山下達郎のCM曲も「新型ムーヴ」に漂う80年代感

こだわりを持ってきた歴代のデザイン, 「カスタム」から「アナザースタイル」へ, ターゲットユーザーへの配慮が見えるインテリア, ダイハツ独自のパッケージは功を奏すか?

4つあるグレードのうち、下から2番目の「X」に試乗した。ボディカラーはスカイブルーメタリック(筆者撮影)

ダイハツ工業にとってひさびさの新型車になった、通算7代目となる新型「ムーヴ」は、「もう一度、心が動き出す。MOVE ON.」というキャッチコピー、デビュー30周年のアピールなど、初代を知るベテランドライバーを対象にしているような印象だ。

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発表を伝えるニュースリリースでも、あらゆる消費文化を経験してきた「目利き」世代、中でも「メリハリ堅実層」をターゲットに設定したとしている。

それを象徴しているのが、山下達郎氏による書き下ろし楽曲「MOVE ON」と、永井博氏によるイラストを起用し、「あの頃」を思い出させるようなノスタルジックな世界観を表現したテレビCMだろう。

メディア向け試乗会で目にした実車の外観からも、この方向性を感じた。

こだわりを持ってきた歴代のデザイン

エッジを利かせたデザインが、初代ムーヴのデビュー時に20代だった人がクルマに興味を持ち始めたであろう、1970〜1980年代の車種を思い出させたからだ。

ムーヴは、初代がイタリアのデザインスタジオI.DE.A(イデア)、2代目はジョルジェット・ジウジアーロが率いるイタルデザインがかかわるなど、昔から造形についてはこだわりがあった。

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「ムーヴ」は1995年に誕生し、今回の新型で7代目となる(ダイハツ発表資料より)

1993年に登場し、ハイトワゴンというスタイルを確立した先発のスズキ「ワゴンR」とは異なり、リアゲートを横開きとするなどの独自性も備えていた。

ただ最近は、さらに背の高い「タント」が主力になったことを受けて、スタイリングについては当初の勢いが失われつつあるような感じを受けていたのも事実。先代からはリアゲートも一般的な跳ね上げ式になった。

それが新型ではなぜ、動きを感じさせるフォルムになったのか。試乗会で開発スタッフから聞いたのは、「ムーヴ キャンバス」の存在が大きかったという言葉だった。

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ムーヴ キャンバスは、ムーヴファミリーとして初めてスライドドアを備えたモデルだ。

女性ユーザーを意識した、癒し系のエクステリアやインテリアも特徴であるが、ユーザーの購入の決め手となったのは、スライドドアの存在が大きかったという。

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レトロ風のデザインやボディカラーで人気を博す「ムーヴ キャンバス」(写真:ダイハツ工業)

そこでダイハツでは、ムーヴ キャンバスのパッケージングを生かしながら、「静」のムーヴ キャンバスに対する「動」の造形を与えて、ベテランの男性ユーザーにも受ける姿を目指した。それが新型ムーヴになったというわけだ。

現在はユーザーの嗜好が多様化しているが、1970〜1980年代は、今よりも若者のクルマへの熱量は高く、「スポーティなクルマがカッコいい」という意見が、今よりはるかに多かった。運転免許保有者の男女比も、およそ7:3と男性比率が高かった時代だ。

新型ムーヴの、いかにも走りそうなシャープなフォルムは、そんな時代にクルマに興味を持ち始めた人たちの好みを反映していると感じられたのである。

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今回、試乗したXグレードの全景。随所にシャープなディテールが見える(筆者撮影)

全体的には線の多いビジーなデザインで、個人的にはもう少しすっきりさせてほしいと思ったが、心配性が多い日本人は、作り手も買い手も要素が多いほうが安心すると筆者は考えているので、ユーザーの好みに合った造形ともいえる。

「ムーヴらしさ」として、開発スタッフはリアの縦型コンビランプを挙げた。ただし、新型のそれは一直線ではなく、下側が内側にカーブしている。

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テールゲートは「跳ね上げ式」を踏襲する(筆者撮影)

前後のバンパーコーナーの三角形を統一させ、全体として一体感を出したことは評価できるものの、先代まではルーフからバンパーレベルまで貫いていたので、「らしさ」にこだわるなら、そのスタイルを継承してほしかった。

