宮崎民グチる「ニセモノのチキン南蛮」"事情"

おぐらで食べずしてチキン南蛮を語ることなかれ(筆者撮影)
そのチキン南蛮、“本物”ですか…?
近年ではその人気が全国区となった、宮崎のご当地グルメとして知られるチキン南蛮。今や県外の飲食店でも提供されることもめずらしくなく、宮崎を訪れたことがなくともチキン南蛮を食べたことのある人は多いだろう。
【写真を見る】おぐらのチキン南蛮はこんな感じ。その他、人気メニューのちゃんぽんの画像も。
一方で、県外の飲食店では、チキン南蛮と似て非なる“チキン南蛮もどき”も少なくないと聞く。チキン南蛮を注文したはずが、鶏の唐揚げにタルタルソースをかけたメニューが出てきて卒倒したという宮崎県民は後を絶たないという。
筆者は宮崎出身、在住であるが、県外に出た友人たちは帰省のたびにこぞって新天地で出会ったチキン南蛮のショックを愚痴る。
確かに「鶏の唐揚げ タルタルソースがけ」でも悪くないかもしれない。「それはそれで普通においしかった」という感想もあるかもしれない。
しかし、チキン南蛮のポテンシャルはその程度のものではないのだ。ぜひ、本場のチキン南蛮を食べて、あなたの“チキン南蛮観”をアップデートしてもらいたい。

▲おぐら瀬頭店(撮影:横田ちえ)
今回ご紹介するのは、おぐら瀬頭店。おぐらは宮崎市に2店舗(本店、瀬頭店)を展開し、チキン南蛮の元祖として知られている。
本店は、宮崎市の目抜き通りである橘通近くで営業し、宮崎駅から歩いて10分ほど。ビジネス街もほど近いため、出張で訪れた際には本店の方が訪れやすいと思われがちだが、瀬頭店も宮崎駅から15分ほどと交通アクセスは決して悪くはない。

▲ゆとりある空間で心ゆくまで食事を楽しめる(撮影:横田ちえ)
さらに、本店にはない駐車場が整備されており、車での移動が多い場合は重宝するだろう。また、店内空間が広く、ゆったりとした席配置である点も高ポイントだ。なので、今回は瀬頭店を取り上げる。
ちなみに、県北部の延岡市にもチキン南蛮を看板メニューとする「おぐら」が3店舗あるが、これは創業者家族によって分社されたことによるものだそう。食べ比べてみるのも良いかもしれない。
たたずまいは「THE 昭和のファミリーレストラン」
開店少し前に到着したが、平日にもかかわらず駐車場は埋まりつつあり、「わ」ナンバーや県外ナンバーの車も多い。店の前ではオープンを待つ人々が列をなしている。観光客や出張で宮崎を訪れているビジネスパーソンらしき客に加えて、地元客も多いようだ。チキン南蛮が全国区の人気になってもブレることなく、そのおいしさを追求し、守り続けていることの証だろう。

▲かつてはテレビCMが放送されており、「おぐらのおじさん」も出演していた(筆者撮影)
入り口に並んでいると、すぐ横の外壁に掲げられたコック帽をかぶったおじさんのロゴマークが目についた。八の字眉がなんとも愛らしいこのおじさんは創業者の故甲斐義光氏をモチーフとしており、「おぐらのおじさん」として長年にわたって県民に親しまれている。店内のあちこちにおじさんが潜んでいるので、ぜひ探してみてほしい。

▲令和ではなかなか見かけない大胆なデザインが目を惹く(筆者撮影)
店の外観は懐かしい昭和のファミリーレストランといった雰囲気で、テラコッタ色の屋根とトーテムポールをモチーフにしたカラフルな柱が南国感を力強く演出している。
開店時刻の11時になると同時に、店員さんが手際よくお客さんを店内に案内していく。店内は広々としていてソファ席や座敷席が多く、ゆったりと過ごせる。まぶしいオレンジ色のソファに青空が描かれた天井、レトロな置物たち……ごちゃまぜなインテリアがどこか実家を思わせて、妙に落ち着く。店内BGMではJ-POPが流れ、のんびりとした南国っぽい雰囲気も醸し出している。

▲子どもから大人まで楽しめるメニューがずらり(筆者撮影)
メニューはチキン南蛮を筆頭に、カレーやチキンカツといった「洋食」、しょうが焼き定食や天ぷら定食といった「定食物」、えびフライ丼や牛丼といった「丼物」など、多種多様に展開されている。
もちろん注文するのはチキン南蛮……いや「おぐらのチキン南蛮」だ。店名を冠したメニュー名、「昭和34年より守り続けた伝統の味」の説明書きも相まって、そんじょそこらのぽっと出のチキン南蛮との格の違いをまざまざと感じさせられる。
おいしさの理由はひたひたの甘酢、濃厚タルタルソース
オーダーはデジタル化されておらず(※取材時点)、パリッと糊の効いた白いシャツに蝶ネクタイの制服をまとった店員さんが注文を聞きにきてくれた。しばらく待ち、「お待たせしました!」の声とともに運ばれてきたのがこちら。
※編集部注 この取材の後、2025年7月18日より「おぐら瀬頭店」では注文用タブレットが導入された。

