クマ問題 自衛隊が「銃でクマ駆除」は「非現実的」「たぶん当たらない」 ハンターが切実に願う「後方支援」とは

■自衛隊要請も「駆除は難しい」, ■小銃と猟銃は銃弾も威力も全く違う, ■クマ駆除に使われる銃弾とは, ■自衛隊員が猟銃を撃っても「当たらない」, ■一撃でクマのバイタルポイントを撃ち抜く, ■ハンターの後方支援を想定, ■自衛隊員が狩猟を取ってくれたら, ■地元とのコミュニケーションが必要

 10月28日、秋田県の鈴木健太知事は、小泉進次郎防衛相に自衛隊の派遣を要請した。クマによる人身被害が拡大しているためだ。自衛隊を派遣すれば、クマ被害を食い止めることはできるのか。

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■自衛隊要請も「駆除は難しい」

 秋田県におけるクマによる人身被害は、10月(26日時点)だけで35人。過去最悪の数字を記録した。

 鈴木健太知事は28日、「状況はもはや県と市町村のみで対応できる範囲を超えており、現場の疲弊も限界を迎えつつある」として、防衛省で小泉進次郎防衛相に「クマ被害に対する自衛隊派遣要請」文書を手渡した。

 鈴木知事は元自衛隊員だ。京都大学法学部を卒業後、2000年に陸上自衛隊に入隊。東ティモール国連平和維持活動(PKO)やイラク復興支援活動などで部隊を率いた経歴を持つ。

 そんな鈴木知事によると、自衛隊派遣要請は、自衛隊による直接的な「クマ駆除」のためではないようだ。自身のSNS(インスタグラム)には、クマの駆除に「自衛隊を出動させればよいとのご意見をいただいた」と明かしたうえで、駆除のための「武器使用は法的に不可能」と投稿。

「駆除そのものを目的とする武器使用は現在の法令では許されない」(鈴木知事)

 さらに、「銃や訓練の性質からもクマの駆除は難しい」と記した。

 つまり、自衛隊が銃を使ってクマを駆除するのは、現実的ではないということだ。なぜなのか。

■小銃と猟銃は銃弾も威力も全く違う

 北海道猟友会・札幌支部「ヒグマ防除隊」の玉木康雄隊長は、自衛隊によるクマ駆除が現実的ではない理由をこう説明する。

「自衛隊員は銃器の取り扱いに慣れていますが、装備している小銃と猟銃では、使用目的も銃弾の威力も全く違うんです」

 陸上自衛隊が装備している主力の銃は、防衛省によると、「89式5.56ミリ小銃」だ。

「対人用の小銃で、防弾チョッキ(最新型を除く)に対する貫通力がある程度あり、直径5.56ミリの尖った弾頭を高速で発射します。けれども、クマに対して致命傷を与えることはできません」(玉木さん)

■自衛隊要請も「駆除は難しい」, ■小銃と猟銃は銃弾も威力も全く違う, ■クマ駆除に使われる銃弾とは, ■自衛隊員が猟銃を撃っても「当たらない」, ■一撃でクマのバイタルポイントを撃ち抜く, ■ハンターの後方支援を想定, ■自衛隊員が狩猟を取ってくれたら, ■地元とのコミュニケーションが必要

■クマ駆除に使われる銃弾とは

 クマの駆除で一般的に使用される猟銃は大口径の「7.62ミリ」。直径わずか約2.1ミリの差だが、弾頭の重量は約2倍も違う。それだけ威力が大きいのだという。

 弾頭の形状も異なる。猟銃の銃弾の頂部は平ら、もしくはくぼんでおり、着弾の衝撃で変形炸裂する。つまり、目標を貫通せず、内部組織を大きく破壊するのだ。

「一般的に『ダムダム弾』と呼ばれる銃弾です。人道的ではないことから、軍隊での使用は国際条約で禁止されており、自衛隊も保有していません。けれども、こうした威力のある銃弾でないと、クマの動きは止められないのです」(同)

 発射に際しては、周囲への配慮も求められる。弾がクマの体を貫通することも想定して、その背後で跳ね返るなどして事故を起こさないように、土手などの「バックストップ」の確保が必要だ。

 自衛隊はより威力の高い口径7.62ミリの機関銃なども装備しているが、それをクマ駆除に用いることも現実的ではないという。貫通力を重視した銃弾ため、クマを突き抜けた弾が跳ね返り、二次被害をもたらす恐れがあるためだ。

