ドラマ「めおと日和」が"推し活的熱狂"生んだ背景

「フレッシュなヒーロー」を視聴者が押し上げる構図, 「嫌われないヒロイン」のハードルを超えた芳根, 恋に障壁は不要?「推し」に優しい世界, タイパの逆を行く、ゆったり尺のOP曲, その他の画像はこちら

ヒット中のドラマ『波うららかに、めおと日和』。最初はぎこちなかった夫婦が、少しずつ距離を縮めていく様子が好評を博した(出所:フジテレビ公式YouTube)

春クールのドラマが少しずつ終わりを迎えるこの時期。今や大人気のドラマ『波うららかに、めおと日和』(フジテレビ系)は、今期のダークホースだったと言えるのではないだろうか。

【画像で見る】芳根京子が演じる、純情でけなげな主人公が素敵すぎる…

本作は昭和11年を舞台に、交際ゼロ日婚からはじまる夫婦の新婚生活を描いたドラマ。うぶな夫婦が少しずつ距離を縮めていく展開に、癒やされたり、胸ときめく視聴者が続出している。

興味深いのは、ドラマ人気がアイドルの「推し活」のような盛り上がりを見せていることだ。アクリルスタンドなどの公式グッズが一時品切れになったり、作中に登場した指輪の提供元ショップに注文が殺到したりと、なかなか珍しい状況になっている。

『めおと日和』の人気にこうも火が付いたのはなぜか。以下のような要素が考えられる。

・次世代キャスティングの成功
・「推し」に優しい世界の構築
・非・タイパの姿勢

「フレッシュなヒーロー」を視聴者が押し上げる構図

まずは特筆すべきはキャスティングの成功である。

純情でけなげな主人公・江端なつ美役を芳根京子が、硬派な帝国海軍中尉の夫・江端瀧昌役を本田響矢が演じている。

夫役の本田は「男子高生ミスターコン2016」でグランプリを受賞し、ドラマ『セトウツミ』(テレビ東京系、2017年)で俳優デビューした経歴を持つ。

ドラマ、俳優ファンには知られる存在だったが、ゴールデン・プライム帯作品の出演は今回が初だ。

「フレッシュなヒーロー」を視聴者が押し上げる構図, 「嫌われないヒロイン」のハードルを超えた芳根, 恋に障壁は不要?「推し」に優しい世界, タイパの逆を行く、ゆったり尺のOP曲, その他の画像はこちら

帝国海軍中尉・瀧昌を演じる本田響矢がブレイク中だ(出所:フジテレビ公式YouTube)

本田のようにフレッシュな若手俳優を視聴者が見守る構図は、ブレイク前夜のアイドルをファンが応援する構図とも近いものを感じる。

初めて本田を知り“瀧昌様”に心くすぐられたという視聴者は多く、一気にお茶の間知名度が広がったことで人気が急上昇した。

一方、そんな本田を抜群の安定感で受け止めるのが妻役の芳根だ。彼女はNHKの朝ドラ『べっぴんさん』(2016年)をはじめ主演経験が豊富で、本作も2クール連続のドラマ主演。

『めおと日和』が“瀧昌様人気”にとどまらず“夫婦人気”を得ることになったのは、芳根が演じる「ヒロインの好感度」にも理由がある。

「嫌われないヒロイン」のハードルを超えた芳根

主人公・なつ美は、恋愛経験がないまま嫁ぐことになり、徐々に瀧昌に惹かれていく。瀧昌の服の端をおずおずと引っ張ったり、りんごを食べる様子をリスにたとえられたりと、小動物的な愛らしい仕草が多い役どころだ。

生身の人間がやるとあざとく見えそうなそれらの所作だが、芳根はそうしたある種ファンタジックなピュアヒロインをすんなりと演じ切る。

コミカルな場面で見せる表情豊かな茶目っ気がそこに加わり、親しみやすさも十分だ。この演技のメリハリに芳根の手腕を感じる。

「フレッシュなヒーロー」を視聴者が押し上げる構図, 「嫌われないヒロイン」のハードルを超えた芳根, 恋に障壁は不要?「推し」に優しい世界, タイパの逆を行く、ゆったり尺のOP曲, その他の画像はこちら

2クール連続でドラマ主演を務める、芳根京子(出所:フジテレビ公式YouTube)

過去にはドラマ『表参道高校合唱部!』(TBS系、2015年)のように、部活の輪の中心にいる明るい主人公から、映画『累 -かさね-』(2018年)のように、容姿への激しい劣等感に苛まれて育った陰鬱な女性まで、幅広い役柄を演じてきた。

そんな芳根の技術を技術に見せない巧みな表現力が、なつ美という愛される主人公を成立させたのだ。

フレッシュなヒーローと嫌われないヒロイン。この夫婦の組み合わせがハマったことでキャラクター人気が加速し、推し活のような現象にまで発展したのではないだろうか。

恋に障壁は不要?「推し」に優しい世界

本作はそんな「夫婦=推し」が見たい視聴者層にとっておそらく、非常に親切で優しい世界になっている。

「フレッシュなヒーロー」を視聴者が押し上げる構図, 「嫌われないヒロイン」のハードルを超えた芳根, 恋に障壁は不要?「推し」に優しい世界, タイパの逆を行く、ゆったり尺のOP曲, その他の画像はこちら

