価格高騰に逆行、名古屋でうなぎ屋開店相次ぐ訳

今年6月、愛知県春日井市にオープンした「美濃金 春日井店」の「上丼」(筆者撮影)
うなぎは毎年のように値上げを繰り返し、すっかり高嶺の花になってしまった。とくに近年では、お米や光熱費も高騰しているため、ますます手が届きにくい。
【名古屋名物】ひつまぶしを目当てに名古屋を訪れる人も多い
ゆえに格安店で食べる人もいるだろうが、こうした店では海外から蒲焼きにした状態で仕入れて、店では温めて切るだけというところも多い。海外からの大量仕入れと調理を簡易化するための専用の焼き機など、コスト削減の工夫によって低価格を実現している。
このように寿司がカウンターで食べる高級店とリーズナブルな回転寿司に分かれたように、うなぎも老舗店をはじめとする高級店と格安店の二極化が進むと筆者は考えていた。
ところが、今年11〜12月にウズベキスタンで開催されるワシントン条約締約国会議で、ニホンウナギを含むウナギ全種が国際取引の規制対象に追加されるかどうかの投票が行われると知り、その考えが大きく揺らいだ。

池揚げされたばかりのうなぎを選別している※撮影協力/一色うなぎ漁業協同組合(筆者撮影)
うなぎの価格がさらに高騰?
日本は資源管理を行う中国や韓国と連携し、提案の否決をめざして交渉を進めるだろう。しかし、もし採択されてしまったら、輸出入が許可制となり、価格上昇が予想される。日本の養鰻は国内漁獲分と併せ、台湾や中国などから、うなぎの稚魚であるシラスウナギの輸入に頼っているため、養鰻業への影響も懸念される。
つまり、うなぎ屋から人々の足がさらに遠のき、格安店や牛丼チェーンであっても安いと感じられなくなる日が来るかもしれないのだ。
資源保護という観点では仕方がないと思う反面、ここは何とか粘り強く交渉して、日本の食文化であるうなぎ料理がこれからも食べられるように願うばかりである。
このような懸念がある状況下ではあるが、筆者が暮らす愛知県や岐阜県、三重県ではうなぎ屋の新規オープンが相次いでいる。
愛知県でうなぎ屋のオープンが相次いでいるわけ
グルメ情報サイト「食べログ」で今年にオープンしたうなぎ屋を調べてみると、10月末現在で30軒もの店がオープンしている。
筆者の知る限り、オープンラッシュは7、8年前頃からだ。注目すべきは、そのエリア。名古屋駅や栄、金山といった都心部でのオープンが圧倒的に多い。とくに名古屋駅では、「ひつまぶし名古屋備長」や「まるや本店」、「うなぎ和食 しら河」など、ひつまぶしの有名店が軒を連ねている。
名古屋駅は名古屋の玄関口ゆえに出張客や旅行客が多く、「せっかく名古屋へ来たのだから」と、少々値段が高くてもひつまぶしを求めて店に足を運ぶ。栄や金山も仕事や観光で県外から訪れる人が多いため、ひつまぶしの需要が高いのだ。

ひつまぶしを目当てに名古屋を訪れる人も多い(筆者撮影)
名古屋の都心部に新規参入したうなぎ屋の中には、居酒屋や焼鳥屋から業態変更した店があり、筆者も取材したことがある。
ある店主は、「枝豆などを300円、400円で売るよりもうなぎの方が単価も高いですし、うなぎは頭以外ほとんど捨てるところがないから食材のロスもありません」と語った。
しかし、うなぎ料理は「串打ち3年、割き8年、焼き一生」といわれ、職人の技術があってこそ成り立つのではないのか。
「もちろん、串打ちや割きの練習はしましたよ。しかし和食の料理人の経験があればそんなに難しいものではないですし、慣れない頃は、あらかじめ開いてあるうなぎを仕入れていました。焼き魚用のグリルでもおいしく焼くことができます」(前出の店主)とのことだ。
1987年創業の日本料理店がルーツ
愛知県尾張地方東部にある春日井市に今年6月、うなぎ料理店「美濃金」がオープンした。1号店は岐阜県南部の各務原市にあり、こちらは2021年10月の開店。経営母体は北海道から九州まで全40店舗を展開する「さかい珈琲」を運営するJ・ART(岐阜県各務原市)である。
「『美濃金』は、良質なうなぎを育む木曽三川の清流に恵まれた岐阜で、1987年に創業した日本料理店がルーツです。弊社は、うなぎを最もおいしく味わう方法を長年にわたって探究してきました。コロナ禍をきっかけにうなぎが改めて注目を集めたことから、鰻専門店の出店を決めました」と話すのは、J・ART新規事業部部長の清水仁詞さんだ。

