「30秒だけ時間をあげます」また言ってる!世良(木原勝利)が夫婦の朝に割って入る【あんぱん第89回】

『あんぱん』第89回より 写真提供:NHK
日本人の朝のはじまりに寄り添ってきた朝ドラこと連続テレビ小説。その歴史は1961年から64年間にも及びます。毎日、15分、泣いたり笑ったり憤ったり、ドラマの登場人物のエネルギーが朝ご飯のようになる。そんな朝ドラを毎週月曜から金曜までチェックし、当日の感想や情報をお届けします。朝ドラに関する著書を2冊上梓し、レビューを10年続けてきた著者による「見なくてもわかる、読んだらもっとドラマが見たくなる」そんな連載です。本日は、第89回(2025年7月31日放送)の「あんぱん」レビューです。(ライター 木俣 冬)
引っ越し前の
見送りシーンが必要な理由
昭和23年(1948年)1月、のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)が中目黒の新居に引っ越す。クレジットが若松のぶから柳井のぶに変わっていた。
旅立ちの日、近所の人に見送られるふたり。マサ子(小野寺ずる)やケイ子(行平あい佳)など知った顔は出てこない(もう田舎に行ってしまったのかも)が、八木(妻夫木聡)がアキラ(番家玖太)を連れてくる。
本当はさみしいのに強がりを言うアキラに、嵩は「心に思っていることを伝えないのは思っていないことと同じこと。なんだって」と教える。これは蘭子(河合優実)が言っていたことだ。こうして、アキラはのぶへの感謝と惜別の気持ちを言葉にした。
見送りシーンは一見要らないようにも思える。いきなり新居でもいいような。だがそんなことはない。必要なシーンだ。
これまで嵩は大人たちから「何のために生きるか」とか「絶望の隣は希望」とか大事な言葉を伝えられてきた。ここでは嵩が自分が聞いた大切なことを子どもに伝える番が回ってきたことを表している(この言葉を嵩に伝えた蘭子は嵩より年下ではあるが)。いきなり新居からはじまらない意味はそこにあるだろう。
「心に」と言うとき、指でアキラの心臓を軽く指差す北村匠海の動作が印象に残った。
新居でふたりきり……と思ったら
「30秒だけ時間をあげます」
さあ、新居。ドラマ開始4カ月にしてようやく夫婦の物語がはじまる。これは朝ドラにしては遅いほうだ。独身ものでない限り、たいていこの頃はすでに結婚して子どもができて、母子の問題がテーマになってくる。
ふたりは荷物をほどく。「屋根があるだけありがたいき」「居心地の良さそうな家や」とのぶは前向き。部屋が落ち着いたときには外で雨が降り出していた。
ふたりきりになると間がもたない。なにかもじもじ。嵩が共同トイレに行っている間に、のぶは次郎(中島歩)の写真を飾る。飾っていいと嵩から言われて納得ずくながら、なんだか微妙な気持ちになりそう。
トイレから帰ってきた嵩はずぶ濡れになっていた。天井に穴が開いていたのだ。これは嵩のモデルであるやなせたかしの実話。史実では長屋ではなく焼け残りのアパートの2階。
「屋根があるだけありがたいき」と言っていたのぶは「晴れちゅう日には青空が見えて気持ちよさそうやね」と呑気に笑う。嵩としては、どんなときでも前向きに笑ってくれる君が好き、という感じであろう。
ずぶ濡れやとタオルで嵩の頭を拭くのぶ。接近した嵩にちょっとドキリ。そこへ、どんどんと玄関を叩く音が。
雨の中、訪ねてきたのは世良(木原勝利)だった。薪鉄子(戸田恵子)からの結婚祝い?の布団を届けに来たのだ。用事はそれだけではない。新年早々、鉄子が地方回りに行くので事務所の留守番を頼むと言う。
「30秒だけ時間をあげます」とおもむろにカウントしはじめる世良。2回続いた「30秒だけ時間をあげます」ですっかりキャラが定着した感がある。お笑いに「天丼」という手法がある。同じことを2回以上繰り返すことで笑いを呼ぶことだ。1回では忘れられてしまうが2度3度繰り返せば、印象に残る。
