技術大国なのにパクリ? 中国1トン級ドローンが英国製に酷似! ヘンリー・フォードも戦った「特許独占」の闇とは

TP1000が示す中国式模倣

 民間用ドローン技術で世界の最先端を行く中国だが、これまでに普及している小型の垂直離着陸ドローンに続いて、最近は大型の飛行機型ドローンの実用化に力を入れている。2025年3月には、1tの搭載力を持つTP1000の初飛行が、誇らしげに中国のメディアで報じられた。ところが、驚かされたのは機体の形状である。英国の古典的なSTOL小型輸送機、ブリテン・ノーマンBN-2アイランダーそのままなのだ。

【画像】「えぇぇぇぇ?」 これが中国の「TP1000」です! 画像で見る(計8枚)

 TP1000を開発した中国の「壹通無人機システム有限公司」は、ブリテン・ノーマン社とは一切無関係だ。この報道を受けたブリテン・ノーマン社は、中国による知的財産の盗用だとして強く非難しており、この問題は英国議会でも取り上げられた。

 飛行機の設計では、その用途が似ていれば基本形状が似てしまうことが多い。同じ原理で飛行する以上、同じような性能を目指して設計すれば、最適な形状が似てしまうのは不思議ではない。設計者も過去の成功例に学んで設計するため、素人目には区別が難しいほど似た機体になるのも、それほど珍しいことではない。事実、ボーイングの旅客機とエアバスの旅客機を一目で見分けられるのは、航空関係者か飛行機マニアくらいだろう。

 しかし、このTP1000とBN-2の類似性は、そうした次元ではない。無人機のTP1000には操縦席がないため、機首のデザインこそ簡素な形状に改められているが、それ以外の主翼や胴体、尾翼に至る機体の形状や取り付け方式、降着装置の配置や形状など、まったくBN-2そのままだ。飛行機設計に関わる者の視点で見れば、これはBN-2の設計を参考にしたレベルではなく、

「基本設計を完全にコピーした」

というしかない。飛行機は大きさが異なれば空力特性に違いが出てくるが、発表されているTP1000の諸元を見ると、サイズや重量までBN-2とまったく同じである。

3Dプリンタで再生する名機の設計思想

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新中央虚空で使われていたBN-2。筆者撮影(画像:ブースカちゃん)

 ブリテン・ノーマンBN-2は1965年に原型機が初飛行した古い飛行機だが、簡素ながら要点を押さえた設計で、高い短距離離着陸性能を持つ使いやすい機種だ。日本でも、沖縄諸島や伊豆諸島の離島へ飛ぶ小型旅客機として、最近まで使用されていた。ブリテン・ノーマン社では、エンジンのターボプロップ化や各種軍用型の追加など、現在も積極的にBN-2シリーズを発展させ、英国での生産が続いている。将来は無人機型への展開も検討しているというから、これと競合するTP1000の存在は許容できないだろう。

 壹通無人機システム社は、TP1000以外にも数種の固定翼無人機を開発しており、2022年6月には単発の無人貨物機TP500を初飛行させている。TP500の機体は同社の独自設計と思われ、同社がまったく機体設計能力を持っていないわけではない。だが、BN-2のような優れた既存設計を流用すれば、空気力学的な設計に要するコストやスケジュールは大幅に削減できる。

 同社はブリテン・ノーマン社とライセンス契約も結んでいないから、BN-2の製造図面を保有しているとは考えられず、BN-2からのリバース・エンジニアリング(既に完成された製品や技術を分解・解析して、その構造・機能・設計思想などを明らかにするプロセス)でTP1000の設計をまとめたのであろう。ブリテン・ノーマン社は、2018年に北京の中国企業とBN-2の販売契約を結んでおり、機体は中国でも容易に入手可能なのだ。

 もしリバース・エンジニアリングが行われたのだとすると、少なくとも主要な部品はBN-2と同じ構成でコピーされていると思われるが、部分的には3Dプリンタを使用した部品に置き換えるなど、現在の技術水準で低コスト化が図られているだろう。そうした意味では、完全にBN-2をそのままコピーしたわけではなく、BN-2の機体形状をそのまま流用した派生機というべきものだ。

航空特許に潜む独占リスク

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知的財産権のイメージ(画像:Pexels)

 このような設計は国際社会で通用するものではないが、どこからが知的財産権の侵害に当たるのか、明確な線引きが難しいのも事実である。特許で保護されている機構が流用されているとか、製造図面が盗まれたとかなら話は別だが、リバース・エンジニアリングそのものは違法ではない。形状やデザインを知的財産として保護するには、意匠権を登録する方法もあるが、少なくとも航空機に関しては一般的ではない。これは偽ブランド品の問題とは、まったく異質の問題だ。

 実は、知的財産権に関わる争いは、資本主義経済における独占という問題が根底にあり、どこまでを権利として認めるかは、自明のことではない。知的財産権を認める範囲によっては、発明活動を促すことで社会の発展を促進するが、逆に技術の普及を妨げ、社会に無駄なコストを支払わせる結果にも繋がっている。

 19世紀末の米国では、馬車以外の4輪車については、ジョージ・セルデンという人物が特許を取得していた。すると、あらゆる自動車がこの特許に抵触するため、ALAMという自動車産業団体がこの特許を管理するようになり、特許料の独占利益を得るようになった。そこから排除されたのが、後の自動車王ヘンリー・フォードであるが、彼は訴訟に耐え抜いて、庶民に安価で優れた自動車を供給することに成功したのである。

 近年では、低燃費航空エンジンとして期待されるギヤード・ターボファン(GTF)技術について、あまりに広範な特許がプラット・アンド・ホイットニー(P&W)社に認められた結果、同社によるGTFエンジンの独占と、普及の遅れが発生している。これはP&W社にとっては大きな利益だが、社会的には不利益であるという指摘は免れない。

知財強国化する中国の攻防線

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TP1000の初飛行を祝う関係者記念写真。公式サイトより(画像:壹通無人機システム)

 世界では技術先進国が自国の知的財産権を主張し、開発途上国に厳守を求め、それによって先進国が一方的に利益を得る構造が続いてきた。

 この問題で、中国は長らく先進国の搾取や非難を受ける側だったが、今や有効特許の件数で米国を抜き、世界1位に上り詰めている。そうしたなかで起きたBN-2の設計盗用問題は、中国と西側世界の間に横たわる、古くて新しい問題である。

 今のところ、TP1000が実用量産段階に至っていないことから、ブリテン・ノーマン社に実害が発生している状況ではないが、英国側がこれを放置できないのは当然だ。外交レベルで中国への抗議が行われるとともに、中国の企業活動に対する監視や規制を強めるよう求める声も強まっている。

 しかし、もはや中国も一方的に叩かれるだけの国ではなくなっており、両国には将来を見据えた取り組みが求められるだろう。