「戦のない時代を大河ドラマにするのは難しいと最初は考えていたが…」「『べらぼう』の世界は『大奥』で広がった」制作統括が明かした『べらぼう』裏側
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『べらぼう』最大の衝撃!生田斗真<治済・十郎兵衛>一人二役構想はなぜ生まれた?制作統括が明かした裏側
最終回で描きたかったこと
『べらぼう』の最終回を作るとき、最初に考えたのは「蔦重の最期をどう描くか」でした。
彼の晩年については、墓碑の記述を含めてある程度の資料が残っていて。脚本の森下佳子さんからは「これは最終回でやりたい」と、制作初期の段階から明確に言われていました。
せっかく残っている史実だから、ちゃんと画面に落としたい。その思いが私の中にも強くありました。
蔦重の晩年を描くということは、写楽や絵師たちとの賑やかな時代から一歩引いて、人生の終盤で彼が何を見ていたのかを丁寧に追うことでもあります。

(『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』/(c)NHK)
書物問屋の株を持ち、江戸にとどまらず全国へ流通を広げ、作家や思想家たちと向き合い、“書をもって世を耕す”という彼自身の信念を、生涯の最後まで実践しようとした。
その姿こそ最終回で描きたかった「晩年の蔦重」でした。
大きかった『大奥』の影響
今回の『べらぼう』では、『大奥』の経験が本当に大きかった。
実際、美術・衣装・照明などを含めて『大奥』での蓄積が、『べらぼう』の世界を広げてくれたように思います。
ドラマの原作であるよしながふみさんの『大奥』は、フィクションでありながら、史実をもとに丁寧に人物像をつくられていて、その表現が今回のキャラクター造形にも少なからず影響しています。
特に、治済の人物造形については大いに影響を受けましたね。
「こういう人物の輪郭にしたいよね」「こういった美術にしたい」と語り合う時、どうしても“前に作った世界観”がベースとして活きてくる。

(『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』/(c)NHK)
その意味で、近い時期に同じような時代をドラマでやれたことで、多少混乱することがありつつも、プラスの部分は多くありました。
連続して制作に関わる面白さ
俳優としても、冨永愛さんや片岡愛之助さん、風間俊介さんなど、『大奥』を通じて信頼関係を築いた方々が今回も参加してくださって、まるで“長年の劇団”のような安心感がありました。
視聴者の方も「転生だ!」と楽しんでくれたりして(笑)。連続して制作に関わる面白さを改めて実感しました。
たとえば古川雄大さん。『べらぼう』では、『大奥』の際に演じていただいた瀧山と真逆と言っていいような、北尾政演(山東京伝)という役をお願いしました。

(『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』/(c)NHK)
古川さん自身が落ち着いた方なので、軽い役どころを演じることに最初は戸惑っていらっしゃいましたが、「一言でいえば中学生みたいな感じで」と伝えたら、すぐに掴んでくださった。
そしてなんといっても冨永さん。
冨永さんは『大奥』で”女将軍”吉宗を演じたあと、今回は“大奥総取締”高岳という立場に。これは演じ手としても相当おもしろかったと思うし、画面にもその愉しさがにじんでいらっしゃいました。
定信と蔦重
今回、松平定信役をお願いした井上祐貴さんは若くて実直、でもどこか神経質な雰囲気も持っていて。それが若き定信の”危うさ”とよく重なりました。

(『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』/(c)NHK)
人って、偉くなるとどうしても頑固になったり、周りが忖度したりしますよね? それでいて、定信は周囲に高橋英樹さん演じる徳川治貞らが構えているから、虚勢を張らなければならない部分もあったり。
対して蔦重の場合、いくら立派になっても、ていさんやつよさんに歌麿など、苦言を呈してくれる人が常に周囲にいた。そのあたりが蔦重とは正反対な存在でした。
一方で、ドラマでも描きましたが、定信も絵や文に造詣が深い。実際、白河に戻った定信は、自ら黄表紙を書いたり、自分の出版物に太田南畝や山東京伝を関わらせたりと、文化に対して深い愛情があったとされています。
そんな共通点を持つ2人だからこそ、並んで映ると物語に奥行きが生まれる。井上さんがこの役を全身で受け止めてくれたおかげで、定信という人物がしっかり立ち上がりました。
この時代を舞台に選んで本当に良かった
あらためて『べらぼう』の舞台となった江戸中期は、戦(いくさ)のない時代です。それもあって私自身も最初、「この時代は大河ドラマにしづらいのでは」とどこかで思っていました。
しかし実際に取り組んでみると、むしろ現代的なテーマを含んだ時代であることに気づかされました。

藤並英樹さん/(c)NHK)
確かに戦がなくとも飢饉が起こったり、格差や困窮、社会的・経済的な行き詰まりがあるなど、今の私たちにも通じる問題が多く存在した。
ドラマの中でも、米を巡っての暴動はもちろんですが、”佐野大明神”のくだりでは、今のSNSのように噂が真実となって広がっていく様子や、読売が世論を動かす構図など、現代に近い現象を物語として描くことができました。
特に『べらぼう』において、貧困や格差といった問題は避けて通れないテーマ。
扱うのが難しいとわかっていながらも、演出を含め、森下さんとも「描くならきちんと描こう」と話し合いましたし、現代にもつながる社会問題として丁寧に扱うべきと考えました。実際、深く掘り下げて描いたことで、作品に厚みが生まれたように感じています。
そして何より静かな時代だからこそ、ひとりひとりの考え方や人生、その生きざまを丁寧に描くことができました。

(『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』/(c)NHK)
瀬川やうつせみ、誰袖のような女郎のみでなく、鶴屋、新之助、佐野政言…。
視聴者の皆さんがさまざまな人物に感情移入してくださったことが、その証だと思います。
結果として、この時代を舞台に選んで本当に良かった。今ではそう思っています。