世界的ヒット作の日本版で主演抜てき“期待の大型新人”仲島有彩とは何者なのか――堤幸彦ら4監督が証言する「天性の才能」
●『転校生ナノ』で俳優デビュー
タイドラマの世界的ヒット作『転校生ナノ』シーズン1の日本版リメイクが、フジテレビの動画配信サービス・FODで独占配信中。本作は、学園という閉鎖空間に現れる謎の転校生・ナノが、人々の欲望と秘密をあぶり出していく学園ミステリー・スリラーだ。
新人デビュー作で照明器具に矢が直撃! 仲島有彩、監督の謎コメントには的確対応
大きな特徴は、全6話をオムニバス形式で手がける4人の監督陣――堤幸彦、熊切和嘉、ユ・ヨンソン、畑中みゆき――の個性がそれぞれのエピソードに色濃く刻まれていること。そして何より、全話を通してナノを演じるのが、本作が俳優デビューとなる“期待の大型新人”とも言える仲島有彩であること。
今回、主演の仲島と4監督への取材が実現。デビュー作としては異例ともいえる現場で、彼女はどのようにナノを生きたのか。監督たちの証言とともに、その軌跡を追った。

俳優デビューの『転校生ナノ』で主演を務める仲島有彩 撮影:蔦野裕
俳優デビューの『転校生ナノ』で主演を務める仲島有彩 撮影:蔦野裕
役作りに1年「世界観を壊してはいけない」
俳優としての第一歩が、世界中にファンを持つ人気作のリメイク主演。しかも監督は4人という異例の座組。「演じると聞いた瞬間、ワクワクよりも不安の方が大きかった」と仲島は振り返る。
「タイ版のナノが本当に素晴らしかったので、その世界観を壊してはいけないという思いがずっとあって。だから個人的に1年ほど役作りに時間をかけました」
その準備は具体的かつ徹底したものだった。演技レッスンの先生とともにタイ版を繰り返し観て、立ち方や座り方、バッグを置くタイミングといった所作の一つひとつを突き詰めたという。
「タイ版のナノはもっと飛び抜けて奇妙で明るい。でも日本の脚本を読んだ時に、もう少し引いた視点から世界を見ている存在なのかなと感じました。あえて本質的には溶け込みにはいかない、ずっとどこか違う柱に一人でいるような……そんなイメージを作り上げていきました」
本作のユニークさは、監督ごとにナノの“色”が変わることにある。同じキャラクターでありながら、各エピソードは全く異なる顔を持つ。
ep.1「特別レッスン」(堤幸彦監督)――コイントスが生んだ“絶妙な間”
堤幸彦監督が手がけたep.1では、ナノの神秘性と社会性が鋭く交差する。堤監督は「日本の空気感を出すために色彩から入り直した」と語る。タイ特有の湿度感とは異なる日本的な乾いた怖さを映像に宿し、「説明を過多にせず映像で見せること」を徹底。撮影中、思わぬハプニングが名シーンを生んだ。
「コイントスが全然できなくて焦っていたんです」と仲島は打ち明ける。全撮影の最後に臨んだそのシーンで、コインがうまく弾けず飛んでいってしまった。すると堤監督がすかさず「じゃあ思いっきり相手に当ててみて、そして笑って」と指示。「本当は普通にトスしてキャッチする予定だったんだけど、ポーンと飛んでいってしまって。でも、そのアクシデントから絶妙な間が生まれましたね」と堤監督は振り返る。
「マッチポイント」と言って高笑いするシーンもこのエピソードの見どころのひとつ。仲島はオリジナルの笑い方を映像で50~60回見て研究したというが、「いざ撮影が始まると先生役の八神蓮さんのお芝居が本当に面白くて、耐えられず笑ってしまった部分もありました。だから自然に出てきた高笑いだったと思います」
