『べらぼう』に芸人ばかり出るワケ。話題作りだけじゃない、ドラマ業界の“キャスティング戦略”事情
2025年NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺』(NHK総合)が年末の最終回に向けて佳境を迎えています。江戸時代中後期に活躍した「江戸のメディア王」蔦屋重三郎の人生を、脚本・森下佳子氏の丁寧で生き生きと描いたこの作品。
ストーリーもさることながら、連日ニュースサイトをにぎわせているのが豪華な出演陣です。ことに、お笑い芸人さんは毎回入れ替わり立ち代わり出演をしています。
これほど芸人さんが出演するドラマは、大河ドラマというくくりのみならず、地上波の連続ドラマの中でも珍しいことではないでしょうか。そこには“必然的”な3つの理由が考えられます。

画像:大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』オリジナル・サウンドトラック Vol.1(日本コロムビア)
◆ネットニュースになる話題性。後日談までがセット
なぜ『べらぼう』は芸人さんが多数出演するのか――単純に考えれば、まず第一に「話題作り」ということがあげられます。
テレビ番組関連のネットニュースは、視聴者からの「コタツ記事」などという揶揄がある反面、テレビ制作者側はTVerの再生回数に繋がることもあり、歓迎している傾向があります。
ネットニュース狙いの演出・仕掛けをしているテレビマンもいるとか。バラエティと違い、ドラマは事前に根回しするか、目を引くエピソードがないと記事になりにくいのです。
しかし、『べらぼう』は芸人の出演が発表されるたびに、大河×芸人という意外性もあり、ネットニュースやSNSをにぎわせることができています。しかも放映前に、です。

松前廣年役を演じたひょうろくさん画像:株式会社キョードーメディアス プレスリリースより(PRTIMES)
つまり、芸人さんをキャスティングするだけで、ドラマ自体を見ていない人も、「ちょっと見てみるか」と興味を持つことができ、視聴につなげることができます。
その後、服部半蔵役で出演した有吉さんのように、ラジオで意欲や後日談を語ってもらうことまでがセットです。非常に上手な話題作りの仕方であると言えます。
◆一瞬のために大物は起用しにくい&芸人の華やかな存在感
次に、『べらぼう』の世界の登場人物の多さがあげられます。主人公である蔦重こと蔦屋重三郎は、今でいうメディアプロデューサー的な人物であったため、後世にその名を残すたくさんの著名人に囲まれた人生でした。

画像:大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』オリジナル・サウンドトラック Vol.2(日本コロムビア)
しかし、そのほとんどがビジネスパートナー的なかかわりであり、歴史的に重要な割には登場が少ない人物ばかり。一瞬のために有名な俳優をキャスティングするには勿体なく、逆に無名俳優だと注目が集まりづらいところがあります。
そこを解消するのが役者としては未知数ながらも知名度高く華のある芸人さんです。出番は短いながらも名の知れた有名人だけあって、モデル人物へのリスペクトの姿勢も感じますし、芸人さん側も「またとない機会」だと、喜んで出てくれるということもあるでしょう。
そして、画面に出てくるだけで目を引くので、出演するワンシーンに注目も行きやすい。思い返せば表坊主役として出演していたナダルさん(コロコロチキチキペッパーズ)、出演は一瞬でしたが、のちに田沼意知を暗殺する佐野政言を一橋治済に存在を紹介する重要なシーンの役柄でした。
ナダルさんが演じたことで、後から効く意味深なその場面の印象が焼き付いた視聴者も多いはずです。
◆「とっつきにくいドラマ」というイメージを一新できる
そして、一番大きいと思われる理由が、『べらぼう』の空気感を軽く、おもしろおかしいものに見せるためではないでしょうか。一般的に大河は、「歴史の重厚感を感じさせる、若者にはとっつきにくいお堅いドラマ」という印象があります。
しかし、『べらぼう』は政治パートはあるものの、ほとんどが主人公・蔦重をはじめとする江戸時代の市井の人々の奮闘を描いたもの。また、蔦重が目指すのは、田沼時代のような華やかで享楽的な世界です。
◆派手なシーンがないドラマを盛り上げる芸人たち
つまり、親しみやすいライトな作品の空気感や、彼の目指す楽しい世の中を表現するため、演技は拙くとも画面に映るだけで目を引き、おもしろおかしい印象を与える芸人さんの起用は必然だったと言えます。
『べらぼう』は、時代背景的に大河ドラマの華と言える合戦シーンが全くと言っていいほどありません。芸人さんを毎回のように起用しているのも、その華を補うための小さな努力の面もあるかもしれません。

画像:大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』オリジナル・サウンドトラック Vol.3(日本コロムビア)
◆ダウ90000の園田祥太に注目したい
上記で名を上げた芸人さん以外にも、松前道廣役のひょうろくさん、葛飾北斎役のくっきー!さん(野性爆弾)、人相見と観相家役の爆笑問題さん、栃木の豪商・釜屋伊兵衛役・喜兵衛役のU字工事さん、宿屋飯盛役の又吉直樹さん、町人役で数回出演のサルゴリラ、クールポコ、福田麻貴(三時のヒロイン)さん……など。
数々の人気芸人さんが画面を賑わせてくれた『べらぼう』。これからもスポット出演的ながらも、まだまだ芸人さんの出演があると聞きます。
中でも筆者が一押しなのが、演劇・コントユニット・ダウ90000の園田祥太さん。松平定信に翻弄される白川藩の家臣として、3月の初登場から半年以上にわたりレギュラーで出演していました。
定信の厳しい言葉に対する何とも言えない表情や情けない印象を与える演技は芸人さんだからこそ表現できる味わいがありました。
オープニングから本編まで、芸人さんの宝探しのような楽しみのある『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺』。物語の展開も見逃せませんが、今後の出演者も毎回見逃せませんね。
<文/小政りょう>
【小政りょう】
映画・テレビの制作会社等に出入りもするライター。趣味は陸上競技観戦