『あんぱん』妻夫木聡演じる八木が再登場「八木は嵩のことを考えすぎだけど、人類の希望として残したい人間だった」北村匠海を支える役に喜び
今田美桜さんがヒロインを務める連続テレビ小説『あんぱん』の第76回が7月14日に放送され、妻夫木聡さん演じる八木信之介が再登場しました。八木は、のぶと嵩の人生に大きな影響を与える人物だとされています。妻夫木さんが八木役への思いやあんぱんの魅力について語ったインタビュー記事を再配信します。(初公開日:2025年6月13日)
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今田美桜さんがヒロインを務める連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合/毎週月曜~土曜8時ほか)。子どもたちの人気者・アンパンマンを生み出したやなせたかしと、妻・暢の夫婦をモデルとした物語です。<朝田のぶ>を今田さん、<柳井嵩>を北村匠海さんが演じています。出征した嵩が、小倉連隊で出会ったのが妻夫木聡さん演じる上等兵の八木信之介です。大学卒ながら上等兵の試験を受けていない変わり者。軍の中でうまく振る舞えない嵩を気にかけ、陰ながら助けてくれる存在です。意外にも朝ドラ初出演となる妻夫木さん。戦後、嵩と再会し、嵩とのぶの人生に大きな影響を与える八木という役に込めた思いについて、妻夫木さんに聞きました。(取材・文:婦人公論.jp編集部)
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【写真】怖い人物かと思われた八木だが…
嵩の才能を認めている人物
『あんぱん』の台本を読んで、「希望の物語」だと感じていました。世の中を明るくできる、見た方に少しでも生きるということの大切さや人間である意味を伝えられる作品です。「なんのために生まれてきたのか」ということが繰り返し問われますが、その答えはないと思っています。
でも、僕たちはいろんな人の思いを受け継いできて、今生きている。そういう思いを全て、自分が生きているなかで発信していけば、受け取ってくれる人って誰かしらいると思う。そういう希望の話だと思えて、携われることが幸せです。
朝ドラに出演するのはずっと夢というか目標でしたので、オファーをいただいて率直にうれしかったですね。仕事で米・ロサンゼルスにいるときに、制作統括の倉崎憲さんが「考えているものがあるので」と言ってくださったのが最初でした。その後、アンパンマンを作ったやなせたかしさんと暢さんの物語で、最終的に、のぶと嵩に影響を与えるような役だと説明を受けました。
いざ台本が上がって読んでみると、八木は嵩を冷静に見つめている人物だと感じました。一見厳しくはありますが、誰よりも嵩の才能や人間性をしっかりと認めている。嵩を陰で支える姿勢にすごく共感できたので、この人物ならば最後までしっかりと一緒に戦っていけると思いました。
体を絞って臨んだ戦争パート
戦争パートに備えて、徐々に痩せようと考えて少しずつ食事を減らしていきました。撮影の1週間くらい前から体を絞り始めましたが、歳なのか思ったより落ちなかったです。

(『あんぱん』/(c)NHK)
以前なら、だいたい3,4日あれば余裕でやせたんですが、全然やせなくて。1日だけ一切食べない日を作ったのですが、そうすると思考ができなくなって、これはまずいなって思って、少し糖分を入れつつ減量しました。
節制していたのは2週間半くらいです。戦争パートの撮影が終わったら、とにかく食べることが楽しみで…。終わったら速攻でマックを食べました(笑)。
八木にとって嵩は、自分にはないものを持っている人物です。嵩はそこに気づいていないけれど、そこもまた嵩の良さじゃないでしょうか。
周りに迷惑をかけているようでどんどん輝いていくのが嵩です。彼を通して世の中が明るくなっていく。嵩は素晴らしい世の中を作ろうとしていますが、周囲の人たちも、嵩を支えることによって生きがいを見つける部分もあると思うから、人間って不思議ですよね。
八木は嵩に軍人勅諭を覚えるようアドバイスをしたり、幹部候補生試験を受ける口添えをしたり、折に触れて助け船を出してきました。八木は嵩のことを考えすぎて少し、ラブが入っているんじゃないかって思うようになりました(笑)。一見するとストーカーみたいなところもある。
ただ、それくらい、八木にとって嵩は人類の希望として残したい人間だったんじゃないですかね。 ピュアで汚れがないから放っておけなくなるし、大事にしたい。そういう感じだったのだと思っています。
「卑怯者になれ」の意味
八木は、嵩に「戦場では弱いものから死ぬ」と教えました。八木は、ニヒルな部分がありますが、自分が弱いと自覚しているからこそ、ニヒルでいないと自分が崩れてしまうのかもしれません。自分が救われるかもしれない何かを探しているところがある。僕もあまり強い人間じゃないのでわかる気がするんです。何かにすがりたくて、何か一つ善を積み上げたら、その分何かハッピーなものが生まれるかもしれないとは考えるところがあります。