終盤、詩織(日山和子)と屋上で向き合うシーンでは、ナノの内面がわずかにのぞく。「廊下で詩織と何気ない会話をしている時は純粋に友達だと思っていて、最後の屋上のシーンでは、答えを与えるのではなく、詩織自身に選択を考えさせる。他のターゲットとは違う、ナノなりの優しいアプローチを心がけました」と仲島。それを聞いた堤監督が「考えてるね。そこがすごい!」と思わず声を上げる場面もあった。
撮影序盤から仲島の落ち着きに驚かされたという堤監督。「新人の方なのに物怖じしない。最初に会った時から、ナノのイメージとすぐにリンクしました。この人なら十分戦えると確信しましたね」
●「ちょっと浮世離れした雰囲気」「鞘の中に収まった刀」
ep.2「ソーシャル・ラブ」・ep.4「正しいのは私」(熊切和嘉監督)――マリオネットが試した“二重の難しさ”
熊切和嘉監督が担当した2つのエピソードは、対照的なトーンで描かれた。「ep.2はSNSを取り入れたポップな色に、ep.4は静謐なフィルム・ノワールにしようと意識しました」
ep.2で特に印象的なのが、ステージでマリオネットのように動くシーン。「仲島さんの身体表現で何か面白いことができると思って提案した」と熊切監督。仲島にとってそれは「ナノの一番の山場」だったという。
「マリオネットのような動きをしながら本性を見せるというダブルの難しさがあって。いかに奇妙に操られている感じを出すか、アドバイスをもらいながら練習を重ねました」
糸が外れたように倒れた後に放つセリフの言い方まで熊切監督と細かく話し合い、「自分的にも納得のいく好きなシーンになりました」と仲島は明かす。
一方、全体を通して最初に撮影したのは熊切監督のep.4の現場だった。「最初に撮ったのが安達祐実さんと対峙(たいじ)するシーンだったんです。完璧なお芝居をされていた安達さんに向き合っていて、すごくフラットに、自然に芝居をやられていたのでとても良かったです」と熊切監督。仲島自身は「初めて安達さんとお会いした時は、“私、今からこの方に挑発的な態度をとるのか…”と本当に緊張しました。でも、ナノに入り込んでからはお芝居に集中できました。最後の実験室のシーンで私の目がギョロッとする箇所があるんですけど、そこを褒めていただけてうれしかったです」と振り返る。
熊切監督は仲島の第一印象を「普段から俗っぽさがなく、ちょっと浮世離れした雰囲気。僕が描くナノ像とはぴったりでした」と語る。

ep.3「女王の資格」・ep.5「憎しみの壁」(ユ・ヨンソン監督)――韓国のホラー感覚が宿した“鋭い刃”
韓国の映像作家、ユ・ヨンソン監督が担当したep.3とep.5は、本作の中でもホラー色が最も濃い。「私にとってナノは、温かさを感じるけれど近づくと火傷(やけど)してしまう“火”のような存在。各話の主人公が破滅していく過程を、客観的に見つめるのがナノの視点だと思いました」とユ監督は語る。
ep.3では、鍼が刺さった人形が重要な役割を担う。美術スタッフが3日間かけて手彫りで作り上げたこの小道具に、仲島は「“持って帰っていいですか?”と言いたくなるくらい素敵な仕上がりでした」と感嘆。ユ監督もその美術スタッフの仕事ぶりに感動し、「韓国での次の作品にお誘いしたくらい、日本のスタッフの情熱は素晴らしかった」と語った。
ep.5の弓道シーンも忘れがたいエピソードを生んだ。3日間練習したという仲島だが、「私以外のキャストのお二人が本当にお上手で、私だけ下手で…」。ある瞬間、矢を放つと照明のライトに「バンッ!」と命中してしまい、そこからは「怒られるんじゃないかと震えながら撮影していました(笑)」と苦笑いする。
