「この人とやったら不幸でもえい」――今田美桜の“のぶ”だから映える「ためらい」のリアリティ【あんぱん第74回レビュー】

『あんぱん』第74回より 写真提供:NHK

日本人の朝のはじまりに寄り添ってきた朝ドラこと連続テレビ小説。その歴史は1961年から64年間にも及びます。毎日、15分、泣いたり笑ったり憤ったり、ドラマの登場人物のエネルギーが朝ご飯のようになる。そんな朝ドラを毎週月から金曜までチェックし、当日の感想や情報をお届けします。朝ドラに関する著書を2冊上梓し、レビューを10年続けてきた著者による「見なくてもわかる、読んだらもっとドラマが見たくなる」そんな連載です。本日は、第74回(2025年7月10日放送)の「あんぱん」レビューです。(ライター 木俣 冬)

『あんぱん』の登場人物は

みんなぐずぐずしている

「ミス高知」はのぶ(今田美桜)みたい。メイコ(原菜乃華)も言う。見た目は似ていないが、「おっちょこちょいの向こう水」なところが似ている。のぶ自身、そう自覚している。

 向こう水で質屋の番頭にぶつけたバッグが壊れて、修繕するのぶ。そういえば、嵩が買ったあの赤いバッグ、どうしたでしょうね。

 東京へ取材に行くにあたり、のぶはカメラを持っていくことにした。

「次郎さんと一緒に行きたいなと思って」

 ことさら描写がなくても亡くなった次郎(中島歩)のことを気にしていないわけではないのだ。カメラをそんなに使っていないのも、次郎を思い出してしまうからかもしれない。でも取材していてカメラマンの仕事を見ていて、カメラを使って仕事がしたくなってきたのかも。そういうためらいを描くのも悪くない。

『あんぱん』の登場人物はみんなぐずぐずしている。メイコはメイコで、健太郎(高橋文哉)のことを思い切れずにいる。女として見られていないことを気に病んでいる。なにしろ、かわいいけれどオス犬の「のらくろ」扱いだから。

 健太郎に思いが通じて結婚して幸せになりたいとメイコは夢見るが、のぶは「幸せになるかどうかより この人とやったら不幸になってもえい。それが本当に好きやということやないろうか」と考えている。

 おっちょこちょいの向こう水で、どこか子どもっぽさが抜けないのぶが、そこのところだけは酸いも甘いも噛み分けたような妙に大人びた顔を見せる。ドキリ、これが寡婦の影というものか。

健太郎が鋭い指摘

嵩は「独楽のようだ」

 メイコは思い余って闇市へ健太郎に会いに行く。そこでのぶから聞いた「この人とやったら不幸になってもえい」という話をする。健太郎はそれでは嵩の恋は絶望的だとため息。そういえば、健太郎とのぶはふたりの仲を取り持とうとしていたことがあった。

 健太郎自身は、戦争から生き延びたからどうせなら幸せにならないと意味はないと思っている。メイコとしては、これはイケると思うが、健太郎は相変わらず鈍く、メイコが訪ねてきたのは「のど自慢」をラジオで聞きに来たのだろうと勘違いする。

 たぶん、のぶの家(若松家)にもラジオはあると思うが。

 のぶの東京行きが近づいてきた。岩清水(倉悠貴)は代議士・薪鉄子(戸田恵子)という「ガード下の女王」を取材したいと提案。この女性はガード下の浮浪児に毛布をかけてあげたりしている。そういうことができていない(やっているかもしれないが描かれていない)のぶは薪に興味を持つ。

 ガード下とは東京の有楽町の高架下。その界隈に詳しい嵩(第73回で学生時代は毎日行っていたと言っていたのが驚き)は、東海林(津田健次郎)に言われ次号の表紙に「東京のキラキラ美女」を描くことになった。そういえば、嵩が卒制で描いたあの絵、どうしたでしょうね。

 東京行きを前に、嵩と健太郎が居酒屋で飲みながら話す。健太郎は古道具屋を辞めるという。そう、嵩が就職したあと、彼はひとりでお店をやっていたのだ。いや、ひとりではない。コン太と一緒だ。社場代を請求されたりするし、いろいろ大変なのだろう。

