日本とは大違い、欧州鉄道「大型荷物置き場」事情

スーツケースなどを持ってフランスの高速列車TGVに乗り込む人たち(筆者撮影)
2025年7月1日から、東海道・山陽新幹線のデッキにある「特大荷物コーナー」が試行的に予約不要になる。
【写真】日本は「荷物が置けない」「置き場をめぐって揉める」トラブルをよく聞くが……欧州の鉄道は車内の荷物置き場が充実。スーツケースやバックパックなどに限らず自転車やスキーもそのまま持ち込める。TGVやICE、そしてスイスの列車など「車内荷物置き場」のいろいろ
デッキの特大荷物コーナーは、現在は大型の荷物を持ち込む場合に座席とセットで予約する形だ。同日以降は、確実に大型荷物を置くなら客室内の一番端にある「特大荷物スペース」つきの座席一択となる。
予約不要でも大型荷物を持ち込めるようになるのは歓迎すべき改定に見えるが、事前予約で確実に使える荷物置き場が、ルールの変更で自由に使えるようになり、事実上「早いもの勝ち」になると新たな混乱を招きそうにも思える。
欧州でも多くの旅行者が大きなスーツケースを持って旅行しているが、欧州各国が運行している高速列車では「荷物スペースの確保」の悩みはあるのだろうか? 改めて現地事情を整理してみたい。
「大きな荷物が置ける」のは当たり前
欧州では過去数年、鉄道で5〜6時間、あるいはそれ以上かかる場所へも航空機ではなく列車で移動するという需要が高まっている。加えて、欧州外への旅行需要も多いため、大型スーツケースを持って高速鉄道を利用する乗客の姿は日常的なものとなっている。
にもかかわらず、「荷物が置けない」「置き場をめぐって揉める」といったトラブルを聞く機会は少ない。なぜか?
答えは極めてシンプルだ。列車内に、十分な荷物収納スペースが「最初から設計されている」からである。
スーツケースはもちろん、自転車もそのまま車内に持ち込める。通勤列車のレイアウトによっては、ロングシート7〜8人分が跳ね上げ式となっており、ベビーカーや車椅子も置ける広さが確保されている。
筆者が頻繁に訪れるスイスでは、冬場、スキーヤーがそのままホームまで滑ってきて乗車する光景すら見られる。近年はスノーボードで通勤する人までいるという。そのくらい、大きな「荷物」を持ち込むことが前提として受け入れられているのだ。

スイスの車両には自転車が置ける大きなスペースがある( 筆者撮影)
荷物持ち込みの制度、どう違う?
日本の鉄道と欧州の鉄道、それぞれの「荷物持ち込みについての制度」を見てみよう。
JRグループの「手回り品」についての規定では、車内に持ち込める荷物は縦・横・高さの3辺の合計が250cm以内(長さ2mまで)、重さ30kg以下のもの2個までとされている。傘やハンドバッグなどの「身の回り品」はここに含めない。
東海道・山陽・九州・西九州新幹線の場合、3辺合計160cm超250cm以下の荷物は「特大荷物」とされ、前述の特大荷物スペースつき座席など、収納場所のある「専用座席」の予約が必要とされている。スペース付きの座席は通常の座席と同じ料金だが、予約せず持ち込むと手数料1000円を徴収される。ただし、スポーツ用品・楽器・車いす・ベビーカー等については、サイズにかかわらず事前予約は不要としている。
フランスの高速列車TGV「inOui」は日本と比べると規定は細かいが、持ち込める荷物のサイズは大きく量も多い。基本的には、最大70cm×90cm×50cmのスーツケースやバックパックなどを最大2つと、これに加えて最大40cm×30cm×15cmの小型のバッグ1つまでを無料で持ち込める。
一方、ベビーカーや楽器、折り畳み自転車などを持ち込む場合は、最大寸法が90cm×130cm×50cmのもの1点。このほかに最大70cm×90cm×50cmのスーツケースやバックパックなど1点と、最大40cm×30cm×15cmの小型のバッグ1点を持ち込める。
これらの規定に違反すると、荷物1点につき最低50ユーロ、最大150ユーロの罰金が科される。罰則規定は2024年から実施されており、フランスでも荷物の車内持ち込みについては課題であるようだ。
これに加え、フランスでは盗難が多い、また不審物の放置への懸念といった問題が潜在的に存在する。そこで、乗客には氏名と連絡先、座席番号を書いたタグをつけるように奨励しているが、あまり効力があるようには見えない。
ドイツ鉄道(DB)はもっと太っ腹だ。公式サイトの荷物に関するページには「荷物のための予約は必要なく、旅行の前にバッグの重さやサイズを測る必要もない」と記している。FAQの「荷物のサイズはどれくらいまで大丈夫か」との問いに対する答えは「以下の標準寸法(高さ700mm×幅500mm×奥行300mm)が荷棚の寸法設定の際に想定されており、ほとんどの場合フィットします」としている。
座席数減らしても荷物置き場は確保
規定はさまざまだが、荷物を置くための予約はTGVもDBも不要だ。これを支えているのが十分な荷物収容スペースだ。
高速鉄道の車両を見ると、この“構造からの配慮”は明確だ。
DBの新型高速列車「ICE4」では、車両の普通車1両に4カ所、それぞれスーツケースが8〜10個分が収容できる大型ラックが設けられている。注目すべきは、それらがドア近くのデッキ部ではなく、座席12席分のスペースを潰して客室内に設置されていることだ。
これは、荷物の存在を「例外」ではなく「必然」と捉えた設計思想の表れだろう。予約も、追加料金も不要。そこに荷物を置くことが当然の行為として成立している。

