札幌ドームと大違い「エスコン」しっかり儲かる訳

売上6割増・利益3倍増!ファイターズ札幌移転・初年度から“結果くっきり”, ファイターズが構築したビジネスモデル「滞在すればするほど利益が上がる」, エスコンフィールド成功、影の理由は「札幌ドーム脱出成功」?, 潤った日ハムと、赤字転落の札幌ドーム, 夏は大稼ぎ、冬場は赤字 ボールパークの経営課題は「冬場の閑散期」対応

試合がない日のエスコンフィールドのグラウンド。ツアー参加のうえで撮影(筆者撮影)

「プロ野球・公式戦の観客動員数が、3年前の球場開設から2割増」「試合がなくても、平日5000人、休日1万人を動員」……。

【画像】エスコンフィールド名物・シャウエッセンホットドッグ。パキッとした食感とあふれる肉汁がたまらない

野球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」(以下:エスコンフィールド)ならびに、周辺一帯の「北海道ボールパークFビレッジ」について調べてみると、そんな景気のいい文言を多く目にする。

実際、日本ハムグループの決算資料から見る限り、売上・利益や集客力は、札幌ドーム(現「大和ハウスプレミストドーム」)に本拠地を置いていた頃から比べて、飛躍的に改善されているようだ。

前編記事ではエスコンフィールドで場内を楽しみ尽くし、絶品グルメやビールでほろ酔いになった。こちらの記事で「エスコンフィールド・ボールパークの経営」について、掘り下げていこう。

売上6割増・利益3倍増!ファイターズ札幌移転・初年度から“結果くっきり”

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収支・営業利益

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エスコンフィールドへの本拠地移転による収支・営業利益のインパクト FSE社・IR資料より

エスコンフィールドの開業初年度(2023年)と、札幌ドームに本拠地を置いていたコロナ禍前で比較してみよう。

ファイターズ関連の売上は「157億円→251億円」と凄まじい伸びを見せ、2025年3月期には270億円まで達している。10億円台だった利益は、2023年には一挙に36億円、ほぼ3倍増だ。

観客動員面で見ても、2025年シーズン前半戦のファイターズ戦の平均観客動員数は「3万389人」。昨年より1割以上も増加(2024年は2万7323人)しているうえに、札幌ドームに本拠地を置き、大谷翔平選手(現:ロサンゼルス・ドジャース所属)を擁して優勝・日本一に輝いた2016年の平均「2万9281人」をも上回る。

なおエスコンフィールドは札幌ドームより定員が7000人以上も少なく、「座席数2.9万・立見6000」であることを考えると……来場者・ファイターズファンが激増し、週末を中心にチケット確保・座席確保の難易度は上がり続けている。

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札幌ドーム時代のファイターズ公式戦の様子。当時と比べると、定員が7000人以上も少なくなっている(筆者撮影)

本拠地が札幌ドームからエスコンフィールドに変わっただけで、何故ここまで経営面・集客面で激変できたのか。新球場やボールパークを運営する「株式会社 ファイターズ スポーツ&エンターテイメント」(以下:FSE社)に要因があるのか、ファイターズに要因があるのか、札幌ドームにあるのか?

ファイターズが構築したビジネスモデル「滞在すればするほど利益が上がる」

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非試合日のエスコンフィールド。出入り自由で、座席は一般客に解放されている(筆者撮影)

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エスコンフィールド名物・シャウエッセンホットドッグ。パキッとした食感とあふれる肉汁がたまらない(筆者撮影)

新球場やボールパークが、集客だけでなく利益を獲れている理由はズバリ、「滞留時間の増加」「公式戦・開催以外での来場者の増加」だ。

球場を中心とした「北海道ボールパークFビレッジ」は緑豊かな広い公園となっており、ボールパーク自体は、来場してぼーっとしているだけならタダ。

しかし、周りに魅力的なアクティビティや、球場名物「シャウエッセンホットドッグ」などのグルメがズラリと揃っていると、その気がなくてもついつい……親は平気でも、子どもが黙っていない。

ボールパーク全体で、試合がない日の来場者の平均滞在時間は3時間8分。試合日は平均で3時間44分も観戦客が滞留するといい、平均値でも実際の試合時間より1時間程度長く滞在していることになる。この滞在時間中に、ボールパークでアクティビティ・グルメを楽しむ人々が、きわめて多いのだ。

