「年間2億円の赤字」でも廃止できない…都営バス・営業係数ワーストランキング&ピックアップ路線
前編『品川駅発「たった25分の路線」が都営バスの稼ぎ頭に! 数字が明かす驚異の“高収益体質”』より続く。
「営業係数」から読み解く赤字路線を取り巻く環境
2025年10月、東京都交通局は交通事業の決算速報を公表した。バス・地下鉄・新交通の3会計は合計で年間342万人を運び、運賃収入などの売上は2002億1100万円(前年比4.9%増)、経常損益は238億2250万円(前年度比42億400万円増)と好調を保っている。

都営バスのキャラクター「みんくる」
3事業の一角である都営バスも、1日平均で2.7万人(前年比4.2%増)の利用者を運び、前年より15.6億円プラスの377億7300万円の利益を挙げ、コロナ禍前の水準に近づきつつある。しかし、125路線のうち黒字は47路線のみ、7割近くに当たる78路線は、きっちりと赤字を計上している状態だ。
しかも、78路線が計上する約24億円の赤字を、前編記事の上位10路線の黒字が支えている。一部の高収益路線によって赤字路線の損失を埋めており、収益構造のピラミッドとしては、結構いびつな状況だ。

都営バス・営業係数ワースト10(東京都交通局資料より、筆者作成)
ただ、赤字路線を見る限り、やすやすとバス路線を廃止にできそうにはない。路線の収益力を示す「営業係数」(100円の営業収入を得るためにかかった営業費用を示す指標)をもとに、都営バスの赤字路線を取り囲む環境を分析してみよう。
【ワースト1位・里48】混雑日本一「日暮里・舎人ライナー」と並行 なぜ廃止できない?
「里48」系統(日暮里駅前~見沼代親水公園駅前)は、片側2~3車線の「尾久橋通り」を南北に走り、足立区をまっすぐ南北に結ぶ。通りの頭上には高架があり、2008年開業の「日暮里・舎人ライナー」が、バスが40分かかって走破するところを、20分少々でスッと走り抜けてしまう。
バス・鉄道のルートはほぼぴったり同じであり、鉄道は最高で3分に1本、バスは1日10本程度で朝・晩のみ。バス(里48)は営業係数259(100円を稼ぐのに259円かかっている状態)マイナスで年間1.1億円と安定して赤字を吐き出しており、一見して「何でバスが必要なの?」と、言いたくなるような有様だ。

「里48」が走る「尾久橋通り」
なぜ「里48」が廃止されないのか?理由は「日暮里・舎人ライナーのバックアップ」。遅延や運休などで鉄道が止まった際に、バスをすぐに代替で出せるように残されているのだ。
鉄道は全線で高架上を走るのに、何で運休するの?と思いがちだが、近年でも2021年10月の地震による脱線、2023年4月の架線トラブル、2024年2月の積雪などそれなりの頻度で運行が止まり、「里48」の大幅増便でカバーされている。「日暮里・舎人ライナー」はゴムタイヤで走る「新交通システム」であるがゆえに地下鉄ほど安定して運行できないため。赤字と言えども「里48」を残さざるを得ないのだ。

日暮里・舎人ライナー、里48系統沿いでのバス運行実証実験(東京都交通局資料より)
そして近年、「里48」はもうひとつの役割「日暮里・舎人ライナーの渋滞緩和」という役割を任されるようになった・・・かつては全線40分どころか1時間、2時間近くかかる渋滞に巻き込まれていた「里48」の代わりに鉄道が建設されたのに、なぜ?と思うだろう。
いま日暮里・舎人ライナーは「混雑率日本一(177%)」という朝晩の激しいラッシュに悩まされており、1編成の定員が約250人の車両を3分に1本運行したところで、あまりにも多すぎる通勤・通学の人波に対応できていない。

