「420円中華そば」の日高屋「年商600億」強さのワケ

日高屋の看板メニュー・中華そば420円は、2025年4月にリニューアル。魚介のスープのやさしい旨みが細ストレート麺と好相性。スープには、水揚げ後1時間以内に釜茹でした瀬戸内産カタクチイワシのエキスを入れている(撮影:美紀 悠子)※本記事内の価格はすべて税込
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“偶数月15日”の昼、満員の理由
「店、間違えたかな⋯⋯」
【写真】「無性に食べたくなる!」日高屋の人気おつまみと言えば?
先月、東京出張の道すがら入った神田西口の日高屋で面食らった。以前は昼も夜もサラリーマンで満員だった店が、高齢者グループで4割方埋まっていたからだ。
まだ13時だがジョッキを合わせ、「健康に!」と乾杯している。一緒にいた取引先の女性が、「今日は偶数月の年金支給日だから混むのよ」と教えてくれた。隣には、生ビールやハイボール片手に枝豆をつまむ4人組主婦グループ。中華そばを仲良く食べている親子連れもいる。
日高屋と言えば会社帰り、中華料理や手頃なつまみを肴に一杯やる「サラリーマンのオアシス」という印象があったのだが、この客層の変化は何が起きたのか。
そう思ってハイデイ日高の2025年2月期決算資料を見てみると、急激な右肩上がりを示していた。2023年の売上高は約381億円、2024年が約487億円、2025年度は556億円。
同3年の営業利益は約6.1億円、約46億円、約55億円。さらに、2026年2月期の業績予想には、「売上高600億円、営業利益60億円」が掲げられている。

ハイデイ日高の2021年から2025年までの、売上高と営業利益の推移(画像:ハイデイ日高決算資料より)
好調の理由は、客層の拡大だろうか。しかし、日高屋と言えば、中華そば1杯420円、生ビール1杯390円などの低価格が売り。
少し前に着席したマダム2人組の席を見ても、おつまみ唐揚げ(3個)310円、餃子(6個)300円、生ビール390円、陸ハイボール340円。合計1340円、一人当たり670円と安い。居酒屋ならお通し代だけで300~500円する店もあるが、日高屋にはお通しもチャージも一切ない。
この安さで売上高600億円、営業利益率10%を見込める要因はどこにあるのだろうか。

日曜のキュービックプラザ新横浜店の店内(撮影:美紀 悠子)*一部を加工しています
日高屋の変化の発端は2020年4月、店内を完全禁煙にしたことにある。東京オリンピック開催を前に、厚生労働省の「健康増進法」が改正になり、飲食店が原則禁煙となるタイミングに合わせての決断だった。
「それまでの日高屋は、おっしゃるとおり『サラリーマンのオアシス』でした。駅前店舗に会社帰りのサラリーマンが集まり、タバコを吸いながら酒を飲むスタイルが主流でした」と青野社長は振り返る。
当時のアルコール比率は17%もあったそうだ。青野社長によると、「居酒屋をのぞき、一般的な飲食店のアルコール比率は平均3%程度」というから、かなり高い。
また、禁煙化以前は当然だが、嫌煙家やファミリー層はほとんど訪れなかった。しかし禁煙化後、変化が起こる。といっても当初はコロナ禍で客足が激減しており、影響はよく見えていなかった。
兆しは、ロードサイド店から見え始めたそうだ。コロナ禍中は駅前から人がいなくなった一方、ロードサイド店で比較的安定した売り上げが取れていた。そのため郊外の主要道路沿いに新店をオープンしたところ、集客に成功した。それも、家族連れが多く訪れていることが分かったのだ。
そこで日高屋は2021年から、千葉県の鎌ケ谷市や野田市をはじめ、北関東を中心にロードサイド店を積極的に出店した。現在は全433店舗のうち、52店舗をロードサイドに構える。

国道16号線沿いにある、野田16号店(写真提供:ハイデイ日高)
「コロナ以前は20店舗ほど、全体の5%未満でした。でもコロナ以後、様々なお客様が取り込めることが実証できました。その価値に気づいたのです」(以下、すべて青野社長)
客層の変化は、遅れて駅前店にも表れはじめた。家族連れ、女性客、冒頭のような高齢客も訪れるようになったそうだ。男女比も、コロナ以前は男性8:女性2だったところから男性6.5:女性3.5に変化した。
ドリンクバー270円でファミレスに対抗
次に日高屋は、ロードサイドの比較的大きな新店に、270円のドリンクバーを設置する施策に打って出る。ファミレスへの対抗手段だった。
日高屋は「中華食堂」という立ち位置で、料理だけでも110種類をそろえる。その厨房で、アイスクリームなど子供向けメニューを増やすことは難しい。けれどドリンクバーなら、マシンを設置するだけで済む。
「昔うちの息子に『日高屋とサイゼリヤがあったらどっち選ぶの?』と聞いたら、サイゼリヤって言われたんです。ドリンクバーがあるからって。子供は『いろんなジュースが飲める』っていうのがやっぱり魅力的なんですよね」
主婦の昼飲み会などに参加する、ノンアルコール派にも好評だ。アルコールは3、4杯飲めても、ノンアルコールドリンクでその量はきつい。杯数を問わないドリンクバーがあることで、集まる場に選ばれやすくなっているという。
現在、13店舗にドリンクバーを設置しており、土日は200~300の注文が入る。1人3杯飲むと考えても、600~900杯だ。集客の大きな要因の1つになっていることは間違いない。

