路面電車と違う迫力「道路に乗り入れた列車」列伝

新潟の路上を走った「かぼちゃ電車」, 路上ではステップで乗り降りした福井, 急勾配の路面を走った京阪京津線, パノラマカーが橋の上を車と並走, 岐阜市内を走った大正生まれの「丸窓電車」, 路面電車と一味違う迫力

鉄道と道路の併用橋だった「犬山橋」を走る名鉄の特急「パノラマスーパー」(撮影:南正時)

道路に敷設された線路のことを「併用軌道」という。簡単にいえば路面電車の軌道のことで、法律では「道路上その他公衆の通行する場所に敷設される軌道」だ。

【貴重な写真60枚以上を一挙公開】「普通の電車」が道路上を走る迫力の姿。橋の真ん中を行く名鉄パノラマカーや新潟交通の「かぼちゃ電車」、地下鉄直通化で消えた京阪京津線の路面走行区間など、懐かしの「併用軌道」を行く電車の数々

ただ、併用軌道を走るのはいわゆる路面電車だけではない。一般の鉄道の中にも、路面の併用軌道区間に乗り入れて走る路線がある。これらの路線では、いわゆる路面電車タイプの小柄な車両ではない大型電車が道路上を走る迫力ある光景が見られる。近年は減っているが、かつては名鉄特急パノラマカーも路面の併用軌道を走っていた。

今回は、このような「大型の電車」が道路を走る併用軌道への乗り入れ運転について、今は見られない路線や車両を中心にとりあげてみたい。

新潟の路上を走った「かぼちゃ電車」

新潟県にはかつて、新潟交通、越後交通、頚城鉄道、蒲原鉄道の4つの私鉄路線が営業していた。その中で最後まで残ったのが新潟交通の電車線である。沿線住民からは「電鉄」とか、電車の緑と黄色の塗装から「かぼちゃ電車」の愛称で親しまれていた。

【写真】「普通の電車」が道路上を走る迫力の姿。橋の真ん中を行く名鉄パノラマカーや新潟交通の「かぼちゃ電車」、地下鉄直通化で消えた京阪京津線の路面走行区間など、懐かしの「併用軌道」を行く電車の数々

路線は白山前(県庁の移転に伴い1985年に県庁前から改称)と燕を結ぶ全長36.1km。このうち白山前から東関屋までの2.2kmの区間が併用軌道で、道路の真ん中を大型の電車が走っていた。

「電鉄」の顔だったのは前面2枚窓のモハ10形だ。自社の旧型車の下回りと小田急電鉄で廃車になった車両の車体を組み合わせて製造されたクハ45形が道路上を走る姿も迫力があった。車両の一部は地元住民による「かぼちゃ電車保存会」によって、かつての月潟駅で保存されている。

新潟の路上を走った「かぼちゃ電車」, 路上ではステップで乗り降りした福井, 急勾配の路面を走った京阪京津線, パノラマカーが橋の上を車と並走, 岐阜市内を走った大正生まれの「丸窓電車」, 路面電車と一味違う迫力

新潟市内の路面を走っていた新潟交通電車線=1976年(撮影:南正時)

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燕駅に停車するモハ10形。この電車が路面の併用軌道を走る姿は迫力があった(撮影:南正時)

【写真】県庁前(白山前)駅は風格のある駅舎と道路上の線路が特徴だった

筆者は映画「男はつらいよ 旅と女と寅次郎」(1983年・山田洋次監督)の新潟ロケで、寅さんが夕方の関屋駅近くの大衆食堂の暖簾を分けて外へ出た瞬間、雨上がりの寅さんとのツーショットでタイミングよく「かぼちゃ電車」が遠ざかるシーンが印象に残っている。

路上ではステップで乗り降りした福井

新潟交通の電車線は惜しくも姿を消してしまったが、日本海沿岸の都市には、現在も専用軌道の鉄道と併用軌道を直通運転する路線がある。北陸新幹線の敦賀延伸開業後、ますます好調に営業を続けている福井鉄道福武線だ。

