【全文公開】のんが語る 再出発から9年「まっすぐに突き進み続けたから、いまがある」

ボイスアクトを務めた’16年の『この世界の片隅に』で第11回声優アワード特別賞ほか、多数の賞を受賞。幅広いジャンルでの活躍が評価され、’24年に第16回伊丹十三賞に輝いた

「撮影って楽しい!」から9年

「ご無沙汰しています!」

改名しての再出発をFRIDAYで宣言してから9年。のん(32)がスタッフとの再会の際に見せた笑顔は、撮り下ろし&密着インタビューを終えた後に「撮影って楽しい!」と微笑んだ9年前のあのキラキラした笑顔、そのままだった。

再出発後、のんは歌手、絵本作家、ボイスアクト、映画監督と活躍の場をどんどん広げて、昨年の伊丹十三賞に輝いた。

今年は、原点である俳優業での活躍が目立っている。

『幸せカナコの殺し屋生活』(DMM TV)では殺し屋に転職したOLを好演。11年ぶりの民放ドラマ出演となった『キャスター』(TBS系)での大学の若手研究員役は大いに話題となり、運転士を演じた『新幹線大爆破』(Netflix)は日本で1位、世界でも2位と大ヒット。

そして9月29日から配信される『MISS KING/ミス・キング』(ABEMA)では、家族を捨てた天才棋士の父に将棋で復讐する飛鳥を演じる。裏切り、復讐、非業の死――代表作の『あまちゃん』(NHK)とは真逆、キャリア初となる難役に、のんはいかにして挑んだのか。

「これまで(実写で)不幸な役を演じたこと自体はあるにはあるんですけど――そんなに不幸そうにしてなかったり、コメディータッチだったりで、間違いなく飛鳥が一番不幸ですね。先日、編集途中の映像を見させていただいたんですけど、相当惨めな役柄になっております(笑)」

今回、キャリアで最も不幸でダークな役を演じることになったのだが、「俳優・アーティスト、のん」のブランディングを本人はどう考えているのか――と問うている途中に、本人は「ふふふ」と笑い出した。

「ブランディングについてはあんまり明かしたくないんですけど……(笑)、『チームのん』というプロデュースチームを組んでいて、オファーを受けるかどうか、役作りをどうするかなど、話し合っています。基本的にはその意見を加味して、私が判断をします。いろんな可能性を並べてみて、話し合っていく感じですかね。″全然ダメだな″と思ったときは、チームの意見が一致していることが多いですね。私が覆すときもあるけど。飛鳥については『いいね!』と満場一致だったと思います」

大きな支えとなった「チームのん」

「どんな役も難しいんですけど、今回は特に難しさを感じていた」と言うのん。突破口となったのは水谷豊(73)だった。

「今回も『飛鳥はどんな人物像だろう』と話し合う中で『昭和の、荒っぽいんだけど繊細な感じじゃないか』っていう意見が出て、『傷だらけの天使』とか、いろいろと挙がるなかで『赤い激流』の水谷豊さんに行き着いたんです。アクティングコーチをつけて、議論しながら解釈を深めていくのですが、『赤い激流』は繊細さと荒っぽさというキーワードで私のなかでパッと繋がりました。今回、裏テーマとして″『赤い激流』の水谷豊さん″を研究してから撮影に臨みました」

女性なのに水谷豊を裏テーマとしたのには理由がある。山岸聖太監督が口にした衣装や髪についての言葉から「メンズのイメージを感じ取った」というのだ。

『赤い激流』でピアニストを演じたころの水谷は25歳。「動きが鋭くて苦労しました」と苦心しつつ研究を重ねた効果は、現場で発揮されたのか。

「監督のイメージと合致したとき、監督は私のもとに来て褒めてくださるんですよ。『いまの、めっちゃよかったです』って。私と監督の解釈が違うセリフがあって現場で擦り合わせをしたこともありましたが、監督と話しながら中性的で荒っぽい飛鳥のイメージを作っていったので、大枠はそんなにズレてなかったんじゃないかな? ″ズレてるな″って感じたら『下手でした?』とか『違いました?』と確認するタイプなのですが、それがなかったので。私の裏テーマ、水谷豊さんが合致していた」