ロードサイド店13軒に設置されたドリンクバー(写真提供:ハイデイ日高)
ここで改めて、日高屋の低価格の理由を紐解きたい。昨今の物価高のなかで、なぜこのような低価格が実現できているのか。
一番の理由は、埼玉県行田市にセントラルキッチンを持っていることだ。そこに全店で使用する食材を集め、野菜のカットやオリジナル麺、スープ、タレ、餃子までを製造。一都六県に展開する店へと配送している。配送が2時間以内で行える範囲に店を集中させることで、認知度と効率を高めるドミナント戦略をとっているのだ。
食材の原価が上がってきてはいるものの、スケールメリットで取引先業者に協力を仰ぎ、仕入れ値も低く抑えられている。

埼玉県行田市にあるセントラルキッチン(写真提供:ハイデイ日高)
一方で、物価や人件費上昇に伴う価格改定は2018年から続けている。2024年12月には約7割の商品を3.9%程度値上げし、看板メニューの中華そばも390円から420円になった。それでも、下手するとコンビニエンスストアの弁当よりも安い420円である。生ビール390円、陸ハイボールが340円。
会計するときに、「安すぎるよ」「こんな安くていいの?」「間違ってない?」などと言ってくる客も多いそうだ。
それなのになぜ年商が600億目前なのか青野社長に尋ねると、「一番は、注文から提供までのスピードです。回転率が命!」と力強い答えが返ってきた。
注文から8分以内、回転率が生命線
8分以内。それが日高屋でメニューが提供されるまでの平均的な時間だ。
「ピーク時はどうしても10~15分かかることもありますが、15分もかかると、弊社では“遅い”という認識です。ピークでも、せめて10分以内に出すことを目標にしています」
調理時間は、チャーハンが2分、フライものが6分、冷凍から調理する餃子が最も長くて7、8分。さらなる短時間化を目指して、調理工程も日々進化している。
たとえば味付けは、以前は複数の調味料を順番に入れていたが、タレ一杯でできるようにした。麺も、専用調理機を使用することで、すべての店舗で同じ茹で時間、同じおいしさを実現できるよう工夫したという。
これを担うのは本部の商品部と、工場にある専門チームだ。協力して、スピードアップと味の両立のための研究・調整を日々進めている。

7~8分かけてじっくりと調理する餃子は6個300円、生ビール390円(撮影:美紀 悠子)
DXも日進月歩で進んでいる。厨房では、餃子はセットすれば自動で焼き上がり、麺も専用機に入れ、箸でほぐせば自動で茹で上がる。その一方で、「鍋もの」と呼ばれる炒め物については、あえて手作業にこだわり、手づくりのおいしさを守る。
オーダーについても回転率アップのため、410店舗でタッチパネルを導入済。これまで、スタッフが忙しい際に注文をためらった客がスムーズに注文できるようになったことや、飲みの席で、一人が人数分のお代わりを一気にオーダーできるようになったことから、注文が急増した。特にアルコールの売り上げは、月額1億円も増えている。

410店舗に導入されているタッチパネル(写真提供:ハイデイ日高)
配膳ロボットもロードサイドの大型店を中心に67店舗に導入。これらの相乗効果で、回転率の向上はもちろん、人件費削減にも貢献している。
ちなみに、このような施策を指揮する青野社長は、1993年に日高屋でアルバイトを始め、6年間の現場経験を経て正社員になった生え抜きだ。
「私が社員になった1999年頃は、山一証券やそごうが経営破綻し、何を信用していいか分からない時代でした。でも、経営計画発表会で会社の方向性を聞いて、『この会社は向こう10年は伸びる』と確信して入社を決めました。成長性がある会社であり、自分も年齢と共に成長できると感じて選んだのです。その選択は間違っていなかったと思います」
入社した理由を青野社長はこう語る。現場を知り尽くした人物だからこそ、机上の空論ではない改革ができているのだ。
またDXとは真逆だが、日高屋では「勘」も大事にされている。出店について、最終的な出店判断を下すのは今も創業者の神田会長。84歳の今も現地へ足を運び、「カンピュータ」とも言われる独特の感性で出店を判断しているというから驚く。
「乗降客数3万人以上、出口の数、ライバル店の有無など基本条件はありますが、そうでなくとも神田独自の勘が働いて、GOサインを出す場合があります」
意外なことに、一番重要な判断材料は「店の前にサンプルケースを置けるかどうか」だそうだ。理由は、安心感を与えられるから。客は初めて入る店には不安を覚えるもの。そのときサンプルケースがあれば、メニューと価格が明確に分かる。サンプルケースが店前に置けない場合も、店外からガラス越しに見える場所に必ずサンプルケースを設置している。

