【特集】実りの秋の裏側 「宝くじに当たったよう」という生産者に「チキンレース」という集荷業者 コメクライシス①《新潟》

コメにまつわる状況について伝える3回シリーズ。初回はこの秋の生産者や流通業者についてです。米価高騰の裏には業者による集荷競争がありました。

■「宝くじに当たったよう」生産者の秋

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2025年9月。魚沼市ではコンバインが軽快な音を響かせていました。約90ヘクタールの田んぼでコメを作る大規模農家・関 隆さん(74)です。

コメの出来は上々。夏の猛暑や水不足を乗り越え質、量ともに納得の結果となりました。そして……

〈魚沼市のコメ農家 関 隆さん〉

「予期しないほど今年(2025年)は利益が出るな。それはうちだけじゃない。ある程度大規模でやっているコメ作り農家はかつて経験したことのない利益が出るな。1億円の宝くじに当たったような気分だな」

その訳は、農家からコメを集める集荷業者がいままでにないほど高い価格で買い取っていたからです。

この日、自ら出荷に向かったのは近所の土産物店です。店での値段は税込で5キロ5800円。米価が高騰する中、魚沼産コシヒカリにも高値の波が押し寄せていました。しかし……

〈魚沼市のコメ農家 関 隆さん〉

「この価格でな、受け入れてもらえるのか」

■騒動は国の見誤りから始まり米価高騰へ

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2024年の夏ごろに始まった令和のコメ騒動。全国の売り場からコメが消え、価格が高騰し始めました。その要因はコメの生産量が不足していたこと。長らくそれを認めなかった農林水産省は、2025年8月……

〈農水省 渡邊 毅 事務次官〉

「コメが足りているということで、ずっと申し上げてきたことにつきまして、誤っていたということで、この場合をお借りしておわびを申し上げたいと思います。どうもすいませんでした」

コロナ禍からの経済回復などによる需要の拡大を見通せず、生産量が足りていると認識していたのです。

それと前後して国は米価を下げようと大量に備蓄米を放出。一時的に小売価格は5キロ3000円台で推移しますが、その後、再び上昇。ことしの新米が出回ったいまも価格は高止まりしたままです。一体、なぜなのか。

生産者が作ったコメの多くはJAや他の民間の集荷業者が買い集め、卸売業者を経て、小売店などで販売されます。その際、価格に大きな影響を与えるのがJAが示す"概算金"。コメを集荷する際、生産者に支払う仮渡金のことです。他の集荷業者はこの金額を参考に買い取り価格を決めます。

2024年、新潟のJAが示した概算金は60キロあたり1万7000円。しかし、高値をつける民間業者に買い負けるなどして、県内のJAグループの集荷率が初めて5割を切りました。そこで2025年は、概算金を大幅に引き揚げ、60キロあたり3万3000円としたのです。(追加払い含む)

コメの流通に詳しい専門家は、この概算金の引き上げが米価高騰の主な要因だと指摘します。

〈宮城大学 大泉一貫 名誉教授〉

「バブルのような状況にあるというのが現状だろうと思いますね。農協(JA)は農家からおコメを集めなきゃいけないというので概算金を非常に高く設定しましたよね。そうなってくると他の集荷業者も、それ以上の価格を出さないと農家から(コメを)集められないというので集荷競争が起きてしまったわけですよ。高値で集荷してたものですから簡単に(卸売)価格を下げるわけにはいかないという状況にいま陥っているわけですよ」

■“集荷競争”に奔走した流通業者

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そんな中で迎えた、2025年の新米シーズン。概算金を上げたJA自体も集荷には苦労していました。

〈JAえちご中越 遠藤浩司 課長〉

「(コメの)量は取れているけど、なかなかコメが集荷できない状況。農協(JA)が先に借り渡し金(概算金)等出すと、そこに対して他の業者さんも頑張ってしまうのでその辺が、最初の出足だけちょっと(買い)負けてしまう……」

訪ねたのはすでにJAにコメを出荷し終えた生産者。集荷率を上げるため追加でコメを出してほしいと頼みますが……

〈生産者〉

「うちはちょっと足りないくらい。ちょっと出し過ぎちゃったかな」

〈JAえちご中越 遠藤浩司 課長〉

「もうちょっとうちも欲しいなと思ったけど、なかなかあれですね。逆に戻してほしいぐらいの……」

その後も数件ほど回りましたが、JA以外の売り先がある生産者もいて、この日はコメを集めることができませんでした。かつてはコメの流通の大部分を担っていたJA。状況は大きく変わっているといいます。

〈JAえちご中越 遠藤浩司 課長〉

「時代の流れに乗って農家さんも売り方、しっかり捉えているなと感じます。逆にちょっと我々、農協とかもそこに乗り遅れないようにしなきゃいけないなという危機感は正直、持ってますね」

一方、JAと競合する民間業者も集荷のピークを迎えていました。コメの集荷と卸売りなどを行うこの会社。JA一辺倒だった農家の意識が変わってきたといいます。

〈新潟クボタ 笠巻直樹さん〉

「(以前は)農家さんたちがJAに(コメを)出すものだってやっぱり思っている方が非常に多かった。そこに来て価格うんぬんっていう話が昨年から米価が上がったせいで(JAの)他に出した方が自分たちはもうけられる可能性があるというふうに気づいた方たちが増えた」

そうした中、こんな不安が……

〈新潟クボタ 笠巻直樹さん〉

「高値で買ったコメをじゃあ高値で売らなければダメ、ですけれども、それがじゃあ果たして売り切れるのか、という心配は非常にあります。新米の売れ行きがあまり良くないとも、ちょっと実のところ聞いていまして、やはりそれは価格が高いせいであると。新米が売れないというのは異常事態ですね」

別の業者も集荷競争には、あらがえないと言います。

〈高橋屋商店 阿部潤 社長〉

「チキンレースじゃないんですけど、ちょっとこの(集荷の)値段で、年間通して採算とれるんだろうかという不安感はありつつも、うちだけ農協(JA)さんより低い値段で買い取りますはできないんで、やっぱり(集荷価格を)上げざるを得ないですよね」

その集荷業者とコメの取り引きをする卸売業者からはこんな不安が聞かれました。

〈幸池商店 村岡 克俊 専務〉

Q)コメの仕入れを様子見しているか

「制限はしています。いま現在を見た時にコメ余り現象になっているので、このままいけば2026年の秋口に2025年産を持ち越してしまうのではという不安感がある。心配材料が大きいので、2026年産米にどう影響していくのか一番不安なところ」

新潟のコメ農家・関さんも懸念を抱いていました。

〈魚沼市のコメ農家 関 隆さん〉

「高くて喜び半分、これから先どうなるんだという不安が半分。なんか複雑な気持ちだぞ。これだけ高かったらコメ離れ、消費は落ちるはず。それから輸入米が入ってくる。結局農家にそのしわ寄せがきて、いずれまた生産量を減らさなければ」

消費者のみならず流通を担う業者や生産者も頭を悩ませる米価の高騰。私たちの主食はどうなるのか、不安が広がっています。

次回は、【特集】輸入米は選択肢の一つに定着するのか 「リピート率がめちゃくちゃ高い」日本米に戻れないほどの価格差 コメクライシス②と題し、コメ騒動をきっかけに国内市場に台頭する輸入米についてお伝えします。