▲「おぐらのチキン南蛮」(1,400円)(筆者撮影)
何度も食べたことがあるにもかかわらず、運ばれてくると思わず「おお!」と感嘆の声を上げてしまう堂々たるたたずまい。直径30cm近い大皿に黄金色の鶏肉が鎮座し、タルタルソースが惜しげもなくたっぷりとかけられている。その背後では、千切りキャベツとナポリタンがどっしりとチキン南蛮を支えており、峰のごとくそびえ立つ。
さっそくナイフを入れてみると、胸肉を使用しているとは思えないほど刃先がやさしく沈んでいく(ちなみに、宮崎においてチキン南蛮はもも肉派と胸肉派に分かれ、おぐらは胸肉派の代表格として広く知られている)。

▲これが“本物”のチキン南蛮だ(筆者撮影)
さっそくひと切れを口に運ぶと、噛み締めるたび甘酢の豊かな風味と香り、胸肉ならではのうまみが何度も繰り返される。
そう。単なる「鶏の唐揚げ タルタルソースがけ」とは決定的に違う所以がここにある。
それは、唐揚げとは違い、小麦粉の後に卵液にくぐらせて鶏肉を揚げているということ。そのおかげで衣にはひたひたに甘酢が染み込み、口あたりがやさしくなる。やわらかな衣を噛み締めると、じゅわっと甘酢が口の中に広がった。甘酢はしっかりと甘く、その奥に穏やかな酸味が感じられる。
店員さんにおいしさの秘訣を尋ねたところ、「若鶏の胸肉をよく揚げて、甘酢にしっかりと漬け込むこと」との答えが返ってきた。なるほど、これは確かにしっかりと漬け込まれている。

▲たっぷりのタルタルソース。後半に足りなくなることもない(筆者撮影)
さらに、鶏肉を覆わんばかりのタルタルソースにも注目したい。甘酢に負けず劣らずしっかりと甘く、酸味は控えめで濃厚だが、しつこさはない。具材は小さく刻まれているので舌触りがなめらかで、主役となる鶏肉の味わいを邪魔しないのも良い。ソースの粘度が高く、鶏肉にしっかりと絡み、食べ進めるごとにもう一口と箸が止まらなくなる。

▲チキン南蛮とのラリーを存分に楽しめる量(筆者撮影)
そして、大皿の隣にはもうひとつの峰、白米の山がそびえる。この令和の米騒動真っ只中に、一切の遠慮がないこの盛りっぷり。タルタルソースをたっぷり絡めた濃厚なチキン南蛮ひと切れを口に頬張り、間髪入れずにごはんをかき込めば、もう箸が止まらない。チキン南蛮をバウンドさせ、甘酢とタルタルソースをなじませたところを一気に食らうのもまた一興だ。

▲千切りキャベツもナポリタンもたっぷり(筆者撮影)
チキン南蛮の背後に構えるナポリタンと千切りキャベツも、つけあわせと呼ぶにはもったいないほどの存在感を放つ。オレンジ色のサウザンアイランドドレッシングがかかった千切りキャベツはみずみずしく、ちょうど良い箸休めに。量も多く、チキン南蛮の濃厚さをさりげなく中和してくれる。ナポリタンは、ごはんが進む甘めで濃い味だ。ジャンク感のある鮮やかな赤い色がどこか昔懐かしく、お弁当に入っていたら絶対うれしいタイプだろう。
名物はチキン南蛮だけとあなどるなかれ
実はおぐらには他にも隠れた名物があるのをご存じだろうか。それは「ちゃんぽん」だ。「チキン南蛮よりちゃんぽん派」の県民も意外と多く、チキン南蛮を制した暁にはぜひちゃんぽんにもトライしていただきたい。

おぐら特製ちゃんぽん(980円)(撮影:横田ちえ)
ちゃんぽんは、直径約21cmの超巨大どんぶりでどーんと登場。レンゲも今まで見たことないような巨大さだ。具材はかまぼこ、たこ、豚肉、ちくわ、ゆでたまご、きくらげ、人参、もやし、キャベツ、ニラ、玉ねぎ(具の種類は変わることも)。下の麺が見えないほどたっぷり乗せられ、上にゴマ、コショウが振りかけられている。

とろみのあるスープ(撮影:横田ちえ)
スープには肉や魚介、野菜と、具材のいろんな旨みが溶け込んでいる。飲んでみると、とろんとクリーミーで優しい口当たりの後から、ガッツリと旨みとコクがやってくる。

ちゃんぽん麺は自家製(撮影:横田ちえ)
麺の食感は滑らかながら、適度な弾力がある。もやしやキャベツのシャキシャキ感、きくらげのコリコリ感と共に食べ進めると食べ飽きないおいしさだ。
近くには意外な観光名所も
瀬頭店は、県庁や市役所など官公庁も近い。実は宮崎県庁本館は、現役の都道府県庁舎としては全国で4番目に古く、昭和7(1932)年に建築された宮崎を代表する歴史的建造物のひとつ。国登録有形文化財にも指定されている。

宮崎県庁本館(筆者撮影)
正面玄関前に立つと思わず圧倒されそうになる、ネオ・ゴシック様式の堅牢で堂々たるたたずまい。入ってすぐの大階段には県北部の五ヶ瀬町鞍岡祇園山から切り出された大理石が使用され、ハチノスサンゴやウミユリの化石などを見ることもできる。執務室を除く県庁本館は自由に見学することが可能なので、時間が許せば足を運んでみても良いだろう。