獲って、食べて、生きる。東出昌大と山の暮らし。
関東近郊の山の中に暮らして、今年で4年目になる東出昌大さん。野菜を育て、獣を撃ち、自ら解体して食べる半自給自足の生活を送る。その生活から見えてきたのは、どこまでもシンプルな命との向き合い方。
獣を撃ち、野菜を育てる。山の暮らしが教えてくれること

取材中も薪火の具合を見たり、シカ肉を捌いたり、決して手を止めない。その手つきは慣れたもので、3年間の山暮らしを物語る。
「今日は天気がいいから、サンドイッチを持っていって、山で食べましょう」。そう言いつつ、手際よく薪で火をおこす。ナイフで切るのは少し前に自ら山で仕留めたシカの肉だ。
東出昌大さんが関東近郊にある山の家に暮らし始めたのは3年ほど前のこと。俳優としての仕事がある時は東京へ出るが、それ以外の日々は近くの山に入って狩猟をしたり、畑で野菜を育てたりして、できる限り自分で食べ物を調達する生活を続けている。

仕留めたシカ肉は筋などを丁寧に取り除いて部位ごとに冷凍保存。必要な時に解凍して食べる。イノシシやカモなども獲って食べる。
埼玉県の自然豊かな場所で生まれ育ち、小さな頃から昆虫や動物が好きだった。20代で俳優デビューした後も、いつかは自然や生きものに近い場所で生きたいと思ってきた。
「いい服を着せてもらって、仕事先へは車で送り迎えしてもらう生活。物質的には豊かだったかもしれませんが、どこか生きている心地がしないというか。俳優の仕事にはやりがいも感じていましたが、35歳くらいまでには東京を離れたいと思っていました」

愛車は軽トラック。仕留めたシカを運ぶにも欠かせない。細い山道もすいすい走る姿は、さすがハンター。
仕事が軌道に乗っても、いつも拭いきれない焦燥感があった。少しでも自然や動物に近づきたい。東京に暮らしながら狩猟免許を取得したのには、そんな思いがあった。
「芝居はアウトプットの連続なので、その分インプットも必要。映画や舞台をたくさん観るようにはしていましたが、それ以外に何ができるだろう、と。名優と呼ばれる方々の本や言葉に触れると、みなさん芝居以外の色々な人生経験を積まれている。東京で何不自由ない暮らしをしているのではなくて、自分も何か違うことをやってみたい。狩猟を通して動物に肉薄した生活を送ることで、芝居の面でも新しい刺激をもらえるのではないかと思ったことも、狩猟を始めたきっかけでした」

半屋外の炊事&ダイニングスペース。ガスがないため煮炊きには自ら割った薪を使う。鍋ややかん、家具や冷蔵庫などはほぼもらいもの。新しく買った生活道具はほとんどない。
狩猟の下見で今暮らす家の近くに来た際、偶然家主に出会い、住むことに。電気もガスも通っていない、小屋に近い家。そこでの生活を通して、多くのことを学んできた。
「野菜を育てるために、僕は牛糞を買っているんです。でも、かつてはこのあたりでも牛や馬を飼っていて、その糞や、人間の排泄物も畑に入れて土を作っていた。生活の中に自然と循環があったわけです。でも今は牛や馬も飼っていないし、トイレは水洗。いっぽう山に目を向けると、あらゆる動物の排泄物は森の栄養になるし、死んだ後もなお誰かの命になる。すべてがつながって、支え合っていることを知ると、人間だけが自然の循環、命の輪から外れているんだなと感じます」

自ら仕留めたシカの肉を、ほうれん草と一緒に薪火で炒める。インタビューを受けながら手際よく料理する東出さんは、正真正銘の“山の生活者”だった。
自然の中にある循環に気がつくと、世界の見え方に大きな変化が生まれた。
「たとえば東京に行って渋谷を歩いている時。渋谷川の近くを通ったら、真っ黒な川の浅瀬でカモが休んでいたんです。生活排水が流れ込む川には化学物質も含まれているでしょう。それらが彼らに悪影響を及ぼさないとも言いきれませんし、実際に鳥の数は年々減っています。スーパーに並ぶ綺麗な野菜も、それを作るための農薬で、どれほど多くの虫が命を落としているか。生物が減ることは自然の循環が絶たれてしまうということ。便利で安心、安全な生活と引き換えに、ほかの命が失われているのだとしたら、経済的合理性だけを求めて生きていくのには限界があるのではないかと感じるようになりました」

畑で野菜を育てつつ、近所の農家からのお裾分けもいただく。どうしても手に入らないものだけ、スーパーで買う。
名前を知らない鳥や虫。それらが地球上から姿を消したところで、誰が困るのか。そんな問いに、東出さんはシンプルに答える。
「まずもって動物はかわいいでしょ(笑)。虫も美しいし、形も生態も興味深い。いなくなったらイヤですよ。今日みたいな晴れた日に山を歩いていると昼寝でもしたいなと思うんですけど、南側のよく陽の当たる斜面に行くと、シカが気持ちよさそうに日向ぼっこしているんです。やっぱ、そうだよな~って。動物って、知れば知るほど面白いんですよ」

