「トイレのふたを閉めてから流したほうがいい」は本当? 科学的検証でわかった“結論”とは

 下痢や嘔吐を引き起こす食中毒(胃腸炎)などは、患者の便に含まれるウイルスが、トイレで他人の体に付着し口に入って感染する―─。こう聞くと、外でトイレを使うのが怖くなるかもしれません。そんな不安を解消するために、トイレの水を流したときのウイルスの飛び散り方を「科学の目」で確かめる研究が行われました。小中学生向けニュース雑誌「ジュニアエラ2025年」(朝日新聞出版)から紹介します。

■感染予防には、トイレはふたを閉めてから流したほうがよい?

 新型コロナウイルス感染症の世界的大流行を経験した私たちは、ウイルスの感染を広げないためにどうすればよいか、さまざまな情報を見聞きしてきた。その中には、水洗トイレを流すときは、便に含まれるウイルスや細菌が飛び散るのを抑えるため、ふたを閉めてから流したほうがよいという話もあった。

 この情報は、新型コロナウイルスの感染予防とは、直接の関係はない。便に含まれるウイルスや細菌は、多くの場合、胃腸炎など消化器系の病気を引き起こすが、新型コロナウイルス感染症は、吐く息やせきに含まれるウイルスが飛び散って他の人に感染するものだからだ。

 一方で、集団食中毒による被害もニュースで報じられており、「トイレはふたを閉めてから流したほうがよい」という情報は多くの人に重要だと受け取られた。

 ふたを開けたままより閉めたほうが、ウイルスが飛び散るのを防げるような気がする。しかし、実際にウイルスが飛び散るのをどのくらい抑えられるかについて、科学的に十分確かめられてはいなかった(日本とは水洗トイレのしくみが少し違う海外では科学的に確かめた研究があったが、日本で広く使われている水洗トイレでの研究は、科学的に十分ではなかった)。

 そこで、産業技術総合研究所センシングシステム研究センターなどは、水洗トイレを流したときに発生する飛沫(細かい水の粒)がどのように飛び散るのか、ふたを閉めたときと閉めないときとでどのように違うのか、飛沫に含まれるウイルスがトイレのどこに付着するかなどについて、実験を行って詳しく調べ、その結果を発表した。

「こういう情報をあいまいなままにしておくと、トイレの使用を過度に怖がる人が出てこないとも限りません。科学的に確かな情報を知ってもらえれば、駅やショッピングモールなどの水洗トイレも適切に、安全に使ってもらえると考えました」(総括研究主幹の福田隆史さん)

■ふたを閉めると、飛沫の飛び散り方はどう違うのか

 福田さんらは、研究室内に密閉された小部屋をつくり、中にトイレと同じような個室と便器を設置した。便器は家庭でふつうに使われている、節水タイプだ。そして、次の1~3の実験を行った。

実験1 【ふたを閉めないとき、飛沫はどのくらい飛び散るか?】

 水を流したとき、目に見える大きな水の粒と、肉眼では見えないほど小さい水の粒(エアロゾル)が混じった飛沫が空中に飛び散った。飛沫は、便器の手前(自分の足があるほう)15㎝くらいまでもれ出し、高さは最大で40~50㎝に達した。飛沫がたくさん集まるのは、便器の手前5~10㎝、高さが40㎝くらいまで。

 水滴の飛び散り方は湿度によって違い、湿度が高いほど、飛沫が発生・拡散しやすいことも明らかになった。

実験2 【ふたをすると、飛沫の飛び散り方はどう変わるか?】

 ふたを閉めて水を流すと、便器の上に飛沫が飛び散ることはなくなった。隙間のある便器の手前から15㎝くらいまで飛沫がもれ出しているが、その量は、ふたを開けて流したときの4分の1程度だった。ふたの効果がはっきり表れたことになる。

実験3 【 便器からもれ出たウイルスは、トイレのどこに付着するか?】

 便器にふたをして、ウイルスの入った水を流したとき、飛沫に混じったウイルスがトイレのどこに付着するか調べてみた(実験では、ヒトへの感染の心配がない無害なウイルスを使った)。すると、ウイルスはトイレの壁(両面)や便座の裏面にたくさん付着することがわかった。

 ただし、さまざまな場所に付着したウイルスの量は、全部合わせても、流す前の便器内にあった量の10万分の1以下だった。この量のウイルスなら、体内に入ったとしても、よほど悪い条件が重ならない限り、感染する可能性はほとんどないという。

■実験結果から分かった、感染予防の「最適解」は?

 実験1~3でわかったことを、日常のトイレ使用にどう生かしたらよいか、まとめると次のようになる。

・トイレの水を流すときはふたを閉め、できれば便器から15㎝以上離れて操作するとよい。

・トイレ掃除をするときは、便器の中やふた、便座だけでなく、壁も消毒用アルコールなどでふき取るとよい。

「トイレのふたを閉めてから水を流したほうがいい」という情報が本当であることが、今回の研究で科学的に確かめられた。

 また、実験3から明らかになったように、水洗トイレの水を流したときにもれ出るウイルスの量ぐらいでは、感染の心配はほぼない。しかし、だからといってトイレをきれいに使わなかったら、感染するリスクは高まる。今回の研究でわかったことを頭に入れ、掃除をする人のことも思って、きれいにトイレを使おう!

(画像・資料提供/産業技術総合研究所センシングシステム研究センター  文/上浪春海)