0.25%の利上げでは円安は止まらない、食品消費減税が招く「悪い金利上昇」、日銀利上げを無力化する財政不信の連鎖

日銀は6月会合でどのような判断を下すのか。写真は日銀の植田総裁(写真:ロイター/アフロ)

 6月は主要中央銀行が会合を開催するが、アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)を除くほとんどの中銀が、イラン発のエネルギーショックに伴うインフレの加速を受けて、利上げを検討することになるだろう。特にヨーロッパ系の中銀、具体的には欧州中央銀行(ECB)とイングランド銀行(BOE)では、利上げが確実な情勢となっている。

 ヨーロッパの中銀が利上げに前向きなのは、エネルギーの純輸入国であるためだ。確かにヨーロッパでも、北海油田などを中心に石油やガスは生産できる。しかしそれだけで需要を満たすことができないため、世界の各地からエネルギーを輸入している。イラン発のエネルギーショックの影響に鑑みれば、利上げは当然という認識だ。

 もちろん、利上げが景気に与える下押し効果にもECBやBOEは目を光らせている。ただし、高インフレの長期化こそが景気を最も下押しする。そもそも高インフレは、需給が引き締まった時に生じる経済現象だ。それに需要発(デマンドプル)も供給発(コストプッシュ)もない。あるとしたところで、いずれにしても利上げは不可避である。

 ECBの場合、2022年に生じたロシア発のエネルギーショックの際の成功体験も、利上げに向けた動きを後押ししているのかもしれない。当時は利上げに伴ってイタリアやフランスなどの重債務国の金利が急騰し、財政・金融不安が生じる危険性が存在した。しかし、結局は財政・金融不安を引き起こすことなく、ECBは利上げでインフレを退治した。

 ユーロ圏各国の中銀のバランスシートが軽くなっていることも、ECBの利上げを容易にする(図表1)。仮に利上げを通じて長期金利が急騰する事態となった場合、ユーロ圏各国の中銀は、奥の手として、流通市場での国債の購入に踏み込める。引き締めにも緩和にも金融政策の機動性を高めていることへの自信が、ECBにはありそうだ。

【図表1 ECBと日銀のバランスシート】 (注)正確にはユーロシステム (出所)ECB、欧州連合統計局、日銀、総務省統計局

 他方で、日銀である。

0.25%程度の利上げでは焼け石に水

 日銀は6月15日から16日の日程で金融政策決定会合を開催する。政策金利である無担保コールレート誘導目標を、年0.75%程度から年1.00%程度に引き上げる可能性が極めて高い。ただし、この程度での利上げでは、1ドル=160円近傍、1ユーロ=185円前後の円相場は揺るがず、円高にはまず向かわないだろう。

 その理由はなぜか。金利差の観点から考えれば、少なくともECBやBOEとの間で、それが縮小することは見込み難い。つまり、各国の政策金利が0.25%ポイントずつ引き上がるのなら、金利差もそのままスライドするためだ(図表2)。FRBとの間では0.25%ポイントの縮小が生じるのでドル安円高が進むかもしれないが、その程度は限られる。

【図表2 ECBと日銀の政策金利】 (出所)ECB、日銀

 重要なことは、日銀が市場に今後の金利の筋道をどう見せるかに尽きる。政策金利の水準はともかく、日銀が今後も、主要中銀よりも速いテンポで利上げするくらいの強いメッセージを発することができれば、市場は先行きの金利差の縮小を織り込み、価格形成を始める。そうなれば、ある程度の円高効果が生じることが期待できる。

 反対に、日銀が追加利上げに対して慎重に臨む姿勢を市場に示したらどうだろうか。そうなれば、日本と主要国との金利差はますます広がるとの予想が市場で高まるため、円安圧力が強まることになる。日銀による利上げで円安が緩和されなくなるどころか、円安がむしろ進むという極めて悪い流れが出来上がる。これは回避したい流れだ。

 そもそも日銀は、2%上昇の物価目標を掲げている。市場が意識するのは、その目標の順守に見合うだけの政策金利を日銀が提供するか、それに尽きる。提供するなら円を買うし、提供しないなら円を売るだけだ。日銀がその公約を守らなかっただけではなく、主要中銀よりも控えめに利上げを進めるなら、利上げをしても、円は売られる。

円売り圧力につながりかねない食品消費減税

 もう1つ、日銀が利上げしたとしても、それが抑制的である限り、円が買われない理由がある。それは政府による拡張財政路線だ。とりわけ足元で材料視されるのが、食品消費減税の行方だろう。政府は物価高騰対策として、早ければ2027年4月から食品類にかかる消費税を、2年間限定で8%から1%に減税する方向で調整を進めている。

 ただし、これは財政にとっては当然、歳入減につながる。実際に影響は限定的でも、財政悪化への懸念が市場で広がれば、国債を売る要因となる。こうした長期金利の上昇は、いわゆる“悪い金利上昇”であるから、当然、円売り圧力となる。政府の経済アドバイザーの中には、こうした悪い金利上昇に対する理解がおぼつかない人材がいるようだ。

 管理通貨制度である以上、通貨の価値は発券当局が持つ金融資産の価値に依存する。日本の場合、円の価値は日銀が保有する国債の価値を反映する。健全な財政運営がなされていればいるほど、国債の価値が向上するのは自明の理である。逆もまたしかりで、財政運営に対する市場の疑念が高まった場合、その国の通貨は売られることになる。

 発生の経路が違うとはいえ、2010年代のヨーロッパの重債務問題に伴うユーロ安と、2020年代の日本の重債務問題に伴う円安は、起きるべくして起きた通貨安だ。アメリカもトランプ政権の荒唐無稽な経済運営のもとでドル不安に直面しているが、それよりもさらに円安が進んだ根源には、日本財政への不信があると考えるべきだろう。

 約12兆円もの実弾を用いた為替介入の賞味期限が1カ月と持たなかった最大の理由は、政府による拡張財政が続くという市場の見方を崩せなかったことにあると考えていい。ゴールデンウイーク直前より政府は断続的に為替介入を実施し、ドル円レートを155円台まで引き下げたが、結局これは、賞味期限が短い対処療法に過ぎなかった。

マクロ経済運営を適正化しなければ円は売られる

 要するに、財政と金融の両面で、適切なマクロ経済運営がなされていない以上、円は売られる通貨だということである。利上げはマクロ経済運営の適正化に向けた動きではあるが、それが不十分であれば焼け石に水どころか、かえってマイナス面だけが際立つ結果になるかもしれない。課題を先送りし続けてきた日本が払うツケは大きい。

 さて、最後に話をあえて別方向に転じたい。経済安全保障対策の重要性が叫ばれて久しいが、その手段として、円高を目指すべきだという議論が、政府にはほとんどないように見受けられる。経済安全保障の概念上、安定した供給網の構築は重要だが、それは購買力の高い、要するに価値の高い通貨との両輪のもとで花咲くものだからだ。

 資源国が重要視する外貨とは、それは工業品を輸入するために用いることができる、価値の高い外貨のことだ。自由貿易の原則が崩れているからこそ、購買力が高い、価値のある通貨を維持しないと、原材料に乏しい先進国は太刀打ちができない。ECBやBOEが利上げに前向きなのは、そうした強い通貨の必要性を感じているからではないか。

 日本でも経済安全保障の必要性が叫ばれている。しかし、通貨の購買力を維持すること、要するに交易条件の改善だが、この点、関心は非常に弱いように見受けられる。なお、交易条件に為替レートの問題が中立であるという見解は、あくまで計算式の上での話だ。貿易は為替を介するのだから、実際の交易条件は為替の動向に大いに左右される。

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