「長い時間山を歩いて、ヘトヘトになった時に食べるシカやイワナ、山菜ほどおいしいものはない」と東出さん。大豆を育て、味噌づくりもしたいのだそう。
そして、こうも付け加えた。
「自然の中に多様な命があって循環しているからこそ、私たちは色々な食べ物を得られているわけですよね。でもスーパーで買い物をしていると、そのことを忘れがちです。山の中での暮らしでは、春になったら山菜が出て、夏には渓流にイワナが泳いで、秋にはキノコが生える。育つ野菜も季節ごとに違います。それらをとって、すぐ食べる。それ以上においしいものってないんです。山から木をもらって、その薪で炊いたご飯もそうです。その本当のうまさを知ったら、自然や生きものをないがしろにしていいなんて思えないです」
体験から得た嘘じゃない感覚。ひとつの命として生きる
自然から教わった味や、それらを心底おいしいと感じる体験を、東出さんは「嘘じゃないものだから」と表現する。

山の家から片道40分ほど。登山道などないワイルドな獣道を登っていくと、見晴らしのいい堰堤に出た。東出さんがよくひとりで散歩に来るという、お気に入りの場所。
「僕は環境問題についてあれこれ発信したいわけではないので、自分の生活から得た感覚しかお話しできませんが……。たとえば僕は、これからやりたいことがたくさんあるんです。鶏を飼うとか、養蜂をしてハチミツをとるとか。それらを通して自然の循環の中に入りたいという気持ちは少しありますが、大きな動機は、うまい卵やハチミツを食べたいから。ただ、それだけなんです。自然の中で獲ったり育てたりしたものは、本当のうまさを教えてくれる。だから、やりたいんです」

山々を見渡す堰堤でサンドイッチを食べて、昼寝(※取材中です)。
おいしいものを食べたいから自然の中に入り、学び、あらゆる命を尊重する。それは生物としての当然の欲求から生まれる行動だ。
「でも動物を撃って殺すのは、何度やってもキツイです」と東出さん。今も食べるのに必要な分の狩猟しかしない。車で20分行けばスーパーがあるが、それでも狩猟をするのには、おいしさの魅力以外にも理由がある。

服や小物など、身の回りのものは本当にダメになるまで使う。山での暮らしが「足るを知る」ことを教えてくれた。
「環境や生物多様性、今考えて行動しないといけない問題はたくさんありますが、わかったつもりになって語ることはしたくない。こう生きるべきだ、みたいなことも本当はなくて、人それぞれ考えがあっていい。ただ僕は、スーパーで肉を買って食べるといった、誰かの手によって作られた安心や安全を享受するだけの生活が、しんどいと感じていた。だから自ら不便の中に身をおいて、本当の豊かさがどういうものなのか向き合ってみたかった。そうやって生活しているうち、自分が生物として持つ本来の自力を出せば、無駄なものを買ったり、余計な命を奪ったりしなくても生きていけるとわかってきました。足るを知って生きていく。それってすごく気持ちがいいし、面白い。そして何より、生きやすい。だからこの暮らしを続けています」

ハイキングのランチにと作ってくれたシカ肉サンド。肉に臭みが一切ないのは、確かな血抜きと解体の技術があるから。狩猟免許取得後、ベテラン猟師から多くの知識や技術を学んできた。
山の上にある見晴らしのいい場所で、東出さんが作ってくれたシカ肉サンドを食べる。
「先日、この辺の山を歩いていた時、いきなり一頭のメスジカが飛び出してきたんです。向こうもすごく驚いて、『なんでこんなところにいるんですかっ!?』って顔をしていたんですけど(笑)。鉄砲を持っていたから一瞬撃とうかなと思って、やっぱりやめました。家には肉が十分あるし、何よりその子、すごく美人だったんですよね。彼女が森の中に逃げて姿を消すまで、ずっと銃のスコープを覗きながら、その姿を見ていました」

まるでシカのように静かに、ゆったりと山を登っていく東出さん。あまりに気配を感じさせないせいか、うっかりシカと鉢合わせすることも。
ほかの命を食べて、生きていく。それは生物本来のあり方だ。けれど、それが実際にはどういうことなのか、私たちの多くは知らないし、知ろうともしない。生きものと対峙し、自分の命とそれ以外の命について考えを巡らせる時、何か見えてくるものがあるだろうか。東出さんもまた日々それを探して、ひとり山を歩いているのかもしれない。
東出昌大 ひがしで・まさひろ
1988年、埼玉県生まれ。モデルとして雑誌などで活躍したのち、2012年、映画『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビュー。2024年に全国公開された、狩猟生活を送る東出さんの1年間を追ったドキュメンタリー映画『WILL』(監督:エリザベス宮地)がアマゾンプライムなどで配信中。
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Photo:Tetsuya Ito Text & Edit:Yuriko Kobayashi
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