行列嫌いの福岡民が「並んじゃう」意外な名物

福岡のローカルチェーン「天麩羅処ひらお」。直営のみでフランチャイズ展開をしないのが同店のポリシー(著者撮影)
並んででも食べたい!福岡のソウルフード
福岡のご当地グルメといえば、とんこつラーメン、水炊き、もつ鍋、焼き鳥、うどん、明太子、ごまサバなど、とにかく盛りだくさん。福岡にやってくるビジネスマンや芸能人、観光客たちは「福岡は何でもおいしい」「食が楽しみ」と口をそろえる。そんな豊富なグルメの中で今回ご紹介するのは、福岡のローカルチェーン「天麩羅処ひらお」だ。
【写真を見る】揚げたてサックサクの天ぷらがおいしそう! ひらおの一番人気メニューはこんな感じ
「え、福岡で天ぷら!?」と驚くことなかれ。ひらおは、1979年から45年以上にわたり福岡で愛されてきた天ぷら専門店で、地元では“福岡のソウルフード”と称されている。筆者も幾度となく訪れてきた。福岡空港駅から歩いて約15分の本店をはじめ、現在は福岡市内と近郊に8店舗を展開している。
東京なら、人気の飲食店に並ぶのは当たり前だろう。しかし、福岡にはもともと並んでまで食事をする風潮がなく、近年になって国内外の観光客が有名なラーメン店やドーナツ店に行列を作るようになった。しかし、例外として、福岡の住民が昔から行列してでも食べていたのが、ひらおの天ぷらだ。いつもどの店舗も大盛況で、筆者はこれまで並ばずに入れたことが一度もない。

天麩羅処ひらお 天神アクロス店。ガラス張りで、店内の様子が見える(著者撮影)
8店舗の中で、特に便利なロケーションの「天麩羅処ひらお 天神アクロス店」を訪問した。天神は九州最大の繁華街で、天神駅まで福岡空港から地下鉄で約11分、博多駅から約5分とアクセス抜群。同店は福岡市役所に近い複合ビル「アクロス福岡」の地下2階にあり、天神駅の改札を出て、そのまま地下を5分弱歩くと到着する。
営業時間は10時30分~20時30分(ラストオーダー20時)、席はカウンターのみ26席。筆者が訪れたのは平日の朝10時、開店30分前で、並んでいる人はまだいなかった。しかし数分後には次々と並び始め、開店時はすぐ満席になった。
入店すると、まず券売機で食券を買うスタイルで、定食に加えて単品も豊富にそろう。定食は、やさい、とり天、あじわい、えび定食など9種あり、すべて7~8品の天ぷらにご飯(大・中・小)と味噌汁がつく。価格は910~1190円、天神アクロス店のみ他店より数十円高い設定だ。
それでも天ぷら定食でこの価格なら、十分にお得だろう。そして、店頭には明記されていないが、無料でつくあるものが大好評で、それを目当てに来る客も多い。

店の入り口にある券売機。海外の客が多いため、英語・韓国語・中国語表記のメニューも用意されている。右奥に写っているのがベンチ(著者撮影)
刺身級の新鮮さ!無料サービスのいか塩辛が大人気
一番人気の「お好み定食」(中ごはん・1140円)の食券を買うと、「いらっしゃいませ」と威勢のいい声に迎えられ、カウンターに案内された。
今回は朝一番に入店したため、すぐ席につけたが、通常は食券を買ったら、待合スペースの壁沿いに設けられたベンチの最後尾に座る。席が空くと先頭の人から案内されるので、その都度、前につめて座る。これは全店共通のスタイルだ。
カウンターは厨房を囲むコの字型で、目の前で職人が天ぷらを揚げるライブ感がある。店員がテキパキと動き、「ありがとうございました」などと元気に声を出す様子は気持ちがいい。

ひらおは全店カウンターのみ。子ども用のいすや食器があり、家族でも行きやすい(著者撮影)
席に着いて店員に食券を渡すと、定食に応じた色のタグと天ぷら用のトレイが目の前に置かれる。続いて、ご飯と味噌汁、大根おろし入りの天つゆ、そしていかの塩辛が運ばれてきた。そう、先ほど触れた無料でついてくる名物は、このいかの塩辛である。
天ぷらを待つ間に食べてもらおうとサービスで出し始めたもので、数年前まではテーブルに容器が置かれて食べ放題だった。しかし、いかの漁獲量が激減して価格が高騰したため、現在はひとりに1皿ずつ出すスタイルに。おかわりは1皿50円。

ご飯(中ごはん)と味噌汁、天つゆ、いかの塩辛(著者撮影)
この塩辛には、刺身で食べられるような上質で新鮮ないかを使用。保存料や添加物を一切使わないため、市販の塩辛の消費期限は1カ月ほどだが、ひらおの塩辛はわずか5日。熱いファンの声に応えて、通信販売も行っている。ほかに、テーブルには食べ放題のもやしナムル、塩、一味唐辛子、ゆず胡椒、ゆず酢が置かれている。

