全国に約30箇所「自販機ハンバーガー」展開の理由

「ガレージいじりや」前に設置された自販機コーナー内のハンバーガー自販機(筆者撮影)
世界一の”自販機大国”と呼ばれる日本。普及台数は2024年時点で約391万台(前年比0.5%減)と縮小傾向だが、食品自販機だけは微増となっている。人手不足やそれに伴い深夜営業の飲食店が減ったこともあり、「自販機メシ」の人気は根強いのだ。
【写真】自販機バーガーはこんな感じ!バンズはしっとり、懐かしい味。
ひとくちに「自販機メシ」といっても、持ち帰って食べることを前提にしたタイプと、その場で食べられるタイプがある。前者はコロナ禍で人気を集めた自販機ギョーザなどが記憶に新しい。一方、後者のタイプは今や絶滅危惧と言っていいだろう。
1970〜1980年代、うどんやそば、ラーメン、ハンバーガーの自販機が並んだ24時間営業の「オートレストラン」は全国にあった。しかし、コンビニやファミレス、牛丼チェーンなど24時間営業の店が増えてくると、オートレストランは町から姿を消した。
筆者は出張先でオートレストランを見つけると必ず立ち寄る。自販機で提供されるうどんやラーメンは専門店と比べれば味は劣るのは明らかだが、懐かしさが隠し味となって、とてもおいしく感じるのだ。
さらにレアな自販機「バーガー」を探して
麺類はこれまで何度も食べたことがあるものの、自販機バーガーは数えるくらいしかない。現存する自販機の数が少ない上に、自販機があってもタイミングが悪かったのか売り切れていることが多かったのである。
どうしても自販機バーガーが食べたい。ネットで検索してみると、関東エリアに集中していて、筆者が暮らしている愛知県からは遠い。半ば諦めかけていたとき、X(旧Twitter)で長野県飯田市にある「ハンバーガー自販機本部」というアカウントを見つけた。プロフィールには「全国にハンバーガー自販機と中身のハンバーガーを販売しております。メインは車屋さんもやってる少し変わったお店です!」とある。
オートレストランのように、レトロ自販機をメンテナンスしながら使っているのではなく、新しい自販機の導入と商品となるハンバーガーの卸販売を手がけているようだ。連絡をとって訪ねてみると、そこは「ガレージいじりや」という自動車整備工場だった。工場内では1960〜1970年代に製造された数多くの旧車がメンテナンスを受けていた。

「ガレージいじりや」外観。スズキの販売店として新車の販売も行っている(筆者撮影)
「旧車専門というわけではないのですが、口コミで評判が広がって、全国から旧車好きのお客様が訪れてくださいます。実はハンバーガー自販機も旧車がきっかけでした」と話すのは、「ガレージいじりや」のオーナー、小林由季さんだ。
小林さんは自動車整備工場でメカニックとして6年間働いた後、2010年に独立して「ガレージいじりや」を設立した。ある日、スタッフの一人が自動車の歴史に名前を残す名車、スバル360を修理して、車検をクリアした。
同じメカニックとしてそれが悔しくて、自分も旧車を修理してみたいと思い、10年ほど前に1972年に製造されたマツダ・シャンテを購入した。調子の悪い箇所だけを修理するのではなく、車全体のバランスを考慮して少しでも長く乗ることができるようにメンテナンスをしているうちにマツダ・シャンテがとても愛おしく思えた。
「街中をマツダ・シャンテが走っていた1970年代はどんな時代だったのだろうと思いを馳せるようになり、花柄のグラスから始まり、お皿やポット、洋服など昭和レトログッズのコレクションが増えてきました」(小林さん)
自販機バーガーの製造業者の力になりたい
小林さんは旧車とは別にスズキのアルトワークスのオーナーでもあり、2011年から全国のアルトワークスのファンが一堂に会する「あると祭」を毎年開催している。その様子や、小林さん自身のカーライフをクラシックカーの専門誌「ノスタルジックヒーロー」(芸文社)が紹介したことをきっかけに、編集者との親交が始まった。

