大阪の老舗キャバレー再生させた夫妻の起死回生

コロナ禍を逆手に取って改革, 夫婦になって二人三脚で, たくさんの人に利用してもらうために, 50年前の建物をそのまま引き継いでいく

2代目オーナーの宮田泰三さん(左)と妻のマリアさん(写真:筆者撮影)

今ではあまり聞かれなくなった”キャバレー”だが、大阪・十三の地には半世紀以上にわたり、ひときわ豪華な輝きを放ち続けるグランドキャバレー「グランドサロン十三」がある。

【写真】MVやテレビ番組の撮影などでも使われてきているステージ(写真:筆者撮影)

創業以来、きらびやかなシャンデリア、曲線美を持つソファー、そしてステージでの多彩なショーで多くの人々を魅了。最近では夜の社交場という枠を超え、その唯一無二の存在感で映画『国宝』のロケ地になるなど注目されている。

一方、コロナ禍やキャバレーに対する社会的な偏見など、ここに至るまでにはさまざまな逆境があった。2代目オーナーの宮田泰三さんと妻で秘書のマリアさんは、どのようにして困難を乗り越えてきたのだろうか。

コロナ禍を逆手に取って改革, 夫婦になって二人三脚で, たくさんの人に利用してもらうために, 50年前の建物をそのまま引き継いでいく

営業開始前のグランドサロン十三(写真:筆者撮影)

コロナ禍を逆手に取って改革

2代目オーナーの宮田泰三さんが先代の父・静長(よしなが)さんから経営を引き継いだのは、2020年の初めだった。

それまで泰三さんは鉄道会社に勤務し、安定した収入を得ていたのだが、父のつくり上げた店舗を後世に残したいという使命感から事業承継を決意。

しかし、間もなく新型コロナウイルス拡大の影響を受け、2021年は200日以上もの休業を余儀なくされる。それでも泰三さんはこの危機を逆手に取り、改革の機会と捉えた。

【写真】撮影やイベントに重宝されているグランドサロン十三の様子(8枚)

「私が会社に入ったとき、建物はかなりボロボロでした。剥がれた部分をガムテープでとめているソファもあって、『これはさすがに……』と。

ただ、店を預かったばかりで、どこにどれだけお金をかければいいかわからない。コロナ禍の休業期間に仕事の仕組みを覚え、どこに課題があるか、どこを直さなきゃいけないのかっていうところを見る時間ができたと考えました」(泰三さん)

コロナ禍を逆手に取って改革, 夫婦になって二人三脚で, たくさんの人に利用してもらうために, 50年前の建物をそのまま引き継いでいく

ステージを取り囲んで、丸いソファが並ぶ(写真:筆者撮影)

休業期間を利用して、老朽化が進んでいた店舗の大規模な改修に着手。ダンスフロアの床の補修、音漏れ対策のための吸音材設置や壁の改修、喫煙室の設置、そして男女兼用だったトイレを分けるなど、多岐にわたる工事を行った。

休業期間中、30人ほどいるホステスたちとの信頼関係構築にも力を入れた。休業中の経済的サポートを施したほか、ひとりひとりと面談をし、困り事や改善した方がいいことを聞き取りした。

ホステスは50代以上のベテランが多く、なかには80代もいる。結果、営業再開までに辞めるホステスはいなかったという。

泰三さんは、お客様が安心して楽しめるよう、料金体系の明朗化にもこだわった。「いくら取られるかわからない」「ぼったくられるかもしれない」といった不安を払拭するため、サービス料や消費税込みのわかりやすい値段設定を導入した。

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豪華なシャンデリア(写真:筆者撮影)

またお客様ファーストの視点から、ホステスの指名ルールなど長年の慣習を見直すことにも取り組んだ。そのうえで2021年秋ごろからは、貸会場事業を本格的に始動させた。

コロナ禍という逆境の中で、グランドサロン十三が新たな魅力を持つ場所として生まれ変わるため着実に土台を固めていったのだ。

夫婦になって二人三脚で

そのようなとき、貸会場事業を拡大しようと泰三さんはSNSでの情報発信に力を入れ始めた。だが一人では手が回らず、パートの事務職を募集することに。応募してきたのが、現在の妻であるマリアさんだった。

マリアさんは求人を見て応募したものの、「キャバレー」という業態に戸惑い、一度は辞退しようか迷いも。だが泰三さんの丁寧なメールのやりとりや面接を通じて、「心配するような会社じゃない。ここなら働けそうだ」と感じ、入社を決意したという。

その矢先、思わぬ出来事が起きた。泰三さんの身体に腫瘍が見つかり、摘出手術のため数カ月間の入院を余儀なくされたのだ。

結果、マリアさんは入社間もないながらも、泰三氏からの電話やメールでの指示を頼りに、貸会場事業の全てを一人で切り盛りするようになった。力を合わせてピンチを乗り越えることで、やがて2人は強い絆で結ばれるようになる。