ドイツの高速列車「ICE4」の客室内に設置されている荷物スペース(筆者撮影)
フランスTGV「inOui」も基本的には同様だが、2階建て車両ではやや様相が異なる。階段があることで、非力な乗客は荷物だけを下層に置いて上層の席に行くなどの工夫をしている。車内には「荷物を置く場所」がそれなりに設けられてはいるが、やはり下層階のスペースが人気で、時として混乱が起こるようだ。
欧州在住の筆者は、日本から渡航する個人旅行者に何度も「列車の荷物置き場を予約する必要はありますか?」と聞かれたことがある。
笑って否定したくなるが、そう尋ねる人の多くが、「新幹線車内で、インバウンド客の荷物で嫌な思いをした」とか、「自分が大きな荷物を持ち込もうとしたが、荷物スペースのほうが満杯で乗りたい列車に乗れなかった」という辛い体験談が返ってくる。そんな“トラウマ”を持つ人なら、慣れない欧州の列車で「荷物のことで車掌や他人と揉めるのは嫌」と考えるのも当然だろう。

2階建てTGV車内下層の荷物スペース(筆者撮影)
英仏間などを結ぶ国際高速列車「ユーロスター」はコロナ禍前まで、特大荷物の運搬について、航空機と同じような形で「バゲッジチェックイン」(受託手荷物)のサービスを有料で実施していた。駅の所定の場所に行き、手続きを済ませばほぼ手ぶらで乗り込むことができた。
このサービスがなくなった今では、毎便のようの「荷物置き場スペース」の争奪戦が起きている。だが、運行会社は新たな施策を打ち出していない。とりあえずは「乗客間で“話し合い”でもして取りまとめる」ことを期待しているのだろう。
日本は荷物スペース自体が少ない
筆者の感覚では、欧州においては「荷物置き場がいっぱいで困る」といった事態に遭遇することはあまりない。スーツケースとベビーカーを持って家族連れで旅行するといった人々は、あえて車いす用のスペースに自席を取って(空いていれば健常者でも予約可能なことが多い)空いている床に荷物を積み上げるといった光景をよく見る。
欧州でも“カオス”は起こらないわけではない。最も混沌とした体験の一つは、フランス北部でベルギー国境に近いリール駅から、パリのシャルル・ド・ゴール(CDG)空港直通の早朝発TGVに乗ったときだ。
乗客は全員スーツケース持参で、ラックも荷棚も埋まり、ついにはドア横のデッキに積み上げる事態に。幸い途中駅がなかったため問題は顕在化しなかったが、到着時には荷物がホームに転げ落ちるという光景が展開された。
しかしこれは例外だ。普段は十分な荷物収容スペースという「構造」があるからこそ、予約も説明も必要ない自由が成り立っているのである。
対して、日本の新幹線では収容スペースが基本的に不足という「構造」はそのままだ。荷物の受け皿は増えていない。“自由に置いていい”という建前のもとに、責任と調整の仕組みがなくなるともいえる。
ところで、東海道・山陽新幹線で試行される2025年7月1日以降のルールには、もう一つ見過ごせない問題がある。それは、160cm未満の比較的小型なスーツケースを持った乗客が特大荷物コーナーを占有してしまう可能性だ。これまで160cm以上のスーツケースを持つ人のみが予約対象とされていたが、制度が緩和されることで、ルールの運用にグレーゾーンが生まれかねない。

欧州でも格安列車は事情が異なる。イギリスの格安列車Lumoの車内。荷物置き場スペースが不十分で、頭上の棚にもスーツケースを載せる(筆者撮影)
車内の「荷物置き場」混乱は避けられるか
現在、航空各社では「縦+横+高さの合計が158cm以内」の手荷物が一般的な規定とされている。そのため、欧州旅行帰りや空港接続利用の乗客の中には、158cmクラスのスーツケースを持ちながら、あえて予約をして荷物スペースを確保していた人も少なくなかった。
そうした背景を踏まえると、今後は“予約不要”となった特大荷物コーナーにアンダーサイズのスーツケースが並び、本来の特大荷物が置けないという状況が想像できる。
これから新幹線の車内で起こる状況を想像すると筆者はとても胸が痛い。これまで述べたように、新幹線車内における荷物のハンドリングはまったく海外とは背景事情が異なるため、インバウンド客に外国語で説明という辛い状況にも直面するだろう。
JR東海・JR西日本は荷物置き場の予約不要化を「試行」としているが、この試みでどのような課題が浮き彫りになるだろうか。