 のぶといっしょに働けて、東京にいけるのだから、生きていてよかっただろうと言う健太郎。たぶん、彼はのぶと嵩をまだ応援しようとしている。ところが、嵩はのぶが近くにいればいるほど遠くに感じると言う。

 のぶは夫を亡くしたばかりなのに弱音を吐かずに必死で前に進もうとしている。そんな人を「俺みたいな人が好きになっちゃいけないんだよ」と自虐する嵩を健太郎は「独楽のようだ」と皮肉る。ぐるぐると同じところを回っている。ほんとうは自分が傷つきたくないからだろうという鋭い指摘。

 独楽とは「独りが楽しかと書いて独楽」とはそうかそういう意味か。名づけの面白さを感じた瞬間だった。

物語の主人公がもし「嵩」だったら

暢はどんな俳優だったのか?

 そこへさらに援護射撃してくる者が現れた。

 琴子(鳴海唯)だ。

「女ごころがちっともわかっちゃせん」と割って入ってくる。

「のぶちゃんの同期入社の小田です」

 大声を出して割り込んできたあと、一転して楚々と挨拶。さすが猫かぶり。背後で飲んで聞いていた琴子は酔った勢いか、のぶが、嵩の入社に一役買っていると明かす。嵩の漫画を見せて猛プッシュしたことを嵩ははじめて知る。

 琴子は見れば見るほど、ミス高知の漫画のキャラに似ている。嵩が主人公だったら、暢は琴子みたいな人だっただろうなあと思う。楚々として見えながら、芯はしっかりしていて、きついことをきつくなく聞かせながら、嵩を引っ張っていく感じ。水のように透明感があって、そばにいるとなんか潤う。鳴海唯はそんな感じを表現できる俳優だ。

 でものぶが主人公なので、『あんぱん』では今田美桜のような実績や印象の強い俳優が良かったのだろう。そして、完璧な妻キャラではなく、欠点がたくさんあって迷いに迷っている人物を演じることを期待されたのであろう。

 夫を亡くした悲しみ、夫の言うことに耳を貸さず子どもたちに間違ったことを教えてしまった後悔を抱えながら、でも、それを表に出してしまったら苦しくなるばかりなので、中に秘めて、何事もないように振る舞い続けている。嵩だけがのぶのそういうところをわかっている。

 今回の東京出張は、独楽のように独りが楽しいと言っている場合ではなく、嵩とのぶが近づいていくチャンス。

 それにしても、琴子のような魅力的な女性がいても、嵩も健太郎も彼女と恋愛の流れにはならず、のぶとメイコがいるというのが不思議だ。

 

フォトギャラリー

主なシーンより

第15週(7月7日〜11日)

「いざ!東京」あらすじ

のぶ(今田美桜)は高知新報の入社試験を受けに来た嵩(北村匠海)と久々の再会を果たす。そんな中、翌日の新聞に穴があき、夜遅くに編集局に連れて来られた嵩は言われるがまま挿絵で埋めることに。のぶが心配そうに見守るなか無事に描き上げた嵩は、一週間後、高知新報に採用される。一方、のぶは雑誌の『月刊くじら』創刊号の発刊に向け大忙しの日々。順調に記事が埋まっていくが、入稿日にまさかの事態が…。

連続テレビ小説『あんぱん』

作品情報

連続テレビ小説「あんぱん」。“アンパンマン”を生み出したやなせたかしと暢の夫婦をモデルに、生きる意味も失っていた苦悩の日々と、それでも夢を忘れなかった二人の人生。何者でもなかった二人があらゆる荒波を乗り越え、“逆転しない正義”を体現した『アンパンマン』にたどり着くまでを描き、生きる喜びが全身から湧いてくるような愛と勇気の物語です。

【作】中園ミホ

【音楽】井筒昭雄

【主題歌】RADWIMPS「賜物」

【語り】林田理沙アナウンサー

【出演】今田美桜 北村匠海 江口のりこ 河合優実 原菜乃華 高橋文哉 鳴海唯 倉悠貴 津田健次郎 浅田美代子 吉田鋼太郎 ほか

【放送】2025年3月31日(月)から放送開始