のぶ(今田美桜)が立ち尽くした終戦の朝…なぜ『あんぱん』は“33回”も戦争を描いたのか?【第60回レビュー】

『あんぱん』第60回より 写真提供:NHK

日本人の朝のはじまりに寄り添ってきた朝ドラこと連続テレビ小説。その歴史は1961年から64年間にも及びます。毎日、15分、泣いたり笑ったり憤ったり、ドラマの登場人物のエネルギーが朝ご飯のようになる。そんな朝ドラを毎週月から金曜までチェックし、当日の感想や情報をお届けします。朝ドラに関する著書を2冊上梓し、レビューを10年続けてきた著者による「見なくてもわかる、読んだらもっとドラマが見たくなる」そんな連載です。本日は、第60回(2025年6月20日放送)の「あんぱん」レビューです。(ライター 木俣 冬)

のぶ(今田美桜)に届いた

次郎(中島歩)からの知らせ

 長かった戦争が終わりを迎えた。

 久しぶりにのぶ(今田美桜)のエピソードが中心に描かれた。

「ハチキンがついちゅうき大丈夫や」と頼もしいセリフもあった。

 冒頭、次郎(中島歩)からはがきが来た。彼は日本に戻ってきたものの入院していた。急いで見舞いに行くのぶ。

 個室に入っている次郎。優雅な感じではある。海軍病院で手厚い看護を受けているようだ。

 のぶが持ってきたらしい花を手前にカメラが横移動して、のぶと次郎を映す。窓の外にも緑があり、息が詰まる戦時中に、少しだけホッとできる。

 写真の腕は上達したかと次郎に聞かれて、フィルムがもったいないので撮っていないと答えるのぶ。空のカメラで撮る練習だけはしていると、次郎に向けてシャッターを切った。

 無事に帰ってきたら次郎の写真を撮ると言っていたけれど、フィルムが入っていないのは残念なことだろう。でも病気でやつれた次郎の写真を撮るのも悲しい。そう思うと、やっぱり元気な次郎を撮っておくべきだったという後悔が生まれるのではないだろうか。ここから回復すればいいけれど、のぶはやがて嵩(北村匠海)と結婚することがわかっているので、胸が痛い。

 のぶは、次郎が言っていたことが正しく、日本は勝てないであろうと認めるが、次郎は戦争の話をしたくなさそうだ。自分の話は一切せず、次郎はのぶの話ばかり聞きたがる。

高知空襲の夜

ひとりで逃げるのぶが見たものとは…

 お見舞いのあと、実家に立ち寄るのぶ。

 次郎は肺病(肺浸潤)に罹っているのだと報告するが、結核とは違って治る可能性は十分あると蘭子(河合優実)。なぜか病気に詳しい。

「豪ちゃんも病気になってもんてくればたらよかったのにねえ」とくら(浅田美代子)。

 悪気がないのはわかっているけど、なかなかブラックな表現である。でも蘭子は感情を害している様子はない。「お姉ちゃんは幸せものながよ 次郎さん早く元気になるといいね」とのぶを思いやる。

 このとき、メイコ(原菜乃華)はすりこぎをくねくねと回していて、家事を全然していない現代っ子に見える。台所にきれいな青物がおかれているが小気味よく切ったり調理したりしないのが惜しい。

 その晩、のぶは泊まらず高知に戻ると、空襲警報が鳴り響き、街は火に包まれた。

 1945年7月4日、高知空襲である。

 たったひとりで毅然と逃げるのぶ。その途中、子どもの泣き声を聞いて、あたりを探すと、少年なおき(二ノ宮陸登)が逃げ遅れていた。怯えて動けないなおきを「たっすいがはいかん!」と叱咤するのぶ。

