映画「栄光のバックホーム」が予想外ヒットの背景

公開4週目終了時点で興収10億円を突破, 主演俳優は横田さんからグローブを譲り受ける, 関西人気が凄まじい, 「小さくても本物の正面突破がある」

映画『栄光のバックホーム』は全国公開中(写真:配給提供) ©2025「栄光のバックホーム」製作委員会

2023年7月に28歳の若さでこの世を去った元阪神タイガース・横田慎太郎さんの不屈の生きざまを描きだした映画『栄光のバックホーム』が周囲の予想をくつがえす大ヒットを記録している。

【写真を見る】主演の新人俳優・松谷鷹也。初日舞台挨拶では涙ながらに思いを語った

11月29日に全国294館で初日を迎えた同作は、初日から3日間で動員16万人、興収2億2600万円を記録し、国内動員ランキングで初登場2位を記録。

SNSでは「泣いた」「ハンカチでは足りない、タオルが必要」といった感想が多数投稿され、さらには北川景子、秋元康、LiLiCo、長友佑都、西野亮廣(キングコング)、伊達みきお(サンドウィッチマン)ら、多くの著名人がSNSやメディアなどを通して本作を鑑賞したことを報告。本作への熱い思いをせつせつと語っている。

公開4週目終了時点で興収10億円を突破

2週目は全国298館で上映され、週あたりの興収は3億2000万円(前週比78.9%)。3周目は306館で上映され、週あたりの興収は興収2億5000万円(前週比78.1%)を記録するなど、12月に入っても落ちの少ない興行を展開している。

さらに公開から4週目終了時点で累計動員80万3821人、興行収入10億9506万6230円となるなど、日本映画での大ヒットの目安となる興収10億円をいよいよ突破した。この週末も、前週比100%超えを記録する劇場も多数見られるなど、引き続き好調をキープしている。

ランキングも正月の注目作として首位を走り続ける『ズートピア2』(初週はMrs. GREEN APPLEのドキュメンタリー作品が首位だった)に続いて、3週連続で2位を記録している。

4週目は『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』『新解釈・幕末伝』『楓』といった正月の強力作が一気に公開されたこともあり、ランキングでは6位に下がったが、ロングラン型の展開を見せているということもあり、これから正月に向けて息の長い興行が期待できそうだ。

公開4週目終了時点で興収10億円を突破, 主演俳優は横田さんからグローブを譲り受ける, 関西人気が凄まじい, 「小さくても本物の正面突破がある」

11月28日にTOHOシネマズ新宿で行われた初日舞台あいさつに立ち、涙ながらに語る松谷鷹也。ここだけではなく、各地の舞台あいさつでは感極まって涙する松谷の姿が多く見られた(写真:配給提供) ©2025「栄光のバックホーム」製作委員会

この映画がユニークなところは、映画界では無名の新人の主演映画ながら興収10億円を突破したということだろう。

もちろん松谷とともにダブル主演を務める鈴木京香の世間の知名度は非常に大きく、さらに高橋克典、前田拳太郎、伊原六花、山崎紘奈、草川拓弥ら著名なキャスト陣が脇を固めているということも、作品の知名度を高めることに大いなる貢献を果たしたとも言えるが、本作のヒットという点においてはそこから先の展開の部分が大きかったようにも思われる。

まさにスター俳優を起用して大々的なプロモーションを展開するという、近年の日本映画の定石からは外れたところでこれまでの熱狂を生み出している、という部分が特筆される。

主演俳優は横田さんからグローブを譲り受ける

本作のヒットにおいて、まず語るべきは元高校球児である主演・松谷鷹也の存在だ。俳優として活動するかたわら、本作のメガホンをとった秋山純監督の制作現場で制作・助監督なども務めていた松谷は、横田さんとの共通点が多いこともあって「この映画は松谷鷹也なしには成立しない」との理由で、本作の主演に抜擢された。

松谷は本作の企画立ち上げ当初から取材を通して横田慎太郎さんと交流を深め、横田さんから愛用のグローブを、松谷は初めて映画で着たシャツを贈り合う仲になった。

2013年のドラフト会議で阪神タイガースに2位指名され、阪神入りを果たした横田さんは、プロとして将来を期待されながらも、17年の春季キャンプ中に脳腫瘍という病魔に襲われ、翌年から育成選手となる。それでも最期まで夢をあきらめることなく病と戦い続ける姿は大きな感動を呼んだ。