名物のいかの塩辛。いかのワタを使っていないので臭みがない(著者撮影)
揚げたてのサクサクが食べられる!
ほどなく、天ぷらが運ばれてきた。揚げたてを1品ずつ提供するのがひらお流だ。創業時に揚げたてにこだわったのかと思いきや、実は当初、別の店にする予定だった場所で天ぷらを提供し始めたため、お膳をセットする場所がなく、やむなく客席に一品ずつ提供するスタイルにしたのだとか。
しかし、結果的にはそれが功を奏し、サクサクの揚げたてを食べられると評判になったのだ。

職人が揚げたてを持ってきてくれる。慌てて食べると熱いのでご注意を(著者撮影)
まずは「白身」からスタート。職人がカウンターのタグを見ながら、該当する人のトレイに次々と揚げたてを入れていく。聞けばマトウダイで、船を指定して買い付けているとのこと。
まずは何もつけず、そのままいただく。薄い衣はサクッと軽く、かむと柔らかな身が口の中でほろほろとほどけ、淡白ながらもしっかりとしたうま味を感じられる。衣が主張せず、素材のよさを活かしているのがひらおの特長だ。
続いて、大根おろしたっぷりで出汁のきいたつゆにつけると、これまた天ぷらの味わいを引き立てる。創業当時、天つゆは薄口醤油で作るあっさりしたものが主流だったが、ご飯に合うように濃いつゆにしたのだそう。味噌汁はコクのある白味噌で、ご飯もふっくらとして文句なくおいしい。
それから、1品ずつトレイに入れられる。次にきた「海老」は大ぶりでプリプリとして食べ応え十分。インドネシアの専用の養殖場で生産している、同店自慢の一品だ。

弾力がありジューシーな海老(著者撮影)
続いては「豚」。豚肉の天ぷらは全国的に珍しいが、社長が知り合いの肉屋に「いい肉があるから使ってみて」と提案され、試したところおいしかったのでメニューに入れたとのこと。著者はここで初めて食べた豚天のおいしさにいたく感動して、それからは豚が入ったお好み定食一択だ。

豚を単品で注文する客も多い(著者撮影)
続いて、「野菜3種」のカボチャ、ナス、ピーマンが順に運ばれてきた。カボチャはホクホクとして優しい甘さが口に広がり、厚切りのナスでさっぱりしたら、肉厚なピーマンのジューシーさと苦みでご飯がすすむ。

野菜は大きめで瑞々しい(著者撮影)
最後に出てきたのは「いか」だ。いか天は噛み切れないほど硬いものもあるが、同店のいかは驚くほど柔らかく、しっとりとして、いか本来のうま味を感じられる。最後の一品なので、天つゆをたっぷりつけて、残りのご飯と一緒にゆっくり味わった。

最後に出てきたいか。食べ終わるのが名残惜しい……(著者撮影)

揚げたてを都度いただき、天ぷらがすべてそろった写真は撮影できなかったので、公式サイトの写真で紹介。「お好み定食」(1140円)が全部並んだ様子はこんな感じ。ご飯、味噌汁、いかの塩辛、大根おろし入りつゆに、天ぷらは海老・いか・豚・白身・野菜3品をいただいた(公式サイトより)
素材のよさが人気の理由
ひらおの天ぷらがソウルフードと言われるほど人気になったのは、厳選した素材のよさが抜群だからだろう。野菜と米は国産中心で、魚介類は市場や漁師から直接仕入れることを基本としている。というのも、もともと先代が空港近くの東平尾で1977年に鮮魚・青果・精肉の生鮮3部門をそろえた「河内商店」を開店したのが始まりだから。
1979年に天ぷらの「ひらお」1号店を構えて以来、目利きの先代、そして今は息子で現社長の青柳正典さんが自ら、常に国内外でその時期に最もおいしい素材を探して提供している。
素材のよさを引き立てる衣や油、調理法にも徹底的にこだわり、直営のみでフランチャイズ展開をしないのが同店のポリシー。だからこそ、いつどの店に行っても同じように満足できるのだ。
時間に余裕を持って訪店したい
今回紹介した「天神アクロス店」に加えて、同じ天神エリアの「大名店」も都心部で駅に近く、出張者にとっては行きやすい。ほかの6店舗は福岡市郊外や近隣にあり、車やタクシー移動が基本となる。
どの店舗も開店前から行列ができており、ピーク時は待ち時間が1時間を超えることも。余裕を持って行くことをおすすめしたい。ただ、席につけば、次々に天ぷらが運ばれてきて、15~30分あれば食べ終えられるだろう。

公民複合施設として1995年に竣工したアクロス福岡(筆者撮影)

公園と接する南側に配された植物がぐんぐん育ち、都心のオアシスとなっている(筆者撮影)
8店舗合わせて1日4000~4500人が来店する、天麩羅処ひらお。今後、店舗を増やしていく方針で、2026年には福岡に2店舗の出店を計画しているとのこと。
青柳社長は「とにかく食材にこだわり、常に最高のものを提供できるように、世界中で食材を探し求めています。店舗数もさほどないのにソウルフードと言っていただき、本当にありがたいです。その名に恥じないように精進していきます」とコメントを寄せてくれた。