「カスタム」から「アナザースタイル」へ

新型ムーヴでは、初代に「裏ムーヴ」として設定されて以来、先代までラインナップされてきた「カスタム」が消滅したことにも気づく。

会社の事情を反映したという意見もあるが、個人的には他のブランドを含めてカスタムバージョンには好感を抱いていない。

もっとオリジナルデザインに目を向けてほしいという気持ちがあったので、「アナザースタイル」としてライトなカスタムにとどめたのは、好ましいと思っている。

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アナザースタイルのひとつ「RSダンディスポーツスタイル」(筆者撮影)

ターゲットユーザーへの配慮が見えるインテリア

インテリアは、メーターやシフトレバーなどのレイアウトこそムーヴ キャンバスと共通だが、エクステリア同様、エッジを利かせた造形で、動きを感じさせる空間になっていた。

それでいて試乗した「X」グレードでは、ベージュやブラウンを起用したカラーコーディネートで落ち着いていて、ターゲットユーザーに配慮したことがうかがえる。

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「ムーヴ キャンバス」の構造を使いながら独自性のあるデザインとしたインテリア(筆者撮影)

上級グレードの「G」や「RS」では、なぜかシートカラーのみブルーになるので、Xのコーディネートのほうが、まとまりがあると感じた。

それとともに感じたのが、インパネ上面に無駄な出っ張りがなく、センターディスプレイの高さも抑えてあって、見切りがしやすそうなことだ。

ダウンサイジングで軽自動車を選ぶベテランユーザーを想定しているのかもしれない。

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Lグレードを除き、シートリフターとチルトステアリングは標準装備される(筆者撮影)

タントと比べると、当然ながらシートのヒップポイントは低めで、インパネやフロア、ルーフとの関係は、スーパーハイトワゴンより自然に感じられる。ドライビングポジションも適正だった。

また、シートが最近のクルマとしては驚くほどふっかりしており、心地よい。

後席は、スライドとリクライニング、背もたれの前倒しが可能。スライドを最後方にして身長170cmの筆者が座ると、足が組めるほど広かった。

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リアシートは左右独立でそれぞれ240mmのロングスライドが可能(筆者撮影)

タントのようなスーパーハイトワゴンでは、後席足元にベビーカーを畳まずに収めるような使い方を想定しているようだが、純粋に座る機能だけを考えれば、新型ムーヴの空間で十分以上だと感じる。

新型タントは、ドアトリムにも工夫がある。スライドドアを採用すると、当然ながら車両重量が増加してしまう。そこで、内側に発泡構造とした素材を起用することで、軽量化を実現しているのだ。

これまでトラックに用いられていた素材だといい、一体成型で表面は硬い一方、内部が発泡構造となるため、強度と軽さを両立しているとのこと。軽自動車ならではのテクノロジーといえよう。

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荷室のフロア下には収納(ラゲージアンダーボックス)がある(筆者撮影)

その結果、試乗したX・2WDの車両重量は860kgと、ムーヴ キャンバスの同等グレードより10kg軽くなっている。

ただし、自然吸気エンジンとの組み合わせでは、加速は控えめだ。スタイリングにふさわしい疾走感を求めるなら、ターボを選んだほうがいいかもしれない。

こだわりを持ってきた歴代のデザイン, 「カスタム」から「アナザースタイル」へ, ターゲットユーザーへの配慮が見えるインテリア, ダイハツ独自のパッケージは功を奏すか?

ターボエンジンは2WD/4WDともに最上級のRSのみ。写真はRSノーブルシックスタイル(筆者撮影)

感心したのは乗り心地とハンドリングのバランスで、足回りは日常的なシーンでの快適性を保ちつつ、ペースを上げると安定性があり、ステアリングが速度に応じて手応えが増す設定であることが好ましかった。

タントやムーヴ キャンバスと比べると、エンジン以外は走りを意識したチューニングであることは明らかだ。

ダイハツ独自のパッケージは功を奏すか?

軽自動車は、以前からターゲットユーザーを絞り込み、それに合わせた明確な作り込みが際立っていた。

新型ムーヴはそれをベテランの男性ユーザーに向けたことが、見た目からも走りからもしっかり伝わってくる。

「スライドドアのハイトワゴン」というダイハツ独自のパッケージとあわせて、ライバルたちへの競争力となるだろう。

【写真】シャープに生まれ変わった新型「ムーヴ」の内外装をもう一度チェック!(50枚)