父をコレラで亡くし…悲痛な体験談にベテラン看護婦が放った「ハラスメント発言」〈風、薫る第28回〉

『風、薫る』第28回より 写真提供:NHK
今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、毎日レビューを続けて12年目の著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は、第28回(2026年5月6日放送)の「風、薫る」レビューです。(ライター 木俣 冬)
日本髪に戻った多江
看護学校編、せっかく個性的な5人の生徒がいるのだから、そろそろひとりずつのエピソードが見たい。津軽出身、最年少の工藤トメ(原嶋凛)に関してはリンゴや東京見物をワンエピソードと数えていいかもしれない。
第28回はそのトメが街で見かけた玉田多江(生田絵梨花)のターン。
第27回のおわり、休日を楽しんだりん(見上愛)たちが宿舎に戻ると、多江の髪形がもとの日本髪に戻っていた。トメが街で見かけたのは錯覚ではなかったのだ。
28回は多江の回想からはじまる。
「診察室」と書かれた表札が映る。なかではお医者さんが何かを書いている。そこは多江の実家の診療所であった。
カルテを書いている医者は多江の父・玉田仙太郎(吉岡睦雄)。
どうやら多江が洋髪から日本髪に戻したのは、実家に洋髪では行きたくない理由があるようだ。
多江には縁談が来ていた。でもそれは多江にとっては、うれしいものではなさそう。
代々、医者をやっている実家を自慢にしていた多江だが、実際の家は、手放しで彼女にとっていい家ではないように見える。
父は、多江が看護を学ぶのは、花嫁修業の一環としか考えていない。
この回は「父」、そして「家族」がキーポイント。
休み明け。多江はまた洋髪に戻っている。休み、実家に帰るごとに日本髪にしていたら大変そう。
この日は本格的な看護実習をしている。今日はそれぞれが患者と看護婦役に分かれ、看護の仕方を学ぶ。直美(上坂樹里)が手を組んでむしろの上に仰向けに寝ている。看護婦役は手拭いでマスク。
りんは看護婦側で、患者を看護しながら、父・信右衛門(北村一輝)のことを思い出し、作業の手をとめてしまう。
バーンズ先生、いまならモラハラ教師?
不必要に患者に近づくりんをバーンズ先生(エマ・ハワード)がじっと「観察」していて、家族をコロリ(コレラ)で亡くしているだろうと指摘。さすが観察眼が鋭い。
ざーっと雨が降り出す。空は明るい。これが天泣。
りんは、あのときのことを話し出す。この経験があるから、誰も見捨てたくなくて、看護の仕事を目指していまがある。
ここはりんに同情的な流れになるパターン。ところが、違っていた。
バーンズ先生はりんの態度を「恥ずかしい」と一刀両断。
「あなたは今、大勢の人を見捨てたのと同じです」と言うのだ。
主人公の感動譚のパターンではなく、先生の理解しがたい言動のパターンであった。
何もわからない自分に手取り足取り教えてほしい。けれど、バーンズのやり方はそうではない、見て学べ、というものであることはこれまでの授業でりんはわかっている。わかっているけれど、ただ否定されるのは、しんどい。それも、父との悲しい思い出を否定されて「大勢の人を見捨てた」などと悪く言われたら、抱えきれないだろう。
少し、話がドラマから逸れるが、令和のいまなら、バーンズの教育はハラスメントに値するだろう。さしずめモラハラ? いくら目的があって、いわゆる愛の鞭(むち)だったといっても、いたずらに相手を混乱させるような言動は令和のいまなら許容されない。
手取り足取り懇切丁寧に教えなくても、わざと本心を隠したり、逆説的な言葉を使って相手をいたずらに傷つけたりするようなことはゆるされない時代が来て、ほんとうによかったと思う。
だが、ドラマ的には、どうだろう。ここでバーンズ先生が、正攻法で教育したら、話が進むが、葛藤がなく面白みがなくなる。物語づくりも大変である。
松井(玄理)は校長(伊勢志摩)に、バーンズ先生の指導の仕方がもう少しなんとかならないかと相談するが、校長はのほほんとしている。
気持ちはわかるが芋が多すぎる
授業が終わって、食事の時間。落ち込んで食が進まないりんに、みんなが気を使って、自分のお皿のお芋をりんの皿に乗せていく。ここは親切心なのは間違いないが、芋ばかり山盛りにするのもいやがらせと思えないこともない。もちろん、ここでは友情だ。
夜、直美はまた火屋(ほや)を磨きながら、自分の家族を看病するように看護していたら身がもたないとりんを諭す。職業看護はどこか割り切らないといけないようだが、なかなか割り切れない話である。
次の実習では、りんが看護、直美が患者になる。そこでりんの看護は「看護です」と先生に認められる。
患者を清潔に心地よく着替えさせることと、自分が感染しないように努めた。
「私を大事に思う人のために」
りんがそう考えられるようになったとき、お祭りでの幸せな思い出を思い浮かべていた。幸福な家族の思い出がりんに力を与えた。
「あなたたちの手は、家族の数百、数千倍の人を助ける手なんです」
「あなたが看護婦になれば、家族を失い、あなたと同じ思いをする人を減らすことができます」
ちょっといい感じの劇伴がかかって、バーンズ先生がいい話をして、りんの目はうるうるする。
これは、理屈で伝えるよりも、実感としてわからせようというバーンズ先生流の教育なのだろう。
教室の外では、校長と松井がそっと見つめている。「問題ないようですね」と校長は満足そう。
松井はなんだか頼りない先生に見えるが、校長は懐が大きそうだ。多くを語らないながら広い心を持った信頼できる人に見える。今後、校長や松井のエピソードもあるだろうか。いやでも、ここまでふたりの主人公ですら書ききれていないのだから、5人の生徒と3人の先生のことまで手が回らないのではないかという懸念も拭えない。
フォトギャラリー
主なシーンより
第6週(5月4日〜5月8日)
「天泣(てんきゅう)の教室」あらすじ
バーンズ(エマ・ハワード)がようやく来日し、看護の授業が本格的に始まる。直美(上坂樹里)と多江(生田絵梨花)が通訳しながら授業を進めるものの、内容は不可解なことばかり。りん(見上愛)が問いかけても、バーンズは答えを言わず、生徒たちの不満はたまる一方で……。
連続テレビ小説『風、薫る』
作品情報
連続テレビ小説「風、薫る」。主人公はそれぞれに生きづらさを抱えた2人の女性。当時まだ知られていなかった看護の世界に飛び込み、傷ついた人々を守るために奔走し、時に強き者と戦う——明治という激動の社会を舞台に、幸せを求め生きるちょっと型破りな2人のナースの冒険物語です。
【脚本】吉澤智子
【原案】田中ひかる「明治のナイチンゲール 大関和物語」
【音楽】野見祐ニ
【主題歌】Mrs. GREEN APPLE 「風と町」
【語り】研ナオコ
【出演】見上愛 上坂樹里 佐野晶哉 生田絵梨花 古川雄大 菊池亜希子 藤原季節 平埜生成 中井友望 坂口涼太郎 猫背椿 飯尾和樹 筒井道隆 多部未華子 原田泰造 水野美紀 片岡鶴太郎 坂東彌十郎 仲間由紀恵 ほか
【放送】2026年3月30日(月)開始(全26週130回)