小泉「給水車も出す」発言にコメ農家「本気なのか、冗談なのか…」とあきれ 干上がる水田に「心配で夜も寝られず」

■小泉農水相は「必要があれば給水車も出します」, ■必要な給水車は何台?, ■水田は干上がり、稲は枯れ始めた, ■あまりに米作りを知らない, ■2年前の「悪夢」再び, ■水があっても…温水で「風呂」状態, ■新米はさらに値上がりか

 水田が干上がり、稲が枯れる――。記録的な猛暑で米の生産に深刻な影響が出始めている。先日の小泉進次郎農林水産省相の「給水車も出します」発言は、渇水に悩む農家たちに冷ややかに受け止められている。

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■小泉農水相は「必要があれば給水車も出します」

 8月3日、小泉農水相はブランド米の産地として知られる新潟県南魚沼市の干上がったため池に給水車(散水車)で注水する様子を視察した。そして、報道陣を前に、こう発言した。

「必要があれば給水車も出します。米の収量に不安がある地域に水がきたと、そういった状況を届けていきたい」

 Xではため池注水に関して、こうも発信した。「できることは何でもやります」「雨が降るまで少しでも足しになるように現場とともに乗り越えます! 現場に感謝」

 実は、渇水対策の緊急措置として給水車やタンクローリーで水を運び、ため池や水田へ注水することは他の自治体でも行われてきた。つまり、この発言は全国の水量の減ったため池や水田を給水車の水で満たして回る、という意図なのか。

■必要な給水車は何台?

 同市でコシヒカリを生産するフエキ農園の代表取締役・笛木竜也さんはあきれ顔で、こう話す。

「また、すごい発言をしました。この時期、水不足に苦しむ農家に水を回すというなら、いったい給水車を何台用意してくれるのでしょうか。本気なのか、冗談なのか」

 いまこの局面、水は必要だ。国が給水車を手配し、苦しむ農家に水を供給してくれるというなら、これほどありがたい話はない。

 一方で、それがいかに非現実的なことか、笛木さんは身に染みてわかる。

 そもそも、給水車の台数からして限りがある。自治体が保有する給水車は合計1330台(2021年)。最も多い東京都でさえ30台だ。工事現場などで使われる民間の散水車を合わせても、「とても全国の水不足に悩む米農家には行きわたらない」と、笛木さんは見る。

■小泉農水相は「必要があれば給水車も出します」, ■必要な給水車は何台?, ■水田は干上がり、稲は枯れ始めた, ■あまりに米作りを知らない, ■2年前の「悪夢」再び, ■水があっても…温水で「風呂」状態, ■新米はさらに値上がりか

■水田は干上がり、稲は枯れ始めた

 水不足は深刻だ。笛木さんは心配で夜もよく眠れないほどだという。実際、渇水により、稲に深刻な悪影響が懸念されるからだ。

 7月の南魚沼市(塩沢地区)の降水量は合計35ミリで、平年のわずか16%でしかない。深刻なのは同市の西側の地域で、山が浅く保水能力が低いため、「水路にまったく水が流れていない状態」だという。

「水田が干上がり、8月2日の時点で、20ヘクタールの1割弱にあたる田んぼで稲の葉先が茶色に変色し、枯れ始めました」(笛木さん)

■小泉農水相は「必要があれば給水車も出します」, ■必要な給水車は何台?, ■水田は干上がり、稲は枯れ始めた, ■あまりに米作りを知らない, ■2年前の「悪夢」再び, ■水があっても…温水で「風呂」状態, ■新米はさらに値上がりか

 苦肉の策として、同市は7月22日から地下水をくみ上げ、道路に埋設された消雪パイプに流し始めた。冬の間、雪を溶かすための施設で、道路から側溝に落ちた水が水路に流れる。しかし、消雪パイプの水が流れ込まない水路もある。笛木さんの水田の水路もそうだ。

「少しでも田んぼに水を入れようと、給水車(散水車)の貸し出しをいくつかのリース会社に問い合わせましたが、すでにどこも出払っていて、無理でした」と、笛木さんは肩を落とす。

