【NHK朝ドラ「ばけばけ」第7週開始】異文化の緊張と三之丞(板垣李光人)の裏切りの予感? 「生きちょる」トキ(高石あかり)の守られる“尊厳”

明治の松江を舞台に、怪談好きのヒロイン・松野トキ(高石あかり)が生きることに奮闘するNHK連続テレビ小説「ばけばけ」(毎週月~土曜午前8時、NHK総合ほか)。第7週「オトキサン、ジョチュウ、OK?」では、異国の教師・ヘブン(トミー・バストウ)の女中となったトキが、誤解と緊張のなかで働き始める様が描かれる。一方、彼女が信じて託したお金を懐に入れた疑いが浮上した雨清水三之丞(板垣李光人)。希望と裏切りの対比が見え隠れした。
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■ヘブンは「スバラシ」と目を輝かせて…
第7週のタイトル「オトキサン、ジョチュウ、OK?」が象徴するように、物語は軽やかかつ少し滑稽なテンションで幕を開ける。
ヘブン(バストウ)の女中になることを決意したトキ(高石)が、通訳の錦織友一(吉沢亮)とともにヘブンの暮らす屋敷を訪れたものの、なんとヘブンは「ノー」と断った。
かつて、遊女のなみ(さとうほなみ)が百姓の娘であることを理由に、彼女が女中になるのを拒否したことのあるヘブン。「女中には士族の娘を」と希望しているため、「腕も足も太いトキは士族の娘ではない」として理不尽に拒否したのである。
しかし、トキの祖父が“ラストサムライ”勘右衛門(小日向文世)だと知るや、ヘブンは一転して「スバラシ」と目を輝かせた。この唐突な掌返しには、従来の朝ドラらしい可笑しみと、「ばけばけ」らしい緊張感がバランス良く共存している。
本作において異文化の壁は、言葉ではなく“価値観のズレ”として描かれる。トキの必死の正座も、ヘブンにとっては異国の奇妙な、かつ興味深い儀式に過ぎない。それでも、ヘブンは彼女を“働き手”として受け入れる。ここにあるのは、支配と服従ではなく、誤解から始まる“敬意の交渉”だろう。

ヘブンの屋敷での初日は、トキにとってまさに試練の連続だった。朝食も喉を通らず、膝を正して相手の一挙一動に怯える。なかでも印象的なのは、「フトン!」と指示され、床を共にする遊女のような役割を命じられたのでは――とトキが誤解する場面だ。しかし、ヘブンが求めていたのは単に“布団を畳んで片付ける”ことだった。
この肩すかしのような展開がコミカルな印象を残す。おそらく、いやほぼ確実に、ヘブンはトキが恐れていたような遊女としての役割は求めていないだろう。
■働く喜びと、裏で芽生える疑念
ヘブンの屋敷での初日を終えた夜、トキは息を切らしながら帰宅し、思わず「生きちょる」と叫ぶ。生まれて初めて異人に仕え、何事もなく一日を終えられたことへの、心の底からの安堵の言葉だった。
この「生きちょる」の一言には、命の確認と同時に、地獄に落ちぬよう必死で糧を得ている実感が込められているように思える。これまでも、育った家である松野家を路頭に迷わせないよう、身を捧げてきたトキ。ヘブンがトキを“女性”ではなく、あくまで女中という“労働者”として扱う姿勢も、彼女の尊厳を回復させていくのではないか。
しかし、この“働く喜び”の裏で、もう一つの物語が静かに進んでいた。
トキは、ヘブンからもらった給金20円の一部を、かつて世話になった、今は亡き雨清水傳(堤真一)から預かったものだと偽り、三男である三之丞(板垣)に手渡す。愛情と罪悪感が入り混じるその表情は、高石あかりの繊細な演技の真骨頂だ。彼女は、たったいま地獄の真っ只中にいる三之丞たちを救いたい一心でいる。

しかし後日、傳の妻で三之丞の母であるタエ(北川景子)が、変わらず道端で物乞いをしている姿を目にし、トキは打ちのめされる。三之丞は、トキから金を譲り受けたことをタエに話していないことがわかる。
彼のモデルとされている小泉藤三郎については、史実でも目鼻立ちの整った美男子で役者の才能もあったと伝えられているが、同時に問題行動が多く、最期は孤独死したとされている。史実の印象よりも人柄良く描かれている印象の三之丞ではあるが、金を持ったまま逃げ出してしまうのではないか、という懸念が拭えない。
■嘘と誇りのはざまで――トキが歩き始めた
トキは、家族に女中の仕事を隠し続けている。父・司之介(岡部たかし)は娘の働きぶりに疑念を抱き、こっそり後をつける。花田旅館の人々が機転を利かせ、彼女の嘘を守るシーンは、温かさと切なさという本作特有のユーモアが同居する名場面だ。
父に心配をかけまいとするトキの気丈さと、女として生きる現実の狭間で、トキは少しずつ“大人の孤独”を知っていく。
“生きること”と“働くこと”が同義になる瞬間、彼女はすでに少女ではなく、一人の労働者としての誇りを手にしている。そして同時に、三之丞がもたらす「裏切りの予感」が、次の決断を促すきっかけになるのだろう。
笑いと痛み、誤解と理解――。そのすべてを呑み込みながら、トキの人生は静かに前へ進んでいく。
(北村有)
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