昭和初期の新婚夫婦を描いたドラマ『波うららかに、めおと日和』。「昭和11年春 結婚は、恋のはじまり」というコピーも印象的だ(出所:フジテレビ公式サイト)

この物語の中心にあるのは「新婚夫婦の日常」だ。現代の恋愛ドラマであれば描かざるを得ない、学校や職場など、外の世界(社会、とも言えるかもしれないが)はあまり濃く描かれない。職場の同僚は登場するものの、イベントの舞台となるのはやはり家が中心で、視聴者は夫婦の暮らしや関係性に集中しやすいつくりになっている。

また夫婦の友人知人がみな好意的で、2人に対してネガティブに干渉することがないのも特徴だ。ほのぼのとした新婚生活を描く『めおと日和』では、恋の波乱や障壁がほぼ存在しない。

唯一、瀧昌にとって恋のライバルになりかけるのが、なつ美に想いを寄せる幼馴染の瀬田準太郎(小宮璃央)である。あるとき、夫婦の家を訪れた準太郎がなつ美とくだけたやり取りをしているところを見て、瀧昌が嫉妬するという展開があった。

「フレッシュなヒーロー」を視聴者が押し上げる構図, 「嫌われないヒロイン」のハードルを超えた芳根, 恋に障壁は不要?「推し」に優しい世界, タイパの逆を行く、ゆったり尺のOP曲, その他の画像はこちら

コミカルなシーンも見どころの一つに(出所:フジテレビ公式YouTube)

ところが、なつ美の瀧昌に対する一途な思いを察した準太郎は、本人に直接感情を伝えることなく自分の気持ちに折り合いをつける。

その後も、夫婦間で喧嘩が発生することはあるが、信頼関係が揺らぐほどのすれ違いには至らず、こちらも平和的に解決される。

恋愛を描きながらも対立や衝突が存在しない、夫婦2人の日常を濃く優しく描いた世界。それはつまり、視聴者にとっても心理的負荷が少なく「推し」にまっすぐ集中しやすい世界、ということなのかもしれない。

とはいえ、2人が生きる昭和11年は日中戦争を控えており、決して甘やかな気分だけではいられないのだが……。

タイパの逆を行く、ゆったり尺のOP曲

ちなみにドラマ公式サイトのイントロダクションには、こんな文言がある。

“昨今、コスパ・タイパ重視される現代社会。しかし本作は、そんな時代とは打って変わり、新婚夫婦の“大切なひととき”を緩やかに紡ぐ。

本作は「コスパ・タイパ」が浸透した時代のネクスト作品なのだ。そんなタイパ主義から距離を取る姿勢をわかりやすく表しているのが、ドラマ冒頭に流れるオープニング主題歌。BE:FIRSTの書き下ろし純愛ソング『夢中』が1分弱、毎週流れて、物語への入り口が丁寧に敷かれている。

本編前にアーティストのオープニング曲が流れるドラマは今では少なくなり、曲を流している間に視聴者が離れてしまうと言われるようになって久しい。そういった昨今の流れとはあえて逆を歩む姿勢が、のんびりした日常を描く本編も含めて“タイパ疲れ”した人々を受け止めたのかもしれない。

トレンドの「推し」需要を満たしつつ、現代の駆け足な消費サイクルに待ったをかけた癒やし系ドラマ『めおと日和』。この反響に、以降のドラマが影響を受けるのか、注目である。

【もっと読む】配信解禁で人気再燃の月9『やまとなでしこ』。「愛は、年収」な桜子の"肉食系な婚活像"が令和の若者にもめちゃくちゃ響く理由 では、平成の名作ドラマ『やまとなでしこ』が令和の若者に支持される背景について、エンタメコラムニストの白川穂先氏が詳細に解説している。

その他の画像はこちら

「フレッシュなヒーロー」を視聴者が押し上げる構図, 「嫌われないヒロイン」のハードルを超えた芳根, 恋に障壁は不要?「推し」に優しい世界, タイパの逆を行く、ゆったり尺のOP曲, その他の画像はこちら

山本舞香、小関裕太が演じる2人もいい雰囲気だ(出所:フジテレビ公式YouTube)

「フレッシュなヒーロー」を視聴者が押し上げる構図, 「嫌われないヒロイン」のハードルを超えた芳根, 恋に障壁は不要?「推し」に優しい世界, タイパの逆を行く、ゆったり尺のOP曲, その他の画像はこちら

生瀬勝久演じる活動弁士の語りから本編がはじまる構成(出所:フジテレビ公式YouTube)

「フレッシュなヒーロー」を視聴者が押し上げる構図, 「嫌われないヒロイン」のハードルを超えた芳根, 恋に障壁は不要?「推し」に優しい世界, タイパの逆を行く、ゆったり尺のOP曲, その他の画像はこちら

登場人物のMBTIが公開され、人気ぶりがうかがえる(出所:『波うららかに、めおと日和』番組公式X)