福武線は越前市のたけふ新駅から福井市の田原町駅と、同市内の福井城址大名町駅から分岐して福井駅停留場までを結ぶ。全線21.5kmのうち、「軌道」の区間は赤十字前駅(旧南福井)付近にある「鉄軌分界点」(鉄道と軌道の境を示す)から田原町までの2.8kmの複線区間と、途中の福井城址大名町駅からスイッチバックして福井駅に至る0.6kmの単線、通称「ヒゲ線」である。道路上を走る併用軌道だ。

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福井鉄道は福井市内に併用軌道の区間がある。現在は路面電車タイプの車両に替わったが、かつては鉄道線タイプの大型車両が路面を走っていた=1970年(撮影:南正時)

現在は路面電車タイプの車両に統一されているが、かつては併用軌道区間に大型車両が走り、その光景は福井市の特徴にもなっていた。福鉄を代表する名車のモハ200形連接車や、80形、120形、300形などの大型電車が市内の道路上を走り、その姿は迫力満点で壮観な眺めだった。

とくに「大名町ロータリー」(福井城址大名町駅)からのスイッチバックを福井駅に向かって走る姿は壮観で迫力ある光景だった。軌道区間の停留場は低床ホームであるため、大形車両はドアが開くとともに階段状のステップを下ろして乗降していた。

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福井鉄道の名車、モハ200形が大名町ロータリーを行く=1979年(撮影:南正時)

【写真】後年のモハ200形。クリーム色に青の帯を入れた塗装に変わった姿

現在の主力は元名鉄の岐阜市内線・揖斐線などで使われた770形や美濃町線などを走った880形の連接車で、その雄姿を見るべく鉄道ファンも多く訪れている。引退した200形は「北府駅鉄道ミュージアム」の敷地内で美しい往年の姿で保存されている。

急勾配の路面を走った京阪京津線

かつてと比べれば併用軌道の区間は大幅に減ったものの、現在も昔と違う迫力があるのが京阪電鉄の京津線だ。もともとは三条―浜大津間11.0kmの路線で、一般の鉄道としては小ぶりながら路面電車タイプではない高床の2両連結の電車が併用軌道を走っていた。

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かつての京阪京津線。専用軌道から路面の併用軌道に出て蹴上方面へ向かう80形(撮影:南正時)

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蹴上付近の勾配を行く京阪京津線の80形(撮影:南正時)

【写真】かつての京津三条駅に到着する600形。地下鉄直通化で駅は姿を消した

同線は1997年10月の京都市営地下鉄東西線の開業と同時に、地下鉄直通のため京津三条―御陵間が廃止となった。廃止された区間はその多くが併用軌道だった。筆者は名車といわれた80形や、現在も石山坂本線で走っている600形が主力だった時代に訪れているが、蹴上―九条間には66.7‰の急勾配があり、80形がモーター音を東山に響かせながら走行していた。

現在は地下鉄区間から先の山科からがかつての京津線のままで、ここからは「逢坂越え」といわれる最大61‰の急勾配と半径40mの急カーブがあり、さながら山岳鉄道の様相である。サミット近くの大谷駅から下って東海道本線を赤レンガ積みの「蝉丸跨線橋」でオーバークロスすると上栄町駅。この先、びわ湖浜大津駅までの間が併用軌道区間で、地下鉄にも乗り入れる4両編成の800形電車が「道路」を駆けるのだ。

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京都市営地下鉄東西線との直通運転開始直後、浜大津駅(現・びわ湖浜大津)を出発する京津線の800形(撮影:南正時)

800形は京津線の地下鉄直通運転開始と同時に投入された。路面電車は1編成30m以下という規定があるが、800形は4両編成で66m。日本では最長の併用軌道を走る電車である。

パノラマカーが橋の上を車と並走

大型の電車が道路上を走った区間といえば、名鉄犬山線の犬山橋を忘れてはならない。これは1925年に完成した、犬山遊園―新鵜沼間の木曽川に架かる鉄道と道路の併用橋だった。

線路は橋の中央部に複線で敷かれ、左右が一車線ずつの道路だった。この併用区間を名鉄特急「パノラマカー」や「パノラマデラックス」などが長編成で、併走する自動車を威嚇するかのようにチャイムを鳴らして走る姿は壮観だった。また、名鉄線と国鉄(JR)高山本線を直通運転したディーゼル特急「北アルプス」の犬山橋走行も忘れ難い光景である。

