【冬野梅子】「メイクは“嫌われる顔”をつくるツール。圧を出せれば疲弊しないんです」漫画家ゆえに抱える外見の悩みとは
すっぴんを謳歌していた漫画家・冬野梅子さんにやってきた、突然の「圧のあるメイク」ブーム。
前篇では冬野さんが幼少期から辿ってきたメイク遍歴を紐解き、そこに隠された本音にフィーチャー。後篇ではいよいよ冬野さんが「楽しくてたまらない!」という“圧のあるメイク”の分析と、その効果効能に迫ります。メイクが導いてくれる貫禄が冬野さんにもたらすものとは?
「腹が出てても顔がシュっとしてればいいや」シェーディングに目覚めてメイクが楽しくなった

漫画家の冬野梅子さん。2019年に「清野とおるエッセイ漫画大賞」で期待賞を受賞しデビューするまでは事務員として複数の会社で会社勤めをしていた。初の連載作品『まじめな会社員』は「CREA夜ふかしマンガ大賞2022」大賞、「このマンガがすごい!2023」オンナ編3位など注目を集めた。
――先日、X(旧Twitter)で「人工的な顔」「圧のあるメイク」にハマっていると明かされていましたが……どういうことでしょう?
今年に入ってから急にメイクにハマったので、つぶやいてみました。化粧品を買いたくて色々とサイトを眺めていたら、インスタの動画に出合いまして。海外の人がフェイスラインのシェーディングをガッツリ入れて立体感を出すのが面白くて、それをずっと見ていたら自分でもトライしたくなってきたんです。
そこからさらに動画を深掘りすると、メイクをしている女性たちが“可愛く見せるため”じゃなく、自分なりの何かを目指してやっている感じがしてきて。“顔で遊ぶ”っていうか……。それで化粧品をいくつか購入して真似してみました。ここ3カ月間、遊び感覚でずっと試していましたね。
――では、最初に買ったのはシェーディングアイテムですか?
そうです。海外のリール動画だと何を使っているのかまったく分からなかったので(笑)、とりあえず濃いめのチークやファンデを買ってみたのですが、「あ、これじゃない」と気付くというのを何回も繰り返しました。
私、元々顔の骨格が小さくて、体重的には太っている重さじゃなくても顔がすぐに二重あごになっちゃうんです。顔が一番太って見えるんですよ。顔のために体重を減らすのは面倒くさいので、この際、腹は出ててもいいから顔さえ痩せて見えればいいじゃん、というのがシェーディングを試そうと思ったきっかけです。好きなだけ食べても、顔さえシュッとしてればいいかなって。
最終的には自分で開拓するのを諦めて、インスタで見つけたKANEBOのシャドウオンフェースを買いました。

冬野梅子さんの愛用メイク用品。
――シェーディングを出発点に、冬野さんのメイクへの興味が深まっていったと。
そこからかなりメイク動画を見漁って気付くことがたくさんありました。ハイライトってすごいですよね? ないよりはいいかな程度で塗っていたのが、シェーディングが入ることでハイライトがより際立って見えたので、「あ、こういうことか!」って(笑)。
メイクは1パーツごとに全部理由があるんだというのが理解出来たので、何というか、筋トレにハマりだした人のようです。「タンパク質を食べなくちゃ!」みたいな(笑)。きっとメイク好きな方にとっては初歩中の初歩だと思うんですけど。
メイク動画を作っている人たちのリールなどを見ていて思うんですけど、あの人たちって、可愛く見られるためじゃなくて、動画向けのメイクをしてますよね。撮影用のメイクというか、「あなたの評価が欲しいんじゃなくて、私が作りたい顔を作るためにやってます」という感じ。それって、すごく正しいなぁって思っていて。
叶姉妹に文句つける人はいないでしょう?

