【有馬記念】ミュージアムマイルの父リオンディーズを訪ねて 北国から息子の活躍を祈って

リオンディーズ=北海道日高町のブリーダーズ・スタリオン・ステーション(撮影・尾崎修二)

有馬記念まであと2日――。遠く離れた北の国から皐月賞馬ミュージアムマイルの栄光を信じて応援する人馬がいる。

馬産地の北海道・日高町のブリーダーズ・スタリオン・ステーションに繋養される種牡馬リオンディーズ(牡12歳、父キングカメハメハ、母シーザリオ)と担当者の佐々木司さんだ。クラシックホースとなった息子は父も後押しし、種牡馬10年目となる2026年は種付け料が500万円(受胎条件)となった。今年を締めくくる大一番を前に、注目の名馬を訪ねた。(文・大塚美奈)

リオンディーズ

年末の寒風が吹きすさぶ中、いつもと変わらず黙々と仕事に励むのは、ミュージアムマイルの父リオンディーズを担当する佐々木司さん(43)だ。

「普段の作業中は集中しているので考えることはないですが、馬房でリオンディーズの手入れを終え、厩舎から帰るときにふと顔を見ると、〝お前の息子が有馬記念に出るぞ〟とは思いますね。皐月賞を勝って、天皇賞・秋で2着になって、有馬記念に行く。素晴らしい産駒を出してくれてうれしいです」と〝相棒〟をたたえた。

リオンディーズ

孝行息子ミュージアムマイルを送り出したリオンディーズは2015年の朝日杯FSを豪快な大外一気で優勝。黒光りする馬体とキリッとした瞳は、05年に日米のオークスを制した母シーザリオを彷彿とさせる。繁殖牝馬としても名牝ぶりを証明したシーザリオは、エピファネイア(牡15歳、父シンボリクリスエス)、リオンディーズ、サートゥルナーリア(牡9歳、父ロードカナロア)と種牡馬になった3兄弟を誕生させ、新たに来年からルペルカーリア(牡7歳、モーリス)がサイアーデビューすることになった。

今年の皐月賞。直線で抜け出すミュージアムマイル(中央の緑帽)

佐々木さんは「兄弟が4頭も種牡馬になるってすごいことですよね。みんな父が違っても走る子供を出すから頭が下がります。リオンディーズもミュージアムマイルも素晴らしい切れ味を持っていて、お母さんの血が強いのかもしれない」とサラブレッド界の〝ロイヤルファミリー〟に脱帽する。

気性について「リオン自身、内に秘めている部分があって、それをとっさに出す馬。朝、放牧してすぐにダッシュする勢いのよさだったり、種付けなど何かするときにピリッとした切り替えスイッチがある。馬房では穏やかなときも多いけど、ピリッとするときはこっちまで緊張感が伝わってくるので、気をつけています」と〝一流馬のゆえん〟を語った。

リオンディーズは3歳秋に左前繋部浅屈腱炎を発症。全貌がベールに包まれたまま、5戦2勝で無念の引退となった。

佐々木さんは種牡馬入りするため3歳の若さでブリーダーズSSにやってきた馬を最初から担当し、付き合いは9年になる。

馬産地に生まれ、友人に牧場関係者はいたが、自身は競馬と縁のない家庭で育った。それでも、運命に導かれるように「単純に動物が好きで、体を動かす仕事がしたい、と思ったときにスタリオンの募集があった」と種牡馬の世界に飛び込んだ。

約25年のキャリアの中で最初に携わったのがイナリワンで、バブルガムフェロー、エアジハード、アサクサデンエン、ゴーカイなどいろんな馬たちに出合ってきた。最も思い出に残っているのは日本ダービー馬ジャングルポケットで「一番の先生というか、本当にいろいろ教えてもらった馬です。すごくファンが多いし、ダービー馬を触る機会なんてなかったので、それも含めて、種付けの技術とか人も考えなきゃ駄目だと実感させてくれました」と感謝する。

さまざまな馬に育てられ、中堅となった頃に出合ったのがリオンディーズ。「最初はこの馬のよさが産駒にどう伝わるのかな、と思っていたけど、初年度産駒のテイオーロイヤルが長い距離を走って天皇賞・春を取ったり、一方で短いところも、ダートもいける産駒も出す。自身同様、早い勝ち上がりもできるし、こんなに幅広く走る子供を出してくれるとはいい意味で驚きました。だから、生産者の方も期待して付けてくれると思う」と胸を張る。

「若いときから種馬になっているんで、最初はいろいろ教える感じで入ったけど、今は長年付き合ってちょっとお互い分かりあえてきた感じ。まだまだ勉強ですけど、先輩でも後輩でもない、お互い頑張っていこうねって同志の気持ちでいます」とほほえんだ。

一緒に歩む無二の仲間。そんな大切な馬が、皐月賞のミュージアムマイルで産駒のクラシック初制覇を達成したときは感激した。

「やっぱり格別でしたね。クラシックを取るってことはたまらないっていうか、種馬の仕事をしている全員がほしいタイトルですから、ウルっときました」と感慨がよみがえる。

息子が皐月賞を優勝した直後、リオンディーズに朗報を伝えた。

「うちのスタッフはみんなでその週の競馬を見て、産駒が勝ったら種牡馬たちに〝おめでとう〟ってニンジンをあげにいくんです。皐月賞を勝ったときもリオンに言いました。〝うん〟て顔はしたのかな(笑)。どの馬も目の輝きはすごいけど、リオンは本当にきれいな顔をしていますよ」と照れ笑いした。

日頃の頑張りをねぎらわれ、ミュージアムマイルが日本ダービーに出走したとき、日高から東京競馬場に応援に行かせてもらった。

「僕が種馬をやってから初めてダービーに行ったのがミュージアムマイルなんです。なんともいえない感動でした。そのときは6着でしたけど、立派な馬体でポテンシャルが高いのは伝わってきました。だからこの馬への思い入れは強いですね」と熱く語った。

リオンディーズの長所を聞くと、「普段は大人しくて賢いけど、やはり爆発力がすごいですね。改めてそれが産駒に伝わっていると思うし、ミュージアムマイルも父親と一緒で中山のGIを勝っているし、いい脚を使える。有馬記念は得意の中山ですから、やってくれるんじゃないかと期待しています。父を超えてほしいけど、一番は自分のレースをしてくれれば」と願っている。

「まだまだ先の話になりますが、種牡馬になる馬だと思う。そのためにも有馬記念のタイトルを…」とスタリオンで生きる人間としても期待は尽きない。

12月28日の有馬記念。ミュージアムマイルがベストを尽くし、無事にゴール板を駆け抜けることを、相棒と一緒に馬産地で祈っている。