仲島はユ監督のエピソードについて「哲学的なセリフと軽いトーンのバランスが難しかったです。でもホラーが好きな私にとって、その世界に入れた気分で楽しかった」と話す。哲学的なセリフを言う時には、クルクルと髪の毛を弄ぶなどしてわざと相手の視界に入るように動くなど、細部の工夫も積み重ねた。初めて仲島と対面した時、ユ監督は「鞘の中に収まった刀」という印象を受けたという。外から見ると穏やかだが、内側に鋭い刃を隠している。その二面性こそが、ユ監督のナノ像の核心だ。
●「これを初主演で知ってしまったから、今後が逆に不安になるくらい」
ep.6「探しものは何ですか?」(畑中みゆき監督)――唯一、ナノの軸がブレる回
畑中みゆき監督が描いたep.6は、本作で唯一“心を許す相手”に出会うナノの物語だ。「ナノは相手の感情が映し鏡になる。だから、タクト(西山蓮都)が純粋な分だけナノも純粋になる」と畑中監督は語る。映像面ではティファニーブルーをキーカラーに設定し、登場人物の不完全さと美しさを視覚的に表現。ラストシーンは原作者の意見を踏まえてタイ版から変更するなど、細部へのこだわりも光る。
仲島はこのエピソードを「唯一、ナノの軸がブレる回」と表現する。校長室でタクトが出ていく場面で、「本当はすごく声をかけたかったんです。“待って”って言いたいけれど言えない、もどかしさがあった。これで正解だったのかなと、少し自問自答するようなお芝居を心がけました」。「プールサイドや遊園地で無邪気に戯れているシーンは、純粋に今が楽しいと思いながら演じていました。自分の中でも新しいナノを知れた回でした」と続ける。
「有彩さんのかわいい表情が盛りだくさんの回にしたかった」という畑中監督。一方で「ナノはその人の奥を見るキャラクター」という解釈を全話の芯に据え、タクトとの関係性を純粋さの共鳴として描いた。
「ナノじゃない役も見てみたい」「次は凛々しい表情の役で」
4監督の口から共通して出てきたのが、仲島の“動じなさ”への驚きだった。堤監督は「ほとんどNGを出さなかった。目線や間合いといった重要な要素も理解していて、天性の才能かもしれない」と語る。実は本人は「私がドライアイなので、(泣かないはずの)ナノが泣いているみたいになってしまったり、本当は高いところが大の苦手で屋上のシーンはビクビクしていた」と打ち明けるが、堤監督はモニター越しに「1ミリも分からなかった」という。
それを聞いた仲島が「NGをたくさん出してしまった記憶がすごくあるんですけど」と苦笑いすると、堤監督が「え、そうなの!? モニター越しでは普通にしゃべっているようにしか見えなかった。それを悟らせないのはやっぱりすごいね」と目を丸くする一幕もあった。
熊切監督からは「ナノじゃない役も見てみたい」、ユ監督からは「純粋なイメージの中に善と悪の両面を自然に宿せる俳優」、畑中監督からは「次は凛々しい表情の役で、バイオレンスアクションで一緒に!」とエールが送られた。
仲島自身はこう締めくくる。「今の私のイメージはすっかりナノになっていると思う。でもこれからいろいろな作品を重ねて、どんなものにも化けられるんだという変化を見てほしい」
デビュー作にして4人の巨匠に撮られるという経験は、彼女に何を残したのか。「本当に恵まれた環境だと感謝しています。これを初主演で知ってしまったから、今後が逆に不安になるくらいです」。その言葉には、謙虚さの中に確かな手応えがにじんでいた。
『転校生ナノ』は全6話。ナノを通して浮かび上がるのは、学校という社会の縮図に潜む、人間の欲望と弱さだ。「すべてのエピソードに、視聴者の皆さんが“自分事”として共感できる部分が絶対にある」と仲島は言う。それぞれの世界観で描かれる“悪魔の微笑み”を、ぜひ全話通して確かめてほしい。


渡邊玲子
渡邊玲子
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