「美濃金 春日井店」外観。店は多くの車が行き交う国道19号線沿い(筆者撮影)
うなぎは主に皮も身もやわらかい新仔を使用するため、初夏から夏にかけては宮崎と愛知、夏から秋冬は静岡と鹿児島、春先は高知という具合に時季ごとに産地を変えている。冬場に中国産の新仔うなぎを仕入れている店も多い中、国産にこだわっている。
「外国産であっても厳しい基準をクリアして日本へ輸出されているので問題はないとは思いますが、外国産と聞いただけで不安になる方もいらっしゃいます。それならば、すべて国産にしようと。少し前まで天然もののうなぎも扱っていましたが、資源保護の観点からやめることにしました」(清水さん)

J・ART新規事業部部長の清水仁詞さん(筆者撮影)
串打ち、割き、焼きといったうなぎ調理の基本技術は、誰もが習得できるよう再現性の高いマニュアルを作り体系化した。これにより、経験や出身ジャンルを問わず、一人前のうなぎ職人を育成できる独自の研修システムを確立したのである。
調理スタッフの多くは、もともと和食以外の分野であるパティシエやパスタ、ステーキ、中華などの出身者であった。初めのうちは失敗も多く、練習用のうなぎを無駄にしてしまうこともあったが、マニュアルに基づく反復練習を重ねることで、着実に技術を身につけていった。その結果、現在では誰もが客前で提供できる水準にまで成長している。
「もともと私も現場出身で、うなぎの調理について研究を重ね、技術の向上に努めてきました。スーパーやファストフードのうなぎとの違いは、“職人の技”を体験していただける点にあります。今後も、さらなる腕の研鑽を重ね、一層おいしいうなぎを提供できるよう努めます」(清水さん)
蒸さずに焼く“地焼き”うなぎのおいしさを広めたい
「美濃金」の特徴は、うなぎ半身を使ったリーズナブルな「小丼」(2500円)や、「ひつまぶし小」(3200円)があること。新規参入だけに敷居を低くすることで店に足を運んでもらいたいという戦略でもある。
ちなみにうなぎを丸ごと1尾使った食べ応えのある「上丼」は3900円、「ひつまぶし上」は4600円と、名古屋市内の有名店よりも安い。
もちろん、価格以前に肝心なのは味だ。皮はパリッと、身はふんわりと焼き上げたうなぎは絶品そのもの。タレも甘すぎず、辛すぎずバランスが秀逸。粒が大きい岐阜県産の美濃ハツシモ米の適度な甘みと粘りもうなぎのおいしさを引き立てている。
これは東京メトロ銀座線の末広町駅からほど近い場所で開店させた「鰻 炭焼 ひつまぶし 美濃金 神田本店」が大きなヒントになった。
「神田本店も各務原店と春日井店と同様に、うなぎを蒸さずに焼く“地焼き”で提供しています。神田本店を訪れるお客様の中には関東風のうなぎしか召し上がったことのない方もいらっしゃいましたが、炭火を使った地焼きのうなぎをとても気に入ってくださいました。地焼きのうなぎのおいしさを広めていくのもわれわれの使命ではないだろうかと思っています」(清水さん)

白焼きにした後、タレに数回浸しながら焼くのが名古屋風の地焼き。濃厚な味わいが後を引く(筆者撮影)
ということは、今後出店するのは関東風のうなぎが食されているエリア、つまり、静岡県静岡市から東ということになる。
が、東京進出となると、銀座マロニエゲートに「ひつまぶし名古屋備長 マロニエゲート銀座1店」が2007年に開店したのを皮切りに、「まるや本店 東京ミッドタウン店」(2019年)や「炭焼 うな富士 有楽町店」(2020年)、「うなぎ四代目菊川 ムスブ田町店」(2020年)といった有名店が軒を連ねていて、どの店も都内で多店舗展開している。すでに飽和状態にあるといってもよいだろう。
そうなると、神奈川や埼玉、千葉……さらに離れて北関東や東北への出店もあるかもしれない。いずれにしても名古屋から何百キロと離れた場所で地焼きのうなぎが食べられる店ができれば、いち名古屋人としては嬉しいし、誇らしく思う。