北陸新幹線延伸「反対・再考」72%! 「小浜・京都ルート」は京都府の民意を失ったのか? 参院選「推進派トップ」辛勝を考える
延伸計画に立ちはだかる民意の逆風
北陸新幹線大阪延伸の小浜・京都ルートが争点となった参院選京都選挙区で推進派トップが辛勝した。だが、石破茂首相の続投表明が延伸の行方に暗い影を落とし始めている。
【画像】北陸新幹線延伸! 候補となった「3ルート」を見る!
「最後のお願いです。みなさんの力で助けてください」。参院選選挙運動最終日の7月20日、京都市下京区の京都タワー前に街宣車がやってくる。声を張り上げるのは、自民党公認で京都選挙区に立候補した現職の西田昌司氏。自民党に逆風が吹くなか、沖縄戦に関する自身の失言も絡み、当落すれすれの厳しい戦いを余儀なくされていた。
西田氏は北陸新幹線与党整備委員会の委員長を務め、福井県敦賀市から小浜市を経て地下トンネルで京都府を縦断する
「小浜・京都ルートの推進役」
を担ってきた。だが、地下水への影響などを懸念する京都府内の反対運動は力を増し、選挙戦の大きな争点に浮上する。そのなかで他候補の集中砲火を一身に浴び、防戦一方になっていた。
「府民の懸念解消に向け、丁寧に説明する。合意なしに進めることなど絶対にない」
西田氏は塩小路通をはさんで向かいの京都駅烏丸口バス乗り場に集まった聴衆に向かって懸命に訴え、何度も頭を下げた。
途中経過が二転三転の大接戦

京都タワー前で新幹線延伸問題について説明する西田氏(画像:高田泰)
近くの下京区役所には期日前投票に向かう人たちを見かけた。掲示板で立候補者のポスターを眺め、投票所へ向かった自営業の男性は
「気になるのは新幹線。小浜・京都ルート以外を検討する候補者に投票する」
店員の女性は「新幹線延伸は嫌やけど、やはり西田さんが頼りになる」と話した。
翌日夜の開票は、敦賀市から滋賀県米原市に向かう米原ルート検討を訴える日本維新の会新人の新実彰平氏が約33万3000票を集めて早々と当確を決めたあと、西田氏と延伸自体に反対する共産党現職の倉林明子氏が最後の1議席を争う展開に。途中経過が発表されるたびに2、3位が入れ替わる接戦に支持者らは一喜一憂を繰り返した。
京都市中京区の西田事務所に吉報が届いたのは未明になってから。2019年の前回、約42万票を集めた西田氏が
「約19万票」(約55%減)
まで票を減らしたのに対し、倉林氏は約16万4000票。約2万6000票差という薄氷の勝利だった。だが、西田氏の当選で新幹線延伸が前に進むとは思えない。
72%の票が他ルート検討や延伸反対の候補に

下京区役所前の選挙ポスター掲示板(画像:高田泰)
改選議席2の京都選挙区に出馬した9候補のうち、小浜・京都ルート支持は西田氏と
・立憲民主党:山本和嘉子氏
・NHK党:木村嘉孝氏
3氏の得票合計は約32万8000票で、有効投票数に対する得票数の割合を示す得票率は27.69%にとどまる。
これに対し、小浜・京都ルートの現状を問題視し、米原ルートなど他ルート検討を打ち出したのは、
・日本維新の会:新実彰平氏
・参政党:谷口青人氏
・国民民主党:酒井常雄氏
・無所属:二之湯真士氏
得票合計は約63万1000票に上り、得票率53.34%に達した。延伸反対を掲げる
・日本共産党:倉林明子氏
・れいわ新選組:西郷南海子氏
が集めた約22万5000票は、得票率18.97%を占めている。
参院選の争点には物価高騰対策や消費税減税の是非、自民党の裏金問題などもあり、新幹線延伸だけで争ったわけではない。しかし、他ルート検討と延伸反対を合わせた約85万6000票は、得票率にして
「72.31%」
この数字を見る限り、小浜・京都ルート反対が京都府の「民意」と考えられる。
西田氏は安倍晋三元首相に近かった保守派で、経済通の積極財政論者として知られる。ベテラン国会議員が少ない京都府の保守政界に強い影響力を持ち、2016年の小浜・京都ルート決定や市町村長の擁立などに手腕を発揮してきた。
だが、小浜・京都ルートに対する京都府民の懸念解消は妙案がなく、攻めあぐねている状態。しかも、西田氏が大幅に票を減らすなか、トップ当選の新実氏は大量得票をバックに米原ルート検討を訴えている。小浜・京都ルート実現の突破口を開くのは、参院選前以上に難しくなっている。
過半数割れが招く延伸政策の漂流

北陸新幹線の駅設置候補となる京都駅(画像:高田泰)
小浜・京都ルート推進派が京都府民の懸念解消に向けて頭を痛めるなか、石破首相の続投表明は混迷に輪を掛けそうだ。参院選の自民党39議席、公明党8議席は記録的な惨敗。2024年の衆院選に続いて与党過半数割れを招いたのに、石破首相は記者会見で「国政に停滞を招いてはならない。比較第一党の責任を果たす」として退陣しない考えを示した。
ここまで議席を減らしながら、続投するのは極めて異例。どんな理由を並べても、国民の目には首相の椅子にしがみついて離れようとしないように見える。石破首相に「ノー」を突き付けた国民の怒りは頂点に達した。このままでは石破首相の存在自体が国民の反発を買い、新幹線延伸など国の施策の足を引っ張る状況になりかねない。
自民党内では、西田氏をはじめ、大阪府連の青山繁晴会長、山口県連の友田有幹事長らが公然と退陣を求めている。自民党の党則には、国会議員と都道府県連代表の過半数が求めれば、総裁選を実施できるとした規定があり、内部から引きずり降ろされる可能性もある。
苦境を打開できるとすれば連立の組み替えだが、野党の代表は参院選後のインタビューでそろって与党入りを拒む姿勢を見せた。立憲の野田佳彦代表は内閣不信任決議案の提出も「当然、視野に入ってくる」と述べている。
首相は新幹線どころでない状態

選挙戦最終日に京都駅前を街宣する西田氏(画像:高田泰)
石破首相は国会きっての鉄道ファンで、就任直後には新幹線延伸で名案を出してくれるのでないかという淡い期待があったが、もはや新幹線どころでない状態だ。
自民党のベテラン国会議員は
「このままでは何も決められない最悪の状態に陥る。党内基盤がぜい弱な首相に地方自治体間の利害調整が難しい新幹線延伸などとても手に負えないのでないか」
と厳しい見方を示した。