『スルーロマンス』全5巻。【あらすじ】元・舞台俳優の待宵マリとフードコーディネーターの菅野翠の共同生活。ともに32歳、同時期に恋に敗れたふたりが、諦め半分に愛を求めつつ、始めるのは女ふたり暮らし。
――誰にも文句を言われないための顔づくり?
はい。可愛く見せるとかじゃなくて、面倒くさいことをごちゃごちゃ言われにくい顔。
それが、「圧」です。誰からも文句を言われない顔、この人に口出ししづらいなぁという顔=圧を私は作っていくべきじゃないかと思いました。
フォロワーが多いわけではありませんが、私は仕事柄SNSもやっているので、作品についていいことも言ってもらえるけど、嫌なことも言われる。じゃあ、日頃から圧のある感じでいれば面倒くさくないんじゃないかって。叶姉妹に文句つける人はいないでしょう?(笑)
――それはやはり漫画家としての処世術ということですよね。
やっぱり私の作品は内容が内容なので、女の自己主張というエセフェミニズムと捉える人もいるんですよね。そうなると、どうしてもそこを攻撃したり、貶めたりする人がいます。だったら、物分かりのいい賢い感じよりもドラァグクイーンのような圧をアピールしたほうがいいんだと思います。
『地雷メイク』ってすごくないですか?

【書きおろしイラスト】冬野梅子さんが考える理想の顔って? ©冬野梅子
――メイクは本当に多様化してきました。今や大きな母数がフォローする“トレンド”は存在せず、誰もが自分なりの、自分が納得できるメイクをしているような気がします。
例えば、『地雷メイク』ってあるじゃないですか。あれも、いわば昔の強いメイクの代替品なのかなと思うんです。「私はメンヘラです」と分からせるほうが強い。きちんと「私、面倒くさい女です」と言い切っちゃうというか。それを敢えてやっているんですよね。そういった意味が分かるようになったのがすごく楽しいです。
――ご自身のメイクの解像度が上がったからこそ、他者のメイクも理解しやすくなったんでしょうか?
そうかもしれません。今まで何を見てきたんだろうって、そんな感じです。みんな、どんどん圧出していってほしい。涙袋とか、ガッツリ作って欲しい。
――冬野先生が考える『人工的な圧のあるメイク』の最高峰はどんなメイクですか?
整形したというのが丸分かりの海外セレブの顔ですかね。多分、男性からも一番嫌われると思うんですが……。整形する=お金があるってことですから、そこも嫌われそう。今更、彼氏の意思で整形する人はいないと思うんですよ。「私は自分の金で自分の好きな顔になる」、いやもしかしたら「男の金で好きな顔にします」みたいな(笑)。めっちゃお金かかってるし、俺の意見まったく聞いてくれない、みたいな感じが最高ですね。
いま一番好きな圧のあるメイクは、リップラインを引いて、そこにピンクの口紅を塗るというメイク。どこの何という製品を使ってつくるのが正解かは分からないんですが、いま好きなのはM.A.C。私が想像する「人の意見を聞かない人」が使うブランドといえばM.A.Cかなと思って(笑)。ヌーディなピンクでちゃんとリップラインを引いて、「私は作り物です」という人工的な感じを出したい。いま、一番目指しているところです。
以前は赤リップが好きだったんですが、アイラインをガッツリ引いて圧を出していく方向にすると、赤リップはセクシーになっちゃうんです。それは違う。どちらかと言えば、嫌われたい。嫌われる顔を作りたい、という感じですね。
――ちなみに、好きなメイクアップアーティストさんはいらっしゃいますか?
最近知った小田切ヒロさんをよく見てます。今年に入ってからはブラシもたくさん買いました。とにかく小田切さんはブラシを使うっておっしゃるので(笑)。
――冬野さんは漫画家なので、絵を描くことがお仕事。「顔はキャンパス」とよく言われますが、そのあたりの共通点は感じられますか?
やることに意味があるのは一緒だなと思います。絵を描いてて、意味のない影をつけたりするとやっぱり変になるんです。適当にトーンを塗ったりすると「あれ?」ってことになる。プロのメイクさんがやっていることを見ていても、全部意味があることなんです。ようやくそれに気づきました。
絶対『まじめな会社員』の主人公と同じタイプと思われている