こういった「無料で長時間楽しめる、有料ならもっと楽しめる」ような巨大な街で、訪問者が長時間を過ごせば過ごすほど、売上・利益を稼げる。そんなノウハウを、日本ハム並びにFSE社は、ボールパークで獲得したと言っていい。

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京セラドーム大阪(大阪ドーム)。周辺に遊園地・巨大ゲームセンターなどが整備されていた(筆者撮影)

試合日以外でも収益を上げられる「ボールパーク」という発想はアメリカでも当然のようにあり、日本でも「大阪近鉄バファローズ」の本拠地・大阪ドーム(現:京セラドーム大阪)とセットで遊園地「シムランドQ」、商業施設「パドゥ」「グリンドムモール」が整備された事例がある。

しかし、第三セクター主体の”お役所仕事”で作られたとあってか全く魅力のない仕上がりとなり、早々に”ほぼ廃墟”となったうえで閉鎖。球団も赤字に耐えかねて、2004年に消滅してしまった。

せっかくのボールパークも、「集客のノウハウ」「トレンドをすぐ掴んで商売を始める機動性」を持ち合わせていないと、事業として利益を出せない。その点で、民間であるFSE社は魅力ある施設を揃えたからこそ、ビジネスとして成立したのだ。

大阪ドームの失敗事例を思い起こしつつ、経営者の目線であたりを歩くと、来訪者の滞在時間が伸びる→単価が上がる→利益獲得という「ファイターズ・日本ハム流ビジネスモデル」の優秀さが垣間見える。

エスコンフィールド成功、影の理由は「札幌ドーム脱出成功」?

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札幌ドームは国道36号・月寒通沿いの好立地にある(筆者撮影)

続いて、札幌ドームを去ったことによる経営改善について、検証してみよう。

2024年3月に開催された「日本ハムファイターズIRデイ」(投資家・アナリスト向けの説明会)資料によると、札幌ドーム時代の2019年と、2023年の比較資料には「広告収入(×1.8倍)」「チケット収入(×1.5倍)」「飲食収入(従来ゼロ)」が大きく改善」と記されている。

まず札幌ドーム時代は、敷地内の広告から得られる収入や、飲食店からのテナント料は、基本的にドームの運営側(株式会社札幌ドーム)が得ていた。かつ、飲食店は自由に出店が許されず、”日本ハム”ファイターズの試合なのに、伊藤ハムの商品が堂々と売られる始末。ファイターズの試合だからといって、ファイターズ仕様で興行を打つことすらできなかったのだ。

いわば「プロ野球」という興行を打つうえで、「利益を大家(札幌ドーム)がむさぼり、かつ自由にさせない」構造では収益が上がらず、野球ファン以外の来訪が増加する訳がない。

これに加えて、札幌ドームで試合を行う限りは「850万円(入場者が2万人を超える場合は、850万円に当該超える入場者1人につき425円を加算した額)」(「札幌ドーム条例」より)という使用料がかかり、年間で13億円、諸経費込みで20億円以上という支出を余儀なくされていた。

自前保有であるエスコンフィールドでは、こういった経費もかからない。だからこそ、エスコンフィールドに移転しただけで「売上6割増・利益3倍増」という劇的な経営改善ができたのだ。

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「横浜DeNAベイスターズ」の本拠地・横浜スタジアム。2016年に買収が成立した(筆者撮影)

プロ野球にとって「高額な球場使用料が経営を圧迫」「球場が老朽化などで集客に不向き」といった事態はよくあり、「横浜DeNAベイスターズ」「オリックス・バファローズ」「福岡ソフトバンクホークス」などは球団運営会社・球場ごと買収したうえで、自社のプロ野球興行に向いた改修を可能とした。

しかしファイターズの場合は、ファイターズから提案された「指定管理者案」(ファイターズである程度自由に興行を打てるようになる)や環境改善案のほとんどを札幌ドーム(ならびに大株主の札幌市)サイドが握りつぶし、過大であると指摘されていた使用料の値下げ要求も、逆に値上げで応えた歴史がある。一言でまとめると、札幌ドームは「交渉自体すら時間が無駄な相手」とも言える。

潤った日ハムと、赤字転落の札幌ドーム

一方で、ファイターズの親会社である日本ハムは、飲食業に関するノウハウも持ち合わせる、食肉業界の国内トップシェア企業だ。これまで球場買収を行った3球団の親会社(DeNA=ゲーム、オリックス=金融、ソフトバンク=通信)よりもテナント運営・集客のノウハウを持ち合わせており、新球場と商業施設を組み合わせ、郊外に移転させても商業ベースにのせられると踏んだのだろう。だからこそ、「札幌ドームを去る」という選択肢を取ることができたのだ。