「ハチキンがついちゅうき大丈夫や」と一緒に逃げる。このときの今田美桜の表情と声の力は印象的だ。

 なおきにとってはのぶがヒーローに見えたことだろう。ここは燃える街のなかを少年の手を引いて全力疾走するのぶを見たかったが、そういうスケールは求めてはいけない。

 御免与町では、羽多子(江口のりこ)がいてもたってもいられないと水筒に水を入れ、高知にのぶを探しに行こうとする。蘭子もメイコも一緒に向かった。

 高知はすっかり灰色の焼け野原。倒れた人たちを見てメイコは絶望に泣き崩れる。

 そこに現れたのぶとなおき。

 みんなでなおきの母(土井玲奈)を探すと、母が現れ感動の再会。中国ではリンという少年が悲劇に遭っていたが、高知ではなおきという少年をのぶが助けた。

玉音放送を聞く

蘭子と八木(妻夫木聡)の細かな演技

 そして、8月15日、終戦。

 高知で、中国で玉音放送を聞く人たち。嵩(北村匠海)たちや朝田家は皆それぞれ何かをかみ締めているようだ。とくに「やっと終わったで豪ちゃん」と天を仰ぐ蘭子と、八木(妻夫木聡)がほんの少し目と顔を動かしたのが印象的だった。

 こうして、長い戦争は終わった。「正義は逆転する。じゃあ、決して引っくり返らない正義ってなんだろう。 おなかをすかせて困っている人がいたら、一切れのパンを届けてあげることだ」というテーマを描くために、戦争編に時間をかける必要があったと作り手は語ってきた。玉音放送が流れる時間も長かった気がする。

 そしてラストは、のぶが呆然と焼け野原を見つめる表情で終わる。のぶはこの灰色の光景に何を思ったのか。

 振り返ると、『あんぱん』では第47回が開戦、第60回で終戦を迎えた。戦争編は14回。ただ、第28回、日中戦争の発端となる盧溝橋事件から書いているので、そこから入れたら、33回と長い。

 最近の朝ドラではどうだったか比較してみよう。

『虎に翼』(2024年度前期)は第35回〜第41回で7回。戦時中は短く、第41回の終戦はわずか3分で終了したほどだ。その代わり戦後を長く描き、原爆裁判まで取り上げた。

『ブギウギ』(23年度後期)は第47回〜第67回と21回で、単純に開戦から終戦までとしたら『あんぱん』より長い。弟の死から洋楽を禁止され、唯一の戦時歌謡を歌うところまでたっぷり描いた。

『カムカムエヴリバディ』(21年度後期)は第10回〜第18回で9回。3代ヒロインによる日本の100年を描く企画だったため、戦争を体験した初代ヒロインのエピソードは全112回のうち3分の1(38回)に当たる。そのなかの9回と思うと長いほうかもしれない。

『あんぱん』と同じく、登場人物の戦場体験を描いた『エール』(20年度前期)は第76回〜第90回の15回だった。

 

フォトギャラリー

主なシーンより

第12週(6月16日〜20日)

「逆転しない正義」あらすじ

中国福建省に上陸した嵩(北村匠海)は宣撫班勤務を命じられ、健太郎(高橋文哉)と共に占領地の民心を安定させるための紙芝居を作ることに。2人が新作の紙芝居を作っては公演する日々を過ごす中、日本の敗戦は決定的となり…。そのころ朝田パンは、材料そのものがなくなり休業に追い込まれていた。そして、子どもたちも勤労奉仕となり、のぶ(今田美桜)は生徒たちと働き手がなくなった農家の手伝いをしながら教壇に立っていた。

連続テレビ小説『あんぱん』

作品情報

連続テレビ小説「あんぱん」。“アンパンマン”を生み出したやなせたかしと暢の夫婦をモデルに、生きる意味も失っていた苦悩の日々と、それでも夢を忘れなかった二人の人生。何者でもなかった二人があらゆる荒波を乗り越え、“逆転しない正義”を体現した『アンパンマン』にたどり着くまでを描き、生きる喜びが全身から湧いてくるような愛と勇気の物語です。

【作】中園ミホ

【音楽】井筒昭雄

【主題歌】RADWIMPS「賜物」

【語り】林田理沙アナウンサー

【出演】今田美桜 北村匠海 江口のりこ 河合優実 原菜乃華 高橋文哉 中島歩 奥野瑛太 神野三鈴 浅田美代子 吉田鋼太郎 妻夫木聡 ほか

【放送】2025年3月31日(月)から放送開始