飛鳥は女性棋士を目指すのだが、のんは今回、初めて駒を触ったという。

今作で大きな意味を持つ駒が「飛車」であることを受けて、記者は一枚の色紙を取り出した。9年前の再出発にあたって彼女が書いたもので、そこには「まっすぐ! 楽しいストレート道」という決意が記されていた。

「うわぁ! ウケる(笑)。飛車だ!」と仰(の)け反(ぞ)った後、のんは「こういうの、捨てないんだ」と優しい目になった。

「ずっと一緒についてきてくれている『チームのん』の皆さんが、大きな支えとなっています。高橋幸宏さんにフェスに呼んでいただいて、そこが私の音楽デビューとなりました。音楽の道を拓いてくださった恩は忘れません。音楽以外でも、私を面白がってくれて関わってくださった方がたくさんいらっしゃいます。そのすべてが支えとなっています」

ここまで、まっすぐを通すなかで相当の壁や障害があったはずだが、彼女に悲愴感がないのは何故なのか。

「挫折を味わったこと、あんまりないですね。ただ、自分のまっすぐさを自覚してないとうまくいかない場面はあります。『ミス・キング』は山岸監督がまっすぐな方で気楽でした。私……こうして対面して話していても、相手の気持ちって一切わかんないんですよ。スタッフと話しているときに、真逆の感想を持っていることがわかって『えっ?』ってなることがよくある(笑)。台本だとすごく理解できるんですけど、生身の人間は理解できないことがほとんど」

監督が同じ飛車型だったことで、撮影は快調に進んだ。大先輩の西岡德馬(78)を唸らせる場面もあったという。

「山岸監督の飛鳥の演出がかなり生意気だったんですけど、私もそちらに方向を定めていて、相当こう、人を食ったようなセリフの言い方になったんです。そうしたら、西岡さんが『ムカつくね〜』って笑い始めて。″今の大丈夫だったかな″ってヒヤヒヤしたんですけど、後からすごく褒めてくださって嬉しかったですね。今作では藤木直人さん(53)、倉科カナさん(37)、中村獅童さん(53)という多彩なキャラクターの役者さんたちと共演できて、本当に興奮しました」

まっすぐになれない人たちへ

今回、未経験だったダークなヒール役に加え、将棋という引き出しを増やした。「パチン!」と指す音が物語のキーとなるのだが、未経験者だったのんは更なる技を手にしたという。

「パチンって鳴らせますし、パチパチンっていう技もあります!(笑) これはかなり難しいですよ。初心者では無理ですね! 相手の駒にぶつけるシーンもあって……ヒリヒリする将棋の勝負、そしてパチパチンが見どころです。映像も美しくてかっこいいですよ。将棋を指したことはなかったんですけど、私は″吹き替え″なしでやっております!」

すでにインタビュー終了時間を過ぎていたが、彼女のように自分のやりたいことにまっすぐになれない人たち、迷える読者への助言を請うと、「フライデーを読んでる人に!? 生きづらい人たちなんですか?」と吹き出した後にこう続けた。

「まっすぐに突き進んでいると……なんと言うか、自分が磨かれていくと思うんですね。当たってくる向かい風だったりに磨かれていく。私も昔……というか20代のころは、″自分の考えていることが一番″という時期があったんですけど、なんというか――意見を募り、聞くことができるようになりました。飛車も成ったらまっすぐ以外の動きができるようになりますから(笑)。だから、いろいろ苦しみも大変なこともありますけれども、くじけず一緒に頑張りましょう!」

飛車人生が次のステージに入った。

今作で初めて将棋を指したのん。好きな駒は飛車かと思いきや「角が好き。斜めに動けるのがかっこいい(笑)」

「まっすぐに突き進んでいると、自分が磨かれていく」

再出発にあたっての決意を書いた色紙と9年ぶりの再会。宣言どおり、まっすぐ楽しい、ストレート道を歩んだ

本誌未掲載カット のん 再出発から9年「まっすぐに突き進み続けたから、いまがある」

本誌未掲載カット のん 再出発から9年「まっすぐに突き進み続けたから、いまがある」

『FRIDAY』2025年10月3・10日合併号より