「私の作品は“エセフェミニズム”と曲解される場合もあるから、そこを攻撃したり、貶めたりする人がいます。だったら、物分かりのいい賢い感じよりもドラァグクイーンのような圧をアピールしたほうがいい」
――メイクはシーンによって変えていますか?
プライベートでは関係も出来上がっているので、メイクに左右されることはないと思うんです。プライベートでのメイクは趣味程度ですかね。圧は出していかなくても大丈夫。
そして仕事でも会うのは編集者の方なので、ちゃんとした人に見えるメイクで行きますから、圧はかけない方向です。遊びに来ていると思われても良くないと思うので、落ち着いた赤すぎないリップとかオレンジ系のリップにします。アイラインも引かず、眉毛もむしろちゃんと描きます。
初めて会う人には自分の作品から想定されている作家像に寄せるか、ずらすかも考えながらメイクをしています。絶対『まじめな会社員』の主人公と同じタイプと思われているので、最初の頃は白いワンピースとかを着て、「優しそうで、なおかつ自信もありそうな感じ」にしようと思っていました。作家像とギャップがあるほうが本が売れそうって思って(笑)。
他者と程よく距離感をとるためのメイク術が身についた

『まじめな会社員』全4巻。【あらすじ】30歳の契約社員・菊池あみ子。彼氏は5年いない。いろんな生き方が提示される時代とはいえ、結婚せずにいる自分へ向けられる世間の厳しい目を、意識せずにはいられない。それでもコツコツと自分なりに築いてきた人間関係が、コロナで急に失われたら……?
――冬野さんにとって、メイクをするという行為は社会との関わりにおいて“見せたい自分”を作るツールのひとつという認識でしょうか。
そうだと思います。今のマイブームは“圧”なので、相手に文句を言わせないというか、自分が疲弊しないため、無駄に疲れないためにするもの、と捉えています。他者との間にひとつ“壁”を作って、舐められないというか、バカにされないためというか……。程よく距離感が取れるようなところを狙っています。

「“話の通じなさそうな人になる”ことを目指しています」
――20代は会社員として抑圧された自分を解放するための自己表現のように伺えましたが、そこから変化してきたんですね。
多分仕事とは関係なく、20代の頃から反転したのだと思うんです。20代は他人から意見を言われやすいし、若いというだけでアドバイスをされやすい。それを10年くらい経験して、30代になると「あ、アドバイスは受けなくていい、されなくていいんだ」と気づいた。人からの意見は自分が聞きたいときに聞けばいいことで、そう思ってからは「文句を言われたくない」という方向へシフトしたのだと思います。
20代で「意見の言われやすさ」「話の通じそうな感じ」からくる弊害を学んだので、今は話の通じなさそうな人になることを目指すという感覚です。
――そう考えると、メイクができることの振れ幅は想像よりも広いように感じます。
はい。私にとってメイクは“楽しい”より“面白い”のかもしれないですね。
――これからチャレンジしたいメイクはありますか?
もともとはカラーマスカラとかが好きなので、今のメイクに飽きたら、またチークとカラーマスカラとファンデーションだけ、みたいな感じになりそうな気がします。眉毛を薄く描いて、まつ毛はピンクにしつつ、やっぱり“圧”を出していく方向はキープしていくと思います。
昔は「化粧をしたのに可愛くならない」と落ち込んだりしていましたが、今欲しいのは貫禄。可愛いにはもうならないし、そもそも求めないので落ち込まないんです。圧のある方向を作るために眉毛なんかを強めに描けば貫禄のある感じにも仕上がるので、自分のなかの100点に到達するのが早い。
ただ、年齢を意識したメイクは、それはそれで面白いと思うので、ベースメイクなんかは年相応みたいなところを狙っていきたいですね。さらに年を重ねれば嫌でも貫禄が出そうだから、もしかしたら圧を追求しながら可愛いメイクもできるのかも……と思っています(笑)。
≫はじめから読む:「なんでブスに産んだんだ! と親を問い詰めた」漫画家・冬野梅子とメイクの出会い

私にとってメイクは“楽しい”より“面白い”のかもしれない。
冬野梅子(ふゆの・うめこ)
2019年『マッチングアプリで会った人だろ!』で 「清野とおるエッセイ漫画大賞」期待賞を受賞。その後、『普通の人でいいのに!』(モーニング月例賞2020年5月期奨励賞受賞作)がTwitterを中心に話題に。「CREA」2022年秋号で『まじめな会社員』(講談社)が夜ふかしマンガ大賞1位を受賞。ほか著作にエッセイ「東北っぽいね」、『スルーロマンス』など。
X:@umek3o
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