女子大生が高額バイトで訪れた山奥の古い旅館……女将が時間厳守で執り行っている“奇妙な配膳”への違和感とは

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来年には記念すべき10年周年の節目を迎える人気怪談チャンネル『禍話(まがばなし)』。生配信サービス「TwitCasting」で毎週土曜日の深夜に語られてきたオリジナル怪談は、通算1000話を軽く超える大ボリュームで、そのどれもが語り手の書店員・かぁなっきさんの軽妙な口調とは裏腹のおぞましいものばかり。
そんな『禍話』から今回は、とある有名ネット怪談を思わせる実に気味の悪い“しきたり”に巻き込まれた、とある女子大生が体験したお話をご紹介――。
借金で首が回らなくなりアルバイトを探すと……

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当時大学2年生だったAさんは第一志望に落ち、彼氏とも別れ、ヤケクソ気味にカードローンに手を出して気がつけば首が回らなくなっていたそうです。
そんなAさんでしたが、サークルで実入りのいいバイトがないか聞いていると、先輩が高額バイトに詳しいOBと知り合いで、その人に働き口がないか聞いてもらえたのだとか。そうして紹介してもらったのが、山中にある旅館のお手伝いのバイト。
まあ、大学があった都心から電車で1時間半もかかる他県の山中というのには多少悩んだそうですが、交通費に加えて旅館から駅までの送迎もあり、何よりバイト代の気前の良さもあって、正式に受けることにしたそうです。
働き始めたのは大きな造りの旅館

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バイト初日。駅から迎えの車に乗って山中の旅館を目指しているうちに、まるで小旅行のような気持ちになったそうです。ただ、ひとつ気がかりだったのは先輩から聞いたある言葉。
『OBの人が言うには、募集は口コミだけで偽名でも大丈夫だって。彼がバイトしていた時は“佐藤だらけ”で笑ったらしいよ。給料も手渡しだったって』
まあ、田舎の古い旅館だからこういうこともあるか――そう割り切って楽しむことにしたそうです。
到着した旅館は2階建てで離れもある大きな造りだったそうですが、くすんだ木製の外装は年季を感じさせ、正直、背後に生い茂る深緑の山々に飲み込まれているような陰気さがありました。
おずおずと中に入ると、40代後半と思しき女性が出迎えてくれました。バイトの約束で来た者と伝えると、自分はここの女将であり、仕事の準備はできているので従業員用の控え室に早速来て欲しい、と笑顔で対応してくれたそうです。
事前に伝えていた通り、Aさんは昼過ぎから夜までのシフトを担当となりました。
「じゃあ、早速お皿洗いからいいかしら? 厨房を案内するわね」
夜になると女将が配膳する離れ

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それから連日、午前中に大学の講義を済ませるとバイト先に長距離移動をする日々を過ごしていったAさん。
最初のうちこそ移動に疲れたそうですが、作業自体は皿洗い含めて客前に出ない裏方作業が中心だったので、すぐに慣れていったそうです。
ただ、働くうちに強く感じるようになっていったのが、ここの旅館の人たちが“無理して田舎の良い人を演じているのではないか”という漠然とした感覚でした。
明確にそう思わせる出来事があったわけではなかったのですが、作ったような笑顔の隙間に影が差す瞬間がよくあり、何かミスでもしたらえらく怒られそうかも……と気を引き締めたそうです。
2週間ほど経ったある日のこと。
佳境となる夕飯の給仕も終わった夜8時半頃。Aさんが外廊下を歩いてお手洗いから戻っていると、女将さんが御膳を持って庭向こうにある離れに歩いていくのを目にしました。
まだお客さんがいたのかな……と思いましたが、その離れには明かりが点いておらず、女将さん自身も明かりを身に付けずにスルスルと手慣れた様子で運んでいるのが妙に引っかかったのでした。
その日以来、Aさんは仕事の合間にお手洗いに行くフリをして女将さんが何をしているのか観察してみることにしました。そこでわかったのは、女将さんは必ず20時30分から35分の間に配膳にしているということでした。
「失礼いたします」
女将さんが暗い離れの中にそう深々とお辞儀をして入っていくのにも、Aさんは違和感を覚えたそうです。
「ほら! 喋ってないで早く行く!」

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「あの、女将さんよかったら離れの配膳、アタシやりますよ!」
その日、Aさんは意を決して夕飯時の混雑がひと段落したタイミングで女将さんに声をかけました。
ちょっと足踏み入れすぎか……? ――女将さんの返答を待つ数秒、Aさんは好奇心を抑えられなかった自分を悔やんだそうです。
「あら、知っていたの? う~ん、じゃあ1回やってもらおうかしら」
その返答は意外にもあっけらかんとしたものでした。
「じゃあ、この御膳を離れに運ぶだけでいいからね。『失礼いたします』とお声がけして、入ったら『ここに置いておきますので、何かあったらお申し付けください』とお伝えして出てくればいいだけ。やり方書いたメモもここに入れておきますから、わからなくなったらお客様の見えないところで確認して。最初は私も離れの外で見ています」
「あ、はい。ちなみにどんなお客さんが――」
「ほら! 喋ってないで早く行く!」
トントン拍子に話は進み、気がつけばAさんは月明かりの中、離れに向かって砂利道を歩かされていました。
御膳の内容はいたって普通。なにか奇妙なものを出しているわけではありません。
やっぱり長く滞在されている特別なお客様でもいるのだろう――先ほどは女将さんの手際の良さに気圧されて聞けなかったAさんですが、ぼんやりと結論の輪郭が見え始めたことで沸き起こっていた好奇心の火も静まってきていました。
ですが、そんな安堵が続いたのも離れの戸をくぐるまででした。
足を踏み入れた離れには……

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「し、失礼いたします……」
離れの中には誰もいなかったのです。
「え……」
ガランとした離れの中でAさんは、この配膳作業の目的が一気に見えなくなったこと、そして自分が余計なことに足を突っ込んでしまったのでは……という不安と恐怖を覚えたそうです。
「こ、ここに置いておきますので、何かあったらお申し付けください」
なんとなく目星をつけた場所に御膳を置いてそそくさと外に出ると、月明かりの中に立っていた女将さんと目が合いました。
「うん、問題ないわね。じゃあ、明日からこの配膳もお願い」
「え、あの……」
「守ってね、時間」
新たに加わった奇妙なルーチン。何度足を運んでも見えないお客の姿。
しかし不思議なもので、最初こそ不気味に思っていたAさんでしたが、いつしかその奇妙な作業は皿洗いと同じ“ただの通常業務”だと感じるようになっていったのです。