 だからこそ、実は、給水車は喉から手が出るほど欲しいのだ。だが、それがうまくいかないだろうことを、現場に近い人間は身をもって知っている。

■あまりに米作りを知らない

 小泉農水相は6月、こんな発言もしていた。

「米農家は2000万円のコンバインを1年のうち1カ月しか使わない。買うのではなくてレンタルやリースがサービスとして当たり前の農業界に変えていく」

 この発言も、農家には「荒唐無稽」と受け止められた。同じ地域であれば、稲を刈り取る繁忙期はどの農家も同じなので、多くのコンバインを用意する必要がある。事業化は困難で、今春、JA三井リースが大型コンバインの貸し出し事業から撤退したばかりだ。

「コンバインにしても、給水車にしても、必要とする人の数に対して、台数があまりにも少ないので、実際にはうまくいかない。多少なりとも米作りを知っていれば、こんな発言はできないでしょう」(笛木さん)

■2年前の「悪夢」再び

 笛木さんが思い出すのは、2年前、2023年の夏の猛暑の悪夢だ。このときも、水田が干上がった。水を入れたタンクをトラックで田んぼに運び、水を撒いたものの、「一部の土が湿った程度」。

「なんとか収穫できた米も、猛暑による『高温障害』で、出来がよくありませんでした」(同)

 23年、笛木さんは作付面積を3ヘクタール増やしたにもかかわらず、約100万円の減収になった。米の一大産地、新潟県全体でも高温障害による被害は甚大で、なかでも作付面積の6割以上を占めるコシヒカリの同年産1等米比率は4.9%と、平年の約15分の1と激しく落ち込んだ。

 今年の米の出来はどうなるのか。

「通常、この時期に稲穂が出るのですが、水が干上がった田んぼでは出穂(しゅっすい)が遅れている。実が入らない『不稔(ふねん)』にならないか、心配です」(同)

■小泉農水相は「必要があれば給水車も出します」, ■必要な給水車は何台?, ■水田は干上がり、稲は枯れ始めた, ■あまりに米作りを知らない, ■2年前の「悪夢」再び, ■水があっても…温水で「風呂」状態, ■新米はさらに値上がりか

■水があっても…温水で「風呂」状態

 一方、千葉県匝瑳(そうさ)市に広がる栄営農組合の100ヘクタールの水田は、利根川から引水する「大利根用水」を利用しているため、今のところ水に不自由していない。しかし、南魚沼市の水田とは逆に、「なるべく水を張らないようにしている」と、同組合の伊藤秀雄顧問は言う。猛暑による水温の上昇を懸念しているからだ。

「通常なら、出穂時期の田には水をたっぷり張りたい。でも、そうすると、この暑さで水温が40度にもなってしまう。まるで風呂のよう。高温障害で不稔にならないか、組合員は心配している」(伊藤さん)

 水深を浅く管理して、田に水を流し続けることで、水温の上昇をできるだけ抑える。いわゆる「かけ流し」だ。しかし、降水量が少ない状況が続けば、利根川の水位が下がり、十分に取水できなくなる可能性もある。

「国は、ロボット技術やAIなどの先端技術を活用した『スマート農業』を推進するけれど、結局、自然には勝てない。今後、どうなるか。戦々恐々です」(同)

■新米はさらに値上がりか

 今年の新米の価格はどうなるのか。東京近郊の老舗米店の店主、中村真一さん(仮名)は、こう語る。

「これまで以上の高値になりそうです。うちが仕入れている早場米のコシヒカリは今年、60キロ3万7000円の値がついた」

 23年産米の卸売価格(相対価格、全銘柄平均)は1万5291円(23年9月)だったので、2倍以上になる。

「これほど高くては仕入れられない、という声も聞きます。消費者の手が届きませんから。あまりに高くて米の消費が落ち込み、『年が明けたら価格が暴落するのでは』と、心配する同業者もいます」(中村さん)

 この暑さで生産量が落ち込めば、新米価格は昨年以上に値上がりする可能性がある。いつになれば、米不足が解消し、価格が落ち着くのだろうか。

(AERA編集部・米倉昭仁)