「最初から結婚しなきゃいいのに」 なぜ夫婦はもめるのかを考える一作「佐藤さんと佐藤さん」

 佐藤サチ(岸井ゆきの)と佐藤タモツ(宮沢氷魚)は大学で出会い、同棲を始める。5年後、弁護士を目指すタモツは司法試験に落ち続け、サチは彼を励まそうと一緒に勉強を始める。3年後、受かったのはサチのほうだった。さらにサチの妊娠がわかり――? 夫婦の15年間をリアルに描く物語「佐藤さんと佐藤さん」。脚本も務めた天野千尋監督に本作の見どころを聞いた。

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 本作のきっかけのひとつは私自身が10年ほど前に結婚、出産して子育てが始まった体験からきています。当時はまだ保育園の待機児童も多く、私はワンオペで一日中、家で育児をしていました。すると外で働いて帰ってくる夫に対して、謎の不満というか「自由で羨ましい」というジェラシーのような感情が湧いてしまっていたんです。

 その後に無事、保育園に入ることができたのですが、そうなると今度は私が一日外で働き、夫が家で育児をするような日も出てきました。それで、私が働いて帰ると夫がすごく不満げな顔で私を見るんですよ。これは男女の違いは関係ない、立場によって湧き上がる気持ちなんだ、と気づいたのです。

 ここ10年で社会のジェンダーに対する見方が大きく変わってきたと体感しています。保育園に来るお父さんも増え、5年前にお母さんたちが担っていた息子の少年野球チームのお世話係は今はほぼお父さんです。それでもまだまだ古い価値観を持つ人はいるし、「子を産んだお母さんが育児を担うほうが簡単」という慣性の法則のようなものも存在します。今はまさに変化の過渡期で、そんな多様性をサチとタモツの周囲に登場する家父長制に縛られている男性や、結婚で名字が変わったことでアイデンティティーを失ったと話すサチの後輩などに反映させました。

 どんな時代でも「相手が見ているものは自分とは違う」ことを理解し、そのうえでどう歩み寄っていくかを考え続けることが大事なのだと思います。それが難しいからケンカも離婚も戦争も起きてしまうのですが、特にいまは「自分と違うものは排除する」感覚が強まっているように感じます。耐えることや理解しようとすることの大切さをもっと考えなければ、と最近強く思っているんです。

(取材/文・中村千晶)

※AERA 2025年11月24日号

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