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鉄道・道路併用橋だった犬山橋を走る名鉄パノラマカー(撮影:南正時)

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JR高山本線直通の気動車特急「北アルプス」も車と並んで犬山橋を走っていた(撮影:南正時)

この珍しい鉄道・道路併用橋は、2000年3月に隣接して道路橋が開通したことで解消された。旧犬山橋は鉄道橋として今も使われており、現在は併用橋時代の倍の速度である最高時速60kmで電車が通過している。鉄道橋と並行しているところから、道路橋は「ツインブリッジ」という愛称がある。

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犬山橋を走る7300系の普通列車(撮影:南正時)

今年、久しぶりに犬山橋を訪れたが、鉄道橋は往年の荘厳な鉄骨トラス橋のままで、石組みの橋台も保存され今も活用されている。ツインブリッジの間の両端には展望バルコニーが設けられ、写真も撮りやすくなっている。30年ぶりに鉄道橋の電車を撮ると、予想外の速さにシャッターのタイミングがずれたが、それも懐かしい思い出の一コマを思い出すきっかけとなった。

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鉄道専用橋となった現在の犬山橋と道路橋(右)(撮影:南正時)

岐阜市内を走った大正生まれの「丸窓電車」

名鉄といえば、岐阜市街地の道路上を走った「丸窓電車」モ510形にも触れておきたい。岐阜市内線と揖斐線(ともに2005年廃止)を直通する急行として走っていた電車だ。

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名鉄揖斐線・岐阜市内線直通急行に活躍した「丸窓電車」ことモ510形(撮影:南正時)

岐阜市内線は全線がほぼ道路上を走る併用軌道の路面電車で、国鉄(JR)岐阜駅北口から新岐阜(名鉄岐阜)駅を経て、徹明通り―忠節間は忠節橋通り、徹明町―長良北町間は長良橋通りを通っていた。

モ510形は大正時代生まれながら、1967年12月の直通急行運転開始時に急行用として抜擢され、半流線形の車体や側面の楕円形の窓など大正時代らしさを感じさせる外観で、丸窓電車として親しまれていた。急カーブの徹明町交差点を、まるで車体を二分するかのように曲がる姿は迫力満点で多くのファンが訪れた。長良川を渡った忠節から先は、揖斐線を急行として高速で走りぬいた。

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徹明町付近を走るモ510形とモ520形の重連(撮影:南正時)

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岐阜市内線を走る揖斐線直通急行のモ520形とモ510形の重連(撮影:南正時)

この後継車にあたるモ770形は路面電車スタイルの車両で、現在は福井鉄道に転じて同線の主力として活躍しているのは前述のとおりだ。

路面電車と一味違う迫力

最後に、現在も気軽に見られる「鉄道線の電車が路面を走る」路線を紹介したい。「江ノ電」こと江ノ島電鉄だ。

江ノ電はよく知られているとおり併用軌道の区間があり、鉄道か路面電車のどちらなのかと話題になることがあるが、法律からいえば現在は「鉄道」であり、路面電車=軌道ではない。ただし、開業時は軌道だった。

江ノ島―腰越間などで道路上を走る区間があるのは周知のとおりだが、七里ヶ浜付近や稲村ヶ崎付近に見られる、道路片側にバラスト軌道を敷設した区間も実は併用軌道である。昭和の雰囲気を残す建物が多く残る道路を行く江ノ電は、どこか懐かしさを感じていい雰囲気だ。

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腰越付近の併用軌道区間を走る江ノ電1000形=2004年(撮影:南正時)

【写真をもっと見る】今はなき新潟交通電車線や鉄道と道路の併用橋だった時代の犬山橋、地下鉄直通化前の京阪京津線など「併用軌道」を走る懐かしい姿。路面電車タイプの車両に置き換わった福井鉄道など現在の様子も併せて紹介

近年はLRTや超低床路面電車が注目を集め、本稿で紹介した福井鉄道でもえちぜん鉄道との直通は超低床電車が用いられているほか、広島電鉄では長編成の連接車が市内線と鉄道線の宮島線を直通している。そんな中、いわゆる「鉄道」の大型車両が路面を走る路線は減ってきたが、その光景には迫力と独特の魅力があるものだ。