3月期から減益が続きますが、電子材料や機能材料が好調で、連結では2025年3月期に2期ぶりの増益で着地します。

出所:信越化学工業 財務ハイライトより著者作成
今期(2026年3月期)の見通しはどうでしょうか。信越化学工業は例年、本決算では翌1年間の見通しを公表しません。今期も同様で、通期の業績予想は未定としました。
ただし、第1四半期までは見通しが開示されています。前年同四半期比で増収減益の予想です。セグメント別では生活環境基盤材料事業が減益、電子材料事業も下振れと示されました。なお、塩化ビニルは4月以降で数量が伸びていること、5月に値上げしたこと、足元で原料価格が下落していることから、粗利益は改善を見込むとも説明しています。
【信越化学工業の業績予想(2026年3月期 第1四半期)】
・売上高:6100億円(+2.0%)
・営業利益:1660億円(-13.1%)
・純利益:1200億円(-16.7%)
※()は前年同四半期比
※2025年3月期時点における同社の予想
出所:信越化学工業 決算短信
株主還元を積極化 後押ししたのは「JPXプライム150指数」?
最後に株主還元について押さえましょう。
信越化学工業は株主還元を積極化しています。2024年には配当性向で35%としていた配当方針を同40%へ引き上げました。2025年1月の決算説明会では「手持ち現金はこれ以上増やさず」と言及し、冒頭の5000億円の自社株買いにつながります。
背景の1つとして考えられるのが、JPXプライム150指数です。信越化学工業は、2024年3月期の決算説明会で「JPXプライム150にエクイティ・スプレッド(※)基準で構成銘柄になっていることを強く意識」していると話しました。しかし現在、先述のとおり同社の採用理由はPBR基準となっています。
※エクイティ・スプレッド…ROE(自己資本利益率)-株主資本コスト
JPXプライム150指数は、まずエクイティ・スプレッド基準から上位75銘柄を選びます。そして、次にPBR基準で上位75銘柄を選定し、計150銘柄で構成します。
信越化学工業は、算出当初はエクイティ・スプレッド基準で選ばれていたものの、現在はPBR基準での採用です。つまり、エクイティ・スプレッド基準での選考には漏れたということになります。
実は、信越化学工業のROEは低下傾向です。最高益からの減益も理由ですが、利益の蓄積に伴う自己資本の増加が背景にあります。自己資本の増加は健全性に貢献しますが、ROEには低下要因です。2025年3月期は最終増益にもかかわらず、ROEは前期比0.8ポイント悪化の12.0%となりました。これは2023年3月期(同19.7%)を大きく下回る水準です。
この状況が、株主還元の積極化を後押ししたと考えられます。配当金や自社株買いは自己資本を減少させるためです。信越化学工業によると、今回の5000億円の自社株買いはROEを1.5ポイント上昇させます。
株主還元は現金の流出を伴いますが、信越化学工業のバランスシート上の現金は2025年3月末で1兆7000億円と潤沢です。そして、これ以上の積み増しを行わない方針です。余剰の現金のすべてが配当金や自社株買いに向かうわけではありませんが、当面は株主還元に期待できそうです。
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。