気づけば100店超え「神座」"快進撃"続く納得の理由

いつの間にか若い女性を虜に!?, 崖っぷちからの逆転。投資アナリストが描いた700店舗構想, 立地戦略が新規客層の開拓に奏功, 「ラーメンレストラン」という独自ポジション, おいしいものは、きれいなところから, 「罪悪感がない」白菜ラーメンの差別化戦略, 「ハイブリッド戦略」が成長のカギに

どうとんぼり神座の看板メニュー「おいしいラーメン」(筆者撮影)

ライター・編集者の笹間聖子さんが、誰もが知る外食チェーンの動向や新メニューの裏側を探る連載「外食ビジネスのハテナ特捜最前線」。第9回は、女性客を取り込み急成長する『どうとんぼり神座(かむくら)』の戦略と、10年後に700店舗を目指す拡大計画に迫ります。

いつの間にか若い女性を虜に!?

JR大阪駅前の商業施設、「ルクア大阪」最上階のレストランフロア。

【画像】どうとんぼり神座の看板メニュー「おいしいラーメン」や、印象的な外観、清潔感ある店内の様子

和洋中のグルメがひしめく空間でランチ選びに悩んでいると、次々に“おひとりさま”女性が吸い込まれていく店をみつけた。筆文字の看板には「どうとんぼり神座」とある。

「神座って、昔からある街のラーメン屋さんで、オジサン客が多いんじゃ……?」

オバサンの著者がそう思いつつガラス張りの店内をのぞくと、コの字型カウンターは20代の女性で7割方埋まっている。

「え、若い女性客がこんなに!?」と驚きつつも入店してラーメンをオーダーしたところ、運ばれてきた一杯に筆者の「神座観」が覆された。

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女性客で賑わう、どうとんぼり神座 ルクア大阪店(写真提供:どうとんぼり神座)

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ルクア大阪店のコの字型カウンター(写真提供:どうとんぼり神座)

透き通ったスープをひと口すすると、かつおこんぶだしに、鶏ガラスープと醤油の旨味が加わったような、重層的な旨味があとを引く。たっぷり浮かんだ白菜の甘みと、シャキシャキとした歯ごたえが好アクセントだ。

中太ストレート麺はツルンとしてほどよくコシがあり、大きめのチャーシューはやや淡白だが、豚の旨味が溶け出しスープに野趣を添えていた。

だが、やはり印象的なのはスープ。ついついレンゲですくい、それだけでごくごく飲んでしまう。周囲を見渡すと、みな同じように目を細めてスープを飲んでいた。

「神座ってこんなにおいしかったんだ」と再発見するとともに、女性客が増えた理由が気になり、運営する株式会社どうとんぼり神座(以下、店名共に神座)に取材を申し込んだ。

崖っぷちからの逆転。投資アナリストが描いた700店舗構想

1986年に大阪・道頓堀に創業し、今年39年目を迎える老舗ラーメンチェーン、神座。現在国内に103店舗、ハワイに2店舗を展開し、2023年度の売上高は116億円と過去最高を記録した。

2025年3月期のグループ合計売上高は、28%増の165億円。店舗数も2022年の71店舗から、2023年は84店舗、2024年は94店舗と右肩上がりだ。

ラーメン業界はここ数年、人件費、電気代、原材料費の高騰に加え、1000円以上の価格設定が敬遠される「1000円の壁」問題で、倒産が相次いでいる。そんな逆風の中での急成長である。

しかし、神座もここまでずっと順調だったわけではないそうだ。特にコロナ禍の2020年は、売上高が前年71億円から49億円まで急降下している。

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オフィス街の大阪 淡路町に2024年12月にオープンした、どうとんぼり神座 淡路町店(写真提供:どうとんぼり神座)

V字回復の転機となったのは、2021年4月に行われた、創業者 布施正人氏から次男 真之介氏への事業承継だった。真之介氏は、高校卒業後にアメリカの大学に進学。2011年の「9.11テロ」を受けて帰国し、慶應義塾大学を卒業後、投資信託会社を経て理想実業に転職。その後独立して投資会社を設立した経験を持つ。

この経験を活かして中長期の経営戦略の見直しを図り、「10年後、700店舗展開」の構想を掲げたのだ。

「例えるなら創業者は、器のなかを中心にした美学を持つ職人です。いかにおいしいもの、うつくしいものを提供するかを第一に考えていました。

一方、2代目社長はアナリストとして上場企業の経営陣にヒアリングする立場にいたため、職人的な『器の美学』から、『知識とデータを活かした拡大路線』に舵を切ったのです」

