”客に笑われた”若手時代を経て「人間国宝」に…映画『国宝』のモデルと噂される坂東玉三郎とは何者なのか

2025年6月6日の公開以来次々と記録を塗り替え、11月25日にはついに邦画実写の歴代興行収入ランキング1位となった映画『国宝』。名門の「血筋」という見えない枷に苦悩しながらも頂点を目指す主人公の姿に胸を打たれた方も多いのではないか。

そんな主人公には、モデルと噂される歌舞伎役者がいる。大塚の料亭という歌舞伎とは無縁の家庭に生まれながら伝統と格式を重んじる歌舞伎界に身一つで飛び込み、「人間国宝」にまで上り詰めた“稀代の女形”坂東玉三郎だ。

歌舞伎で国際的に評価を受けながらも、映画監督、舞台演出とあらゆるジャンルに挑戦した彼の真意、そしてあまり語られることのない生い立ち・私生活を「週刊現代」1992年5月23日号より再編集してお届けする。

第2回

『三島由紀夫が絶賛した「稀代の天才」…あの『国宝』のモデルにもなった“坂東玉三郎”を知っていますか』より続く。

「お客さんに笑われた」時代を経て

■赤毛もの

新派などで活躍する一方、1976年『マクベス』でマクベス夫人役、’77年『オセロ』でデズデモーナ役、’78年『サド侯爵夫人』など“赤毛もの”にも出演、ブームはさらに大きく広がった。のちには、バレエの鬼才モーリス・ベジャール振り付けの舞台にも立ち、著名な映画監督であるポーランドのアンジェイ・ワイダが演出する舞台『ナスターシャ』にも挑戦している。

■マクベス夫人

「第1回目の本読みのとき、声はそのまんまでね、別に女形の声なんかじゃなくて玉三郎さんご本人の声で、極端にいうと素読みのように読んでらっしゃるんだけど、ちゃんとね、マクベス夫人の心の中がね、できてるんですよ。もうびっくり感嘆しちゃって、軽く見ていたのがその瞬間にしゃんとしましたね」(『マクベス』以来、共演の多いベテラン女優・南美江)

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■努力の結果

「玉三郎さんは、『私はいまはきれいだっていわれるけど、そんなことはない。声変わりして舞台に立った頃は、私を見てお客さんが笑ったのよ』といったことがある。彼は手も足も長く、普通の女形、日本の女性、西洋の女性というどの尺度からみても合わないのです。

しかしたゆまず努力し、いまの名声を自分で作りあげたのです」(東大教授で『円』演出家・渡邊守章氏=’79年『椿姫』で脚本を担当)

’79年には泉鏡花原作の『夜叉ヶ池』で初めて映画に主演した。

大物監督をも魅了

■天下一品

「やっぱり女でも悪女か妖怪ですね。私は、『天守物語』が一番すごかったと思う。怨念の女の美しさやな。それを演じたら天下一品ですね。猿之助の世界は叙事詩、玉三郎は叙情詩やね」(国際日本文化研究センター所長で『オグリ』などの作家・梅原猛氏)

■稀代の女形

「ニューヨークで『タクシードライバー』を監督したマーチン・スコセージが観に来てくれて、彼ら夫婦の家に招待された。夫婦とも感動してね、私は、『日本じゃ彼が男だというんで、『夜叉ヶ池』に対して批評がひどく悪かった。日本人は何も知らないんだ、自分の文化を』と答えた。玉三郎くんの役を女がやっていたら全然つまらない。玉三郎くんは、そういう意味で稀代の女形です」(『夜叉ヶ池』の篠田正浩監督)

玉三郎の演じるすべてが、これまで歌舞伎とは無縁だった若い女性ファンたちの熱狂を呼んだ。そして相手役は一様に感嘆する。

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玉三郎は’82年、’84年とアメリカ公演でも成功して、グランドカブキの女形の魅力をふりまく一方、’86年『ロミオとジュリエット』(真田広之、南果歩主演)で演出に手をそめたのを皮切りに、舞台演出にも意欲を燃やしていく。

ベールに包まれた私生活

しかし、その私生活はあまり語られることはない。

■自宅

港区高輪のマンションに一人住まい。

■結婚願望なし?

「女に狂ったことは、はっきりいってない」と、本人がかつて語ったことがある。

「でも、十分に恋はしていますよ。ただその人を自分自身の実生活にとり込もうとは思わない」

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■左きき

箸を持つのも、字を書くのも、サインも左きき。

■収入’91年度の納税額は7483万円(推定年収1億5700万円)。タレント・俳優部門第6位。

そして’91年、『外科室』で念願の映画監督にも挑戦。

貪欲なまでにあらゆるジャンルに挑戦する玉三郎の真意はどこにあるのだろうか。

■歌舞伎をやめる?

「一時の玉三郎ブームも多少頭打ちになっている。それを本人も知っているから、芝居の演出、映画の監督などあらゆるものをやっていこうとしているのではないでしょうか。はっきりいって、玉三郎は将来、いつか歌舞伎を辞める。そういうことも十分予想できますね」(演劇評論家・戸部銀作氏)

世阿弥のいう「時分の花」で終わるか、「真の花」を咲かせるか、玉三郎のこれから先の仕事ぶりがそれを決める。

(文中一部敬称略)

「週刊現代」1992年5月23日号より