例えば、「あるよ」の一言で一躍人気者になった『HERO』(フジテレビ)の田中要次のように、連続ドラマでは、ほんの少しの出番を何度も繰り返すことで注目されることがある。こういうキャラクターが出てくるとドラマは活気づく。
三星百貨店宣伝部の出川部長(元純烈の小田井涼平)が「柳井くんはやっぱり仕事が早いねえ 独り言」と大きな声で言うのも彼のキャラ立ちに一役買っていた。
「ただいま」と言うと
「おかえり」と迎えてくれる喜び
数日、のぶは事務所に泊まり込みになった。新居でふたりきりで過ごすことがなかなかできないのぶと嵩。
ある日、嵩が帰宅するとのぶが戻ってきていた。「ただいま」と言うと「おかえり」と迎えてくれることが嬉しくて、もう一度「おかえり」と言ってほしいとせがむ。
住居のそばで猫の声が聞こえてくるのは朝ドラあるあるだが、やけに音量が大きかった。近所の子どもが遊んでいるのも朝ドラあるある。猫の声と遊ぶ子ども、これは平穏な日々の象徴のようだ。
嵩は幼い頃に母親と別れているから、どんなに叔父叔母がいい人でも家族の愛情に飢えているのだろう。ようやく自分の落ち着ける家庭と家族ができたことが、どんなにか嬉しいことだろう。だが、のぶとふたりきりの生活はなかなか訪れない。今度は、朝田家全員がやって来る。
物置のような狭くオンボロな住居に、くら(浅田美代子)、羽多子(江口のりこ)、蘭子、メイコ(原菜乃華)が占拠したため、嵩は八木のところに厄介になる。困ったときの八木頼み。
八木から手嶌治虫は医学生だと聞いた嵩は、医学を学びながらあんなにおもしろいマンガを描いていることに猛烈な焦りを覚える。八木には「じゃあどうして就職なんてしたんだ」とツッコまれるが、嵩としてはのぶとの生活もちゃんとしたいのだ。
「まずは愛する人を喜ばせたいです」と嵩は毅然と言い、八木には家族がいるのかと問えば、「いたよ」と気になる発言。嵩はそれ以上は聞かなかった。
ある日、羽多子に呼ばれ、嵩とのぶが一緒に帰宅すると、朝田家がサプライズの結婚祝いをしてくれる。美村屋のあんぱんを買ってきたメイコ。嬉しいとき、あんぱんを食べる。朝田家の習慣の復活だ。
ただ、このあんぱんは朝田家のシンプルなものとは違って桜の塩漬けが載ったもの。一層お祝い感が出た。
羽多子が三星百貨店に嵩に会いに行った際、美村屋に立ち寄って買ったものであろうか。メイコも銀座に行ってきたのだろうか。おめでとうと祝うときの蘭子が、飾りを作った材料を手にぎゅっと握っていて。それが彼女の胸いっぱいの愛情に感じた。
フォトギャラリー
主なシーンより
第18週(7月28日〜8月1日)
「ふたりしてあるく 今がしあわせ」あらすじ
のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)が気持ちを確かめ合ってから3カ月後、のぶが鉄子(戸田恵子)の選挙運動で高知にやって来る。鉄子は再選を果たし、しばらくたったある日。嵩が新聞社を辞めて上京する。嵩から手紙で状況を聞いていた登美子(松嶋菜々子)は、就職してのぶを安心させるのが男の務めだと言い、嵩に三星百貨店の採用試験を受けるよう勧める。
連続テレビ小説『あんぱん』
作品情報
連続テレビ小説「あんぱん」。“アンパンマン”を生み出したやなせたかしと暢の夫婦をモデルに、生きる意味も失っていた苦悩の日々と、それでも夢を忘れなかった二人の人生。何者でもなかった二人があらゆる荒波を乗り越え、“逆転しない正義”を体現した『アンパンマン』にたどり着くまでを描き、生きる喜びが全身から湧いてくるような愛と勇気の物語です。
【作】中園ミホ
【音楽】井筒昭雄
【主題歌】RADWIMPS「賜物」
【語り】林田理沙アナウンサー
【出演】今田美桜 北村匠海 江口のりこ 河合優実 原菜乃華 鳴海唯 倉悠貴 木原勝利 津田健次郎 戸田菜穂 浅田美代子 戸田恵子 妻夫木聡 松嶋菜々子
ほか
【放送】2025年3月31日(月)から放送開始