その後、マリアさんは事務職から秘書に転身。2人は2024年に入籍し、泰三さんの病気はほぼ完治した。

たくさんの人に利用してもらうために

貸会場事業が順調に拡大する中であるとき、開催予定だったイベントへの高校生の出演に関して警察から「キャバレーの運営会社が貸会場事業を行う限り、未成年者の立ち入りは禁止」という指導が入った。

今後も若い世代に会場を利用してもらいたいと考えていた宮田夫妻にとって、これはクリアすべき大きな問題だった。

相談の結果、貸会場運営会社をキャバレー運営から分ければ、18歳未満でも出演や観覧が許されるとわかり、泰三さんは急いで運営会社を立ち上げることを決意。知り合いの弁護士、司法書士、行政書士を呼び、「今から会社を立ち上げるとしたら、どれくらいかかる?」と持ちかけた。

そこから夫妻は会社設立に関する必要な書類を3日で揃え、わずか1カ月半という驚異的なスピードで貸会場専門の新会社「テサム」を設立。高校生たちのイベント出演不可を回避できた。

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MVやテレビ番組の撮影などでも使われてきているステージ(写真:筆者撮影)

キャバレーという場所には、いまだ偏った見方がつきまとう。

「地域でのお付き合いを通じて、小中学生の合唱部から発表会を開きたいとお声かけいただいたことがあります。でも、親御さんから反対の声がちらほらあると言われました。界隈では父の功績も含めて信用いただいていますが、他の町の方々から見ると、風俗店でしょっていうイメージが拭えないのでしょう」(泰三さん)

一方で、長年店を支えてきたスタッフたちからは、この場所への強い誇りが伝わってくる。

あるとき貸会場事業でマリアさんが担当した主催者が店内で噴射型のスモークを焚き、店内火災報知器が作動。大音量でジリリッとベルが鳴り響いて騒然としたことがある。このとき3階の本社から社員が慌てて降りてきて、「何十年も守ってきたのに、燃えたらどないするんや!」と真剣に怒られたそうだ。

「キャバレースタッフたちは毎日店の掃除を、何回拭いてるんだろうってくらい丁寧にやっています。毎日ずっとそれを繰り返しているから、今日もお客さんに店を貸せる状態であるのだと痛感しました」(マリアさん)

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スタッフたちが丹念に清掃し、大切に守り続けている店内(写真:筆者撮影)

現在、貸会場事業だけで年商1000万円を超えた。約半年先の週末がほぼ埋まり、キャバレーの定休日の月曜日も定期的に予約が入る。貸会場事業はグランドサロン十三の未来を明るく照らしている。

店を継いだ当時は経営不振だったキャバレーの事業も順調だ。

2023年11月、グランドサロン十三主催で初めてイベントを行った。バーレスクダンサーのショーや生演奏、著名なホステスによるトークショーなど、昭和の全盛期さながらのキャバレーを再現する内容だった。

チケット60枚はすぐに完売。グランドサロン十三のソファには、お客さんとホステスを合わせると100人近くの人が席を埋めていた。

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唯一無二の雰囲気を求めて来店する客が増え、キャバレーの営業も好調だという(写真:筆者撮影)

当日、テーブルで客をもてなすホステスは、いくつかの席を掛け持ちして走りまわった。それまでキャバレーだけで満席になることはほぼなかったので、店長の喜びもひとしおだった。

このイベントからSNSでの注目も高まり、キャバレー営業で月数回は満席になるように。イベント後のキャバレー事業は1.5倍の売り上げ増。新規の客が来ても、席が確保できずお断りせざる得ない時もあるそうだ。

中には、70代のホステスを希望する若い客もいるという。「安心して愚痴や自慢話ができるから落ち着くんでしょうね」とマリアさん。

50年前の建物をそのまま引き継いでいく

今後について泰三さんは「昭和の頃に活躍された方々の語り部のようなトークショーを開き、記録に残したい」、マリアさんは「結婚式や誕生日といった人生の晴れ舞台に利用し、いつまでも懐かしく思える場所になってほしい」と語る。

建物は築50年を超えている。どんなに修繕したとしても、老朽化の波には抗えない。キャバレーで行き来する人数と、100人が一斉に動くようなイベントでは、耐えうる強度が異なることも拍車をかけている。

昭和の建物ゆえ、エレベーターがなかったり細かな段差があったりと、バリアフリー化も大きな課題だ。それでも、50年前の建物をそのまま引き継いでいく。「そこに一番の価値がある」と泰三さんは考えている。

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店舗横の大看板も目印(写真:筆者撮影)

「近い将来、老朽化が進んで補修できなくなり、建て替える時期がくるでしょうけれど、それまでは、このままの形をいろいろな方に知っていただけたらと思います。

その頃には、この形をそのままそっくり移動させる技術ができるのかなとか、そういうことを考えながら、建物の価値を残す取捨選択を探っていこうと思います」(泰三さん)

大阪のキャバレーを守る宮田夫妻の挑戦は、これからも続く。

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