コーポレートブランディング部課長で広報を担当する大林大輔氏はそう説明する。

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神座の店内に書かれている、「かむくらラーメンの特徴」(写真提供:どうとんぼり神座)

ただし、真之介氏の社長就任については、「コロナ禍で業績が悪化したことを受けて、創業者の妻である維久子氏、長男の直人氏と共に、真之介氏が創業者を解任したクーデターだ」と指摘する声もある。

双方で見解が分かれるところだが、承継後に真之介氏は700店舗の目標に基づき、出店時期とエリア、出店数までを綿密に試算。今日まで、戦略的な資本投下を進めてきた。その結果、売上高と店舗数が一気に成長、若い女性客を含め、幅広い客層の獲得に成功したのだ。

立地戦略が新規客層の開拓に奏功

なぜ、客層に変化が起きたのか。その最大の理由は立地の転換だ。従来、神座は「酒のあとの〆として重宝されるラーメン店」という位置づけで、飲み屋街やオフィス街の近隣に出店してきた。

しかし、2021年からの拡大路線では、関西を中心に、郊外のショッピングモールのフードコートにも積極出店をするように。「その店にファミリーが訪れ、味を知った両親が都心部にある神座に行く」動線を狙った戦略だった。

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千葉県柏市にあるショッピングモール「ららぽーと柏の葉」のフードコート内にある店舗(写真提供:どうとんぼり神座)

ところが、この戦略は予想外の効果を生む。フードコートで、独身の若い世代も神座を目にする機会が増えたのだ。この世代の両親はほとんどが神座を知っていたため、身近に感じて入店する人が増加した。新店が広告の役割を果たしたのだ。

さらに2024年からは、有名女優を起用したCMや映画とのタイアップ、SNSでの戦略的な発信など、マーケティング施策も強化。それと並行して出店も加速したため、急激に認知が拡大したのだ。

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2024年には映画『帰ってきた あぶない刑事』とのタイアップも(写真提供:どうとんぼり神座)

「ラーメンレストラン」という独自ポジション

現在は、「おひとりさま」女性、子連れの女性、ファミリー層をはじめ、女性同士、男女問わず友人同士など、幅広い客層が訪れる神座。客層の男女比は、女性4:男性6の割合だ。ラーメン店としては女性客が多い理由について大林氏は、「神座がラーメン屋ではなく『ラーメンレストラン』だからではないでしょうか」と分析する。

「ラーメンレストラン」は、フレンチレストラン出身の創業者が、創業時に掲げたコンセプトだ。店の存在意義を、「ただ食べる場所」ではなく、「ゆったりくつろいでもらう」「空間を楽しんでもらう」ことに置いてコンセプトを設計したのだ。

これに基づき神座では、「スタッフはコックコートを着用」「店内が明るい」「ガラス張りで中が見やすい」など、昭和のラーメン店には珍しい、おしゃれで安心感のあるデザインを採用してきた。それが女性の入りやすさや居心地の良さにつながっているのだという。

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大阪 鶴見店の店内。カラフルなソファ席が、居心地がいいと好評(写真提供:どうとんぼり神座)

ちなみに、創業時のコンセプトはもう1つあった。店名にもなっている「神楽の舞」だ。

たとえばキッチンは、「神楽を舞っている舞台」をイメージしてオープンにし、「華麗にコックコートを着て、舞うように調理している姿を楽しんでもらうエンターテインメント」という位置づけに。今でいう「パフォーマンスキッチン」の走りといえるかもしれない。

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大阪 道頓堀本店の入り口上には、大きな鳥居形のモニュメントが(写真提供:どうとんぼり神座)

外観デザインにもこのコンセプトは反映されており、大阪の心斎橋店や道頓堀本店では、神社の鳥居形のモニュメントが屋根や玄関に飾られている。器などに入っているロゴ「KAMUKURA」のAも、鳥居の赤色だ。

おいしいものは、きれいなところから

神座にはもう1つ、女性に選ばれている要因があるという。群を抜いた清潔感だ。神座は創業時から「きれいなところからしか、おいしいものは生まれない」をスローガンに、清潔さに非常にこだわってきた。

ゴミが落ちてないのはもちろん、ほこりもない、床もベタベタではない空間を目指して清掃をしており、その徹底のため、社員には「必要だと思ったら、どんどん自分の判断で動いていい」という行動指針を浸透させている。

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大阪 道頓堀本店のカウンター席(写真提供:どうとんぼり神座)

