外国人観光客が「東京葛飾区」に熱狂しているワケ
『こち亀』の聖地、葛飾区亀有へ
名作漫画、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(通称『こち亀』)。
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亀有出身である作者の秋本治さんが、1976年から『週刊少年ジャンプ』で連載を開始し、2016年の連載終了まで40年にわたって続いた作品です。
「亀有公園前派出所」に勤務する主人公の警察官「両さん」こと両津勘吉と、その周辺の人物が騒動を巻き起こす、一話完結のギャグ漫画。単行本は実に201巻にまで及び、「最も発行巻数が多い単一漫画シリーズ」としてギネス世界記録に認定されていました(現在は『ゴルゴ13』がこれを抜いて世界記録となっています)。
連載20周年となる1996年からアニメ化され、2004年までの8年間、テレビアニメとしても放送されて、人気を博しました。
『こち亀』の読者の年代は幅広く、特にアニメ化されて以降、若年層にも広がりました。連載時代は、その時世に合わせた流行や趣味をテーマにした作品が多く、凝り性な両さんの性格とあいまって、それらがとことん掘り下げられているのも魅力です。
筆者も中学生の頃から愛読していて、毎週『ジャンプ』で新作を読むのを楽しみにしていた世代。両さんの巻き起こすドタバタが、時にスカッとして爽快でした。
また、社会人になってからも、国内出張先の空港の書店で、ご褒美代わりに単行本の新作を買い、帰りの機内で一気に読み終える、という習慣も一時期あったほどでした。
そんな『こち亀』の聖地、JR常磐線の亀有駅周辺には、両さんをはじめ各キャラクターの銅像が街角のあちこちに立っています。商店街や区では「銅像巡りマップ」を配布し、巡礼者に楽しんでもらう趣向も。

亀有駅南口を出ると、『こち亀』の人気キャラクターたちが勢揃いで出迎えてくれます(筆者撮影)
亀有駅北口から歩いて3分のところに実在する「亀有公園」にも銅像がベンチに座っています。ちなみに、この公園の前には作中のように「派出所」(現在は「交番」という名称ですが)は存在せず、駅前に戻ると、昔ながらの雰囲気の「KOBAN」が現役で活躍しています。

一方、北口を出てすぐの場所にある「亀有公園」には、こんな楽しい仕掛けも(筆者撮影)

駅前にある交番。今にも“両さん”が出てきそうです(筆者撮影)
台湾からの観光客が多い神社
また、亀有駅南口から続く商店街の奥、作中にもよく登場する環七通りを渡った先に、「亀有香取神社」があります。ここでは、キャラクターをデザインした御朱印や絵馬が入手でき、ファンにとっては文字通り「聖地」となっています。
神社の権禰宜で、神社でのコンテンツ活用を研究している長谷部晴彦さんによると、現在、参拝客の3分の1ぐらいが、いわゆる「聖地巡礼」を目的としているのでは、とのこと。
最近では台湾でも『こち亀』が放送されていることから、日によっては台湾からの「聖地巡礼観光客」が日本人よりも多いことがあるようです。

商店街には「こち亀」とのコラボバーガーも売られていました(筆者撮影)

亀有駅南口から商店街を抜けると「亀有香取神社」があります(筆者撮影)
さらに、今年3月、環七通りを渡って戻ったところに「こち亀記念館」がオープンしました。両さんが、自分の勤務する派出所の上に、自分の記念館を建てちゃった、というストーリー。
作品や、舞台となった亀有の魅力を楽しみながら体感できる観光施設です。1階の入り口には、『こち亀』の世界観そのままの「派出所」の風景が。どことなく、昭和の懐かしい雰囲気に浸ることができます。

“派出所”の上に建つ「こち亀記念館」(筆者撮影)

亀有で地元の人たちに愛される和菓子屋「葛飾伊勢屋」。『こち亀』のキャラクターが描かれた限定土産も取り扱っています(筆者撮影)
『こち亀』以外にも、「葛飾」といえば“この名作”
さて、葛飾といえば、筆者が真っ先に思い浮かべるのが、レジェンド映画『男はつらいよ』シリーズです。
ご存じ山田洋次監督、渥美清さん主演の映画シリーズで、1969年の第1作から、1995年の第48作までが製作され、ここ葛飾柴又の街が舞台となり、主人公・車寅次郎の旅の出発点となりました。
亀有駅の隣、JR金町駅と駅前広場を挟んで発着する京成金町線は、高砂駅までの2駅を往復するだけのミニ路線。東京のど真ん中にありながら、旅情を感じる素敵な電車です。
金町線唯一の中間駅である柴又駅で降り立つと、駅前には「寅次郎」と「さくら」兄妹の銅像が。電車に乗って旅立つ寅さんを見送るようなシチュエーションで、思わず映画の世界に引き込まれます。
そしてそこから柴又帝釈天に続く参道は、ロケ地にもなった草だんご屋さんはもちろん、昔ながらの店が立ち並んでいて、さながら「昭和のテーマパーク」のよう。

