「静かすぎる」EVの代償――最新研究が暴いた警報音トラブル、「音の死角」を考える

EV急増時代の警報音対策

 電気自動車(EV)やモーター走行時のハイブリッド車(HV)は、内燃機関車に比べて走行時の音が格段に静かである。そのため、歩行者や自転車に気づかれにくいという安全上の課題がある。この問題に対応するため、低速走行時には車両接近通報装置(AVAS)が作動し、警報音を発する仕組みとなっている。

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 現在のEVおよびHVは、国際規格に基づいた音響警報システムを採用している。例えば、欧州、中国、日本では、時速20km未満で走行する車両に対し、歩行者や自転車がその存在を認識できるよう、音またはノイズの発信が義務付けられている。一方、米国ではその上限速度は時速30kmと定められている。

 EVの普及が進むなか、街中で複数のEVに囲まれる場面も増えてきた。つまり、同時に複数のAVASが作動し、警報音が重なる状況が現実のものとなりつつある。我々の聴覚は、こうした音の重なりのなかで、それぞれの車両の位置を正確に把握できるのだろうか。静音性というメリットの裏で、新たな課題が浮かび上がっている。

試験環境と実交通の乖離問題

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自動車(画像:Pexels)

 スウェーデンのチャルマース工科大学の研究チームは、2025年3月に『The Journal of the Acoustical Society of America』で新たな研究結果を発表した。

 歩行者は、複数のEVやHVが近くを走行している場面で、それぞれの警報音を聞き分けにくい。どの方向から危険が迫っているのか、何台の車がいるのかを判断できないことが報告されている。

 同大学建築土木工学部の博士課程に所属するレオン・ミュラー氏は、スーパーマーケットの駐車場を例に挙げた。現在は、同じAVASを搭載した類似車両が、異なる方向から同時に走行することも珍しくない。そうした環境下では、AVASの音が識別されにくく、メーカーにはより認識されやすい音の開発が求められているという。

 音響学教授のヴォルフガング・クロップ氏は、車両ごとに個性的な警報音の設計は可能だとした。ただし、現在の試験環境は背景雑音の影響を考慮していないケースが多い。実際の交通環境では、さまざまな雑音が入り交じっており、AVASの効果が十分に発揮されない可能性があると指摘している。

EV接近音の識別限界

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自動車(画像:Pexels)

 現実の環境でAVASの警報音は実際にどう聞こえているのか。この疑問を検証するため、チャルマース音響研究所では52人の被験者を対象に実験を実施した。場所は防音無響室で、実験は大型駐車場などの実際の状況を再現することを目的としている。

 被験者は部屋の中央に立ち、胸の高さに24台のスピーカーがリング状に配置された。そのスピーカーから、EV、HV、内燃機関車を模した3種類の車両音が、1台・2台・複数台の条件で再生された。EVとHVの警報音は、2音色構成、多音色構成、単純ノイズの3タイプに分けられた。

 再生音には静かな市街地の駐車場で録音された背景雑音を混ぜ、車両音は約7.5m離れた位置から流された。被験者は音が聞こえた方向をできるだけ速く指し示すよう求められた。

 実験の結果、3台の車両が同時に2音色の警報音を発したケースでは、音の方向を把握するのが最も困難だった。制限時間10秒以内にすべての警報音を特定できた被験者はいなかった。ミュラー氏は

「EVが内燃機関車より静かなのは歓迎すべきだが、安全性とのバランスを取ることが重要だ」

と語る。実際、EVやHVのAVAS音は識別しにくかった一方で、内燃機関車のエンジン音は被験者が容易に聞き取れたという。

 同氏によれば、内燃機関車の音は広い周波数帯域を含む短いパルスで構成され、単一周波数で構成されたAVAS音よりも人間の聴覚に入りやすい。また、この音に対する“慣れ”が認識のしやすさを後押ししている可能性もある。

次世代AVAS開発の必要性

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論文「Auditory localization of multiple stationary electric vehicles(複数の静止した電気自動車の聴覚定位)」(画像:The Journal of the Acoustical Society of America)

 実際に機械が生むエンジン音と、スピーカーが鳴らすAVAS音とでは、耳に届く“存在感”が根本的に異なる。これまでの研究は

・検知可能性

・検知距離

に焦点を当ててきたが、2~3台の車両が同じ警報信号を同時に発した場合の影響を調べたのは今回が初めてだ。研究チームは、EVが関与する交通環境で人がどう反応するのかを解明する必要性を強調する。クロップ教授は

「交通安全の観点からいえば、検知と位置特定に可能な限り効果的でありながら、人々に悪影響を与えない警報音を見つけることが望まれています」

と語る。同教授によれば、これは従来の交通騒音研究でも裏づけられている。

 現在、チームはAVAS音がどのように認識され、歩行者以外の周辺住民にどんな影響を及ぼすかを調査中だ。実環境で的確に聞き分けられる新しい警報サウンドの早期実用化が待たれる。