普段は入れない所まで! 半年にわたる交渉で実現した「出雲大社が全面協力」の映像美〈ばけばけ第66回〉

『ばけばけ』第66回より 写真提供:NHK

今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、毎日レビューを続けて10年超えの著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は、第66回(2026年1月5日放送)の「ばけばけ」レビューです。(ライター 木俣 冬)

トキ、電報で呼び出される

 初日の出、ではなく夕日。

 でもこれは出雲の夕日。神々しい。

 第14週「カゾク、ナル、イイデスカ?」(演出:村橋直樹)のはじまりは出雲大社も出てきて、新春にふさわしい。

 まずは「おトキちゃんとヘブンさん、とうとう結ばれたわねえ」と蛇と蛙(渡辺江里子、木村美穂)のおしゃべりからはじまった。

 結ばれてから日が過ぎて、ヘブン(トミー・バストウ)は錦織(吉沢亮)と、杵築(出雲大社の近く)の稲佐の浜に来ていた。

 ここはヘブンの憧れの神々の地。これで滞在記録が書けるとヘブンは感慨無量。

 そこへ「ヘブン先生」とトキ(高石あかり、「高」の表記は、正確には「はしごだか」)が猛ダッシュして来た。

「なぜ」「なぜ」と動揺する錦織。

 ヘブンはトキに話したいことがあって、電報で呼び出したのだ。

 浜辺から旅館に戻って来た3人。とても重要なことが語られるこの場所で、3人の位置取りに注目しよう。

 縁側にトキ、その手前の部屋のなかに錦織、さらに奥にヘブン。

 トキは出されたお茶を飲み、「けど美味しい」と言う。「けど」ってなんだ? なんとなく気持ちが落ち着かない表れであろう。ヘブンはいったい何を語ろうとしているのか。

 ヘブンは深刻な顔で滞在記が完成すると言う。

「おめでとうございます」とトキ、

「ありがとう」とヘブン。

 このとき、カメラ位置は変わり、ヘブンたちのいる部屋の隣の部屋から撮っている。向かって左に縁側のトキ、右に部屋の中のヘブン。ここでは錦織は部屋と部屋を隔てる襖(ふすま)を背にしていて、映らない。うまいこと、トキとヘブンだけが映って、錦織の気配が消えている。

 錦織の立場で考えると、ここにいていいのか、とても気まずいと思う。

ヘブン、愛の告白「となり、ずっと、となり」

 ヘブンは立ち上がり、縁側に向かい、トキの隣に座る。

「あなたいない 完成できないの本 ありがとう」と礼を述べる。

 トキは涙をぬぐいながら返す。

「ヘブン先生に会えて、夜な夜な怪談を語り、聞いてもらえてよかった」「仲間できて ほんとに楽しかった」

 怪談語りの仲間ができた喜びは格別なことだったろう。

 ここではカメラは縁側のほうに移動し、トキとヘブンが手前、奥に錦織という構図になっている。

 ふたりのやりとりを錦織はじっと聞いている。

 ヘブンは錦織にも目を向け「友人」として感謝を語る。「友人」と呼ばれて、錦織も涙ぐむが、持っていたハンカチを自分では使わず、トキに渡す。紳士である。

 つい、ヘブンと錦織が同時に話し始めてしまった。ヘブンが錦織に譲る。

 英語で話そうとする錦織にトキは「日本語で聞いていただけませんか」。

「せっかくならわかる言葉で聞きたいです」と覚悟を決めているようだ。

「完成したら帰るですよね」「松江、離れる、いなくなる、ですよね」

 錦織が念を押すと、意外な答えが返ってきた。

「いてもいいですか」とおずおずと尋ねるヘブン。

「いてもいいですか」と繰り返す。

 絶望から希望へ、トキの表情が変わっていく。

「なして?」と泣き笑い。そんなトキを錦織はちらと見る。

「となり、ずっと、となり」

「いさせて」がうまくいえないヘブン。察したトキがゆっくり噛んで含めるように「いさせて」と見本を見せ、ヘブンは「いさせて」「いさせてください」が言えた。

「はい」とトキ。

 ヘブンも涙ぐんでいる。

 すっかりうれしいふたりをじっと見るのもためらわれ、錦織は目を伏せ、お茶を飲む。

 吉沢亮がすばらしい。邦画興収ナンバー1作の主演俳優であり、国宝級イケメンとの誉れも高い、見た目も実力も申し分ない彼が、この場面では控えめに、トキとヘブンの邪魔をしないように存在している。明らかに派手なビジュアルの人なのに光量をぐっと下げて見える。