「ガレージいじりや」のオーナー、小林由季さん。現在は個人事業だが、今年7月には法人化する予定とか(筆者撮影)
2019年12月、小林さんがマツダ・シャンテで全国のレトロ自販機を巡る「軽旧車で行くレトロ自販機の旅」が「ノスタルジックヒーロー」の誌面を飾った。単発の企画だったが、読者からの評判が良く、次号から連載企画としてスタートした。連載3回目から自前のレトロな衣装に身を包んだ小林さんが誌面に登場すると、ますます人気が出た。しかし、全国のレトロ自販機を訪ねる中、オートレストランが抱えている問題に直面した。
「レトロ自販機は壊れたら簡単には修理ができないので、廃業を余儀なくされるオートレストランも出てくると自販機の中に入れるハンバーガーを作っている業者さんが困るわけです。そのハンバーガーをウチが売って業者さんを助けることができないかと思ったんです」(小林さん)
当初は手売りすることを考えていたが、「ガレージいじりや」で売ったとしても常連客が買うだけでわざわざ買いに来る客は少ないと思い直し、やはり自販機で売ることにした。とはいえ、レトロ自販機は電子レンジを内蔵していることから、設置場所が屋内に限られるため、新品または中古の自販機を改修して使うことにして、2020年8月に「ガレージいじりや」前に自販機コーナーを設置した。

ハンバーガーの自販機。自販機本体の色使いもどこか懐かしさを感じる(筆者撮影)
レトロ自販機のようにその場で食べることができないと思いきや、自販機コーナー内には電子レンジが置いてあり加熱することができる。
「当時はコロナ禍で餃子や焼肉、ラーメンなどの自販機が注目を集めていたこともあって、ハンバーガー自販機の復活はテレビやネットでも紹介されました。反響は大きく、月間600個を売り上げました。自販機を置かせてほしいという問い合わせも数多くいただき、販売店も増えていきました」(小林さん)
ところが、最初の頃は業者も喜んでいたものの、だんだんと納期が遅れるようになり、とうとう『生産が追いつかないからやめたい』と告げられた。とはいえ、販売店は自販機を空にできない。矢面に立たされた小林さんは販売店に頭を下げてまわった。ハンバーガーは自分で作るしかないと思って、工場の物件探しから契約、厨房機器や冷凍庫、冷蔵庫の購入、食品製造の許可取得やスタッフの採用など20日間あまりですべて整えた。それが「いじりやフードサービス」である。
レンジ加熱を前提とした制限の多い商品開発
この日、ハンバーガーの工場も見学させてもらった。冒頭で触れたX(旧Twitter)の「ハンバーガー自販機本部」のアカウントを管理しているスタッフとパートの2人で手際よくバンズにソースを塗ったり、バンズをサンドしたりしていた。完成したハンバーガーは、マイナス20度で急速冷凍した後に販売店へ納品されるという。賞味期限は冷凍で2カ月、解凍後は1週間とか。

「いじりやフードサービス」のスタッフが一つ一つ丁寧に作っている(筆者撮影)
販売店によって異なるが、自販機バーガーは1個300円〜400円。定番のチーズバーガーやてりやきマヨバーガーをはじめ、ワッフルや大判焼き、パンケーキも含めて全部で13種類。そのうち2種類のハンバーガーが季節ごとに替わる。夏場には「ねぎ塩だれバーガー」と「夏野菜レモンバーガー」が登場する。大手ハンバーガーチェーンでは見かけない商品と出会うことができるのも魅力だ。
チーズバーガーを試食させてもらったところ、まず、その大きさに驚いた。昔食べた自販機バーガーはもっと小さかったような気がする。聞いてみると、バンズのサイズは大手ハンバーガーチェーンとほぼ同じだという。
箱ごとレンジで温めるせいか、バンズは蒸されてしっとりとした食感。パティも分厚くて食べ応えも十分だった。自販機のうどんやラーメンと同様にむちゃくちゃおいしいというわけではないが、「これっ!この味!」という懐かしさが込み上げてくる。

「チーズバーガー」(350円)。しっとりとした食感のバンズと厚みのあるパティが特徴だ(筆者撮影)
「バンズも箱の中で蒸されることを計算して、あえてグルテンの量が少なくて、歯切れのよいものを選んで使っています。自販機バーガーはレンジで加熱することが前提ですから、生の野菜を使うことができませんし、香辛料を入れても温めると風味が飛んでしまうんです。制限の多い中で商品を開発するのは大変でしたが、私自身が納得できるものが完成したと思っています」(小林さん)
現在、いじりやフードサービスのハンバーガー自販機は、北は宮城県から南は福岡県まで29カ所に設置されている。週末は自販機バーガーを食べることを目的にドライブやツーリングを楽しむ人もいて、順調に売り上げを伸ばしているという。
懐かしいだけでなく、自販機用に計算され尽くした小林さんの「自販機バーガー」。異業種から参入してまだ5年、今後もっと広がる可能性を秘めている。