「エスコンフィールド移転」という経営判断によって、ファイターズは利益を獲れる企業体に変貌し、作り上げたボールパークは野球ファンにとどまらず、幅広い層を満足させた。

去られる方の札幌ドームは、自由なイベント誘致が可能となり、札幌市からの公的補助によるドーム使用料の減免・公的イベントの開催で稼働日を増加させ、最終的には4300万円の黒字に回復している(ただし、本業だけで見た営業損益は大幅マイナス)。

結果だけ見れば「利益が獲れたファイターズ」「満足したファン」「『使用料減免』という”税金の盾”発動で黒字を出せた札幌ドーム」と、これ以上ない「三方よし」「win-win」が成立した。こうして円満に札幌ドームを去れたことが、ファイターズの経営改善に繋がったことは、疑いないだろう。

夏は大稼ぎ、冬場は赤字 ボールパークの経営課題は「冬場の閑散期」対応

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ボールパークの来訪者推移。1月・2月は極端に落ち込む(日本ハム・決算資料より)

そんなエスコンフィールドにも経営上の難点はある。それはズバリ「冬」だ。

球場がある北広島市は「年間の降雪4.4m、平均気温-3.2℃」。日によって札幌~北広島間のクルマ移動に難渋するような吹雪に見舞われることもある。球場内外の飲食店や「PLAYLOT」、期間限定のスノーリゾート施設が営業しているものの、ほかのアクティビティは軒並み冬季休業。夏場には月間で60万人以上を記録したエスコンフィールドの客足も、1月・2月には10万人前後に落ち込む。

経営面で見ても、野球シーズン中を含む上期(4月~9月)で「売上196億円・利益70億円」を稼ぎ出し、オフシーズンの下期(10月~3月)は「売上74億円・利益はマイナス37億円」。「夏場の稼ぎで冬を耐える」収益構造は、もはやどうしようもないだろう。

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球場でのバスケットボール・Bリーグ開催のイメージ(FSE社資料より)

そんな中でもFSE社は、非試合日や冬季での利益確保を模索している。2024年12月には初めての試みとして、野球場でのBリーグ(プロバスケットボール)公式戦(レバンガ北海道vsシーホース三河)が開催され、28日には19,462人(Bリーグ史上・観客動員数1位)、29日は15,113人(同2位)という、異例の集客に成功した。

平坦でない野球場のグラウンドに水平なコートを設置するために、移動式コートをBリーグの横浜ビー・コルセアーズから借りて北海道に輸送するなど、割に合った商売ではなかったかもしれない。それでも、「冬場の野球場でいかに収益を上げるか」という課題解決のために、FSE社は試行錯誤・チャレンジを繰り返しているのだ。

その間に、札幌ドームも新たな需要獲得のために総事業費10億円(札幌市負担)をかけた「新モード」を整備。23年度は公的イベントを中心に、23年度は何と3日も利用を増加させることに成功した。そんな札幌ドームと形は違えど、エスコンフィールドにとっても「イベント誘致・稼働日の増加」は、重要な課題だ。

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冬場のボールパーク。球場前の人工池はスケートリンクに改装されている(筆者撮影)

こうして、「エスコンフィールドHOKKAIDO」を中心とした「北海道ボールパークFビレッジ」は、脱・札幌ドームから3年たった今も、何とか利益を上げ続けている。

ただ、その陰には年間約3~5億円とも言われる北広島市の固定資産税免除など、経営面で助けられている一面もある。こういった優遇が期限を迎えるまでに経営成長が続けばいいが、せっかく誘致に成功した北海道医療大学が、キャンパス・病院建設の資材高騰によって移転取りやめの検討を始めるなど、景気・物価高騰といった外的要因の影響が見受けられるようになった。

「世界がまだ見ぬボールパークをつくる」と謳われた新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」は、動乱の船出を乗り切り、安定した航海に入った。ただ今後は、約600億円の建設費用を捻出するために発行した、環境配慮型の「サステナビリティボンド」の期限も迫る。

多くのファンをワクワクさせつつ、「食品会社とプロスポーツ」が手を取り合い、20年、30年と安定経営を維持できるのか。ファイターズの2025年のチームスローガンそのままに、日本ハムグループ・FSE社の「大航海は続く」。

【前編】試合ない日も混雑「エスコン"脅威の集客力"」の訳