3男1女東大理Ⅲ合格の佐藤ママが「海外進学は考えなかった」ワケ 息子3人スタンフォード大のアグネス・チャンと対談

4人の子ども全員を東大理Ⅲに合格させた佐藤亮子さん。スタンフォード大学に3人の息子を送り出したアグネス・チャンさんと、子どもの才能の引き出し方、そして受験への臨み方について語り合った。

*   *   *

アグネス 個性を伸ばすためには本人が自分を理解し、良い選択をできる力をつけることが大事だと思っています。そのために私は子どもたちが小さい頃から「自分で選ばせる」ことを意識してやってきました。学校も同じで、いつも子ども自身に見せて、選ばせてきました。

佐藤 米国の高校を選んだのもご長男自身が決めたとおっしゃっていましたよね。

アグネス 長男が留学先を決めるとき、私たちは東海岸の名門校などを中心に、夫と長男とで学校巡りをしたんです。米国は広いですから10日ぐらいかけてツアーのように。最終的に彼が選んだのは、ランキング上位ではない西側の学校でした。まるで西部劇に出てくるような雰囲気の学校で、馬術の授業があったり、入学初日から10日間のキャンプに行くような学校です。正直、学業面で不安もありましたが、もし合わなければ1年で転校するつもりで送り出しました。

■進学先は「いつも天気いいのが良かった」

佐藤 ご長男はどんなところが気に入ったんでしょうね。

アグネス 後で理由を聞いてみると、東海岸の学校は競争ばかりの雰囲気が好きになれなかったそうです。一方その西の学校は、のんびりしているし、何よりいつも天気がいいのが良かったと(笑)。

佐藤 面白いですね。そうやって自分の意見を持って判断できることって本当に大事です。うちの子どもたち4人は奈良県にある国立大附属小学校に通ったんですが、その教育はとても勉強になりました。まず、先生は子どもたちがどんな意見を言っても否定しないんです。だから子どもたちも意見が言いやすい。それを見て私は大人が態度を変えれば子どもは発言をするんだな、とつくづく思いました。

アグネス 本当にそう。私は日本の大学で教えることもありますが、日本の学生は自分から意見を言わない。まずは「意見を言う練習」から始めないといけないんです。

佐藤 家庭の中での習慣も大事ですよね。子どもってしょうもないことを話してきたりするんですが、私はどんな内容でもまず「それは面白いね」と受け止めるようにしてきました。そうすることで、子どもはどんどん話すようになります。

■佐藤ママ「海外進学は考えなかった」

アグネス いいですね。佐藤さんのご家庭では海外大は考えなかったのですか?

佐藤 うちは考えなかったですね。日本で小・中・高と積み重ねてきた教育は、日本の大学入試向けに設計されているので、途中から海外に進学するには、別の準備が必要になってかえって効率が悪いように感じたんです。日本の大学を出て、そのキャリアを持って大学院で海外に行くのでもいいのかな、と思っていました。

アグネス なるほど。正直、息子たちが今日本に戻ってきて日本の会社に入ったとしてもやっていけるかどうかは疑問です。一方で、長男はいま日本や中国、香港などを行き来する仕事をしていて、言葉も文化も理解しているからとても有利です。次男も米国を拠点にしつつ、日本のプロジェクトに関わっています。そういう意味では、いろいろな文化を知っていることは仕事をする上で大きな強みになっているようですね。

佐藤 素晴らしいですね。うちの子どもたちは4人とも東大理Ⅲを出て、今はそれぞれの分野の医学の道に進んでいますが、どこかのタイミングで留学はしたいと言っています。医療の分野は国によって技術も考え方も違いますから、視野を広げる経験は必要みたいです。

■これから大事なのは「文系の学び」

アグネス 私も、日本にいる子どもたちはどんなタイミングでもいいから、一度は海外に出てみるべきだと思っています。子どもたちに必要なのは「目から鱗」の体験。だから半年でも1年でも、違う文化にどっぷり浸かることで、自分の価値観を見直すきっかけになります。

佐藤 1回目から鱗を落としても不思議とまた戻ってきますから(笑)。だから、若いうちは何回でも目から鱗を落とす経験をして、視野を広げたほうがいいですね。

アグネス 今はAIがなんでも正解を教えてくれるので、人間としての本質的な力がますます大切になります。スタンフォード大学では、新しい学長の方針で、今後多くの資金が「人文学」に投じられることが決定したんです。AIが進化する時代だからこそ、大切になるのは「人間性」だという考えが背景にあります。AIを使いこなすためにも、人間性とテクノロジーを融合させる教育が必要だという考え方ですね。

佐藤 これまで理系やテクノロジーを重視する流れが続いてきましたが、AIの進化があまりにも速くて、人間の心がついていけなくなっていると感じます。技術のスピードに人間が取り残されて、心が疲れてしまっているんです。だから今こそ、哲学や倫理、文学などの「文系の学び」も大事なんじゃないかと思っています。

さとう・りょうこ/大分県出身。津田塾大学卒業後、英語教諭として働いた後に結婚。専業主婦として3男1女を育て、全員が東大理Ⅲに合格。著書に『佐藤ママの子育てバイブル 三男一女東大理III合格! 学びの黄金ルール42』(朝日新聞出版)など多数

アグネス・チャン/1955年、香港生まれ。72年に日本で歌手デビュー。上智大学を経て、トロント大学卒業。スタンフォード大学に留学し、教育学博士(Ph.D)を取得

(構成 ライター 江口祐子)