(『あんぱん』/(c)NHK)
小倉連隊に中国への出動命令が下った後、今まで助けてくれたお礼ということで、嵩は八木の似顔絵を描くんです。八木は、嵩から見た自分の姿を見たことによって、戦争というものにのまれて、自分の中で失いそうになっていたものに気づけた。引き戻してくれた瞬間でもあるんでしょうね。嵩の絵が八木の清らかな部分を引き出してくれたと感じています。
似顔絵を受け取った八木は、嵩に「弱い者が戦場で生き残るには、卑怯者になることだ」と伝えました。めったに言わない本音が出たのだと思っています。生きるっていうことを本当に改めて感じた、感謝をするような瞬間だったんじゃないかな。ポンと出てしまった言葉だと思いますね。
「生きている」ということが全てだと思うんです。どういう姿でも無様でもいいから、生きていればいろんなことが報われる。戦争というもののやるせなさ人間の愚かさに八木自身はずっと向き合ってきた。
八木は偉くなろうと思えばなれたけれども、自分なりに戦争に向き合うなかで嵩に感化された。どこか「無」になっていた男が嵩に会って、「生きる」ということを改めて思い知らされた。嵩は八木にとって昔の自分の姿を鏡で見るようなそういう存在だった。だからこそ卑怯者でいいから生き残れと言った。嵩に向けているようで自分にも言っていた言葉だと思っています。
北村匠海の佇まいが大好き
匠海とは、映画『ブタがいた教室』(2008年公開)で共演しました。ぼくが教師役で匠海が小4くらいだったのかな。 当時も静かな子でした。子供たちは台本がなくて、自由に発言していたのですが、彼は無駄なことを発しないでぽんって言葉を言う。その感じは今も変わっていないし、言ってみればちょっと八木っぽい。少し無駄がないような感じでいて、ふつふつと心の奥底で燃えたぎるものは持っている。その熱さを見せない感じが本当に好きですね。

(『あんぱん』/(c)NHK)
10年くらい前に『ブタがいた教室』の同窓会がありました。当時の匠海は演技より音楽の比重が強いイメージで、これから音楽で食べていくのかなと思っていたら、どっちもちゃんと才能をキープしていて本当にすごいと思っています。その時匠海が、「いつか一緒に芝居ができたらうれしいです」と言ってくれたことを覚えています。
匠海は役を演じるのではなくて、ちゃんとそこに存在しようとしている。フラットで力が抜けていて、それが素晴らしいと思います。嵩を「どういう風に演じよう」ではなくて、そこにあろうとしている。そのスタンス、佇まいが大好きですね。
匠海の持つ静かな感じが嵩役に反映されている。彼の芝居を見ていて感動する部分もありますし、自然と引き込まれていきます。彼はこのままとんでもない俳優になっていくだろうと感じています。一緒に芝居をするときには匠海を支えるような役がいいと思っていたので、『あんぱん』で彼を支えることができて本当にうれしかったですね。
やなせ哲学が詰まったアンパンマン
いろんな漫画がある中でも、アンパンマンは5本の指に入るぐらいの国民的漫画だと思っています。僕の子供たちは今現在アンパンマンに夢中です。だから本当にお世話になっています。
アンパンマンはキャラクターが「ただいい人」「ただ困った人」っていうだけじゃない。ロールパンナちゃんがすごく好きなんです。正義の心と悪の心を併せ持ったキャラクターで、一番人間らしいと感じています。全くピュアな心しか持っていない人間なんて存在しない。どこか人には見せない部分というのはみんな持っていて、ロールパンナちゃんを見ていると自分を見ているような気分になる。
やなせさんは漫画を描きながら常に「人間とは何か」を自問自答していたのでしょう。やなせさんの哲学が詰まった物語の最高峰が『アンパンマン』だと感じています。
今年は戦後80年を迎えます。 ディベートは必要ですが、争いからは何も生まれないような気がしています。争いってぼくは本当に嫌いです。負の連鎖になっているように思えます。それでも世の中はだんだんと平和になってきているとは感じていますが、だからこそ見失っている部分もあると思います。
八木のセリフで「失って初めて気づくこともある」というものがあります。失わずとも気づけるようになれたらいいのにと思うんです。手を取り合って話せるような時代になってきていると思うから、ちょっとずつ、一歩ずつでもいいから前進できればいいなと思っています。