神田西口店前に設置されていたサンプルケース(写真:筆者撮影)
「印象に残りすぎないおいしさ」をジャッジ
もう1つ、日高屋の年商を大きく引き上げているのが、リピーターの存在だ。そのリピート率は非常に高く、週に2、3回通う常連もいる。もちろん低価格もその理由だが、リピーターを呼ぶ決め手は味にある。
「よくすき焼きに例えるんですが、おいしいすき焼きを毎日食べられるかといったら、食べられない。たまに食べるからおいしいんです。もちろん人によって味覚は異なりますが、10人食べて6人が『おいしいと印象に残りながらも、残りすぎない味』を重視しています」
万人受けする味付けながらも、少しだけ、「やっぱりこれおいしい」と感じられる。そのさじ加減が非常に難しいところだそうだ。

ネギの辛味とチャーシューの油気の相性が良く、時々思い出して無性に食べたくなる、おつまみネギチャーシュー370円(筆者撮影)
味は商品部が決め、最終、青野社長と神田正会長、営業部メンバーが試食してジャッジする。「印象に残りすぎるおいしさ」だった場合、ゼロからリセットすることもある。
また、ラーメン店でも中華料理店でもない「食堂」であることも、「万人受け」に重要なポイントとなっている。
そもそも日高屋は、ハイデイ日高が中華料理店としてオープンした『来来軒』と、全国のご当地ラーメンを提供していた『ラーメン館』をミックスして誕生したブランドだ。
前者2ブランドがうまくいかなかったことから、中華料理店とラーメン店の間を埋める、「いろんな方がいろんなシーンで利用できる」業態として生まれたのだ。ラーメンや餃子はもちろんだが、日高屋には、イワシフライや砂肝などもある。食堂であれば、あってもおかしくない。
このことは、中華料理専門店として存在感が大きい『餃子の王将』、ラーメン店としての存在感が大きい『幸楽苑』という、2大ライバルとの差別化にもつながっている。

サクサクの食感がうれしいイワシフライ280円は隠れた人気メニュー。好みでマヨネーズ、からし、ソースで味わえる(写真提供:ハイデイ日高)
日高屋は、サッと1~2杯だけ飲んで出ていく「ちょい飲み」客が多いことでも知られるチェーンだ。焼鳥や枝豆などつまみメニューが豊富で、居酒屋のように「お通し」やチャージ代もとられない。その使いやすさも、幅広い客に選ばれる所以だと青野社長は指摘する。
「令和の時代、たくさんお酒を飲む飲み会文化は減っています。今は度数が低いお酒が売れていたり、飲むとしても一杯だけ飲んで帰りたい方も多い。そういう方に選ばれているのではないでしょうか」。
実は「ちょい飲み」という言葉自体、日高屋が発祥だそうだ。2013年、経済新聞で取り上げられた際に初めて「ちょい飲み客が多い店」と紹介され、そこから戦略的につまみを増やしていった。だから「ちょい飲み」に関しては、先頭を走っていると青野社長は自信を見せる。
つまみは現在25種類あり、たとえば冷奴200円とビール390円なら、590円で飲めてしまう。

ビールのお供の定番、枝豆は220円(筆者撮影)
「禁煙化後、アルコール比率は以前の17%から15%に落ちました。約50%ある居酒屋には劣りますが、それでも、飲食店の水準では非常に高いことに変わりありません。『居酒屋でもない、かといってラーメン店、中華料理店でもない』間口の広さがうちの強みです」
500店舗で600店舗分の売り上げを稼ぐ
スピード、DX、味、価格、ちょい飲みのしやすさ。複合的な戦略がミックスして、日高屋の売上高はコロナ前の2018年に比べて、1店舗で1日6万~8万上がっている。
「皆さん『どうやってるの?』と知りたがり、真似をしたいと言われます。でも、この仕組みは一朝一夕にはできません」
日高屋グループは2013年から、「600店舗体制」を目標に掲げており、残り167店舗(FC店除く)まで来ている。だが、1店舗単位の売上高が上がった今、店の数にはこだわらなくなったという。
「順調に行けば、500店舗でかつての600店舗の売り上げが取れる状況まで今来ています。そうであれば、600店舗は一つの通過点。店舗数よりも売上高を重視し、1000億円を目指していきます」と決意を語った。
後編では、新潟で初めて挑戦するFC展開と、1000億円達成までの道筋、さらに「社会インフラ」としての使命に基づく戦略や人材確保への取り組みを聞く。
【続きはこちら:後編↓↓】 日高屋の「分かち合う資本主義」徹底解剖。「家でつくるより安い!」ギリギリ価格で提供し地域に貢献+社員には赤字でも「3回目のボーナス」支給