そんな中で、19年の引退試合で見せた“奇跡のバックホーム”は今でも語り草となっている。さらに横田さんが旅立った23年には阪神が優勝。横田さんが着用していた背番号24のユニフォームが胴上げの輪に加わったことも多くのファンの涙を誘った。

そんな横田さんを演じるにあたり、映画の役作りのために、そして“奇跡のバックホーム”を完全再現するために、横田さんから譲り受けた大切なグローブと共に福山ローズファイターズの練習生として懸命に野球練習に励んだ。

プロデューサー陣や関係者からは「彼の中に横田さんの魂が宿っていた」と評されるなど、そのひたむきな演技が観客の心をつかんでいる。

公開4週目終了時点で興収10億円を突破, 主演俳優は横田さんからグローブを譲り受ける, 関西人気が凄まじい, 「小さくても本物の正面突破がある」

横田さんの地元となる鹿児島の劇場でも舞台あいさつを実施(写真:配給提供) ©2025「栄光のバックホーム」製作委員会

そんな松谷の熱量は、映画が公開してからも冷めることはなかった。松谷と秋山監督は初日を迎えた後も、大阪、鹿児島、広島、福岡、熊本、兵庫、愛知など、12月21日時点で全国25以上の劇場をまわり、舞台挨拶を精力的にこなし、一人ひとりの観客に横田さんへの思いを、時には涙を流しながら伝えてきた。

関西人気が凄まじい

興行成績を分析すると、阪神タイガースのお膝元である関西(大阪、兵庫)のシェアが通常よりも2倍くらいという高い数値をたたき出していることが大きい。

関西では、甲子園での始球式が行われたのをはじめ、掛布雅之、川藤幸三ら阪神のレジェンドOBたちが本作のトークショーに参加するなど、阪神ファンへの知名度を高めた。

さらには横田さんの故郷である鹿児島県のシェアも高い数値を記録している。そうした下支えがあった上で、“泣ける”という口コミが全国に広がり、阪神ファンから野球ファンに、そして野球ファンを超えて、家族の物語として楽しむ層など、幅広い層へと波及。

SNSなどによると、全国各地の劇場ではハンカチを手にすすり泣く人の姿が多く見られ、さらには上映後、自然と拍手がわき起こったという目撃談も多数報告されている。

公開4週目終了時点で興収10億円を突破, 主演俳優は横田さんからグローブを譲り受ける, 関西人気が凄まじい, 「小さくても本物の正面突破がある」

阪神タイガースのお膝元である関西(大阪、兵庫)のシェアが通常の2倍くらいという高い数値をたたき出すなど、地元ファンに愛されているのが特徴(写真:配給提供) ©2025「栄光のバックホーム」製作委員会

公開4週目終了時点で興収10億円を突破, 主演俳優は横田さんからグローブを譲り受ける, 関西人気が凄まじい, 「小さくても本物の正面突破がある」

本作のワールドプレミア上映となった東京国際映画祭に参加した見城徹氏(写真:配給提供) ©2025「栄光のバックホーム」製作委員会

「小さくても本物の正面突破がある」

このプロジェクトを立ち上げたのは、本作の製作総指揮を務める幻冬舎の見城徹氏だ。見城氏といえば、五木寛之の『大河の一滴』や石原慎太郎の『弟』、唐沢寿明の『ふたり』などをはじめ、数々のベストセラーを世に送り出したヒットメーカーだが、本作を制作するために「幻冬舎フィルム」を立ち上げ、本作が第1弾作品となった。

見城氏は本作を制作するにあたって「善良 、正直 、真心 、誠実 、感謝 、そして謙虚であることこそが王道だ。圧倒的努力で正面突破した者こそが 、真っ当だと思って生きてきた」という確信とともに、「横田慎太郎の人生と、それを支えた人たちには、小さくても本物の正面突破がある。それをフィルムに焼き付けたかった」とその思いを語っている。

そして「この映画を、懸命に今を生きる全ての横田慎太郎に捧げたい」というメッセージとともに、現代を生きるわれわれにその魂を訴えかけている。