出雲大社の一般参拝者が入れない場所でロケ

 こうしてトキとヘブンは出雲大社で永遠の愛を誓った。錦織も一緒に。

 島根で有名な神社・出雲大社はホンモノ。チーフディレクターの村橋直樹さんはこう語る。

「出雲大社の皆さんの全面協力のもと行いました。しかも普段一般参拝の方が入れない中まで入れていただきました。通常は、トキたちがくぐる門の外までしか参拝できないんです。特別に朝8時までの約束で、1、2時間だけの撮影でしたが、なかなかあることじゃないと思います」

 制作統括の橋爪國臣さんは「ばけばけ」の台本を書き始めたときから出雲大社で撮影したいと考えていたそうだ。

「トキとヘブンのモデルである小泉セツさんとラフカディオ・ハーンさんが出雲大社で結婚したことは事実です。出雲大社にハーンに関する資料がたくさん残っているわけではないらしいですが、ハーンが参拝したという資料は残っているそうです。ハーンは、現在では天皇陛下すら上がらない玉垣の先まで行っているらしく、そこまで上がった最初の外国人であることも事実です。

『ばけばけ』の台本を書き始めたときから出雲大社のシーンがあるといいねという話をしていて、島根に最初に取材に行ったときにご挨拶に伺い、半年ぐらいかけて交渉を続け、お引き受けいただきました。

 出雲大社の皆さんに台本を読んでもらって、こういう台本だったらぜひお受けしましょうと言っていただいたのと、高石あかりさんも出雲大社さんに取材に行っていて、宮司さんとお話をされて彼女の人柄にも触れたうえで、『ばけばけ』に協力したいですとおっしゃっていただきました。

 ハーンや、小泉家の皆さん、錦織のモデルである西田千太郎さんなど、実在の方々が出雲大社と紡いできた関係性のもとに我々が撮影させていただけたのだと思います」

 出雲大社は縁結びの神。同じく縁結びの神・八重垣神社の恋占いをトキは思い出す。

 遠くでなかなか沈まなかったのが、「遠く西洋からきたヘブン先生とのご縁だったのだなと」とトキが言うと「そうです、あれ わたしです」とヘブンがほほ笑む。

 そして、帰宅。松江に残り教師も続けると決めたヘブンは、結婚もしたことだしもっと広い家に引っ越そうと考える。「モアモア広い家」武士の家に住みたいと錦織に所望する。

 そしてトキには「今日からここで暮らすです OK?」

「新婚さんですねえ」と錦織がしみじみ言うが、トキは、大事なことを忘れていたことを思い出し、大きな声をあげる。前途多難のようだ。

フォトギャラリー

主なシーンより

第14週(1月5日~1月9日)

「カゾク、ナル、イイデスカ?」あらすじ

日本滞在記取材のためヘブン(トミー・バストウ)と錦織(吉沢亮)は出雲を訪れていた。ある日、トキ(高石あかり)はヘブンに突然呼び出され、大事な話があると告げられる。しかしトキは、その大事な話を家族に伝えられずにいた。そんなトキに対し、ヘブンのイライラが高まっていく。さらにトキは、ヘブンに今まで隠していたタエ(北川景子)や三之丞(板垣李光人)の存在を知られてしまう。

連続テレビ小説『ばけばけ』

作品情報

連続テレビ小説「ばけばけ」。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描きます。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語です。

【作】 ふじきみつ彦

【音楽】 牛尾憲輔

【主題歌】 ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」

【出演】高石あかり(「高」の表記は、正確には「はしごだか」) トミー・バストウ / 板垣李光人 円井わん 野内まる / 渡辺江里子 木村美穂 / 吉沢亮 / 北川景子 / 岡部たかし 池谷のぶえ 池脇千鶴 朝加真由美 生瀬勝久 小日向文世 ほか

【放送】 2025年9月29日(月)から放送開始