マニュアルに記載されていなくとも、いつでも席を拭いたり、店外へ行って窓を拭いたり、自分で道具を買ってきてもOKという「自由」があるのだ。

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大阪 道頓堀本店のキッチン(写真提供:どうとんぼり神座)

この指針はサービスにも徹底されていて、「お子さんがいる客や高齢者ご夫婦など、客に応じてサービスをする」ホスピタリティ精神が共有されている。たとえば「咳が出ている客には水を多めに提供する」「子連れ客には、座りたい席や必要なものを聞く」など、それぞれに応じたサービスを推奨しているのだ。

また、ホスピタリティ精神は、2024年春から「ホスピタリティ0円」としてメニューにも明記し、客側から要望も寄せやすくなったそうだ。

一方で、このような方針にはリスクも伴う。個人の判断や経験に依存する「属人的なサービス体制」ともいえる仕組みで、個々のスタッフの創意工夫が可能になる反面、人によってサービスの質にばらつきが出る可能性もあるからだ。

そのリスクを補うために神座では、接客の成功事例、失敗事例を本部から店長に随時通達し共有している。また、勉強会や情報共有の場も関東、関西で定期的に設けられている。

それだけでなく、定期的に営業推進担当者が店舗を回って衛生状態やサービスを評価し、良い店舗は社内表彰をする制度もあるそうだ。複数の仕組みが機能することで、個人の裁量を活かしながらも、チェーンとして一定以上の清潔さとサービス品質が保たれているのである。

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社内表彰されるスタッフ(写真提供:どうとんぼり神座)

「罪悪感がない」白菜ラーメンの差別化戦略

女性客が多い理由は、ラーメンそのものの特性にもある。神座のラーメンは、よく「罪悪感がない」と評されるあっさりとした味わいで、そこに160gの白菜も入っている。「野菜は神座で摂る」という客もいるほどヘルシーな一杯なのだ。

加えて、女性スタッフの多さも選ばれる理由になっているそうだ。実際、筆者は取材前後に梅田の神座を複数回訪れたが、スタッフの半数はいつも女性だった。

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接客する女性スタッフ(写真提供:どうとんぼり神座)

近年、神座は「次世代の客を育てる」ために子どもへのアプローチにも注力している。そこには神座の看板メニューである「おいしいラーメン」の開発にまつわる、特別な思い入れがあるそうだ。

「実は『おいしいラーメン』の名前の由来は、社長が3歳のときに創業者が味見させてくれたときに言った、『おいしいラーメンやね』という感想だったんです。その味が受け継がれているので、お子さんや若い方に愛されて当然です。だからこそ、その客層を増やしていきたいと思っています」と大林氏は微笑んだ。

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ヘルシーで女性に人気の高い「野菜いっぱいラーメン」(写真提供:どうとんぼり神座)

神座本店のある道頓堀は、今やインバウンドが押し寄せる観光地だ。その対応はどうしているのか気になって尋ねると、インバウンドを顧客ターゲットに据えた店舗を用意したという。

元々はインバウンドと国内客と分けようとは思っていなかったそうだが、他の客の迷惑や、インバウンドもゆったり食べられるように配慮した結果、ゆるやかに分ける形になったそうだ。

きっかけとなったのは、2024年11月までリニューアル工事していた道頓堀本店で、改装後、創業当時の約8倍の72席に拡大。そこで、インバウンドマーケティングの一環としてツアー会社とタッグを組み、団体客を集客する流れとなった。

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72席に拡大した道頓堀本店の店内。インバウンドの団体客も受け入れている(写真提供:どうとんぼり神座)

現在は、住之江店、鶴見店などでもインバウンドの団体客を受け入れており、1回で多いときは30人が訪れる。本店は1日平均10カ国からインバウンドが訪れる、国際色豊かな店になっている。

「ハイブリッド戦略」が成長のカギに

取材を通じて、神座の急成長と客層拡大の要因は、「ハイブリッド戦略」にあると感じた。長年培った「ラーメンレストラン」のコンセプトや清潔感、ヘルシーな「白菜ラーメン」という独自性は変えずにそのまま活かし、出店場所やマーケティング手法を大胆に変える戦略が功を奏したのだ。

この手法は、「既存顧客を大切にしながらも、新規市場を開拓せねばならない」という、多くの成熟企業が抱える課題を解決するモデルケースとも言えそうだ。

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創業からの味を守る「おいしいラーメン」(写真提供:どうとんぼり神座)

後編の記事ー女性が殺到「神座」"フレンチ由来"スープの凄みーでは、神座の全店直営方式と、それを支えるスープソムリエ制度、さらに、「700店舗構想」を可能にする人材戦略とDXの取り組みについて紹介する。