■自衛隊員が猟銃を撃っても「当たらない」

 では仮に、自衛隊員が猟銃を持ち発砲できるのであれば、クマを駆除できるのか。

 玉木さんはこう話す。

「いくら自衛隊員とはいえ、いきなり猟銃を撃ったのでは、当たらないと思いますよ」

 自衛隊が一般的に用いる5.56ミリ弾に比べて、猟銃の7.62ミリ弾を発射する際の反動は大きく、簡単に扱える代物ではない。また、弾頭の重量や形状が違えば、弾頭が発射されてから目標に達するまでに描く軌跡、「弾道」の特性も違ってくる。

「われわれハンターも、弾が変われば、50~100発ほどは発射しないと、弾道特性を把握できません」(同)

■一撃でクマのバイタルポイントを撃ち抜く

 さらに、クマの駆除には極めて高い射撃技術が要求される。一撃でクマの脳(脳幹)や心臓、肺などの「バイタルポイント」を撃ち抜かなければ、反撃される恐れがあるうえに、手負いのクマが市街地に逃げ込む恐れがあるからだ。

「そもそも、自衛隊員は銃で相手を殺害する訓練は受けていません」(同)

 自衛隊の「発砲」は、相手を負傷させ、救護人員を割くことが主な目的だ。

「クマの駆除に適した装備もなければ、訓練も受けていない自衛隊員が、クマ駆除を行うのは、現状では極めて非現実的だと思います」(同)

■自衛隊要請も「駆除は難しい」, ■小銃と猟銃は銃弾も威力も全く違う, ■クマ駆除に使われる銃弾とは, ■自衛隊員が猟銃を撃っても「当たらない」, ■一撃でクマのバイタルポイントを撃ち抜く, ■ハンターの後方支援を想定, ■自衛隊員が狩猟を取ってくれたら, ■地元とのコミュニケーションが必要

■ハンターの後方支援を想定

 ではなぜ、自衛隊派遣が要請されたのか。主な目的は、災害派遣と同様、マンパワーを生かし、ハンターの「後方支援」を意図してだという。具体的には、クマを捕獲するための箱ワナの輸送や設置、ワナの巡回と捕獲の確認などが想定されるという。

「自衛隊から『こういう手伝いができますよ』と言ってくださるのであれば、ハンターたちはとても助かると思います」(同)

 たとえば、箱ワナは大型のものになると200キロ以上にもなる。設置にはクレーン車が必要で、設置場所も限られる。

■自衛隊員が狩猟を取ってくれたら

 ハンターは高齢化が進んでおり、環境省によると、60歳以上の狩猟免許所持者は約6割(2020年度)。各地で年々、クマの駆除が困難になっている。自衛隊が活動を支援してくれるのであれば、大きな助けとなるかもしれない。

 玉木さんは、こんな期待も寄せている。

「猟友会がクマの捕獲を担うことが難しい地域は、今後増えていくでしょう。狩猟免許を持つ自衛隊員が猟友会に入り、3年くらい学び、駆除の現場に立つような仕組みは、政府が本気で取り組めば、できるかもしれません」(同)

 学びとして、「3年」もの期間を要する理由は、クマ駆除の難易度の高さにある。射撃の技術に加え、地域の特徴をつかむ必要があるからだ。

「長年、ヒグマを駆除しているわれわれでさえ、札幌以外の地域から応援を求められると、二の足を踏みます。その地域の特徴がわからないからです」(同)

 クマの動きは地形によって異なる。

「現場に立ったとき、クマが姿を現したときの動きを頭の中に描けなければ、的確に対応できず、事故のリスクが上がります。仮に、自衛隊員がクマを駆除できるようになったとしても、初めての現場にいきなり行って活動するのは困難でしょう」(同)

■地元とのコミュニケーションが必要

 10月30日、秋田市に駐屯する陸上自衛隊第21普通科連隊は猟友会員や県職員から箱ワナの設置方法やクマから身を守る防御姿勢などを学んだ。

 後方支援を行ううえで、大切なのは、地元のハンターとの連携だという。

「自衛隊が保有する特殊な機材を使えば、もっと的確な場所に箱ワナを設置できるかもしれない。そのためには、日ごろから地元とのコミュニケーションが必要で、今回の事例は、その試金石になるかもしれません」(同)

 増えるクマ被害に、自衛隊派遣が奏功することを願ってやまない。

(AERA編集部・米倉昭仁)