日暮里・舎人ライナー
この地獄のようなラッシュを避けて通勤したい人々も、一定数はいる。そこで東京都交通局と足立区は、2025年12月から「里48」沿線の江北駅前~日暮里駅前で、日暮里・舎人ライナーの定期券利用者を対象に別途でバスを走らせ、混雑を分散させる(民間のバスを借り上げて運行)という社会実験が12月から行われるという。
日暮里・舎人ライナーが建設される以前、「里48」はピストン運行のように頻繁に運行されていたものの、渋滞で30分・1時間単位で遅れが発生することもしばしばだったという。建設当時はまわりに田園風景も残っており、日暮里・舎人ライナーにここまで乗客が集中するとは誰も思っていなかったのだ。
こうして「里48」は、年間1.1億円の赤字を垂れ流しながらも、バス路線として必要とされ、生き残っている。
【ピックアップ】ほぼ赤字路線!なぜ「はとバス」に委託されている?
〈ワースト4位〉田99(品川駅港南口~田町駅東口)営業係数187 年間赤字1400万円
〈ワースト6位〉宿75(新宿駅西口~三宅坂)営業係数178 年間赤字5350万円
〈ワースト7位〉反94 五反田駅~赤羽橋駅前 営業係数172 年間赤字1280万円
〈ワースト9位〉都03(晴海五丁目ターミナル~四谷駅)営業係数162 年間赤字5180万円
これらの路線の共通点は「民間委託路線」であること。委託を受けている「はとバス」は東京都・東京メトロが株主であり「実質的な身内」ではあるが、経営効率化を図る目的で都営バスのうち5拠点・41路線を、年間40億円程度で委託している。
これらの路線は多くが港南支所(港区)、新宿支所などの管轄であり、かなりの赤字続きだ。かといって、港南支所の路線は住宅街や埋立地を丹念にカバーする路線であり、民間の参入もあまり見込めず廃止・減便もできない路線が多い。一方で「はとバス」は、待遇が東京都の水準に免じる都営バス本体よりも抑えられがちで、委託料を払ってもコストは安くつく。こういった事情で、「はとバス」委託路線は年々増加傾向にあるのだ。

品川近辺を走る都営バス。「品97」もランキングにないものの、「はとバス」委託されている
ただし直近では、赤字とは別の問題として「はとバスの運転手不足」問題が発生している。
2025年10月1日のダイヤ改正では、一挙に19路線・206便が「委託先(はとバス)の運転手不足」といった理由で、一挙に206便もの減便が実施された。なかには土・日の運行が消滅したような路線もあり、人手不足の都営バス減便としては、異例の”一挙大減便”だ。
さらに都営バス本体も、いま在籍している約2000人の運転手のうち、6割以上が50代以上だという。こういった「バスの運転手高齢化問題」は全国でも事情が変わらず、に限らず、あと数年で全国的に退職ラッシュ・減便ラッシュが起きるはず。各地の公営バスは横浜市が「給料大幅アップで募集」京都市が「再直営化」などの策を取っているが、このままだと都営バスも委託路線の再直営化や、待遇の大幅アップによる運転手の引き留めなども、今から積極的におこなわなければいけないだろう。
【ピックアップ】都営バス最長・約28km!「青梅行き・ロングランバス」赤字でも消滅しないワケ
営業係数でワースト5位に入る「梅70」系統(青梅車庫前~花小金井駅北口)は、花小金井駅(小平市)を起点に小平市・東大和市・武蔵村山市・瑞穂町・青梅市と4市1町を東西に貫く。1949年の開業時には青梅町(当時)が「都営バス乗り入れ記念の花火大会」(現在も「青梅市納涼花火大会」として継続)するほどの大歓迎を受けた超ロングラン・路線バスではあるが、長らく赤字に悩まされており、2024年度は年間赤字額が「2億630万円」(全路線で最多)、営業係数181(ワースト5)といった状態だ。

「梅70系統」バス
ただ、この路線は1980年の路線再編の際に、赤字額の2/3を沿線自治体が補助する協定を結んでおり、かつて阿佐ヶ谷駅まで乗り入れていた路線は田無本町止まり・柳沢駅止まりと徐々に短縮されたうえで、現在では西武新宿線・花小金井駅がバス路線の始発となって存続している。億単位の赤字を抱えていても、JR中央線北部の東西移動を担うバス路線として、今後とも細々と走り続けるだろう…
ということもない。1999年には武蔵村山市が補助金の在り方に難色を示し、2015年度に西東京市が協定を離脱(この際に、西武新宿線・柳沢駅~花小金井駅間が区間廃止)。ほかの自治体も気持ちよく補助金を出している状態ではなく、長らく「存続崖っぷち状態」が続いている。
ただ、終点である青梅市は「梅74(裏宿町~(成木循環)~裏宿町)」「梅76(裏宿町~上成木)などの路線を抱えており、市としては梅70を廃止させるわけにもいかない。
そんな状況の中、梅70に近いルートでの「多摩都市モノレール」延伸が、2030年代半ばの開業を目標として検討されている。そうなると、武蔵村山市が今度こそ「梅70」存続の協定から離脱することも考えられる。「梅70」は「存続崖っぷち」から存続できるか、廃止となるか。今後の自治体協議に要・注目だ。

多摩都市モノレールの車両
こうして振り返ると、都営バスの赤字路線は「廃止したくでもできない」事情を持つ路線も多い。あまり賑わうこともなく静かな「乗りバス旅」を楽しむには良い路線も多く、是非とも「赤字路線バス乗りつぶしの旅」を敢行して、それぞれの地域の事情を読み説くのもよいかもしれない。
最後に、都営バス路線の赤字額ワーストランキングをご覧いただこう。

都営バスの赤字額ランキング。当巨都交通局資料より、筆者編集