650円→1800円「飯田商店」が変えた業界の常識

神奈川・湯河原にあるラーメン店「飯田商店」の店主・飯田将太さん。「食べログ」では驚異の4.10点を誇り、堂々の1位となっている(筆者撮影)
神奈川・湯河原にあるラーメン店「飯田商店」が今年で15周年を迎えた。
【画像7枚】2025年現在、1800円で提供されている「醤油らぁ麺」
ラーメン一杯で湯河原に全国からファンを集める名店。「食べログ」では驚異の4.10点を誇り、全国にあるラーメン店3万8782軒の中で堂々の1位となっている(2025年5月1日現在)。
15周年の節目で店主・飯田将太さんは自伝『本物とは何か』を出版、4月6日には東京・西麻布「ENEKO Tokyo」にて「飯田商店15周年 飯田将太 出版記念パーティー」が開かれた。
秋元康さん、戸田奈津子さん、羽鳥慎一さんなど著名人から、全国のラーメンの名店の店主、生産者、メディアの方々など多くの「飯田商店」ファンが一堂に集まった。
「パーティーの壇上でご挨拶する時に参加いただいている皆さんのお顔を見渡すと、ラーメン一杯で集まった人たちとは到底思えなくて、なんでこんな人たちが来てくれるんだろうと思ったんです。
結局、自分がラーメンを作っていなかったらこうなってなかったわけで、本当にすごいなと思いました」(飯田さん)
名実ともに日本のラーメン界のトップを走る飯田さんに、激動の15年と今後のラーメン界について聞いた。
実家の会社の跡地で「飯田商店」をオープン
飯田さんはもともと和食の料理人を志して東京に行ったが、実家の水産加工会社が傾き、地元に帰って叔父が営むチェーン系のラーメン店で働くことになった。
その後、「自分のラーメンを作りたい」という思いで、2010年3月、実家の会社の跡地で「飯田商店」をオープンした。

湯河原にある名店「飯田商店」。「食べログ」では驚異の4.10点を誇り、全国1位となっている(2025年6月1日現在)。(筆者撮影)
「敬愛する故・佐野実さんの『支那そばや』のラーメンに衝撃を受けたことをきっかけに、自分が作ったスープ、自分が作った麺でお店を作りたいという思いが強くなりました。
『飯田商店』を開業した時は、今日明日のことで精いっぱいで、10年、15年後のことはまったく考えられませんでした。ただ、おいしいラーメンを作ればお客さんは来てくれると信じて作っていました。
今思えば考えが浅くて、現実はまったくクオリティが追いついておらず、なかなかスタートダッシュが切れなかったんですけどね」(飯田さん)
当時提供していたラーメンは、神奈川・相模原の「69’N’ROLL ONE」に強く影響を受けた一杯だった。オープンから数年はまだ町のラーメン屋さんという感じで、たまに並びは出るがまだ誰でも食べられるお店だった。
9年目にラーメンをリニューアル

醤油らぁ麺は2025年現在、1800円で提供されている(筆者撮影)
飯田さんはいつ頃から将来や未来を考えるようになったのか。
「もっと本格的にラーメンの道で生涯生き抜こうと決めたのは、割と早かったと思いますね。最初の段階ではとにかくがむしゃらにやっていましたが、何年かやっているうちに自分だけの味を突き詰めたいと思うようになり、自分が全部生み出した新しい味を求めて9年目にラーメンをリニューアルしたのが大きいですね。
この辺りから視野が広がり、いろんな夢みたいなのが出てきたのはここ最近です。弟子を取ったり、いろんな後輩が慕ってくれるようになったりして、それから『飯田商店』だけでなくこの人たちのために、ラーメン業界のためにと考えるようになりましたね」(飯田さん)
「飯田商店」がオープンしてからのこの15年は、ラーメン界にとっても一、二を争う激動期だった。
その中でトップランナーとして走り続けてきた飯田さんの功績は大きい。価格の面もそうだ。2022年5月に「飯田商店」がラーメンを1600円にしたニュースには業界が激震した(現在は1800円~)。
「創業当時は650円で提供していましたが、今はラーメンを作るという“仕事”にしっかりお金をいただけるようにと強く意識しています。1600円にさせていただいた時もだいぶニュースになりましたけど、ネガティブな意見はなるべく見ないようにして、前を向いてきました。
今までは『自分まだまだなんで頑張ります』といってラインを引いていて、それはある意味楽だったんですが、自分の発言や行動の影響力を自覚してから、覚悟を持たなくてはならないと考えるようになったんです。うちの店だけでなく、業界のためにいいだろうと思って信じてやっています」(飯田さん)
「ラーメン界はこれでいいのか?」という疑問
ラーメン一杯「1000円の壁」が業界に大きく立ちはだかる中で、飯田さんはラーメンの価格の幅を広くしたいと考えていた。
安価で気軽に食べられるラーメンの存在を尊重しつつ、料理性の高いラーメンの価格のレンジを広げることで、ラーメンの進化が止まらないように動いたのだ。

もっとも高いメニューは、2025年現在、2700円で提供されている。それでも、全国からラーメンファンが足を運ぶのだ(筆者撮影)
今でこそ一杯1200円、1300円というお店も増えてきたが、初めに動いた飯田さんには大きな覚悟があったに違いない。

調理中の飯田さん(筆者撮影)
「異業種の方々とも交流させていただく中で、『ラーメン界はこれでいいのか?』みたいな疑問が湧いてくるんですね。ラーメン界では当たり前なことが他の業界から見ると異質だったりする。
例えば、有名な中華料理店で担々麺が一杯3800円で出ている。それでこっちは『1000円の壁』かと思うと、もうこれは死語にしないといけないなと。いろんなお付き合いが出てくる中で自分の意識も変わってきましたね」(飯田さん)
飯田さんはラーメンを高級なものにしたいということではない。もっと多様であっていいと思っているのだ。
飯田さんが考える、「1000円の壁」の正体
「1000円の壁」は圧倒的に心理的な部分が大きい。食材原価や人件費、光熱費などを考えたら1000円は当たり前に超えていていいところを、心理的な面で我慢してきたのがラーメン界だ。
「安くみんなに食べてほしいという心理的なところが大きいですよね。勝手にラーメン屋さんがそこに毒されているのが『1000円の壁』の正体だと思っています。
お客さんのことを大事にしすぎるあまり、『これ以上値上げしたら困るんじゃないか』とか『これ以上上げたらお客さんが来られなくなっちゃうんじゃないか』と思うわけです。これはもちろん僕にもありますが、店主がそういう思いを飲み込みすぎて、麻痺してしまっている部分もあるような気もします。
一方で、自分たちの仕事に対してしっかりとした対価をいただくことが自分たちの日々の仕事に対する“責任“でもあります。ラーメン屋が自分たちの仕事に対してもっと精度上げて考え、責任を持つことが大事なんじゃないかなと思っております」(飯田さん)

(筆者撮影)
ラーメンはこれといったルールも定義もなく、自由度があるところが魅力だ。だからこそ、「飯田商店」の15年の歴史でここまで変革し、成長を遂げることができた。飯田さんはトップランナーとして、今後も成長できる土壌を作り続ける。