柴又駅前に建つ、「さくら」と「寅次郎」の銅像(筆者撮影)

柴又帝釈天に続く参道は、まさに「寅さん」の世界(筆者撮影)

ロケ地になっただんご屋さんは現存しています(筆者撮影)
そして、柴又帝釈天から江戸川の河川敷に向かう途中には、「寅さん記念館」があります。こちらも、今年4月にリニューアルオープンしました。
館内には、撮影で実際に使用された「くるまや」のセットがそのまま撮影所から移設されており、帝釈天参道から続いてきた世界観をそのまま引き継ぐ、寅さんファンには嬉しい仕掛けとなっています。

『男はつらいよ』にも登場する「柴又帝釈天」(筆者撮影)

「葛飾柴又寅さん記念館」には、実際に使用されていた映画のセットや小道具が展示されています(写真:khadoma/PIXTA)
ジダンも憧れる『キャプテン翼』の聖地・四ツ木
そしてもう1つ忘れてはならない、葛飾を代表するアニメコンテンツが『キャプテン翼』です。
柴又駅の隣駅、京成高砂駅で乗り換えて青砥駅へ。葛飾区は作者の高橋陽一さんの出身地であり、青砥駅から近い「南葛飾高校」が母校であることから、主人公の「大空翼」が活躍する「南葛高校」という名前が生まれました。
実際に作中に登場する南葛高校がある場所は静岡県の設定ですが、『キャプテン翼』の聖地といえば、ここ葛飾区。青砥駅の隣駅、押上線の京成立石駅から四ツ木駅周辺には、高橋陽一さんの出身地ということで、キャラクターの家のモデルとなった場所が点在しています。

まさに「キャプ翼」の聖地……!(筆者撮影)
中でも四ツ木駅は、完全に「キャプテン翼駅」と化しています。電車の接近を知らせるメロディには主題歌が使われており、アナウンスは「大空翼」と「日向小次郎」の声。ホームや改札口に続く階段など、至るところにキャラクターがいます。
改札口の前は、まるでサッカーのピッチに立っているかのような装飾という徹底ぶりです。そして、駅構内には記念撮影コーナーや名選手のサインが入った南葛高校のユニホームが展示されているなど、『キャプ翼』一色の駅となっています。

写真撮影ができるコーナーまで設置されています(筆者撮影)
駅から近い、その名も「四つ木つばさ公園」では、「大空翼」の等身大サイズの銅像がファンを出迎えてくれます。駅には『こち亀』同様に、「銅像マップ」が設置されていますが、日本語版の他、多言語版でも用意されています。
元フランス代表選手のジダン氏をはじめ、世界的なプレイヤーが「自分がサッカーを始めたきっかけである」と言った作品であるだけに、特にヨーロッパからの観光客を集めているようです。
外国人観光客が葛飾区で訪れるスポット
その他、葛飾区には世界的なおもちゃメーカー「タカラトミー」があることから、「リカちゃん」(1967年~)や「トミカ」(1970年~)、さらに同社が世界に誇る「ベイブレード」(1999年~)の聖地としても知られています。
京成青砥駅の近くには、それら作品がデザインされたマンホールがあり、「聖地巡礼」の観光客を集めています。

青砥駅周辺に設置された「リカちゃん」マンホール(出所:葛飾区公式サイトより)
また、「モンチッチ」(1974年~)を生み出した会社(株式会社セキグチ)が区内新小岩にあることから、「モンチッチに会えるまち かつしか」としても売り出し中です。
葛飾区を訪れる外国人観光客は、聖地巡礼を目的とした人の割合が多くなっています。
「寅さん記念館」(外国人観光客全体の48%が訪れた、と回答)をはじめ、「両さん像(同34%)」、「寅次郎とさくら像」(36%)、「キャプテン翼像」(27%)など、映画やアニメのゆかりの地として楽しむ外国人観光客が多いようです(平成29年度「葛飾区観光経済実態調査」調査結果より)。

「亀有公園」に設置された「こち亀記念館」の誘導サイン。まさに街をあげて盛り上げています(筆者撮影)

四ツ木駅そばに設置された案内図(筆者撮影)
昔ながらの風景をそのまま残す、懐かしくて身近なイメージのある葛飾。
『こち亀』や『男はつらいよ』は、この葛飾を舞台にしたことで、リアリティが深まっていると言えます。そこに世界的なコンテンツである『キャプテン翼』などのキャラクターが加わることで、外国人観光客も集める「コンテンツの街」として注目される可能性を大いに持っていると思います。
成田空港からは京成電車に乗って直通でアクセスできる、立地も抜群の葛飾。下町の盛り上がりに、これからの日本のコンテンツ産業を拡大していくヒントが隠されているかもしれません。